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161.家庭訪問 前編

ララミーティアの運動がてら町をのんびりブラブラ歩いていたサーラを含めた3人。


人混みの向こう側からアイセルの姿が見えてきた。


「あら、アイセルよ。手を繋いでいるのはお母さんのソナね。」

「お、本当だ。親子でお買い物かなー。」


アイセルは母親と手を繋いで歩いていた。

アイセルの母親はアイセルと同じく丸い耳にフサフサの尻尾をしていて髪色も同じ茶色。

アイセルはまるでソナの生き写しのようだ。


ただアイセルと違う点として、アイセルは耳や尻尾が生えた人族の女の子といった感じだが、母親のソナの方は人族っぽさがありつつも割と獣人寄りの顔つきをしている。


「あっ!ママ!イツキとティアだよ!サーラもいる!」

「皆さんこんにちは。いつもアイセルがお世話になっています。」


アイセルの母親は丁寧に恭しく頭を下げる。

アイセルもそんな様子を見て真似をしている。

ララミーティアはニッコリと微笑んでみせた。


「こんにちは。ソナも元気そうね。」

「今日は買い物ですか?」


イツキがそう聞くとアイセルは手に持っていた籠を自身の視線の高さまで上げてみせる。


「おちゃの葉っぱくださいなーしてきたの!エラい?」

「うおっ!それは凄いな!エラいなぁ、俺なんて買い物した事ないよ。」


大袈裟に誉めてアイセルを持ち上げてみたが、実はこの世界で本当に買い物らしい買い物をしたことがないイツキ。

アイセルは得意げに鼻を鳴らしながら胸を張っている。


「もし良かったらうちでお茶はいかがですか?今日買ってきた茶葉は木イチゴの葉をお茶にした物で中々美味しいんですよ。」

「昔から妊婦さんに良いと言われている茶葉ですよ、ソナさんのご厚意に甘えてみてはどうですか?」


サーラはそういうとアイセルの母親のソナと目を合わせてニコリと微笑み合ってみせた。




ソナの厚意に甘える事にしたララミーティアとイツキはアイセルの家まで行くことにした。

アイセルとソナは親子二人で住むと広く感じる部屋に住んでいた。


「私はお茶を淹れてきますので少々お待ちください。アイセル、ちゃんとおもてなしするのよ?」

「はい!」


アイセルの右手とフサフサの尻尾がピンと伸びる。


「す、すわって…。あっ!おすわりをください!」


アイセルが難しい顔をしながら一生懸命もてなそうとしてくる姿が可愛らしく、床に座っていたララミーティアはアイセルを手招きする。


「ほら、アイセルも聞いてみる?お腹の中から赤ちゃんの音が聞こえてくるのよ。」

「わぁ、わっ!わっ!アチコチ動いてるよ?」


耳を近づけてみたり両手でお腹を触ってみたりして興奮するアイセル。


「赤ちゃんが産まれてきたらよろしく頼むね、アイセル姉さん!」


イツキがニイッと笑いながらアイセルの肩をポンと叩くと、アイセルは顔中に笑顔を咲かせて頷く。


「アイセル、いまからプレゼントよういする!」


おもてなしの事などすっかりどこかへ行ってしまったアイセル。

部屋の隅にあった木箱の中をガサゴソ始めてしまった。


サーラはクスクス笑う。


「すっかりお姉さん気分ですね。あれくらいの歳の子のあの感じ、堪らなく好きです。」

「分かるわ、ほっこりさせて貰ったわ。」


ララミーティアとサーラがクスクス笑っていると、玄関の方からコンコンと扉をノックする音が聞こえてくる。

どうやらソナは誰かが来たことに気がついていないらしい。


「誰か来たみたいだな…、俺出てこようかな…。」

「そうね、そうしてあげたら?」


ララミーティアもそう言って頷く。

イツキは玄関へ向かい扉をゆっくりと開ける。


声をかけようとしたところ、先に来訪者の方が勝手にしゃべり始めてしまう。


「よう!と、特にこれと言って用は無かったんだけどよ…。いや、何も用はねえって意味じゃねえんだけどよ…。この間冒険者組合で引き受けた護衛の時に行商人から貰った羊毛のタペストリーが綺麗でよ…、これをやるよ。良かったら飾ってくれよ。」


扉の向こうには明後日方向を向いてペラペラまくし立てるように喋るミーティア集落時代から住んでいる冒険者のダウワースが立っていた。


「えっ?これくれるの?よく俺がここにいるって知ってたね?」

「うおっ!!イツキさんじゃねえか!ち、違うに決まってんだろ!!なな、何でこの家に…!?」

「あら、ダウじゃないの。ここに何か用でもあったの?」


イツキの声に釣られてララミーティアがやってくる。

ダウワースはアタフタしている。


「いや!あのよ、プ、プレゼントをよ…。」

「えっ!あら…、その感じまさか…。へぇ…。ダウとは随分歳が離れているようだけど…?」


ララミーティアのジト目にダウワースは首を傾げる。


「へっ?何言ってんだ?俺とそんな変わんねえよ。」

「超長命種から見ればまぁ変わらないとも言えるわね。」

「人それぞれだから咎めはしないけどさ、流石にまだ早すぎないか…?」


イツキはララミーティアと目を合わせると「ねぇ?」と言ってうなずき合う。

ダウワースの頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいるが、クエスチョンマークはすぐにビックリマークに変わる。


