22.検証
箸の使い方をすっかり覚えたララミーティアは、その後も得意げな表情で箸の先をしきりにカチカチと鳴らしている。
後ろで教えていたイツキにしきりに自慢をする。
「ふふん、どう?凄い?完璧に出来るようになったわ!慣れると案外便利ねこれ。刺したり掴んだり切ったり、スプーンとかフォークよりも柔軟に使えそう。ありがとうねイツキっ。」
「はー…、そんな得意げな顔してー。いちいち凄い可愛いヤツめっ!この!」
得意げな表情がとても可愛らしくて我慢できなくなったイツキがララミーティアの頬に突然キスを何度もお見舞いする。
ララミーティアは照れて顔を赤くして頬をぷくーっと膨らませるが、そんなのはお構いなしと言わんばかりにイツキが自身の唇で膨らんだ頬を萎ませる。
「もうっ!」
ララミーティアはクスクス笑いながら何度も頬を膨らませてはイツキの唇で萎まされてしまう。
ベルヴィアはナスの漬け物をボリボリと噛みながら、やれやれという表情で2人を見守る。
「おっと、ごめん!ウッカリ夢中になってしまった…。」
イツキがベルヴィアの視線に気づき、慌てて元の位置に座る。
ララミーティアも照れ隠しするように俯いてしまう。
ベルヴィアは「ふふっ」と笑いながら優しい笑みを浮かべる。
「いいのよ。2人の過去は全部知っているから、幸せそうな姿を見て、『ああ、なるべくしてこうなったのかな』って思うの。転生に失敗したのも、小屋の位置やイツキの転送位置とかも、全部偶然じゃなくて運命だったのかなって。2人の幸せでいっぱいの表情を見ているとね、私ちょっと誇らしい気分になるなー。」
イツキがベルヴィアの言ったことを反芻するように自身の手元をぼんやり見つめ、ぽつりと喋る。
「偶然…、じゃなくて運命、か。そう考える方が好きかな俺は。」
「私もこれまでの過去がイツキに会うための下準備だったんだって思うと、救われた気分になれる。ベルヴィア、イツキに会わせてくれて本当にありがとう。」
イツキの肩にララミーティアが寄りかかって頭を乗せる。
2人のこの上ない幸せそうな表情を見ていると、ベルヴィアは自分の手違いが無性に誇らしくなるのだった。
「ほらほら、2人とも食べなさいよ。美味しいから!」
ベルヴィアが2人に促して、ようやくイツキとララミーティアの食事が始まった。
イツキは精々数日ぶりの日本食だったので大した感想も無かったが、ララミーティアは初めて食べる海魚に大興奮だった。
イツキに勧められるままにご飯と一緒に食べるのも気に入ったようで、「この白い粒々も美味しいわ!」と終始大興奮だった。
「このスープも程よくしょっぱくて美味しいわ…。見た事がないものばかりで本当に大満足!」
「でしょでしょ?イツキがもと居た地球ってところは食に対する情熱が物凄いの。これからティアちゃんにも色々ご馳走するから楽しみにしててね!」
したり顔のベルヴィアに思わず苦笑いをするイツキ。
「おいおい、俺発信の食べ物だから、そこまでありとあらゆる物は食べてないよ。だから種類はあまり期待しないでね。」
やがて3人とも食べ終わり、イツキが食器類に昨晩経験したばかりの洗浄魔法をかける。
そして食器を重ねてベルヴィアの前に置いた。
「はい、ご馳走さま。ありがとうね。」
「…?」
一体何のことだか分からない様子でぽかんとイツキを見上げるベルヴィア。
なぜ目の前に片付けた食器が来るのか理解できないでいる。
ララミーティアは食後に召喚した大手チェーンの定食屋のテーブルに置いてあるピッチャーから麦茶をコップに汲んで飲んでいる。
「え?なになに?私食器いらないよ?」
「いやいや、君これ集めてるでしょみたいな事じゃなくて、食器まで召喚したけど、食器は回収しないの?」
「…あっ。」
ベルヴィアがやっとピンときたようで、納得したという表情を浮かべる。
「あーほら、…この食器はあげる。ほら、召喚しちゃったものはどうしようもないし。えーと、そうだ!アイテムボックスに入れておけばいいじゃない!…それか売るとか…?」
