21.召喚
「じゃあ行くね。身体の力は抜いて良いからね。本当は何か象徴的な物を渡して加護を授けるんだけど、まあ一旦お祈りだけってことで…。」
ベルヴィアがイツキの前に立ち、自身の胸の前で祈るような形で手を組み、目を閉じてじっとしている。
イツキの方はというと待っている間は特にやることもなく、ベルヴィアの邪魔になってはいけないと思い、ベルヴィアをじっと眺めていた。
こうして真面目な姿を見ていると、やっぱり女神様なんだなと考えつつぼーっとベルヴィアを眺める。
「………。」
ベルヴィアの横に立っていたララミーティアがじとっとした視線をイツキに送っている。
それに気がついたイツキが視線を逸らさないまま小声でボソボソ囁く。
「…今ちょっとあれだから…。別に見とれてるとかじゃないから…。」
「…だって……。ふふ…。」
「大丈夫、…ティアだけだよ…。」
「うん…。」
ララミーティアは照れ臭くなってモジモジし始める。
ベルヴィアが姿勢を楽にして目を開けた。
「おっ、完了?」
「『おっ、完了?』じゃないわよっ!人の前でイチャイチャイチャイチャ!見せ付けないでよ!物凄い勢いで気になるよ!」
加護の付与はぜんぜん終わっていなかった。
ベルヴィアがキーッと怒り出してしまい、2人は慌ててベルヴィアに謝罪する事になった。
「じゃあもう一回行くね。今度は頼むからね!」
「はい…。」
「ごめんごめん、頼むよ。」
ベルヴィアは再び自身の胸の前で祈るような形で手を組み、目を閉じてじっと祈り始めた。
出来るだけララミーティアを刺激せずに大人しくしておこうと思い、ベルヴィアではなく今度はララミーティアをぼーっと眺める。
「………。」
「………。」
「………?」
「………!……。」
お互いに無言のまま視線を絡め合うように見つめ合い、段々と熱が表情にまで現れるようになってしまう。
「邪念がね、すっごい!本当すっごい邪魔してくるんですけど!もう、ティアちゃんはイツキの後ろにでも立ってて!」
ベルヴィアが呆れたように祈る姿勢を再度中断する。
ララミーティアはばつの悪そうな顔で「ごめんなさい…。」といってイツキの後ろへ回った。
「ごめん、本当ごめん!今度こそちゃんと真面目にするから!」
「頼むからね!後で地球の美味しいご飯出してね、それで大目に見てあげるわ。」
イツキがペコペコとベルヴィアに謝る。
とりあえずは美味しいご飯を召喚する形でその場は収まった。
「全く…。アテーナイユ様とかにこんな寸劇みたいな事したら、斬り殺されるかもしれないから気をつけてね!本当にもう!」
そうして無事イツキにベルヴィアの加護が付与された。
付与された瞬間、暖かい光の粒子のような物が降り注いでくるような神聖な気分にさせるような感覚だった。
ベルヴィアは立派に神様なんだなと改めて実感するイツキだった。
「早速ステータスを見てちょうだい。技量の下に増えてるでしょ?」
ステータスを開いているイツキの両隣にララミーティアとベルヴィアが来て、イツキのステータスを覗き込む。確かに下に『ベルヴィアクローネの加護』という項目が増えている。
「おお、本当だ!」
「私の加護第一号だよ!ささ、使ってみましょう。さあ!」
「待って待って、これどうやって使うんだ?」
ベルヴィアが鼻息荒くイツキに迫ってくる。
イツキがタジタジになりながらもベルヴィアに質問をする。
ベルヴィアは「それもそうか」と手をポンと叩き、右手の人差し指で宙にくるっと輪を描く。
すると転生前にしてくれた説明の時のようにホログラム映像のような物が浮かび上がった。
「わぁ、凄い!何これ?」
「ふふん、御業よ御業!」
ララミーティアが目を輝かせてベルヴィアに質問をする。
ベルヴィアは気分をよくして、したり顔で説明を始める。
ベルヴィアの目の前にはデフォルメされたイツキとベルヴィアが浮かび上がっていた。
「分かり易く説明するわよ。まずはイツキが召喚したいものの具体的なイメージを頭の中に描く。例えば食べている時の思い出とか、使っているときの思い出とか。思い出って言っても、まぁ食べたり使ったりしてた記憶ね。」
デフォルメイツキの上に吹き出しがモクモク出てきて、吹き出しの中にお茶碗が浮かび上がってきた。
