18.方針
その後2人の間にはそれ以上は特になく、疲れていたからかいつの間にかお互いにスースーと眠りについてしまった。
朝、どちらともなく目を覚まし、照れくさそうに「おはよう」と挨拶を交わす。
昨晩の余韻がまだ残っており、吸い寄せられるように何度か唇を重ねる。
名残惜しそうに顔を離し互いに見つめ合うと、照れくささから2人とも笑ってしまい、そんな相手の笑顔を見ることで改めて幸せを噛み締めるのだった。
その後なかなか寝床から出ることが出来ず、いつまでもダラダラと唇を合わせているうちにお互いのお腹がぐぅと空腹を知らせ、クスクス笑いながら漸く起きることが出来た。
朝食を用意するのも何だか億劫で、イツキがアイテムボックスから無限に出てくる正方形のクッキー風レーションと大量に収穫したマコルの実をいくつかだし、ララミーティアも自身のアイテムボックスから昨晩の残りのスープを出した。
ソファーに並んで座り、それを食べる事で朝食とした。
「さて、今日は狩りの必要はないから、昨日のウルフを解体して皮の処理でもやってみましょうか。」
ララミーティアがクッキー風レーションをもぐもぐ食べながら提案する。
今後この生活を送る上でかなり重要な仕事だ。
イツキは俄然やる気になってレーションのセットのこれまたクッキーとセットで無限に出てくる水を飲み干す。
「よし!処理やろうか!」
イツキが膝をパンと叩き立ち上がった。
その時、突然天啓ウィンドウが目の前に浮かび上がった。
「うわ!」
突然の出来事に驚くイツキ、ララミーティアはサッとイツキの横に並ぶ。
「座りましょう。」
「天啓か、何か決まったのかね。」
2人がソファに座ると天啓ウィンドウにデーメ・テーヌとテュケーナが並んで写り込んだ。
テュケーナは腫らした目に涙をいっぱい溜めてグズグズ言っているので、思わずギョッとするイツキとララミーティアだった。
デーメ・テーヌが口を開く。
『ご機嫌よう。あなたたちは昨日ぶりかしら。』
「ご機嫌ようって…あの、テュケーナ様大丈夫ですか…?尋常じゃないくらい泣いてますけど…。何かマズい事でもあったのでしょうか?」
天啓ウィンドウの向こう側の状況を見ると、とてもご機嫌ようなんて言っている場合ではない。
ひょっとすると何か雲行きの怪しいマズいことでも起きたのかと肝を冷やす。
『うぅ、わたし、わたし、感動しちゃっでぇぇー。ううぅ…。』
『ごめんなさいね、この子ったらずっとこの調子なのよ。でも確かにあなた達にはマズい事かもしれないわ…。』
「ん、感動…?」
ララミーティアが怪訝な表情を浮かべる。
どうも妙な雲行きになってきた。
『だっでぇ、だっでぇ、ティアちゃん、ほんどぉによかっだよぉぉ。ふだりでぇ、支え合っでぇ、うううぅ…。うわぁぁん…!』
テュケーナが鼻をズズーッと豪快にかんだ。
感動?ティアちゃん?
2人の頭上には巨大なクエスチョンマークが浮かんだままだ。
『あのね、先に言っておきますが、本当に悪気はなかったという事は言っておくわ。本当よ?』
「はぁ…。」
イツキは恐る恐る相槌を打つ。2人とも段々と漠然と嫌な予感がしてきて、お互いに顔を見合わせる。
『先程まで天界でね、緊急の会議をしていたの。こちらとそちらは時差みたい物があるというか設定したんだけど…、まぁとにかくその場でね、今回の状況の説明資料の一環としてね。あなたたちのね、様子をね、悪気が合ったわけじゃないんだけどね…。ばーんと流していたのね…。ほら、どんな子らですよってわかりやすい情報がないと、ね。』
「…嘘、でしょ…。」
「…まさか…?えっ…。えっ?」
『ティアちゃん、イツキちゃん、ほんどぉに、ううぅ、思い出しだらまた…、暗闇からぁ、救ってくれた、王子様、異世界の、異世界の…おーいおいおい…。よがっだよぉぉぉ~。』
テュケーナからはロクな情報が降りてこなさそうだが、これまでの全部を全ての神様に見られていたという事かと理解する2人。
2人とも顔を真っ赤にして天啓ウィンドウに向かって抗議を始める。
「そんなまさか!酷いじゃないですか!プライバシーの侵害が過ぎますよ!」
「嘘、私…、恥ずかしくて外にでられない…!」
『大丈夫よ!大丈夫!心配しないで!よく考えて!神様はお隣さんやご近所さんじゃないのよ!それにあなたたち、誰も居ない森で2人で暮らしてるじゃないの、ほら!ね?』
「…まぁ、それもそうか…。そうだな…。…そうなのか?」
デーメ・テーヌの強引な説得に段々と何でもないのではないかと思いそうになる。
しかしいくら神様しか見てないとは言え、会議の場であんなのが流れたかと思うと恥ずかしすぎる。
『でも!そのおかげでね、今回の救済措置にものすごい数の神様が協力してくれるって言ったのよ!凄いことよ!あなたたちのお陰で!お陰で!あなたたちの!ね?』
