20.来訪
天啓ウィンドウが消えて、2人は大きな溜め息を吐いた。
「しかし、全部見られていたとは…。まぁ、神様から祝福されてるみたいだし、あんまり気にしなくていいのかなぁ。」
イツキが頭の後ろで手を組み、天を見上げながらソファーにドカッともたれ掛かる。
「デーメ・テーヌ様も言ってたけれど、確かに普段から交流する訳じゃないし、いいのかしら。私、恥ずかしかったけどね、…本当はちょっと嬉しかった…かな。大勢の神様達が感動したなんて…。」
ララミーティアがイツキの癖を真似するように頬をポリポリかいてはにかむ。
「はは、俺もティアから怒られるかなと思って言わなかったけど、同じくちょっと嬉しかったかも…。」
思わず顔を見合わせてくすくすと笑い出す2人。やがてどちらからともなく軽く唇を合わせる。
「幸せ…。愛してるわ。」
「ティア、綺麗だよ。愛してる。」
しばらく2人の世界に入り込んでいたが、名残惜しくも顔を離したその時、ララミーティアが急に険しい顔になって小声でイツキに呟く。
「…誰か来るわ。」
「名残惜しいけど放っておく訳にもいかないよな…。」
ララミーティアがじっと見ている方へ視線をやると、確かにこちらに向かってスタスタと歩いてくる人影がある。
「隠蔽が効いてない?…確実にこの建物見てるな。」
「それに森を歩き回るような格好ではないわ。妙ね、何かしらあの白いローブみたいなの。裸足だし、逃げ出してきた奴隷かしら。」
イツキは心の中でどうも引っかかる思いがあった。
「奴隷ってあんな綺麗なローブ着てるもんなの?あれ、なーんか見覚えがあるぞ、いやいや…この世界でまだティアしか知らないのにそんなわけ…、あっ!」
突然大声を出したイツキにシーッと窘めるララミーティア。
「違う違う、あれ逃げてきた奴隷じゃなくてベルヴィアだよ!いや、え?なんでこんなところに?」
「…やだ、ベルヴィアクローネ様?と、とりあえず行きましょう!」
慌ててイツキの小屋を飛び出す2人。
向こうでベルヴィアが呑気に手を挙げて声を張り上げる。
「おーい、2人とも~!来たよ~!」
「おーい、来たよ~!じゃないよ!なんでここにいるの?」
呑気なベルヴィアに突っ込みを入れるイツキ。
基本的に神様は世界に過度な干渉は出来ないはずだ。
出来るのであれば転生だ加護だとまどろっこしい事はしないはずである。
「いや、だって、今回はイツキに合わせて最適な加護の形を見極めていくって言ったでしょ。だから今回は特例中の特例!で、力を殆ど持たない依り代を用意してもらったのよ。」
ベルヴィアは力こぶを作って2人に向かってウインクをしてくる。
「そ、そうなんだ。」
「ベルヴィアクローネ様、こんな所に来てしまって仕事は大丈夫なんですか…?」
ララミーティアが恐る恐るベルヴィアに尋ねる。
ベルヴィアは豪快にわははと笑い、両手を腰に当てて告げる。
「遊びや観光じゃなくて立派に仕事で来ているのよ。大丈夫!あなたたちのお邪魔虫にはならないから!それとベルヴィアで良いわ。これから不定期になるとは思うけれど、向こう数年はお世話になるから、気楽に接してね、き・ら・く・に!」
「はい…。いや、うん。わかったわ、よ、よろしくね。ベルヴィア、様。」
ララミーティアがおずおずと喋る。
当たり前だ、先程まで天啓ウィンドウの向こう側にいた神様が目の前に居るのだ。
しかしベルヴィアはわざとらしくむすっとした顔をして頬をぷくっと膨らませる。
「えー?距離感じるなー、ベルヴィア!ベ・ル・ヴィ・ア!」
「うん、…ベルヴィア。」
「うんうん!よしよし!よろしくねー、ティアちゃん!はー可愛い!幸せを補充させてー!」
そういうと満足そうな顔をしてガバッとララミーティアに抱き付く。
今までにこういうやりとりをしたことがないララミーティアは困り果ててイツキに目線をやる。
イツキは困った表情を浮かべながらベルヴィアに苦言を呈する。
「ティアはこういうノリに慣れてないんだから、程々にしてくれよー。」
イツキがララミーティアの顔にすりすりと頬を擦り付けていたベルヴィアの肩を掴んでそっと引き剥がそうとする。
ベルヴィアはカラカラと笑いながらララミーティアの背後に回り込んで囁く。
「嫉妬深い男はいやねー、あぁ怖い!『俺の女から離れろ』だって。」
「おいおい、そんな事言ってないだろ!身に憶えのない物真似すんなよ!」
「…ふふ、はは…。」
ララミーティアが我慢するかのように俯きながら笑いだしてしまった。
