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157.神頼み

『…先日の転生者であるさくら嬢があちらの世界の魔導兵器で自害した。』


アテーナイユの言葉にベルヴィアは言葉を失ってしまった。


一瞬放心状態になった一同だったが、イツキは我に返って口を開く。


「じ、自害って自殺ですか…?いやぁマジか…。」

『結果的にはベルヴィアを始め3人のお陰で失敗している。当の本人があまりにも強すぎて魔導兵器では全くダメージが通らなかったのだ。イツキ、イツキが咄嗟に強化方法を思いついたお陰だぞ。』

「いやぁ、はは…はぁ、良かった…。本当に良かった…。」


アテーナイユの言葉にイツキは肩の力がどっもと抜け、一同はホッとした表情で大きなため息を吐いた。


「とりあえず命に別状はないのね…。良かったわ…。」


ララミーティアはそう言ってイツキの手をギュッと握り締める。


「よ、良かった…。原因はなんだったのですか?」


ベルヴィアは真剣な表情で天啓ウィンドウの中のアテーナイユを見つめる。


『一緒に行動していた小さなリスの姿のままの獣人族の女性が案内した嘗て大きな町だった廃墟で人を見つけたと思って喜び勇んでいたら、それはミイラ化していた亡骸だった。それがさくら嬢にとって相当堪えたらしい。』

「やっと見つけた人が亡骸…、相棒は小さなリス。もう自分以外に生きている人なんて居ないんじゃないかってなるわね。」

「ああ、戦いの経験もなければ、そんな亡骸なんて滅多に見るものじゃないから、精神状態によってはそうもなるよ。俺だってやっと見つけて話し掛けた相手がミイラだったら相当堪えると思う。」


ララミーティアとイツキの言葉にサーラも頷く。


「それは誰でも堪えますよ。本当にもどかしいですね。助けに行ってあげたいです…。」

『安心してくれ、後もう少しでフライヤを取り押さえる準備が完了する。新しい担当のクローノウスとプロヴィアが管理者に就任すれば、必ずやあの世界は再生するだろう。魔力枯渇状態から再生に至れば、新たなモデルケースとして貴重なデータになり、今後救われる世界も今までより増える事になると思う。』


アテーナイユの言葉にベルヴィアは何度も頭を下げる。


「何から何までありがとうございます!本当にありがとうございます!」

『人のために喜んだり涙を流したり出来るベルヴィアは、これからの時代に必要な存在だ。いつまでもその気持ちを忘れるな。私はそんなベルヴィアが好きだぞ。』

「ふふ、そうですねぇ。ベルヴィアちゃん人を惹き付けるものねぇ。うんうん、ほらほら、安心した所でまたデザートでも食べようよぉ。ね?こういう気分の時に食べる甘いものって魅力的だもんねぇ?」


テュケーナがどさくさに紛れてチラチラとイツキを見ながらデザートのお代わりを間接的に要求してくる。

イツキとララミーティアはそんな様子に気がついて苦笑いだ。

サーラは眉を八の字にして肩をすくめる。


『テュケーナは本当に私を惹き付けるのが得意ねえ。もう私、テュケーナに会いたくて会いたくてしょうがないもの。デザートなんて食べてる暇もないくらい今すぐ直ちに可及的速やかに会いたいわぁ…。なぁ?』