デーメ・テーヌがしどろもどろになりながらも必死で2人の功績を説いてくる。
その必死さにタジタジになってしまう。
このままだと…。
「そうね…。別に私とイツキしか居ないんだし、まぁいいのかしら…?」
『そう!そうよ!神様は常日頃、天から子らを見守るものよ?』
「ほほう、空から。全神様が?」
イツキがデーメ・テーヌの発言をいぶかしむように切り返す。
『うっ、それは…と、とにかく!凄くいい方向に向かっているのよ!ね?ね?』
「えーとわかりました。その話は一旦置いておくとして、良い方向とは具体的にどういう方向ですか?」
これ以上は不毛だと腹をくくったイツキが、今後の方針についての話へ流れを持って行ってあげることにする。
『おほん!えー、今回一番問題になっているのは、こちら側の手違いにより、私の安定していた世界が突如危機に見舞われているという事です。危機とは急激に魔力過多になってしまい、結果生態系のバランスが徐々に崩壊してしまう事です。こんなに急激なペースで魔力過多になる例なんて無いからこちらも見当が付かないのだけれど、恐らく放っておけば数百年後には魔力が少ない種族は間違いなく生き残れなくなると思うわ。』
「人族、とかですか…。」
イツキがポツリと呟く。
『人族だけではありません。魔物ではない動物や虫や植物なんかも殆どです。人族に良い印象がないのは知っていますけれど、今はとりあえず置いといて頂戴ね。えーとね、そこで急務なのは魔力の消費です。ところがこの世界は大規模な世界戦争が起こせるほど文明が発展していません。だって、まだ星の名前はおろか、子らは皆『大陸』と呼ぶばかりでちゃんとした統一された大陸の名前すら無いんです。今住んでいる星が丸いことや、他にも色々な大陸や文化があることを正確に知っているかすら怪しいわ。』
「…この世界って丸いの…?」
ララミーティアが驚いてコソッとイツキに耳打ちする。
「うん、丸い。後で説明するよ。」
『いいかしら?魔法も、周囲の魔力を取り込む方式の魔法は、過去に扱えた種族も居ることは居たのですが、現在では全くと言って良いほど浸透していないのです。このまま対策無しでは魔力が全然消費出来ません。そこで対策として打ち出したのが「神の加護」です。神は直接手出しは出来ませんが、唯一干渉できる手段は周囲の魔力を使うタイプの加護を与えて、加護によって魔力の消費を促す事なのです。』
「加護?ナントカ神の加護!ってやつですか?」
『ええ、そうです。ただ、この世界単体の加護だと、管理者である私の加護とテュケーナの加護しか付与できないのです。どちらも大量に魔力を消費するような類いの加護ではなくて…。』
デーメ・テーヌの後ろから顔が涙と鼻水でぐしゃぐしゃになったテュケーナがさっと顔を出した。
ここで何か言えば、再びテュケーナの涙腺を激しく刺激してしまうので、何も言わずに頷く。
『今回大勢の協力を取り付けまして、その中で魔力を消費する上に、世界に対して過度な影響を与えず、過剰な戦力を持たせたりしない、この世界と相性の良さそうな加護を所持する神を厳選しました。その中でイツキちゃんとティアちゃんに振り分けて加護を授けていこうと思います。』
「私なんかが加護を、よろしいのですか…?」
ララミーティアが心配そうな表情でおずおずと訪ねる。
しかしデーメ・テーヌは微笑みを浮かべながら語りかける。
『あなた達だからこそ加護を授けたいと名乗り出た者が大勢居たのです。』
「でも、神様たちは自分の管理している世界で、昨日の俺達みたいなその、…ああいうのって、よく見ているんじゃないんですか?なぜ特別扱いしてくれるのでしょうか?」
イツキの質問にデーメ・テーヌは咳払いをして、ニッコリと笑顔で答えた。
『それぞれ各々が管理している世界は見ていますが、そこで生きている特定の個人の監視なんて余程の事でもない限りまずしません。時間の流れも異なりますので、大局は見るけど細か過ぎる所は対象が膨大過ぎて見れないです。その中でも、その、情熱的な、えーと、お芝居とか創作ではない、…ああいうのを見るのがですね、…その、タイミングが難しくて、私も…なんですけれど、大半のもの達は初めてなんです…。まぁ覗くのは悪いかなぁと。まぁ、それで?心を?動かされたかなー?というか…。』
デーメ・テーヌが頬を赤らめながら冷静を装って話すが、自分で喋っていて段々恥ずかしくなってきたのか、後半は尻すぼみになってしまう。
娯楽に飢えてるのか?
今日の18時にまたまた本編とあまり関係ない閑話をぶち込みました。
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