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151.どうであれ

「まぁさ、俺達は俺達ですよ。デーメ・テーヌ様、加護をありがとうございます。テュケーナ様にもよろしくお伝え下さい。」

「私も!ありがとうございます!作り物でも何でも気にしないよ?ガレスと幸せに暮らせてるもん。」


本邸を出てすぐにガレスとルーチェがそう言って笑いかける。

2人の言葉に微笑むデーメ・テーヌ。


「2人ともありがとう。私も聖フィルデスも今ではみんな大切な子ども達だと思っているわ。だからみんなの悪いようにはしない、サーラもあの時は本当にごめんなさい。アルバン本人は穏やかで思いやりのある性格だったから、まさかあそこまで暴走するなんて夢にも思ってなかったの。言い訳にしかならないけれど、管理があまりに杜撰だったし、もっとちゃんと考えて動くべきだった。」


デーメ・テーヌは節目がちにしてそう言うと頭を下げた。

聖フィルデスもデーメ・テーヌと同じ様に頭を下げる。


「この大陸はもうあれから…千年も経ってしまいましたよ。当時から生きている者なんて恐らく妖精族のごく一部だけだったけど、今では私だけです。アリーも死にました。本当はね、気がついていたんですよ。千年経つうちに怒りや憎しみが徐々に薄らいでいる事に。でも、でもっ!今更振り上げた拳を、私達は千年もコソコソ隠れて復讐に生きて!一体どうすれば良かったんですか!?」


サーラは声を荒げ目に涙をためながらデーメ・テーヌと聖フィルデスに向けて怒鳴りつける。

ルーチェはサーラの震えている手をそっと取る。


「サーラさん、簡単だよ。こうすればいいんだよ。」

「ルーチェさん…。」


サーラの手を取り、ルーチェは自身の頬にそっと当ててみせる。


「今まで数え切れない程の人族も亜人達も救ってきたんでしょ?それでいいと思うな。これからは悲しい事より楽しい事を考えて生きればいいよ。その手は暴力を振るうためより、大勢の人を救うために使われた方が多いんじゃないの?」

「私達もあれから考え方が変わりました。深く反省し、もう新大陸と同じ路線は考えていません。」


聖フィルデスの言葉にサーラは俯いてじっとしている。

ガレスがサーラの肩に手を乗せる。


「サーラさん、少しずつでもいいから神聖ムーンリト教国に歩み寄りませんか?時間がかかってもいいです。妖精族とダークエルフ族も仲間になりましょう。人族だっているけれど、みんながみんな悪人ではない事はサーラさんが何よりご存知ですよね?知ってしまっているから復讐心が薄らいでいるのではないですか?」

「いっそのこと人族が総じて極悪人なら良かった…。今を生きる人達達に千年前の罪を償わせる事に後ろめたさを覚えてしまって、やろうとしている事は千年前の人族と同じではないのかと思ってしまいました。私は人族に深く関わりすぎてしまいました…。」

「ルーチェじゃないけれど、楽しい事を考えて暮らしましょうよ。ね?」


ベルヴィアとデーメ・テーヌ、聖フィルデスはそんな様子を黙って見守っていた。




「さっきの話、私達は要するに神様達によって作られた世界で暮らしてるって事?ゲームだとか遊戯とか言ってたけど…。」


イツキに寄り添って腕に手を絡めたままララミーティアがイツキに尋ねる。

イツキは俯いたままだ。


「そうかもしれないとは思っていたけどさ…。実際に突きつけられるとショックだよ…。俺達って神様によって作られた情報だったんだな…。」

「産まれた人格達がどうとか…兎に角そのようね。落ち込んでいるところ本当にごめんね?イツキは何でそんなにショックを受けてるの?」


ララミーティアは首を傾げる。

イツキはララミーティアの顔を見るが、本当に疑問に思っているときの表情だ。


「何でって…、俺達神様に作られた情報というか、人格なんだよ?」

「そうね。でも普通の事じゃないの?神様が大地を作って生命を作る。それってイツキの居た世界では珍しい考え方なの?私にとってしてみたら『へぇ、やっぱりそうなのね』って感じですんなり納得したわ。」


イツキの腕にきゅーっとしがみつく。


(天地創造…か。言われてみれば大昔の旧約聖書の冒頭で既にご丁寧に説明してたな…。あれ?うーん、そうだよな…)

「言われてみれば別におかしな話じゃないね…。俺の居た世界でもそうやって世界は作られましたって言ってる大衆宗教があった。んー、その宗教が言ってたことは合ってたんだなぁって捉えると、確かに何をそんなに悩んでたんだろう…。」


イツキの言葉にララミーティアはクスクス笑う。


「世界がどう作られたとしても、あなたはイツキ・モグサ。ひょんな事から私の前にひょっこり現れて、何よりも愛しい私の最愛の夫で、お腹の中にいる2人の子供のお父さん。紛れもない事実よ。ね?」

「ありがとう、その通りだね。俺達の何かが変わった訳じゃないもんね。ちょっと頭が凝り固まっていたのかもな。クサクサした気持ちが吹き飛んだよ。」


ララミーティアはイツキの頬に口づけを一つ落とす。

2人は見つめ合って触れるような口づけをする。


「そんな事よりダークエルフ族が生き延びてたって事やティアの出自だよね。」

「そうね…。他にも生き延びてる隠れ里にいるかもしれないけれど、私単品だけ奴隷として捕まえたとすれば、サーラの言うとおり千年前のダークエルフなのかもしれないわ…。そういう事に使えそうな道具があったって言ってたし…。」


