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166.まあいいか

「ごめんなさいね。兎に角アリーの魂が浄化されて私たちのララアリス、ララルージュとして産まれたと言うとは分かったわ。まぁ…分かったと言って良いものかは別として…。でもねえ…。」

「あの…、生後間もなくして既に普通の子供ではないですよね、これがまた…。」


落ち着いたところでララミーティアとイツキがまだ残っている問題について口にする。

そう、ララアリスとララルージュは魔法が使えてしまうままなのだ。


『ふふ、そうですね。魔力方面の成長率もとんでもないですし、一度見ただけの魔法を理解して無詠唱で使えるなんて、普通の赤子ではまず出来ない有り得ない事態です。そんな事普通出来る訳がないです。お二人とも使う魔法にはくれぐれも注意して下さいね。仮に攻撃魔法を覚えてしまった日には大変なことが起きますよ。』


気まずそうに笑っているデーメ・テーヌやテュケーナの代わりに、教会から天啓ウィンドウで話して居るであろう聖フィルデスが忠告をする。

イツキとララミーティアは無意識に火魔法を連発して火の海に包まれるララアリスとララルージュの姿を想像してゾッと背筋が凍りつくような想いになる。


「そうね…、注意しないとイケないわ…。」

「今の所は生活に役立つ魔法ばっかだね…。」

『ま、まぁもし大変な事になりそうだったら…、その時は…、えーと…。ね?テュケーナ?』


取り繕うように口を開いたデーメ・テーヌだったが、腹案は全く何もない事に気がついて目が泳いでしまっている。


『えー?私何も分からないですよぉ。いつぞやイツキちゃんがやってたミスリルの道具に何か便利な魔法をわーっ!と入れるやつをやればいいじゃないですかぁ!』

「あーなる程な…。」


イツキが天井を見上げながら物思いに耽る。


『そうそう、それそれ。私が言いたかったやつね。そ、それで何とかすれば…ね?あ、そろそろ忙しいんだった!それじゃあね!』


デーメ・テーヌがそう言うと、デーメ・テーヌとテュケーナが映っていた天啓ウィンドウがぶつっと消えてしまう。


「あ、切れちゃったわ。聖フィルデス様、どうすればいいかしら。物心着くまで魔法に一切触れさせないなんてまず無理よ。」

「いくらミスリルの力があったとしても、特定の魔法だけ遮断するなんて難解な魔法は思い付かないですよ…。」

『そうですね…。初歩の水魔法一つとっても大変危険ですからね…。デーメ・テーヌと言いテュケーナと言い本当に困った人達ですね…。』


天啓ウィンドウの向こうの聖フィルデスも頭を抱えてしまう。

イツキは抱きかかえいるララルージュを眺めながらうんうんと唸る。


「しかも赤ちゃんに装備させるミスリルって…。」

「こんな赤ちゃんなのにアクセサリーなんて絶対無理よ。そんなものつけたら本人達が気になってしょうがないわ。それに間違って口に含んで飲み込んだりしたら事よ。」

『そうなんですよね。私も赤子に付けるアクセサリーなんて思い付きません。精々耳にピアスでしょうか。…個人的には身体に穴を開けるのはちょっと…。』


3人は頭を抱えてしまう。

ララアリスとララルージュはそんな大人達の様子など気にも留めずお互いに洗浄魔法をかけて遊んでいるようだった。




「ふぅん。将来有望じゃない!って言いたいところだけれど、確かに頭が痛いわねー。」

「教会でも聞いたことがないケースですね…。」


天啓が終わって本邸のリビングで過ごしている一同。

先程の頭の痛い問題について話をしているところだった。

ベルヴィアとサーラがそう言って考え込んでいると、ドライフルーツを食べているララハイディがドライフルーツを載せた皿をじっと見つめたまま口を開いた。


「その話を聞いて最初に思ったのは、咆哮のような効果を付与出来ないかと思った。六属性魔法が発動したら咆哮が発動するようにする。六属性の魔法以外なら命を落とすような魔法は無いはず。治癒魔法、洗浄魔法、身体強化などの強化魔法、結界魔法、ウィンドウ魔法も。他にも細々あるけど治癒魔法とかまでも無効にすれば、命に関わってしまう可能性がある。」


