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153.しょんぼり

少し歳の離れた姉妹のベルヴィアとその妹のプロヴィア。

双子の姉妹のようにそっくりな設定なのですが、うっかり誤って『双子の姉妹なのに』と発言させてしまいました。

正しくは『見た目は双子の姉妹みたいなのに』です。大変失礼いたしました。

教国歴二年夏の期 3日



転生見学から数日後、ルーチェが聖フィルデスを連れて本邸までやってきた。

用件はララミーティアの体調チェックと『奇跡』をいつ頃から再開出来そうかの確認だ。


今の所『奇跡』を望む貴族は訪れてこそ居ない。

しかし万が一既存や豪商がやってきた時には対応出来るようにしておきたいというのがテオドーラとウーゴの思惑だ。

何だかんだ神聖ムーンリト教国は亜人保護のための活動資金が足りず、太いパイプはいくらでも欲しい。

イツキとララミーティアもその点は十分理解していた。




「それでベルヴィアちゃんはしょんぼりして離れに引きこもっていると…。」

「しょんぼり…んー、まぁそうなんですよ。ああ見えてベルヴィアって優しいでしょう?だからすっかり落ち込んじゃって。律儀な事に三食キッチリ食べるからまだ平気だとは思いますけど…。」


聖フィルデスに事のあらましを詳らかに説明したイツキは苦笑いを浮かべて肩をすくめる。

聖フィルデスの横で聞いていたルーチェが思わず噴き出す。


「ベル隊長らしいね!落ち込んでる人って食べ物がのどを通らないって言うのにねー?でもさ、ベル隊長の食欲が落ちたら、その時は相当危険だね。」

「ふふ、確かにそれは異常事態ね。でも本当、食事量で言ったら私の方がよっぽど落ち込んでる人よ。ベルヴィアなんて『わーっ!!』と食べたかと思うと急に暗い顔に戻ってトボトボ離れに戻るの。そりゃ心配だけど流石に笑っちゃうわ。」


ララミーティアはクスクス笑いながらベルヴィアの近況を説明する。

サーラも困ったような表情を浮かべる。

ルーチェはサーラの隣に席を移動したかと思うと、背中の羽を撫でながらその手触りにうっとりしている。

サーラも満更ではないのかルーチェの頭を撫でていた。


「たまに離れに様子を見に行くと『大丈夫かな…』とか『心配で夜も眠れない』ってボヤいてますよ。」

「あんな鼾かく上に寝坊までするのに?何だかなぁ。いや、心配だよ?心配。でもさ、ちょーっとだけ。本当ちょーっとだけ!…面倒臭くなってきたかな…なんて。」


イツキはばつが悪そうにそう言うと、ララミーティアとサーラは無言の同意をした。


「私、全てを解決する良い案がありますよ。イツキくん、ベルヴィアちゃんを呼んできて貰って良いですか?」

「おっ!流石聖フィルデス様!はいはーい!只今連れてきまーす!」


イツキは待ってましたと言わんばかりに本邸を出て離れへと向かう。


「聖フィルデス様、良い案とは?」


サーラが聖フィルデスにそう尋ねる。

ララミーティアが退屈しのぎに話した聖フィルデスの世界の話を聞いたサーラはその話に痛く感動したらしく、聖フィルデスへの接し方が今まで通りに戻っていた。


「ふふふ、それはフライヤという女神の『天敵』を呼び出すんです。」

「へぇ、神様の中にも仲の善し悪しがあるのね。」


ララミーティアの言葉に聖フィルデスはニッコリ微笑んでみせる。




「聖フィルデス様っ!!聖フィルデスさまぁ…。私…、私…!おーいおいおい!!おーーいおいおい!!悔しいよぉー!!おーーいおいおい!!心配で心配でえっおーーいおいおい!!」