「げっ!!」

『はは、すまんな。デーメ・テーヌも是非と言っててな。そんな訳だテュケーナ。早く戻ってきた方がいいぞ。それじゃあみんなもまた。』

『慌ただしくてごめんなさいね。テュケーナ!早く戻って来なさいよ!』


アテーナイユとデーメ・テーヌがそう言うと天啓ウィンドウがブツリと消える。

テュケーナは今にも泣き出しそうな顔でオロオロする。


「帰りたくないよぉ!ベルヴィアちゃん助けてぇ…。」

「ほ、ほら。またデザートは召喚しますから。あの!本当に早く帰って下さい!私にまで飛び火します!」

「あんなに誉めたのにあんまりだよぉ!うぅ…、嫌だ嫌だ嫌だぁ…。はぁ…それじゃあまたねぇ…。」


テュケーナはガックリと肩を落としながらやがて光の粒子となって消えて行く。


「本当にブレない人だね…、テュケーナ様は。」

「そうね…。でも深刻な気持ちがあっと言う間に和らいじゃったわ。」


イツキとララミーティアはクスクス笑いながら改めてダイニングテーブルの席に着く。

サーラも強ばっていた肩をストンと落とし、ゆっくりと席に着いた。


「転生者のさくらさんについては正に神頼み…ですね。」

「大丈夫、アテーナイユ様に任せておけばきっと大丈夫。私たちは吉報を待ちましょう。」


ベルヴィアはそう言って席に着いたかと思うと、手元のウィンドウ画面に向かって作業を始めた。

てっきり「そんな事より難しい話をしてたらデザートの話を聞いたら食べたくなっちゃった!」とでも言うかと思っていた一同は顔を見合わせる。


「…。」


真面目に作業を続けるベルヴィアを邪魔してはいけないと思い思いにぼんやりしながらお茶を飲む。


イツキとララミーティアは小声で話をし始める。


(真面目だね…)

(余程心配なのね。イツキの時もそうだったものね)

(デザート出しなさいよ!って言わないし、心配になってくるよ)

(そうねぇ、いつもの流れからすると『難しい話をしてたら疲れたわ!イツキ、早くデザート出しなさいよ!』とでも言うかと思ってたわ)

(はは、わかるわかる!)


サーラも小声の会議に参加する。


(私もてっきりそうなるかと。ふふ、それだけ優しいんですね。人を惹き付ける訳です)

(悪い人じゃないって一発で分かるものね。とても腹の中で悪いことを考えているとは思えないわ)

(腹の中は食べ物でいっぱいだから悪いことなんて入る余地がないしね)

(ふふ、イツキさん言いすぎです!)