咆哮とはリュカリウスが得意としている魔法を掻き消す事が出来る属性のない魔法だ。

ライカン族しか出来ないと思いがちな魔法だが、ガレスとルーチェがマスター出来たあたり、種族固有魔法ではないようだ。

実際ララハイディも出来るようになったらしい。


「咆哮…、いいね!でも何に…。」


イツキがそう言うと再び一同は考え込んでしまう。

イツキはじっと見つめてくるララルージュを見つめ返しながら、より目をしたり舌を出したりしておどけてみせる。


「オチルとアンの所に行って相談かしらね。その道のプロに聞けばいい案が浮かぶかもしれないわ。」


ララミーティアはそう言って小さくため息ついた。




翌朝イツキとララミーティアはそれぞれララアリスとララルージュを連れて首都ミーティアへ行くことにした。

サーラとララハイディは本邸でお留守番という事になったのだが、ベルヴィアは「私も行きたいよー!」と駄々をこね始めたので、移住者を運ぶときのように結界の中に入って移動する事にした。


道中ベルヴィアは終始ご機嫌でアレも食べたいコレも食べたいと指折り涎を垂らしていた。


「はー、ウルフ肉の串焼き食べたいわねー。色んな豆が入った赤トマリスのスープもいいのよねぇ!あーそれならパンも浸したい!ちょっと硬いやつ!あの出来損ないのパスタみたいなやつもいいわね。ヤギの乳とバターのソースで絡めているやつ!はぁ、早く食べたいなぁ…。あ、またお金に出来る何かちょーだい。ほれ。」

「しょうがないなぁ。金の指輪あげるからキキョウさんの所ででも換金してもらいなよ。アリーもルーもこんな『お金ちょーだい、ほれほれ』なんてケロッと悪びれもせずにヌケヌケと言う人になっちゃダメだからねー?」


嫌みったらしく言って聞かせるイツキの肩をガンとグーで殴るベルヴィア。


「ちぇっ!!ドケチ!!いいじゃんいいじゃん!私の加護なんだから私が使いたいように使っていいじゃん!私の加護は私のもの!イツキの加護は私のもの!これ誰か損してます?損をしているってソースはあります?ん?」

「うわっ!ナチュラルにガキ大将みたいな事言い出したと思ったらムカつくコメンテーターみたいになった!聖フィルデス様ー、この人こんなこと言ってますけど、どうしますー?」


イツキが後ろを振り返ってそう言うとベルヴィアは大慌てで叫ぶ。


「冗談!場を和ませる冗談!本気でそんな事言うわけないではないですか、私は女神ベルヴィアクローネですよ?ふふふ。ねえ?ほら、ねえって?」

「あはは、天啓ウィンドウなんて無いわよ。イツキも意地悪しちゃって本当、ふふふ。」

「あはは!慌てるなら初めから横柄な態度を取るなよ!」


2人はケラケラ笑いながらも何だかんだララミーティアがいくつか金の指輪を召喚してベルヴィアに手渡す。


「『ふふふ』でも『あはは』でもないわよ!全くもう!初めから快く渡してくれりゃいいのに、一々人をからかわないと気が済まないなんて本当に哀れな意地悪極悪夫婦ね!ふんっ!!どうもありがとね!」


