閑話.2人の未来
召喚出来るようになった日から数日後の話です。
夕食を食べ終わって風呂にも入り、後はしばらく寛いだら寝るだけというタイミングで、イツキはふと気になった事を隣でぴったりくっついているララミーティアに質問する。
ちなみにベルヴィアは風呂上がりのアイスクリームを召喚して貰って堪能した後、もう満足したのか、データを纏めて報告しなきゃといって部屋に閉じこもってしまっている。
「そういえばさ、髪が伸びた時って一体どうしてるの?ティアの髪型ってさ、とても素人が切ったとは思えないくらい凄いしっかり切ってあって、可愛いなぁと思ってるんだけど…。」
急に髪について誉められて耳をピコピコさせるララミーティア。
照れ臭そうに自身の髪を手で撫でつけながら上目遣いでイツキに尋ねる。
「…そ、そんなに可愛い?」
「可愛いも可愛い、めっちゃ可愛い!可愛い過ぎる。いや、環境から考えれば間違い無く自分で切ってるんだろうなとは思うんだけれど、余りにもしっかり切れているし、その耳元でさ、段になって揃えて切ってる所とか凄くない?鏡もないのに素人がそんなに自分の髪って上手に切れるもんなの?」
ララミーティアは地球で言うところのお姫様カットだ。
そんな難しそうなカットをろくな鏡もないララミーティアが自分自身でカットしているとはどうしても思えなくて、段々と興奮しながらしゃべるイツキ。
ララミーティアはイツキが興奮しながら褒めてくれるのが嬉しいようで、しきりに耳をピコピコ動かしている。
「ふふ、これは私が自分でナイフで切っているわ。別に何も見なくても身体が覚えているって言うのかしら…。アリーにこうして貰ってからずっとこの髪型なの。良かったらイツキの髪も伸びたら切ってあげる。」
「有り難いなー!その時は是非頼むよ。しかしさ、そのティアの髪型、本当によく似合ってるよ。ティアのさ、なんて言うかエキゾチックというか異国情緒漂う感じにその髪型が凄くピッタリなんだよ。あれだ!ほら、普通に考えたら自分なんかとは到底釣り合わなくて、まず付き合えないタイプの美人みたいな感じ!」
上手い喩えが出来たと勝手に満足するイツキに、ララミーティアは益々照れてしまい、俯いて耳がちぎれんばかりにピコピコと動いてしまう。
「…もうっ、イツキったら本当に…!私はイツキだけのものよ。イツキの隣にずっと居て、ずっと幸せな気分でいたいわ。あなたのもの。」
「ティア…、俺本当に幸せ者だよ!こんな可愛くて優しい美人が…、ティアが尊くて段々泣けてきた…。」
そういって目尻を拭い始めたイツキをみてクスクス笑い出すララミーティア。
「ふふ、本当に大袈裟ねー。…でもイツキに可愛いって言って貰えると、私蕩けてしまいそうになるわ。もっと蕩けたくて、もっと可愛く見られたいって思うの。そんな瞬間が堪らなく幸せ。」
イツキはララミーティアの髪をそっと持ち上げてサラサラとこぼすように髪を靡かせる。
銀色の髪はその一本一本が絹糸のようで、イツキは思わず髪の束を自身の口元に寄せる。
「綺麗な髪してるよ、本当。髪の毛一本一本が魅力的だね。光に当たると光の輪が出来るんだよね。はぁ…、溜め息出ちゃうよこれ。」
「嬉しい。でも髪ばかりじゃなくて、こっちにもちょうだい…。」
ララミーティアが目を閉じて口付けを待つ。
イツキはその姿を見て幸せで心が蕩けてしまいそうになる。
ララミーティアの頬にそっと手を当てる。
ララミーティアは目を閉じたまま幸せそうに微笑む。
「夢みたいな幸せ度合いだね、幸せに溺れちゃいそうだ…。」
2人は暫く唇を奪い合い、幸せな夜は今日も更けていった。
ある日、いつまでも寝ているベルヴィアをイツキの小屋に残し、イツキとララミーティアは朝早くから森の中を探索していた。
魔物を倒したり採取をしたりしているうちに日はてっぺんから少し傾きだし、そろそろどこかで昼食でも取ろうと言うことで、良さそうな場所を探していた。
空は木々に覆われていて薄暗いが、楕円上に少しだけ開けた場所に着いたとき、イツキが大木を見つけると声を上げた。
「あっ!この場所…!」
「あら、知ってる場所?この辺りはまだ来たことは無いと思うけど。」
ララミーティアが首を傾げていると、イツキはそのまま大木の元まで行って樹皮を撫でる。
「俺、このデカい木に寄りかかった状態からこの世界での人生が始まったんだ。改めて見てみると本当にデカい木なんだなぁ…。」
そう言うとイツキは転生してきた時のよう腰を下ろして木に寄りかかる。
大人が10人以上集まって手をつながないと一周出来ないほどに大きい木だった。
ララミーティアもイツキの隣に同じ様に腰を下ろす。
「本当にデカい木ね。きっと千年以上、もっと昔からこの森を見守っていたんだわ。」