「あの、いつになったら追加のデザートが出てくるの?イツキもボケーッとしてないで早く出してよ。」


画面と睨めっこしたままデザートのリクエストをしてきたベルヴィアに思わず笑ってしまう一同。


「はー何だかベルヴィアはそっちの方がいいね、安心したよ。」

「そうねー。私はデザートはいらないからベルヴィアに何か出してあげてちょうだい。」

「ふふ、いつも通りで安心しました。ティアさん、あちらで午睡でもいかがですか?」


和やかになった雰囲気にベルヴィアは画面を見つめたままふと笑みをこぼした。


穏やかな1日が過ぎて行く。




その夜、ララミーティアはベットに座ってジッと自身のお腹を眺めていた。

その表情はとても穏やかで、イツキは思わず暫く見とれてしまう。

イツキの視線に気がついてララミーティアはクスクス笑う。


「ふふ、お腹を魔力視してるの。ジッと見てるともぞもぞ動いているのが分かるわ。だから最近は暇さえあれば自分のお腹を見ちゃう。」

「魔力視いいなぁ…。そればっかりは出来そうにないんだよなぁ。」


イツキは羨ましそうな顔をしながらララミーティアの隣に座る。

魔力視がまるで地球でいうところのエコーのような働きをしているので、イツキは必死で魔力視が出来るようにならないか試行錯誤している。

それでも魔力視を体得できそうな気配は無かった。


「そうねぇ、魔力視は魔法とはちょっと違うのかしら。中々言葉にするのが難しいんだけれどね。」

「くそー、俺は手で触って感じるぞ!」


イツキはララミーティアのお腹に手を当ててみる。

しかし流石にまだ動きが感じられるほど経過していないのか、ララミーティアのお腹はうんともすんとも言わない。


「あはは、流石にまだ手で触っても分からないわ。ふふ、お父さんは随分せっかちねぇ本当。」


ララミーティアは微笑みながら自身のお腹を撫でる。

イツキはその光景を見ているうちに目にじんわりと涙が浮かんでくるのを感じた。


「あらいやだ、そんな泣くほど悔しかったの…?」

「はは、違う違う。今お腹にいる子ども達に話し掛けるティアの優しい微笑みを見てて、この上ない程の幸せを感じていたんだよ。」


ララミーティアは妖艶な微笑みを浮かべながらイツキと唇を重ねる。


「幸せに溺れそう。ああ、早く会いたいわ。」

「早く会いたいから早いところ寝よう!」

「本当にせっかちねぇ、ふふ。おやすみなさい。」




それからは穏やかに日々が流れていった。

ララミーティアも特に体調を崩すこともなく、時折やってくるルーチェと聖フィルデスから外の世界の様子を聞いていた。


ベルヴィアからはフライヤが更迭されてしまい、その後の世界の運営はどうにかこうにか安定している事など、話題がなくなるような事は無かった。


サーラの見立てにより安定期に入ったララミーティアは広場を散歩するようになっていた。


ララミーティアがサーラと散歩している間、珍しく様子をうかがいに来ていたガレスがイツキとベルヴィアに小声でコソッと新たな報告を始める。


「最近エルデバルト帝国の一部地域とランブルク王国の北部貴族の動きが怪しいんだ。」

「あー、…まぁそうなりそうな感じはしたもんね。」


イツキは苦笑いを浮かべながらララミーティアを見守る。


「そいつらは私達に攻撃してくるって訳?舐められたもんね!イツキ!ガツンと痛い目見せてきなさいよ!」


ベルヴィアはシャドーボクシングのようにシュッシュ言いながらパンチを繰り出す。


「おいおい、俺はベルヴィアの僕でも召喚獣じゃないんだぞ…。」

「その前に相手はうちの国じゃないよ…。そいつらは手を組んで新たな国を作ろうとしているらしいんだ。だから相手はランブルク王国でもありエルデバルト帝国でもある。」


ガレスは肩をすくめながら言うと、イツキは引き続きララミーティアを見つめたままポツリと呟く。


「みんな止めるかもしれないけど、うちの国に手を出すなら俺が手を下してくるよ。」

「それじゃあいつまで経ってもみんな父さんにおんぶにだっこになるよ…。」

「それでもだよ。みんなにとっては何にもない平和な一日でしたって毎日思ったまま暮らして欲しいんだよ。『あの国だけは手を出したらやべーな』って思われるのが常識になって欲しい。おんぶにだっこ、結構だよ。戦争の末に旦那さんや息子が死んじゃいましたってなって欲しくない。俺自身でも身勝手なエゴだと思うよ。」

「そうは言ってもなぁ…。」


ガレスが頭をかきながら眉を八の字にする。

しかしイツキは意見を曲げようとしない。


「町にいる子ども達はさ、折角幸せに暮らすとは何かを知ったんだよ。まぁ子ども達に限らずガレスやルーチェ、いや、みんなそうだ。大切な人が誰かに殺されるとか、そういう理不尽な悲しい思いをするのは俺達の国に保護された日が最後であって欲しいんだよ。だったら俺が敵意を向ける存在を潰してくる。俺だったらそれが出来るよ。人族の国家にとって恐怖の魔王にだってなってやるさ。何の努力もせずに異常な力を手に入れたんだ、せめて大切なみんなを守る為に役立ちたいよ。」


困り果てたガレスの肩にベルヴィアが手を乗せる。


「まぁ矛先がこっちに向いたらイツキに言う前にみんなで考えればいいじゃん。イツキもティアちゃんもどうせ何も言わなかったら気がつくわけないんだから。」

「なっ!失礼な!俺達が鈍感とでも…、いや、まぁベルヴィアの言うとおりか。はは…。」


イツキは頬をポリポリとかきながら苦笑いする。

ガレスは笑いながら「それもそうか」と笑ってみせた。


面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

今日の18時に本編とあまり関係ない閑話を挿入しました。

よろしければ是非見て下さい。

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