ベルヴィアは頬をぷっくりと膨らませて怒っているが、金の指輪はちゃっかりと貰って鞄の中に仕舞い込む。




一同はオボグ工房の前に降り立つ。

ベルヴィアが真っ先にアサクーラ商会の方へと走り出す。


「帰るときは天啓ウィンドウで呼んでよ!私の名前を言いながら天啓使えば私に繋がるから!」

「はいはい…えっ!そんな機能あったの!?」

「あっ、間違っても聖フィルデス様の名前とかアテーナイユ様の名前で天啓ウィンドウを呼び出して告げ口しないでよ!?」


ベルヴィアが立ち止まって振り返りながら大声で叫ぶ。


「はいよ!わかったよ!」

「じゃあね!あっ!何も言わないで使ったらデーメ・テーヌ様とテュケーナ様に行っちゃうからね!私の加護がどうとかってさっきの告げ口しないでよ!」

「もう分かったって!早く楽しんできなよ!」

「頼んだわよ!密告はダメよ!ね?分かった?」

「分かったっつーの!ほれ!どうぞごゆっくり楽しんできて下さいねー!」


イツキがそう叫ぶとベルヴィアは足を止めて振り返る。


「何だかひっかかるなぁ。」

「もう分かったからいってらっしゃい!変な人にホイホイついて行ったりしたらダメよ!ベルヴィアは黙っていれば美人なんだから!」


ララミーティアのお世辞に気を良くしたのか、ベルヴィアは澄まし顔でカーテシーを決めるとそのまま走り去ってしまった。


「そんなに告げ口されたくないのなら始めから余計なこと言わなきゃいいのに。」

「ふふ、まぁベルヴィアらしいわね。さ、私達はオボグ工房に行きましょう。」




オボグ工房に入ると、相変わらずカウンターではダニエルが暇そうに何か内職をしていた。


「いらっしゃいま…イツキさんティアさん!その赤ちゃん…!おめでとうございます!わぁ、可愛いなぁ!」


ダニエルはパッと駆け寄ってきてデレデレした表情を浮かべながらララアリスとララルージュを見つめる。


「ダニエル君久し振り!今2人とも居る?」

「居ますよ。奥様ー!旦那様ー!イツキさんとティアさんが赤ちゃんを連れて来ましたよー!」


ダニエルがそう叫ぶとハンマーの音がピタッと止んで、奥の方からオチルとアンが出てきた。


「ご無沙汰してます!まあ可愛い!おめでとうございます!わぁ!」

「お二人ともご無沙汰しています。今日は何かあったんですか?」


すっかり赤ちゃんに夢中のアンとダニエル。

オチルもソワソワしながらチラチラ見つつも、自分まで夢中になるわけにはいかないと言わんばかりに話を振ってみせる。


「そうなの。それなんだけどね…」




ララアリスとララルージュはアンとダニエルに任せ、オチルと本格的な相談に入る。

初めはご機嫌が斜めになるか心配していたイツキとララミーティアだったが、特に人見知りもしないようでご機嫌そうにアンとダニエルに抱かれている。


「…そうでしたか…。ミスリル製で且つ赤ちゃんが身に付けられる物…。うーん…。里で親父か長に聞いてみた方がいいかな…。」


一通り話を聞いたオチルは腕を組んで悩んでしまう。

ララアリスを抱き抱えているダニエルがあやしながら口を開く。


「ミスリルの糸で涎掛けでも作ったらどうですか?紡績工場と提携して。あの糸ってあんま見かけないからいい商売になると思いますけどねー。」

「ダニエル君が試しに作ってたアレ…。それはいいかもしれませんね。」


アンがララルージュに語りかけるようにしてそう言うとオチルもパッと表情を明るくする。


「そうですね、それは良い!でも紡げる人が限られますね…。まぁ涎掛けならそこまで考えなくていいのか…。」

「へぇ、さっき内職してたアレがミスリルの糸なの?」


ララミーティアが興味津々でダニエルに尋ねるとダニエルはニイッと笑って顎でカウンターを指し示す。


「そうそう、それです。ひいひいばあちゃんが森エルフでして、大昔に里で暮らしてた頃によく作ってたらしいんすよ。俺は会ったことがないけれど、ばあちゃんが紡ぎ方を教えてくれたんです。」