「あっ…!このっ…!ば、馬鹿やろう!アイセルな訳ねえだろ!ソナに決まってんだろ!」

「そ、そうかそうか。ここアイセルの家である前にソナさんの家だったな。いやーごめんごめん!こりゃ失敬!」

「いやね本当!私達とんでもない勘違いをしてたわ!ふふふ、それはそうよね!」


イツキとララミーティアは照れ臭そうに笑って誤魔化そうとする。

ダウワースは声を荒げる。


「ソナ狙いで来たに決まってんだろ!俺を何だと思ってんだよ!」

「あら、ダウ?私狙いって何のこと?」


ソナがお茶のセットをお盆に乗せながら玄関までやってきた。

ダウワースは再びガチガチに緊張する。


「おっ!ソナ!ぐ、偶然だな!ここ、この間よう…、護衛の仕事の時に…よ、羊毛から偶然貰った行商人のタペストリーが綺麗でよ…。」

「ぶっ!!…行商人から貰った羊毛で出来たタペストリー…!」

「ソナの家に訪ねてきて『偶然だな!」は無いでしょ…。」


思わず噴き出してしまったイツキとララミーティアから指摘されて茹で蛸のように顔を真っ赤にするダウワース。


「そうそう、それだよそれ!行商人が描かれたタペストリーなんていらねえもんな、はは…。えーと、花が描かれていて綺麗でよ…、俺なんかよりソナにどうかなーってよ…。偶然通りかかったしな…。も、貰ってくれよ!」