「おいおい!皿の裏に英語とか日本語が書いてあるんだよ?この世界にこんな精巧な食器が存在したら中々のオーパーツにならないか?流通しても平気なもんなのこれ?」
呆れ顔でツッコミを入れるイツキを「面倒くさ!」と言わんばかりにダルそうにあしらうベルヴィア。
「えー…、いちいち細かいわねぇ。別に食器の一枚や二枚くらいわかりゃしないわよ…。そんなんで世界が変わるわけないじゃない…。」
「えぇ…、何だか神様サイドの発言とは思えないなぁ。これ、アイテムボックスの中だってそのうち食器だらけになってアイテムボックスが凄い不便になっちゃうよ。これからシャンプーとかフライパンとか日用品も召喚しようと思ってたけど、空になった容器とかどうするの?」
イツキの指摘に目が泳ぐベルヴィア。
「ほら、…えーと。あっ!あれよ!火魔力があるじゃない。ね?ゴーッとね!ゴーッと…。そしたら解決じゃない!」
「プラスチックなんて焼却処分するのはマズいよ、環境破壊になっちゃうし。それにフライパンにしたってこの世界にステンレスとかって存在してなくない?万が一出回ったら流石にまずくない?プラスチックとかセラミックとか、この世界に絶対ないよね?」
「うっ、アイテムボックスに削除機能付ける…?そうだ!削除する代わりに魔力に還元できるって便利機能が確か世界のバージョンによっては出来たハズ!だけど…、どう?この世界用に調整出来るけど…、ね?」
ベルヴィアがあわあわとしつつ身振り手振りでどうにか取り繕おうとしている。
「おいおい、何そのエコ機能。魔力に還元するのは俺たちが一番やっちゃいけない事じゃない?便利なごみ箱程度で考えてポイポイ捨ててると、そのうち魔力の消費どころか魔力が増加しちゃうかもしれないでしょうが…。」
ベルヴィアのその場しのぎの提案をことごとく一蹴するイツキ。
横で一悶着を見ていたララミーティアが皿を手にとって眺めながらイツキに話しかける。
「2人の話の意味があんまりわからないんだけれど、そろそろ近いうちに行商人が来るはずだから、その時にこういうものが特に何の問題もなく売れるか聞いてみる?私の意見だけど、文字はサインか模様かなってくらいにしか感じなかったし、心配いらないと思う。それに普通に使われてる木製じゃなくて、こんなに精巧な品物だったら、もうちょっと数を集めれば貴族とかお金持ちのところに売れるんじゃないかしら。貴族とかであれば見栄とかもあるから、やたら出所を言い触らすようなことはしないと思うけれど。」
ララミーティアが皿の裏の『MADE IN CHINA』を指差しながら「ほらね」と言ってイツキとベルヴィアの顔を見る。
「行商人かぁ。食器としての品質はこの世界基準で言えば最高かもしれないし、元手ゼロだし、もう出ちゃった食器に関してはティアの意見に乗っかってみようか。ありがとうね、ティア。」
イツキがララミーティアの頭を優しく撫でる。
ララミーティアは猫のように甘えた仕草でイツキに寄りかかる。
ベルヴィアがえっへんと言わんばかりに胸を張って「ほ、ほら!異世界での収入源になるのよ!」と自慢気に言ってくる。
何も考えてなかった癖に、何言ってるんだと冷めた目でベルヴィアを見る2人だった。
「収入源って…。よく考えたら今この食器を眺めながら大量に召喚し放題が出来ちゃうんじゃない?元手ゼロだから大儲け出来ちゃうよ?」
「うっ、それもそうね。」
「何か制約ないとマズくないか?大儲けは経済のバランスをおかしくするかもしれないし、金属とか大量に召喚したらこの世界の質量とかおかしな事にならない?混ぜたら有毒になる物質とか時間差で召喚したら凄い武力になるよ。なんかこの加護、割とマズい気がするよ。これ、かなりいい加減な加護だから、とりあえず一旦天界で検討し直した方がいいと思うけど…。」
イツキのもっともな発言に言葉が詰まるベルヴィア。ララミーティアも感想を素直に述べる。
「私が金貨を持っているとして、それをイツキに憶えさせて召喚すればもっと手っ取り早く一瞬で大金持ちよ。本物の完全な複製だから見分けなんてつくわけ無いわ。そんな物が世間に大量に流通してしまったらお金の価値がおかしくなるんじゃない?」
