閑話.女神様はスヰーツが食べたい
召喚を覚えて暫くしたある日の出来事です。
はれて召喚が出きるようになって暫く経ったある昼下がり。
ベルヴィアがソファーに座ったまま足をバタバタさせて駄々っ子のようにごね始めた。
「もっとお菓子のバリエーションないの?イツキが出すやつって単純なお菓子かおつまみばっかりじゃないの!ヤダよヤダヤダ!もっと心ときめく『スヰーツ』はないの?」
イツキは頬をポリポリとかいてため息をはく。
「スイーツだぁ?ずっと友だちも彼女もいない中年の男に一体どんな期待をしてるんだよ…。女子が喜ぶようなモン食ってるわけないだろ…。こちとら先日までオッサンだったんだぞ…。」
「あら、私は『ちょこれーと』とか飴玉好きよ。」
ララミーティアの発言にイツキは溜まらず猫可愛がりをララミーティアにお見舞いする。
「ティアはいい子だなぁ!可愛いよ、優しいよ。どっかの強欲な神さまとは違ってさ…。」
それを黙ってみていたベルヴィアはテーブルをバンと叩いて頬を膨らませる。
「もうっ!美味しいっちゃ美味しいけどさ!あんなのはスキルで言えば初級よ初級!ティアちゃんは指先からチョロチョロ水が出てくるのを見て『イツキ凄いわ!大魔法使いね!』って喜んでいるようなものなの!地球の驚異のテクノロジーはまだまだこんなもんじゃないはずなのに!この男はその恩恵には預からず、まるで老人のような食生活を送っていたのよ!」
「老人って…。まぁお菓子とかデザートなんてそんなに食べなかったからなぁ。ちゃんと出してるじゃん。アイスとか…。」
イツキは困り果ててしまう。
ベルヴィアは引き続き声を荒げてイツキに向かって抗議する。
「飲み屋のコース料理の〆で出てくるアイスとかスーパーで売ってるちょーっと高いアイスなんかで誤魔化されないわ!味のバリエーションだってバニラか抹茶だけじゃないの!食の大国ニホンで生まれ育った人間がどうしてそんなに何も知らないの…!飽食の時代だったでしょ!」
「へえ、もっと美味しい物があるのね…。私も食べてみたいかも…。」
ララミーティアも段々とベルヴィアの意見に傾き始めた。
イツキはベルヴィアに必死に抗議し返す。
「その代わりアンコウ鍋とか湯葉刺とか出したろ?焼き肉でざぶとんとか稀少部位とかさ…。お土産の高級なおかきとかせんべいとか…。ちょっと高い梅干しとか、こないだ立派なホッケだって喜んでただろ!み、みかんとか!コーヒー牛乳…とか!ビーフジャーキーとかよくせがんでくるじゃん!」
「うら若き乙女はそんな渋い打線を組まれても全然ときめかないわ!うわーん、あんまりだよー!この世のどこにビーフジャーキーとか梅干しを『スヰーツ』って呼ぶ人が居るのよー!えーん。ボリボリしないフワフワした美味しいお菓子食べたいよー!ボリボリしなくて歯応えのないやつー!甘いの!甘いの!ひどいよー、あんまりだよー!わーん!」
ついには泣き出してしまったベルヴィアを見て困り果ててしまうイツキ。
ララミーティアも泣き出した事にはさすがに若干ひいている。
「十分贅沢な思いをしたつもりだったけれどね…。私は全然不満は無かったんだけれど…。」
「そうだなぁ、まぁとりあえずドーナツでも食べて落ち着けよ、な?」
イツキは箱に入ったドーナツの詰め合わせを召喚する。
ベルヴィアは一瞬泣き止むが、再び泣きだす。
「こればっかり!もう飽きたよー!」
「困ったなぁ、とは言え今更地球のデザートの情報なんて仕入れられないし…。お土産?いや…待てよ…。お土産?お土産!そうか!」
イツキはパッと表情を変えてテーブルへ次々に召喚を始めた。
頭を悩ませながら召喚し、やがてテーブルを埋め尽くす程の小分けのお菓子が大量に並んでいた。
「どうだ!俺だって本気を出せばこれくらい出せるんだぞ!日本各地の底力を思い知れ!」
出てきた物は会社でちょくちょく貰っていたお土産の数々だった。
買ったわけでもないし頻繁に食べるものでもないので完全に失念していたが、イツキも38歳と言うことで会社でお土産を貰う機会は多く、なかなかのバリエーションだった。
「わぁ!美味しそう!やるわね!イツキー!」
「いつもとは毛色が違う物が出てきたわね、私も食べて良い?」
ベルヴィアだけでなくララミーティアも目を輝かせて耳をピコピコさせていた。
イツキは達成感に包まれたまま「好きなだけ食べなさい」と言って達観したような表情でベルヴィアとララミーティアを見守っていた。
ベルヴィアとララミーティアはお互いに感想を言い合いながらあれやこれや無数にお菓子を食べていった。
イツキはその後も思い出す度にお菓子類を召喚していき、気がつけば召喚出来るバリエーションはなかなかの物になっていた。
「私この鳥の形をしているクッキーが好きだわ。」
ララミーティアは有名な某鳥のサブレを幸せそうにハムハム食べている。
「私はこれね!このふわふわの中にバナナみたいな味のクリームが入ってるやつが好き!これ美味しいわ~!」
ベルヴィアは東京で一番有名と言っても過言ではない某バナナ味のケーキ菓子を食べていた。
テーブルのお誕生日席に位置するソファーが無い場所に天啓ウィンドウが現れた。
何事かとイツキとララミーティアが天啓ウィンドウを見ると、画面には口の周りにお菓子のくずをつけたデーメ・テーヌとテュケーナが映っていた。
『ベルヴィアちゃんもイツキもありがとうね。突然こんなに地球のお菓子が貰えて私達幸せよ。』
『最近お酒が飲みたくなるものばかりだったから、とても嬉しいわぁ!イツキちゃん、色々ありがとうねぇ!』
ベルヴィアがいつの間にか天界に召喚したもの達を横流ししていたようで、満面の笑みでお菓子を食べているデーメ・テーヌとテュケーナから感謝を伝えられた。
イツキは後頭部をかきながら軽く頭を下げる。
「そちらでも食べているようであれば、今後も色々思い出した度に召喚しておきます。逆に渋い物ばかり本当すいませんでした…。」
『そんなとんでもないわ。あれこれ食べたいなんてワガママ言っていたら流石にバチがあたるわ。』
「そうね、イツキが出してくれるものは十分美味しいわ。」
デーメ・テーヌがふふふと笑いながら言うが、それを聞いていたベルヴィアはギクッとして身を屈めてボソボソとお菓子を食べる。
やがて天啓ウィンドウが閉じて、部屋の中にはお菓子のパッケージが出すガサガサという音とララミーティアが食べているサブレの咀嚼音だけが響いていた。
「あんまりワガママ言ってるとバチがあたるってさ。怖いな。」
「そうね、どんなバチがあたるのか興味があるわ。」
「あっ、あれだ!えーと、忙しいんだった!えーとアレで、えー、そうそう!データ!データを纏めなきゃいけないんだった!あー忙しい!」
口の周りに食べかすをつけたままそそくさと部屋に逃げ込むベルヴィア。
それ以来ベルヴィアは泣きじゃくるほどにワガママを言うことはなくなった。
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