「木もさぞやビックリしただろうね。突然自分に寄り添う形で人が現れたんだからさ。」
ララミーティアは「そうね」と言ってクスクス笑う。
イツキは微笑みながら地面の方をぼんやりと眺めつつ独り言のように呟いた。
「もしもさ、本来行くべきだった世界に行っていたとしたらと思うと、俺ゾッとするよ。なまじサバイバルのスキルなんかも貰ってるからさ、きっとそっちでは今頃うまいことやって、地球に居た頃と同じ様に独りでコツコツ細々と静かに暮らしていたんだろうな…。」
イツキは木に寄りかかって視線を上に向け、上を見つめたままソッとララミーティアの手に手を乗せる。
ララミーティアの暖かな温もりを感じて、イツキは手をギュッと握る。
「この愛しい温もりを一生感じることもなく、燃え上がるような恋を一生経験することもなく…。せっかくの第二の人生なのにさ、生きてるのか死んでるのかよく分かんない生活の続きを何百年も過ごしていたかも。」
「私も同じ。平坦な日常。命を狙われて、それを排除して、コソコソ人目を避け続ける一生。そんな生活が続いていくことに何も思わなくなっていたわ。」
ララミーティアが手をくるりと返してイツキの手をギュッと握り返す。
イツキはララミーティアに目をやる。
「これから続く2人で歩いていく道のりは、辛くて悲しい事がいっぱいあるかもしれない。それでもティア、君が側に居てくれるなら、それだけで俺はどんな事でも乗り越えられる気がしているよ。」
「うん。」
「それに、この先の道のりは、きっとティアの温もりのように暖かくて優しい日向の道だよ。」
ララミーティアは涙ぐみながら微笑む。
「ふふ、私にとってはイツキの大きな愛が包み込んでくれるような幸せな日向の道よ。」
2人は寄り添いながらお互いの温もりを感じるように暫く目を閉じてじっとしていた。
「それにしても、ここで目を覚ましたイツキがどんな感じだったのか見てみたかったわ。きっとイツキの事だから面白かったんだろうなー。」
「いやー、最初はさ、酷い頭痛で目を覚ましたんだよ。『あああ頭いてぇー』ってこう目元を両手でぐっと押さえてさ、あーやっと頭痛が治まった~、と思ったら今度は全身が燃えるように熱くなってもう大変!木に寄りかかったまま『ひっ、ひっ、ふーっ!』って呼吸してひたすら我慢。端から見たらヤバイやつだよ!魔物に食べられなくて本当に良かったよー。」
当時の様子を大袈裟に再現してみせるイツキを見てララミーティアはクスクスと笑い出す。
「ふふ、やっぱり面白い!ふふふ、何その『ひっ、ひっ、ふーっ!』って?」
「これは地球で、出産する時に女の人がする呼吸法だよ。咄嗟に浮かんだのがそれで、全然関係ないのについね。あの時は魔法なんかも使い方分かんなかったしなぁ。」
イツキは頬をポリポリとかく。
ララミーティアはクスクス笑いながらラマーズ法の真似を何度もしてみる。
「へえ、こんな呼吸の仕方が本当に効果あるのかしら?」
「うーん、俺も全然馴染みもなかったしあやふやな知識なんだけど、確か産まれる直前くらいにやるんだったかな?ほら、陣痛が凄いと呼吸する事を疎かにしちゃって、赤ちゃんに空気が届きにくくなるらしいんだ。その呼吸法に集中する事で効率よく呼吸も出来るし、陣痛でしんどいお母さんも気が紛れるみたいな、確かちゃんと意味があったはずなんだよ。」
記憶を手繰り寄せるように眉間にしわを寄せながら喋るイツキに、ララミーティアは感心したような表情を浮かべてラマーズ法を繰り返してブツブツと独り言をつい口に出してしまう。
「成る程ね…、せっかく教えてくれたんだから、イツキの為にも子供の為にも覚えておこうかしら。ちゃんと元気な子供を産まないとね…。」
ふとイツキに目をやると、イツキが珍しくはにかんだような表情で耳まで顔を真っ赤にしていた。
何で急に照れてるような表情をしているのかしらと訝しんだララミーティアだったが、自分が無意識で何気なく口にした言葉を頭の中で反芻しているうちに理解した。
「…嫌だ、私ったら…!」
ララミーティアは茹で蛸のよう顔を真っ赤にして耳を千切れんばかりにピコピコさせる。
イツキはそんなララミーティアの頬に軽く口付けを一つする。
「嬉しいよ。2人の子供か…。きっと可愛いんだろうな…。」
ララミーティアもイツキの頬に口付けをしてそのまま肩に頭を乗せる。
「そうね。きっと世界一可愛いわ。ふふ、子供が暮らしやすいような世界になるといいな…。」
「そうだね。なるといいね。」
森を吹き抜ける心地良い風が木々を揺らす。
幾重にも重なり合った葉の隙間から光がキラキラと差し込む。
2人で歩んでいく未来を夢見ながら、2人は寄り添って目を閉じていた。
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