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閑話.適当に選ばれた女4

雪原を一歩一歩進んでいる時にふと思った事がある。

一度考えてしまったら頭の中からその事が離れない。

段々とそわそわして、ついにフンワリちゃんに尋ねてみることにした。


「…あのフンワリちゃん。…魔物とか、と、と盗賊的なモノって…、ややっぱり出てきたりするのでしょうか…。わわ私、…戦った事なんてありません…。たた、た、戦えません…。」

「ぴ?ぴぴっ!ぴぴぴっ!」


居るって言ってるのかな。

ここまでフンワリちゃん以外の知的生命体に会ったとこはないけれど、魔法があるって事は魔物的なモノが居るのは相場な訳で。

さらに文明レベルは未だ計りかねるけれどさ、盗賊的なアウトローの存在は居ないというよりは居ると考えた方がいいよね。


私は魔法が使えるけど、果たしてこの魔法はどこまで通用するものなのか確認する術がない。

もしあっさり無敵バリア!的な物で弾かれたらその瞬間ゲームオーバーだ。

このちびっ子の体に屈強な男をねじ伏せる腕力があるとは到底思えない。

何の後ろ盾もない私は楽観視してはいけないのだ。


よく考えてみたら今私はかなり危険な事をしているんだ。

子供の1人旅、日本だってそんな事していたら危ないに決まっている。

体が自由に動く事や初めての事ばかりですっかり抜け落ちていたけれど、私は前世より圧倒的に命の危険に晒されている。


三日経って少し余裕が出てきたら平和ボケがごそっと抜け落ちてしまった。

私は馬鹿だ。

やり直すとしてもせめて高校生とかで良かったじゃないか。

何だよ小学生って。


でもせめて大切なお友達だけは逃がしてあげたい。


「わ、わ、私の人生は…ぐぐ偶然貰ったオマケみたいものだから、な、な、何かあったらフンワリちゃん、…え、え、遠慮せずに逃げて下さい。ま、まま魔法がど、どこまで通用するかわかりませんが、…あ、足止めくらいには…。」


自分が無惨に殺されるイメージが次々に湧いてくる。

死ぬ前に今の私がどんな顔してるのかくらいは見てみたかったな。

どんな目の色してるのかな。

あ、水を張れば見れるのか。

後で見てみようかな。


「…。」


フンワリちゃんが私の体を器用にスルスルよじ登って顔をペロペロ舐めてくる。


あ、私また泣いてるのか。

いや、「あ、」は嘘だ、私は怖い。

堪らなく怖い。

ちびっ子だから尚更泣きやすいのかな。

でも大人の私だったとしても怖い。


そもそも雪原って!

クレバスとかないの?

平気でフラフラ歩いていたけれど、落とし穴的な深淵はないの?

落とし穴に嵌まって、待ってましたとばかりに出てきた盗賊に殺されたら?

突然白クマみたいな圧倒的な魔物に襲われたら?


「ごご、ごめんなさい。やややっぱり怖いです…。…まだ死にたくないです。」


膝から崩れ落ちてしまう。

私、なんて危うい橋の上を歩いているんだろう。

ここは北海道でもなけりゃ地球でもないんだよ。

文明レベルが分からない異世界なんだ。


魔物だけじゃない。

最悪殺人を犯す覚悟を今からしておかないといけないんだ。

人を殺せる魔法は思い浮かぶ。

大丈夫、きっと大丈夫。

フンワリちゃんと平和に暮らせる場所を必ず探してみせる。


「わわ私、…人を殺す覚悟を、きき決めます。…っ魔法、おお思い浮かびます。だだだ、だから心配しないで下さい。ぜ、絶対に守ります。」

「ぴぃ…。」


フンワリちゃんが私の頬に頬ずりしてくれる。

ああ、フンワリちゃんが居てくれて本当に良かった。

本当に一人ぼっちだったら私どうなってたんだろう。

ウサギは寂しいと死ぬって聞いたことがある。

それが本当だとしたら私も立派なウサギだ。

フンワリちゃんが居てくれるけれど、それでも堪らなく寂しくて怖い。


「あ、歩きます。…歩いて歩いて歩きます。」

「ぴっ!」




歩きながらアイテムボックスを覗いていると、ずっと下の方に食べ物とも日用品とも違いそうなアイテム群があることに気がついた。

これは武器ではないかい!?

身を守る手段が手には入るぞ!やほーい!


「フンワリちゃんフンワリちゃん!ああアイテムボックスに武器があります!ややややりました!『ガルノルト機構帝国帝国軍魔導高高粒子ブレード!つ、つつ強そうです!こ、高高って!」


マントの隙間から顔を出してウトウトしていたフンワリちゃんがけたたましく「ぴぴぴっ!」と鳴く。

フンワリちゃんも喜んでる!

出来れば食糧より先に見つけたかったよー!

ありがとう!女神様!

めっちゃ強そうです!


「こ、こ、これです!あ…、つ、筒でした…。」


意気揚々と出したナントカブレードは名前負けが激しいただの筒だった。

なんじゃこりゃ!

これでどうやって戦えというんだ!


発煙筒?発煙筒ぞ?


「ななな名前負けが凄いです…。で、でも、…こっちは凄そうです。オーバンス王国ブリサック方面軍ラピッドマギファイアブラスター対結界装甲!よよよく分からないけど…とと、とにかく強そうです!で、で、でもよ、よく分かりませんが…!」


今度こそと取り出した物は木で出来たおもちゃの鉄砲だった。

木で作った銃のおもちゃに引き金だけが付いてるよ…。

おもちゃの鉄砲で威嚇でもしなさいって事でしょうか?