聖フィルデスの姿を見たベルヴィアは堰を切ったように号泣しながら聖フィルデスの胸の中に飛び込む。

ルーチェはベルヴィアの泣き方がツボに入ったようでそっぽを向いてワナワナ震えだした。


場の空気を読んでイツキとララミーティアはルーチェを視界に入れず、ジッと耐える。

ベルヴィアはそんな事など気がつかず号泣しながら聖フィルデスにしがみつく。


「あの子が…!ああああの子が!あんまりだよぉ…!おーいおい!あんまっ!あんまっ!あんまっ!あんまりおーいおいおい!!だよぉーいおいおい!!!」

「ふ、ふふ…。ほ、ほら。もう大丈夫ですよ。ふっ、私に任せてちょうだい。だから、もう泣かないの。ふっふ…。んんっ!ぶっ!!」

「わだじっ!!なにもっ!!フゴッ!!でぎながっだ…!!くやじぃよぉ!!フゴッ!!」

「ぶっ!!ほ、ほら…!!ふ、もうね…。ぶっ!!」


ベルヴィアはフゴフゴ鼻を鳴らしながら号泣している。

聖フィルデスまでだんだん笑いを堪え切れなくなり、ルーチェの心の中のダムがついに限界を迎えて決壊してしまう。


「アーッハッハッハッハ!!ごめんもうダメ!!アハハハ!!お腹痛い!!死ぬ!!死ぬ!!助けてーっ!!!」


床に這いつくばってバンバンと床をたたくルーチェ。

一同が溜まらず爆笑してしまい、号泣していたベルヴィアの表情がみるみる怒りに満ちる。


「不愉快っ!!実に不愉快!!この家は!!こんなに嘆き悲しんで!!やつれている哀れなわたしの姿を見てケタケタケタケタ笑う冷たい悪魔の巣窟だった!!もうここには一秒たりとも居られない!!ご飯の時だけは仕方ないから来る!!それじゃあさよなら!!バイバイっ!!」

