19.加護
デーメ・テーヌがなぜこんなに他の神様が賛同してくれたのかについて頬を赤らめながら冷静を装って話すが、自分で喋っていて段々恥ずかしくなってきたのか後半は尻すぼみになってしまう。
「照れないで下さい!こっちも恥ずかしくなります!賜る加護について教えて下さい!」
イツキは話を進めるためデーメ・テーヌに向かって声を上げる。
ララミーティアはイツキの横で耳をピコピコさせたまま俯いている。
デーメ・テーヌは咳払いを一つして再び真面目な表情に戻って話を続ける。
『んんっ!そうでした。えー、まずはティアちゃん。聖フィルデスの加護で「聖女の力」です。大量の魔力を消費して任意の一帯の魔物の浄化、滞留した魔力の流れの正常化、結界の生成、あらゆる怪我や病気を癒やす癒やしの力です。彼女はもう既に管理する対象がなく、今回ティアちゃんに物凄く惚れ込んでまして、それはもう張り切って居ました。彼女がかつて管理していた世界は魔力が魔物に作用し過ぎて、魔物の暴走を抑え込む強力な加護を与えないと成り立たなかったのです。魔物以外の種族に対する圧倒的な武力という訳ではないので、今回のようなケースには非常に相性が良いです。』
「私が聖女…、こんな魔物みたいな見た目なのに、いいのかしら…。」
ララミーティアは己の容姿のコンプレックスが抜けきれず、聖女という肩書きに気後れしてしまう。
しかしデーメ・テーヌが胸に手を当て、子供を諭すような慈愛に満ちた表情で語りかける。
『聖フィルデスはティアちゃんのその美しい心に惚れ込んだのです。もっと自信を持っていいのですよ。それにティアちゃんが気にする容姿を心から好いている人が居るではないですか、隣に。ね?』
デーメ・テーヌの言葉にララミーティアははにかんだ表情でイツキを見る。
イツキも優しい表情で包み込んでくれているようだった。
「ありがとうございます!」
『次もティアちゃん。ミクラノミタマの加護で「豊穣の大地」です。これも周囲の魔力を大量に消費して大地を活性化、食物の栽培に対して大幅に助力をしてくれます。かなり古くからいらっしゃる神様でして、文明が進んだ彼の世界において昨今では全然重宝されない加護になってしまったのです。自身の世界で加護を与えても、与えられた子らが鼻で笑われたり、周囲から励まされたりと、悲しい思いをしていらっしゃったので、今回は自身の加護が役に立てると喜んでいらっしゃいまして、是非にと力を貸していただけることになりました。』
「凄いね!野菜とかの栽培を助けてくれるってかなり便利なスキルだな…。」
「わぁ!採集のために森の中を歩き回る必要がなくなる!畑を作ってみたいわ!」
イツキが唸る。
これはつまり安定して野菜や果物が食べれると言うことだ。
この森での自給自足生活においてのポテンシャルの高さに息をのむ。
この世界で安定して栽培出来れば、将来的には米などの穀物類も確保できる可能性が高い。
『ふふ、お二人が大層喜んでいたと伝えれば、ミクラノミタマもきっと泣いて喜びます。さて、次はイツキ。アテーナイユの加護で「城塞の守護者」です。』
「城塞?ここは城塞というよりは広場ですよ?いや、森か。」
とても城塞とは言えないこの広場を思い浮かべ、思わずツッコミを入れてしまうイツキ。
デーメ・テーヌはふふっと笑い、話を続ける。
『軍神の加護なので一見戦力と思われますが、一定エリアの防衛に特化してまして、お二人が暮らしている家を中心に広範囲で展開すれば、ティアちゃんを害そうとする脅威からティアちゃんを護ることが出来ます。』
「えっ、私を?」
ララミーティアがイツキの方を見る。
イツキはララミーティアに微笑みかけて頷く。
『管理下のエリアを常に状況把握や介入が出来るので、これも中々に魔力を消費します。イツキがティアちゃんの過去を聞いて腸が煮えくり返る程に激しく憤って、あれやこれや慣れない魔法を検討しつつ対策を練っていた姿に心を痛めたアテーナイユが、自分の加護はイツキの願いを満たせるがどうだろうかと名乗り出てくれました。この加護があればイツキが懸念していたティアちゃんの心の傷を増やすこともないと思いますよ。』
「そういった類の輩への対策が全然思いつかなかったので、本当に助かります。」
「イツキ、そんな事を考えていてくれたの?」
「はは、うん。ちょっとね…。」
ララミーティアを討伐などとふざけたことを抜かす輩が居る以上、今後どうやってララミーティアを守るかが喫緊の課題だと思っていたイツキだか、思わぬ形で最適な力を手に入れる事が出来てホッとする思いだった。
ララミーティアはイツキの腕に抱きついてニコニコしている。
『数多くの者が支援を名乗り出ましたが、現状では最も適していそうな加護が三つと言うことで、とりあえずこれで数年様子をみたいと思います。』
「ありがとうございます。とは言え魔力消費がどれほどなのか分かりませんが、その3つで何とかなりそうなんですか?」
どれほどの魔力をどんなペースで使うのかさっぱり見当が付かないイツキが疑問に思った事を口にする。
『ええ、そうですね。とはいえ魔力消費の手段がこれだけでは心許ないのではないかという意見も多数ありまして、特例として、本来はまだ加護を持つ段階ではないのですが、ベルヴィアクローネに加護を用意することになりました。ベルヴィアちゃん、いらっしゃい。』
デーメ・テーヌがそう言うと後ろにいたテュケーナがウィンドウ外に消えた。