「見てみてもいい?」

「いいっすよー。」


許可を得たイツキが紡ぎ終えているミスリルの糸をそっと手にとって持ってくる。

糸はツヤツヤと輝いており、光の角度によって様々な色を発している。


「これは凄いな…。まるで繊維から紡いだ糸みたい。ほら。」

「へぇ…、初めて見たわ。これは綺麗ね。」


イツキとララミーティアはミスリルの糸をして感嘆の声を漏らす。


「歌に合わせて紡ぐんですよ。何かの詠唱らしくて、何言ってんのかよく分かんないんですけど、ペラペラーって。」

「是非見せて欲しいのだけれどいいかしら。」

「いいっすよ!じゃあ旦那様、お姫様をよろしくお願いします。」


そう言ってダニエルはララアリスをオチルに託す。

オチルはアタフタしながらもララアリスを抱っこすると、ララアリスは機嫌良さそうにじっとオチルを見つめる。


「じゃあちょっとやってみますね。」


そう言ってダニエルは自身のアイテムボックスからミスリルインゴットを取り出す。


『ヘトオー アジス ハモレイゲ

 ペーネシ ヒヒビキレー イェールガ…』


ダニエルがリズム良く歌を歌いながらミスリルインゴットの表面を抓るようにして引っ張ると、極微細な糸となってダニエルによって引っ張り出される。

ダニエルは木製のスピンドルに手際良くクルクルと巻き付けてゆく。


歌が終わったのかダニエルはまだ紡ぎ途中のスピンドルをゆっくりと置く。


「こんな感じでひたすら歌を繰り返しながら紡ぐんですよ。真似して歌ってもエルフ系の種族じゃないとさっぱり出来ないんで、そのせいでなかなか浸透しないのかもしないですねー。」

「それなら町の中にいるシティエルフの人を雇って教えたら出来そうな気がするわね。」

「良い歌だったね。精霊女王?を讃える歌だ。『糸繰りの歌を捧げよ。精霊女王よ。数多の子らの魂を、天に返す、風となり光となり…』とかって歌ってたよ。」


イツキは転生時に貰った言語理解で理解出来たが、一体いつの時代の何という言葉なのかというところまでは分からなかった。


「凄いですね!ひいひいばあちゃんも意味知らなかったみたいですよ!大昔の言葉らしいって親から聞いたって本人は言ってたみたいです。で、何て言葉なんですか?」

「ごめん、いつの時代の何という言語なのかまでは分かんないや。仲間達の魂が無事に精霊女王のもとへ帰りますようにってのと、戦士たちに『どうかまだ精霊女王のもとへはまだ帰らず、私達の里へ無事帰ってきてね』って言ってその糸を紡ぐんだよって言ってたね。多分服でも作ってたのかな。」


ララミーティアは先ほど渡されたスピンドルを弄りながらふと柔らかい表情を浮かべる。


「とっても素敵な歌なのね。大昔のエルフ達はそうやって願いを込めて糸を紡いで服を作っていたのかしら。」

「まだ試したことはありませんが、これで服を作って魔力を込めれば防刃防突性に優れた服が作れそうですね。早速紡績工場に打診してみますよ。」


アンはララルージュをあやしながらウインクしてみせる。


「ありがとう。本当に助かるわ。何かと要入りになりそうだからいつもより多めにミスリル原石を渡しておくわ。」

「助かります。ところでテオドーラ様にはもう会ってきたのですか?」

「ん?いや…あー。」


イツキとララミーティアは顔を合わせてマズいという渋い表情を浮かべながらも次々と木箱とミスリル原石を召喚してゆく。


「早く行ってきた方が良いですよ。首都ミーティアで初めて御披露目したのがオボグ工房だなんて流石にそんな話は無いです!」

「はは、そうですね。ミスリルの糸はうちで責任を持って進めますので、お二人は早くテオドーラ様の所へ行ってきてください。」


アンとオチルはそう言って名残惜しそうにララアリスとララルージュを返す。


「忙しいところ本当に申し訳ないですけど、よろしくお願いします。」


イツキとララミーティアはララアリスとララルージュを受け取りつつ軽く頭を下げた。


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