「わーすまんすまん!!ワザとじゃないんだから!!なっ!?ほ、ほら!!パフェ食べようか!!な!?な!?」


イツキが召喚したパフェを片手にベルヴィアを引き留める。

ベルヴィアはお多福のように頬を膨らませたままパフェを強奪してダイニングテーブルの席に着く。


「それは食べる!!食べてから検討する!!!」




イチゴのパフェを食べたらすっかり機嫌も治ったベルヴィア。

改めて若干笑い疲れている聖フィルデスが作戦を説明する。


「問題児フライヤの天敵にしっかりと懲らしめて貰いましょう。」

「天敵ですか?あんな奔放な人に?」


ベルヴィアが首を傾げて聖フィルデスに尋ねると、聖フィルデスは悪戯な笑みを浮かべる。


「ふふ、今繋げますね。」


そう言って一同が見える位置にウィンドウ画面を出してみせる。




『聖フィルデスか、どうしたんだ?おっ、イツキにララミーティア嬢も!元気でやっているようだな、報告は良く聞いているぞ。』

「アテーナイユ様!お久しぶりです!!」

「わぁ!!何年ぶりかしら!!こっちはお陰様でお腹の中に双子が居るわ!!」


久し振りに姿を見るアテーナイユに興奮するイツキとララミーティア。

聖フィルデスはキョトンとしているルーチェとサーラにさり気なくフォローを入れる。


「アテーナイユ、今日は密告があります。」

『ん?密告か?』

「ええ、密告です。それもあなたの可愛い後輩のフライヤの件です。」

『ほほう…なる程な…。』


アテーナイユは何か思い当たる事があるのか、考え込むような表情になって聖フィルデスの話を聞く。


「お父さんに加護をくれた神様?」

「ん?そうだよ。とにかく高潔で強い方だよ。ジャッキーと気が合いそう。」


ルーチェの質問にじっくりと頷くイツキ。




それからベルヴィアは淡々と先日の出来事を、イツキ達に世界の真理がバレた事や、実は裏で転生の様子を見学させて居た事なども含め全て洗いざらい喋った。

しかしイツキ達に世界の真理がバレたことはデーメ・テーヌから相談を受けていたらしく、特段咎められることは無かった。


それどころかアテーナイユは後ろでベルヴィアのフォローに回っていた3人を誉めた。


『3人がしっかりとベルヴィアを支えてくれたお陰で、フライヤの世界に落とされた子が命拾いしたのだ。私から礼を言わせてくれ。3人とも、ありがとう。』

「他人ごとに思えなくて…、お願いします。あの子を助けてあげて下さい。」

「そうね。」


心配そうな顔でイツキは頭を下げる。

アテーナイユは不適な笑みを浮かべる。


『私に任せておけ。ふふ、可愛い後輩の指導か…。腕が鳴るな。』

「やっぱりフライヤの事はアテーナイユに任せるのが一番ですね。続報を楽しみにしてます。」


その後アテーナイユと聖フィルデスの雑談が少し続いてウィンドウ画面は閉じた。




翌日すっかり回復したベルヴィアが朝から機嫌良さそうにニコニコしている。


「今フライヤ様の後任候補を秘密裏に探している最中みたい!サポート役は引き続き私の自慢の妹のプロヴィア。あの子は私と違って真面目で優秀だから安心しちゃったー。」

「へえ、妹さんはそんなに自慢したくなる程優秀なの?」


自慢げに語るベルヴィアにイツキが尋ねてみると、ベルヴィアは嬉しそうに話し出す。


「昔から頭も良いし性格も良いし、綺麗で優しいし、お淑やかで本当に自慢なの!見た目は双子の姉妹みたいなのに私なんかとは大違いよ本当。あの子昔から本当にモテるの!」

「あら、ベルヴィアだって今挙げた特徴と殆ど同じじゃない。ねえ?」

「そうですね。ベルヴィアさんの場合はお淑やかというよりは活発という感じでしょうか。」


ララミーティアとサーラの言葉に少し照れ臭そうにモジモジし始めるベルヴィア。


「そ、そうかな…!いやー、はは。何だか照れ臭いわ…!」

「それでもって天性の人たらしって言うのかね。飾らなくて常に相手と同じ目線で誰とでもすぐ打ち解ける。何よりベルヴィアはさ、人の幸せを心から願って、人の悲しみを一緒になって悲しむ事が出来る。簡単そうに聞こえるけど中々難しいよこれは。そういうところが自然と周りのみんなにも伝わるんだろうなぁ。」


イツキはダイニングテーブルの席に着いたまま、手元のハーブティーをカップの中でユラユラ揺らして独り言のように呟く。

ララミーティアもゆっくりと頷く。


「言い得て妙ね。そういうのはやろうと思って簡単に出来ることではないわ。ベルヴィアの才能なのねきっと。ダウみたいに誰とでもすぐ友達だもの。」

「人に好かれるというのは何せ相手が居る事ですからね。後からそうなろうと思ったって簡単には体現出来ませんよ。ダウワースさんといいベルヴィアさんといい、ちょっと羨ましいですよ。」


サーラも微笑みながらそう言い、一同がふとなにげなくベルヴィアを見ると、ベルヴィアは目に涙を溜めてウルウルしていてギョッとしてしまう。


「みんな…ありがどう…。わだじ…、そんなにいっでもらえで…う、うれじいよお…!」


ベルヴィアはそう言うと号泣しながら3人の頬に口付けをしながら回る。


「おいおい!そんなに泣かなくても…ちょっと!そんな簡単にキスを…うわっ!は、鼻水が!」

「わー!ちょ、ちょっと!私は気持ちだけで良い…あーあ…。ふふ、ベルヴィアらしいわね。」

「ありがどうございます。私も嬉しいですよ。」


そのままサーラに抱きつくベルヴィア。

ベルヴィアらしい行動に一同は笑い合い、本邸は朝から暖かな笑いに包まれた。



面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

今日の18時に本編とあまり関係ない閑話を挿入しました。

よろしければ是非見て下さい。

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