それを見たイツキとベルヴィアは目を合わせて微笑み合う。
「ま、とにかくね、私の加護の件もあるけど、2人とも加護貰ったって使い方なんてサッパリわからないでしょ?加護を下さったそれぞれの方をお呼びして講師をして頂く橋渡しもするの。だから、しばらくよろしくね!」
言われてみれば加護を与えられるとは言えど、何の実感もないし授かっているかどうかも分からず、発動方法や運用方法を何も知らない。
これではただの宝の持ち腐れでしかない。
ベルヴィアの言うことはもっともだった。
加護という物は本来、もっと厳かに与えられるものなのかもしれない。
「それもそうだね。ところで本当加護なんて貰えたの?全然実感無いんだけど…。」
「ううん、まだよ。実際に依り代が用意できてから順次お呼びして、その時に加護を与えてもらうわ。それにこの世界で使えるようする準備もちょろっとあるの。こっちでいうと、多分数日後くらいには来れると思うわ。」
「なるほど、確かにステータスは何も変化なしね。」
ララミーティアが自分のステータスを眺めながら呟く。
「ああ、そうか。自分のステータス見れるんだったな。俺全然読めないし見ても意味ないから忘れてた。」
そう言ってイツキは自分のステータスを開く。
相変わらず値という値がさっぱり読めない。
折角異世界に来たのに自分のステータスがみる意味のないもので少しがっかりする。
「まあこの世界じゃ右にでる物が居ないくらい強いんだからいいじゃない。贅沢な悩みよ。ちなみに加護を得ると、その技量の下のところの特性とかと一緒に加護が明記されるの。加護を複数持っている人なんて滅多にいないわ、レアよレア!それにこの世界では全く知られていない神様の加護、激レアよ!ウルトラレアね!」
ベルヴィアが鼻息荒くまくし立てる。
イツキとララミーティアは白い目でベルヴィアをじーっと見る。
「ベルヴィアってそんなキャラだったっけ?こっちに来てテンションおかしくなってない…?」
「むむっ、不敬なヤツめ!…私だって羽を伸ばしたいの!女神様になるためにずっと頑張って来たの!いいの!美味しい物とか食べたいし、ゴロゴロしながらお菓子食べたいの!」
「…ねぇ、デーメ・テーヌ様とかテュケーナ様は見ていない?大丈夫なの?何か言われない?」
ララミーティアの小声の指摘にギクッと身を屈めるベルヴィア。
天に向かってアピールするように大声でしゃべり始めた。
「オホホ、私はあなたたちに加護を授ける為に遣わされたのです。決して遊びなどではありませんよ。」
「そんなに心配するんだったら天啓で今見てたか探ってみる…?えーと…。」
「ばっ…これっ!よ、余計な事はしなくて良いです!天啓を遊び半分で使ってはいけませんよ。」
『あのね、折角なんだから気楽にやっていいわよ。ベルヴィアちゃんが羽を伸ばしだって誰も文句は言わないわ。私達も別に気にしてないし…。』
「気楽だなんて不敬な事を言ってはなりませんよ?ふふ、私は真面目な、って、げぇっ!?」
ベルヴィアが驚愕の表情を浮かべて身を屈める。
天啓スキルを使っては居なかったが、絶妙なタイミングでいつの間にかイツキの頭上には天啓ウィンドウが浮かび上がっていた。
イツキはお約束だなと笑ってしまう。
ララミーティアもイツキにつられて笑いが止まらなくなってしまっている。
『げぇっ!?じゃありませんよ、げぇっじゃ!私達は世界の監視があるので、そこまでずっと張り付いて見てはいませんが、歪みがあった場合は2人の成長見合いでお願い事をするかもしれないから、そのつもりでよろしくね、ベルヴィアちゃん。』
「はいっ、お任せください!」
『こんな機会は滅多にないんだからぁ、もっと楽しんできてねぇ。あと、美味しい食べ物とかこっちに召喚してくれるの楽しみにしてるからねぇ。』
デーメ・テーヌの後ろからちょこっと顔を出したテュケーナがヒラヒラと手を降ってニコニコしている。
『あ、こら!はしたない真似しないの!』
「ちゃんとお二人にも転送しますよー、任せて下さい。」
『おほほ、あらあら、それなら仕方ないわ。期待して待ってるわ。』
女神達の掛け合いが終わり、そのまま天啓ウィンドウが消える。
ベルヴィアははぁっと溜め息を一つついてかいてもいない汗を拭った。
「とりあえず私のたべっ、加護!早速付与してみましょうよ!ねえ!」
「美味しい物が早く食べたいだけなんじゃないか?ベルヴィア…。」
2人はベルヴィアにじとっとした視線を送るのだった。