この流れからすると、何となく嫌な予感がする。
イツキがふと隣をみるとララミーティアも全くの同感だったようで、苦笑いを浮かべている。
『イツキー…、私のせいで、面倒なことに巻き込んで、私ね、本当に駄目なやつだと思っていたの…。でも、でも、素敵な伴侶を見つけて幸せになれたみたいで、本当に良かったって、うぅ、良かったぁ…。』
「分かったから!全く気にしてないし、迷惑なんてかかってないから!最高に感謝してるから!」
「わ、私も感謝してます!だから本題に戻りましょう!」
案の定ベルヴィアもバッチリ目撃していたようで、テュケーナ程ではないが思いきり泣いていた。
これ以上感想を述べられるのは流石にたまらないと、2人は必死でベルヴィアを宥める。
『…そうね。ありがとう。私はまだ世界を管理する立場ではないんだけど、特例で探り探り最適な加護の形を見きわめていこうって事になったの。現段階での私が持った加護は「召喚」よ。』
「召喚?あの凄い強い召喚獣だとか天使だとかを呼び出して戦わせるあれ?」
イツキの質問に首を横に振るベルヴィア。
『現段階では違うわ。私の召喚は、加護を与えた者がイメージして、こちら側で再現可能な物を世界に満ちている魔力を使って与えるってやつ。』
「再現可能な物?食べ物とか?地球のやつもいいの?」
イツキの質問に今度はウインクで肯定するベルヴィア。
『その通り。本当だったら自分が管理する世界に合わせた加護を決めるのが普通なんだけど、今回はイツキに合わせて最適な加護の形を見極めていって、いつか私の加護が生かせる世界を管理させようって事になったの。』
「なんていうか、異例な形になった上に、俺に合わせて形を変えていくなんて、本当にそれでいいのかな?」
イツキの懸念はもっともだった。
ただ1人の人間に最適に合わせる形で調整してゆく加護なんて、もはや加護を与えられたイツキの匙加減になってしまい、それではまるで神様じゃないかと気掛かりになる。
『いいのよ。これはゆくゆく、魔力過多になっている世界を救うスタンダードな手段になり得るかもしれないの。とても光栄な事よ。』
「なるほど。今後の調整次第では特定の世界を管理しないベルヴィアの加護一つで魔力過多の画期的な対策になるかもしれないんだ。」
ベルヴィアは首を縦に振る。
『そうなの。魔力不足は地球人を転生させることで応急処置してたけれど、魔力過多については不足時ほどの決定的な手段がなかったの。今回の件で神様同士の横の連携の重要性も理解されはじめたし、私の加護が将来、多くの世界を救えるかもしれないんですもの。』
『ベルヴィアちゃんの試みは希望になるかもしれないの。先程ティアちゃんに加護を付与したうちの一柱、聖フィルデスの世界は、魔力過多が制御しきれずに滅んでしまったの。』
「『聖女の力』の聖フィルデス様の世界ですか…。」
ララミーティアはボソッと呟く。
『ええ。黎明期に構築された世界でね、魔力のコントロールが今より遙かに難しかったの。聖フィルデスは子らからも愛されたし、子らをとても愛していたわ。だけど、聖フィルデスの世界には人族しか居なくて魔力は殆ど使われず滞留、聖女の加護を付与できる対象は勿論非力な人族だけ。人族に与えられる最大限の強大な力を与える必要があるがゆえに付与出来るのは1人だけ。いくら聖女の力を与えても魔力過多は止まらずに魔物は生み出され続けて凶暴化、魔法が使いこなせる子も居らず、聖女の力を宿す魔導具もない、効果的な回復手段が聖女の力だけ。強力なドラゴンが無数に出てくる世界は、たった1人の聖女だけでは到底支えきれず、人族の住むとこは徐々になくなり、多くの動物たちも魔物の餌になってしまい、食糧は底をつき、民を死守していた兵士たちや戦士たちは次々に倒れ、兵糧責めのような形になってしまい、やがて崩壊してしまったわ。加護を受けた最後の聖女は最期の瞬間まで諦めずに己が魂を燃やしながら必死に人類を、聖フィルデスが愛した世界を守ったわ。』
デーメ・テーヌは遠い目をしていた。
『あなたが受け取った聖女の力には、愛するものを守りたいという切なる願いがいっぱい詰まっているの。どんなに苦しくてもね、聖フィルデスだけではなく、きっと遠い異世界の歴代の誇り高い聖女たちの想いがあなたを見守って支えてくれるわ。』
「私、聖フィルデス様が下さった聖女の力、大切にします。…すぐには気持ちの整理がつかないかもしれないけど、同じ結末を辿らないように頑張ります。」
ララミーティアは決意に満ちた凛々しい表情になっていた。
イツキはララミーティアの手の上にそっと手を載せて頷く。
『ありがとう。きっと聖フィルデスも喜ぶわ。』
デーメ・テーヌは再び慈愛に満ちた優しい笑顔を向けていた。
横にいたベルヴィアが話し始める。
『ミクラノミタマ様の加護にも、アテーナイユ様の加護にも、神様だけではなく、色々な想いや願いが詰まっているものなの。私の加護もいつかそんな風に素敵なものになればいいなって思ってる。だから、2人ともこれからも末永くよろしくね!』
ベルヴィアがニコッと笑ってイツキとララミーティアにウインクをした。
自分はベルヴィアの加護をそんな風に出来るだろうかと、改めて責任を感じる色々だった。
いつかララミーティアと2人であちこちを手助けしながら巡る旅も悪くないかもしれない。
「長い付き合いになるだろうけど、こっちこそよろしく。」
「よろしくお願いします。」
2人は天啓ウィンドウに向かって頭を下げた。