「うっ…、それもそうね。」
ララミーティアからも鋭い指摘が飛んできて、天を仰ぐベルヴィア。
「ティアの言うとおりだよ、俺はそこまでお金に困ってないから勿論そんなズルい使い方はしないつもりだけど、将来的にこの加護を悪意がある人に付与したら、魔力うんぬん以前に違う意味で世界が崩壊するよ…。」
「こ、細かい事はいいんじゃない?本当にみみっちい男ねぇ。何とかなるって!なんとか!」
イツキとララミーティアは呆れてため息を吐いてしまう。
「それ神様が言うかぁ…?みみっちいとか言ってる場合じゃないでしょ。」
「魔力過多の世界を救うどころか、崩壊のお手伝いを別のアプローチからする羽目になるかもしれないのよ?」
「うっ…、それもそうね。」
ベルヴィアが腕を組んで考え込んでしまった。
これは確かにイツキと最適な形を模索した方がいいという意見が出るのももっともだなと思うイツキだった。
しかし結局天界も無責任に新米のベルヴィアにとんでもないぶっ壊れ加護を持たせてしまったお陰で、危うく取り返しの付かない事態に発展するところだった。
「難しいわ。召喚する回数を決める?それとも食べ物限定?でもそれだと肝心の魔力消費は出来るかしら。」
「うーん、どんな物がどれだけ魔力を消費するか分析した上で、例えば器はこちら用意で本当に食べ物だけ出てくる。とか?野菜とか肉とか、そのまま出てきてしまうと、これも専門店を開店させて悪用して大儲けとか出来るからなぁ。そういう物を栽培なり商売なりしている人達も立ち行かなくなるし、とてもじゃないけど経済が無傷とは思えない。」
イツキとララミーティアが意見を出し合っている横でベルヴィアがずっと考え込んだままになっている。
「まず形に残る物はダメね。消耗品や食べ物。食べ物であれば、出来ている状態で食べ物だけが出てくるって事にすれば…。それだと使い方によっては召喚した珍しい食べ物を提供する食堂で大儲けが出来てしまうわ。内陸部でさっきの魚を提供するだけで大人気よ。」
「出てくる食べ物が食べれる人を限定する?いや、それだと魔力消費が出来なくなるよなぁ。1日にそんな何回も食べるものでもないし。そもそも今回の定食でどれだけ魔力を消費したのかも分かんないし、なんとも言えないね。お構いなしで大量に召喚して、結果魔力枯渇なんて事もあるかもしれないし。」
「そもそも違う世界の物が簡単に出てきてしまうから大儲けなんて事になるんじゃないかしら。加護を持っている人が居る世界限定で括ってしまうのはどうかしら。だって、私が昨日作った赤トマリスのスープがいくら出てきたって、それで大儲けは出来ないでしょ。」
「いや、あれは美味しかったよ。ティアの作った食べ物は美味しいから儲かっちゃうよ。」
「私が料理を作る相手はイツキだけ。イツキに食べてもらうだけでいいの。またね、美味しい美味しいって、言って貰いたい…。」
「ティア…。」
「分かったわ!分かった!暫くは検証って意味合いも含めて何でもかんでも召喚してみましょう。後で天界で検討会議をやるから、どんなものがどれだけ魔力を消費するか洗い出して、条件付けをしていくわ!」
ベルヴィアが突如立ち上がって大声で検証するぞと宣言した。
「それが良いと思う。俺もティアも一緒に検討するからさ。手探りでやって行こう。」
「うんうん、色々やってみましょう。私も考える。」
ベルヴィアが2人の手をぐっと掴んで目を潤ませながら「ありがとね」と連呼する。
イツキとララミーティアはある意味浮き世離れした生活を送っているので、悪用しないという点ではもっとも最適な人選かもしれない。
再び無責任に仕事を振られたことに気がついたベルヴィアは目の前の2人を感謝してもしたりない気分だった。
「お礼にアイスクリームをご馳走するわ!頭を使ったから甘い物が食べたいでしょ?ほら、イツキ!早く召喚して!」
「おい…。」
おまえは何を言っているんだ。
今日の18時に閑話をねじ込みました。
そちらも良ければ読んで下さい。
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