「まぁ、ありがとう!わぁ、綺麗ね…。…これ、高かったでしょう?」


ソナはタペストリーを広げて感嘆の声を上げる。


「いや!護衛の報酬とかついでにやった採取で賄えたから大丈夫だ!全然気にしねえでくれよ!」

「へえ…、偶然貰ったタペストリーじゃなかったかしら…?」

「あっ、あー…。しょ、諸説あるんだよ!諸説!細けえ事は良いじゃねえか!なっ!?」

「と、とりあえずダウも中に入れて貰ったら?ゆっくり話でもしようか?」

「そうね!こんな所で立ち話もなんだから、ソナもそれでいいかしら。」


何だか妙な空気になってきてタジタジのダウワースに助け船を出すように提案をするイツキとララミーティア。

ソナも特に嫌そうな仕草を出さないので、とりあえずダウワースを家の中へ招き入れる。


部屋ではサーラとアイセルが木のおもちゃで遊んでいるところだった。

何となく空気を察知したサーラがアイセルに声をかける。


「2人で町の中を歩きましょうか。ひょっとすると見つかるかもしれませんよ?…怪我や病気の人。」

「…うん!そうする!ママ、おでかけしてくるからね!あ、ダウ!いらっしゃい!」


アイセルに手を引かれてサーラが家の外へ出て行く。ソナはサーラに軽く頭を下げる。

ダウワースも「よう!」と短く一言返す。




淹れたてのお茶が出てきてイツキとララミーティアが口を付ける。

お茶は木イチゴの葉と言いつつも案外あっさりしていて、まるで緑茶を飲んでいるようだと感じるイツキ。

ララミーティアも気に入ったようでニコニコしている。


「ダウ、いつも素敵なプレゼント…気持ちは嬉しいけれど、毎回毎回報酬をつぎ込んでまでこんな立派なプレゼントはいらないわ。」

「その…、悪かったよ…。でもよ!どうしてもソナとアイセルが喜ぶ顔が浮かんじまってよ…。居ても立っても居られなくなってよ…はは…。あー暑い。」


溜め息混じりのソナと、タジタジになって頭をかくダウワース。


「2人は昔からの知り合いなの?」


ソナとダウワースの感じからするに、ここ最近知り合ったような間柄が醸し出す空気ではないのは明らかだ。

どうしても気になったララミーティアがどちらとなく尋ねた。


「はい。まだアイセルを産むよりもっともっと前ですけれど。」

「そうだな。ありゃまだ大陸をぱーっと回って暫くの頃だから十年以上は前だな。」


ソナもダウワースも遠い目をする。


「へぇ、気になるわ!」

「私は物心ついた時から孤児でして、ランブルク王国の北部貴族であるカールマン男爵領の色街で生まれ育ちました。」

「色街?」

「色?芸術の都って事?」


お互い顔を見合わせて肩をすくめるイツキとララミーティア。

人族の町にそこまで馴染みのないララミーティアと、そもそも人族の町に殆ど関わりのないイツキには全く馴染みがない言葉だった。

ダウワースがソナの替わりに説明をする。


「色街っつーのはな、大勢の女が身体を売って稼いでいる町の事だ。そんな芸術なんて崇高なもんじゃねえよ。女が裸で舞い踊る、人族の欲望をグツグツ煮詰めたような町だ。」

「ダウの言うとおりです。とても誉められた町ではありません。孤児だった私は色街で育ち、例外なく裸で踊ったり人族の男に身体を売ったりして暮らしていました。」


ソナは苦笑いを浮かべながら語る。


「俺たちゃガキだったからそんな町だとは知らねえでそこの冒険者組合に拠点登録しちまったんだよ。町の中で一番盛んな仕事が女が身体を売る仕事だからよ、薬草の採取とか洗浄魔法と治癒魔法を使える奴を求む!みてえな楽にバンバン数がこなせる仕事が兎に角多いんだなこれが。暫く採取とか治癒洗浄を中心にノンビリするかぁなんて感じでな。」

「なるほどね…。」


ダウワースの答えにララミーティアは何となく色街の事情を察する。


「えれえ町で拠点登録しちまったなって笑ってたけど、背に腹は変えられねえ。俺たちはそこで暫く生計を立てた。そんな折に俺たちのパーティーと知り合ったのがソナだったって訳よ。」

「そういう仕事をしている人と一体どうやって知り合うもんなの?魔法をかけてる時とか?」


イツキがそう尋ねるとソナは苦笑いを浮かべながら答える。


「身体を売る仕事は兎に角競争が激しいんです。だからまだ若くて獣人族よりな顔をした私は固定の客みたいな人が居なくて…。そういう子は店には無断で町中で立って客を捕まえるんです。ちょっとしたお小遣い稼ぎです。」

「いやー驚いたぜ、スライヤとアーティカも居るのに俺とユスリィがソナから客引きされてよ。俺もユスリィもまだガキンチョだから鼻の下ビローンと伸ばしちゃって、スライヤとアーティカから頭をスパーン!よ。んでよく見たら声をかけてきたソナはガリガリだし何やら病気も抱えてそうじゃねえか。みんな放っておけなくて『お前さんどうしたんだ』って色々身の上話を聞いてたらよ、スライヤとアーティカも一歩間違えれば他人事ではなかったっつって同情して暫くあれやこれやソナを気にかけて、頼まれてもいねえのにせっせとお節介を焼いていたって訳よ。」


ダウワースは笑いながら頭をポリポリとかく。


「凄くダウのパーティーっぽいエピソードねぇ。」

「はは、確かに!そういう事しそうだもんなー。」


イツキとララミーティアはやたらお節介を焼くダウワース達が容易に頭に浮かんできて頷き合う。


「そんな訳で俺達は宛もない浮き草みてえなパーティーだったから暫くその町に滞在してたんだけどよ、ソナもよく食べて健康的になってそこそこ売れっ子になって来たことだし、そろそろ拠点を移すかってなってソナとはそこでさよならしたって訳よ。」

「ふぅん。それでこの国で偶然バッタリ再会したって訳ね。」


ララミーティアがうんうんと頷きながらそういうと、ソナもダウワースも頷く。


「そうそう、そういう訳。ホント驚いたぜ!だって町ん中ウロウロしてたら向こうからソナが来てよ、しかもソナに良く似た子供を連れてるから、もう驚いたの何の!」

「こっちだって驚いたわ。昔と変わらないみんなが居たんだもの。」




ダウワースはその後ソナとのエピソードをいくつか語った。

そしてタペストリーを押しつけるようにしてダウワースはそそくさと帰って行った。


「ダウが昔から私を好意的な目で見てくれていることは知っているんです…。」


ソナは切なそうな表情を浮かべながらポットから空のコップにお茶を注ぐ。

ララミーティアはソナの様子を見て肩をすくめる。


「あら、知っているならどうして素っ気ないの?わざわざ頼んでもいないのにプレゼントをちょくちょく持ってくる男なんてとても情熱的じゃないの。」

「私は色街で働いていた女です。アイセルはとても大切な私の宝ですけれども、誰かもわからない男との間に出来たコブ付きの元商売女ですよ?」


ララミーティアとイツキはソナの言葉に思わず見合わせて肩をすくめる。

ソナは手元のタペストリーを眺めている。


「いくら何でも考えすぎですよ…。」

「そうねぇ。ダウはそんな事を気にする玉じゃないと思うけれど…。」


ソナはタペストリーを撫でながら悲しそうに微笑む。


「そうですね、ダウワースという人はそういう事をいちいち気にするほど繊細な人ではないです。きっと鼻で笑いますね。」

「んー、それじゃあダウの事はイマイチって感じなの?」


ララミーティアが探りを入れるかのように意地悪い質問を繰り出す。

ソナは俯いたまま口を開く。


「そんな訳…ないじゃないですか…。」

「踏ん切りがつかないって感じですかね…。」


イツキの言葉に俯いたまま小さく頷くソナ。


「私達から言うことじゃないかもしれないけれど、とにかく後悔だけはしないようにね。あの時ああしてればって後から考えたって進んだ時は戻らないわ。」


ララミーティアの言葉に力無く頷いたソナだった。


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