女神様!これは一体!


「…フンワリちゃんの…て、テンションが上がってるのに、すすすいません。どど、どうやらお、お、おもちゃでした…。」


フンワリちゃんのけたたましい「ぴぴぴっ!」を裏切るような気分で心底落ち込む。

今度はちゃんと確認してから披露しよう。

意気揚々とガラクタを出すちびっ子の私。

微笑ましいけど今微笑ましさは要らないよ…。


「ほほ、本物だったら良かったですけど…。お、玩具では為す術がありません…。こ、こ、これで相手を殴る暇がああ、あるくらいなら…っ私逃げます…。」


引き金を引いてみるとちゃんとカチリと感触がある。

ボールペンをカチカチするみたいだ、ちょっと癖になりそうな感触。


ふーん、でも銃口すらないね。

私の今の見た目から考えたらこんな玩具の1つや2つくらい持っててもちびっ子の大冒険みたいで不思議ではないけどね?

今そんな場合じゃないでしょ?

もっと実践的なナイフとかないのかな。


『環境魔力充填開始。充填中…充填失敗。ユーザ魔力を使用。セッション開始…充填成功。反動に備えよ。反動に備えよ。』


この玩具の声?音声付きなのか。

無駄に本格派。

何か思ってたより進んでる文明なのかな?

っていうかこれこの世界の武器?


結局なにも分からない…。


まぁこちとらどうせちびっ子。

フンワリちゃんしか見てないし、ちょっといっちょ構えてみるか。

何かパソコンのファンみたいな音までしやんの。

昼間だから気がつかなかったけど、よく見たら至る所の隙間がピンク色に光ってる!

おぉ、案外かっこいいじゃんか。へぇ。


本物の銃であれば銃口の部分にアニメや漫画で見るような魔法陣みたいなのがポワンと浮かび上がった。

綺麗だな…!

今度はルーン文字みたいなのが空中に出てきたよ!

これホログラム?

プロジェクションマッピング?

結構進んでる文明なのかな?


ピンク色の光が途轍もない速さで連射される。

ピンク色の光が当たった雪原は雪が溶けて地表が剥き出しになっている。

手の中で大暴れする玩具は玩具じゃなかった。


これ、本物の武器だ。

止め方が分からない。

引き金から指を離してるのに。

反動が凄い。

気を抜いたら手から離れそう。


空に銃を向けて踏ん張っていると、ようやっと静かになってくれた。

地表が露出している場所にはいくつもの穴が空いていた。


私の仕業だ。


「…違うんです。ち、違うんです。」


怒られる。


誰に?


ここには私に怒鳴る人も殴りつける大人も居ない。


でも怒られる。


「…玩具だと思ったんです…。だだだって、木の銃の…。木の…。…ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさい。」


怖かった。

本当に怖かった。

一つ間違えていたら私はあの雪原みたいに穴だらけになってた。

観光でも遊びでもない、私は危険と隣合わせの異世界で一人ぼっちなんだ。


他人なんて居なければいいのにと前世ではずっと思ってた。


でも本当に誰も居ないと不安で不安で堪らない。

今は誰かに助けてもらいたい。


私、どうすればいいの。

何で子供なんかなっちゃったの。

子供のエルフなんて、私本当に馬鹿じゃないの。


嗚咽を止めることは出来なかった。

もう歳も見た目も関係ない。

私、これ以上どうすればいいの。

こんな危ない武器で戦えない。

人を殺すなんて出来ない。

魔物や悪者をやっつけるなんて想像つかない。


私のほっぺにチューしてくれる。

この感じ…。


フンワリちゃんは私のほっぺに一生懸命チューをしてくれる。

フンワリちゃん、ひょっとして私を止めようとしてたのかな…。


私、本当に馬鹿だね。


「…フンワリちゃん。わ、わ私どうすればいいの…。こ、怖いよ…。怖い怖い怖い!怖いよ!このまま訳も分かんないまま死んじゃうの!?怖い怖い怖い怖い!!」


悲しくなるくらい私の発する音しか存在しない静かで真っ白な世界。

この世界が全部こんなんだったらどうしよう。

食糧が尽きたらいつか餓死しちゃうの?

女神様は何でこんな猿の惑星のパチモンみたいな星に私を派遣したの?

私が上手に喋れないからってイジメ?罰?

私だってこんな自分は嫌だよ!

どうして私ばかりがいつもこんな目に遭うの?


「ううっ、うっ、くぅっ、うっ、うっ…。」


一度決壊した心のダムは勢いよく涙をザーザーと零す。

堰を切ってあふれ出した悲しみに身を任せ、両手に顔をすっぽり埋めてとにかく泣いた。


フンワリちゃんは濡れることなど気にしないと言わんばかりにずっと私の顔にぴったりとくっついてくれていた。




泣いても仕方がない。

泣いても雪原は終わらない。

今はフンワリちゃんを信じて前に進むしかない。


とにかく進もう。

力強く進もう。

前を睨み付けながら進もう。




ズンズンと前へ前へ進んだ。

私もフンワリちゃんも一言も発さずに進んだ。

フンワリちゃんはずっと私の顔にへばりついていた。

フンワリちゃんの確かな温もりだけが、まだこの見知らぬ異世界と私とを結びつけているような気がした。


「わ、私は諦めない…。っ絶対に生き抜いてみせる…。」


こうなったらヤケだ。

やけのやんぱち、やけくそだ。

絶対に生き延びてやる。


今に見てろ女神様。

私は必ず生き延びてみせる。


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