デフォルメイツキが口をパクパクさせると、デフォルメベルヴィアがわちゃわちゃ動き出し、やがてデフォルメイツキの手元に吹き出しの中に浮かび上がっていた茶碗が手の中に出て来た。
「その状態で『召喚、ケーキ!』とか『召喚、お菓子!』とか言うの。そうしたら私がそれを受け取って、周囲の魔力を使って再現。これで目の前に欲しい物が出てくるわ。イメージがあやふやであればあるほど再現が難しくなるから気をつけてね。」
「えー、詠唱がなぁ。ちょっと恥ずかしいな…。」
「ふふ、確かに恥ずかしいけれども、どんな詠唱も慣れよ、慣れ。凄い力じゃない!」
自分が『召喚、ハンバーグランチ!』などと叫んで手に食べ物を持っている姿を思い浮かべると、恥ずかしい気持ちになるイツキ。
しかしララミーティアは元々魔法がある世界で生まれ育っているので、詠唱に対する抵抗感はそこまでないようだった。
ベルヴィアが鼻息荒くイツキに食べ物をせがみだす。
「じゃあ試しましょう!何でも良いから美味しいもの!ね?ね!」
「えー、何でも良いが一番困るんだよなぁ。せっかくだからさ、ティアはどんな物が食べたい?肉?魚?野菜?」
イツキの質問に腕を組んで考え出すララミーティア。
「そうね…。魚なんて滅多に食べることがないから魚にしようかしら。イツキの小屋に戻ってから召喚する?さすがにここで立ったまま食べないでしょ?」
「それもそうだね、じゃあ一旦戻ろうか。ほら、ベルヴィアもおいでよ。」
「はーい、行こう行こーう!」
そうして3人は一旦イツキの小屋へと入っていった。
入り口の洗礼も問題なく全員通過し、ソファーにイツキとララミーティア、向かいに満面の笑顔のベルヴィアといった形で座った。
「じゃあ行くよ、とりあえず刺身はあれだから焼き魚行くよ。」
イツキは頭の中でいつか大手チェーンで食べた鯖の塩焼き定食を頭の中に思い浮かべた。
(鯖の塩焼き定食…、が三人前。ご飯と味噌汁と漬け物、メインの鯖の塩焼き…。あれ、味噌汁の具が思い出せないな…、なんだっけ。うーむ、まあいいのかな。)
「召喚、鯖の塩焼き定食!」
すると目の前のテーブルに大手チェーンの定食屋でいつぞや食べた鯖の塩焼き定食が突如現れた。
「おお!本当に出てきた!」
「わぁ、凄い。初めて見るわ。」
「さすが地球のご飯ね!美味しそうー!」
テーブルは興奮の渦にあるが、イツキがふと浮かんだ疑問を口にする。
「でも待てよ、俺味噌汁の具を忘れてたし、鯖にこんな付け合わせの大根おろしがあるなんて忘れてたよ。どうなってるの?」
「それは神様の御業よ御業!いちいち細かい事なんてどうでもいいの!それより早く食べましょ!ねっ!?」
美味しそうな地球製の定食を前に細かい説明などするつもりが毛頭無いベルヴィア。
イツキとララミーティアは目を合わせて苦笑いする。
「まぁ食べましょう。私も食べてみたいわ。」
「そうだね、じゃああれやろうか。」
「あれ?」
ベルヴィアがきょとんとする。
「ああ、いただきますするんだよ。ベルヴィアもやるか?」
「日本人がやってるあれね。わかった!」
イツキが2人に目配せをして号令をかける。
「じゃあ、「「いただきます!」」」
ベルヴィアは待ってましたと言わんばかりに器用に箸を使って猛烈な勢いで食べ始めた。
その姿を見たララミーティアは箸を手に持って大きなクエスチョンマークを頭上に浮かべていた。
それに気がついたイツキが箸を手に持ってララミーティアに箸の持ち方を教える。
「そうかそうか、これはお箸と言ってね。まずは書く物を持つように一本握るんだ。次はもう一本を…」
ララミーティアの手を取りながらゆっくりと説明する。
手先が器用なのか、ララミーティアはあっという間に箸の使い方をマスターしてしまった。
「ほらほらっ!どう?出来るようになったわ!」
箸をカチカチ言わせて得意満面なララミーティア。
イツキは思わずそんなララミーティアの頭を撫でて「偉いなぁ」と猫可愛がりをする。
「とりあえずさ、食べたら?どんどん冷めちゃうわよ…。」
ベルヴィアは味噌汁をずずーっと啜りながら冷ややかな視線を送るのだった。
本日の18時に閑話を一つねじ込みました。
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