ララミーティアは組んだ指を動かしながらボンヤリとする。

イツキは腕を組んで難しい顔をする。

そんな表情を心配そうに見つめるララミーティア。


「他の世界からやって来た男と千年前からやってきた女…。うーん、益々大陸一珍しい夫婦って訳だなー。多分俺達より珍しい夫婦なんて他に居ないでしょ…。居ないよな…?他なんかあるかな…。」

「ぷっ!難しい顔してそんな事を真剣に考えてたの?ふふ、確かに他に聞いたことがないわ!はー、私もクサクサした気持ちが吹き飛んだ。」


ララミーティアはゆっくりと隣に座っているイツキに抱き付く。

イツキは優しく背中を撫でた。


「俺達の何かが変わった訳じゃないもんね。今はお腹の中に居る子供の事の方が大事かな。」

「私のお腹の中に今居るんだものね。何だか不思議な気分。まだイマイチ実感が湧かないわ。さて!考えさせてくれとは言ったけれど、流石に呼び戻しましょうか。」




外で立ち話をしていた一同を再び本邸へ呼び戻したイツキ。


「あ、あの…。もう気持ちに整理が着いたのですか?流石に早すぎでは…、無理してませんか…?」


サーラが驚いてイツキとララミーティアに尋ねるが、2人ともニコリと微笑んで頷く。


「まぁ小難しい事は一旦置いといて単純に考えたら、神様が大地と生命を作ったって話しだし、そういう考え方も普通にあるし、出自がどうあれ別に2人の関係性に何か変化があった訳でもない。そう考えるとあら不思議、悩む事柄って案外無かったなーと…。」

「そうね。私達は神様に作られた作り物なんですって言われたところで、正直『やっぱりそうなのね』としか思えないわ。聖護教会だって信徒にそう言ってるし、教会は何で知ってたのかしらって関心の方が高いかしら。そんな訳でイツキと私と、出自が変わっている珍しい夫婦だねって結論に到ったわ。」


2人の発言にガレスとルーチェはクスクスと笑う。


「はは、2人のことだからそんな事だろうと思った。俺達も同じ感想だったよ。神様に作られたって事がどうしてそんなシリアスな告白みたいになるのか、そっちの方が作られたって事実よりも不思議かな。」

「ふふ、本当本当!でもさ、思ったよりすぐ声をかけられたねー。『すぐに立ち直ったらちょっと恥ずかしい』とか何とか言って見栄を張って暫く様子を見るかと思ってたなー。」


ベルヴィアは悲しそうな表情を浮かべながらイツキとララミーティアに抱き付く。


「こんな大切な時期にショックを受けちゃったんじゃないかって思った…。また私が不用意に!予めどんな人物なのかくらい細かく調べれば解ることだったのに!私ったら…!」

「そんな悲しい顔しないでちょうだい。いつものベルヴィアが恋しくなるわ。そんな自発的に細かい事を調べるような玉じゃないじゃないの。」

「そうだなー、シリアスな展開が似合わない女神様だもんなー。『いやーごめんごめん!そんな事よりっ!悲しい気分を吹き飛ばすようなデザート出してよ!』ってセリフの方が似合うと思うな。」


2人の言葉にベルヴィアは目を潤ませる。


「うぅ…ううぅっ…!それは勿論言われなくても、…ぐすっ…、後で頼むつもりだったけど…!ショックを受けてお腹の赤ちゃんに何かあったらって…うぅ…、うぅっ…!」


イツキとララミーティアは思わず顔を見合わせて笑い出してしまう。

ベルヴィアはやがて声を上げて泣き出す。


「俺はこの流れでデザート出してもらうつもりだったベルヴィアにより強いショックを受けたよ…。普通そういう時は気を使ってさ、暫くそっとしておこうってなるだろうよ…。」

「ふふ、今日一番の衝撃の告白ね。でもやっぱりベルヴィアはベルヴィアね。そんなベルヴィアが好きよ。ほら、鼻水まで出しちゃって…。わっ、涎も垂らしてるのっ?もうっ、呆れた!」

「だっでえー、がなじいどぎに…、デザートの話なんでずるがらー…。」

「おいおい、号泣しながら涎垂らす奴なんて聞いたことないよ!衝撃的な食いしん坊だな…。」


声を殺して泣くベルヴィアを見てデーメ・テーヌと聖フィルデスは堪えきれずに噴き出してしまう。

サーラも我慢していたのか噴き出した二柱をチラッと見て笑ってしまう。


「ゲラゲラ笑う場面ではないのは分かっているけれど、ベルヴィアちゃんが居るとダメね。テュケーナを連れてきたみたい。まぁイツキとティアちゃんらしい展開かしら。」


デーメ・テーヌの言葉に聖フィルデスはクスクス笑いながら頷いた。




少し遅い夕食はイツキが乾麺のそうめんを召喚し、湯がいて水でしめてみんなで食べることにした。

何気に初めて召喚する食べ物だったので不安だったが、思った以上に好評で途中でそうめんを追加する事態に発展した。


「これなら喉越しもいいし癖もないから大丈夫そう。」

「そうですね、人によって症状は様々ですので一概には言えませんが、確かにこの手の癖のない食べ物は悪阻がある方に好まれそうですね。」


食後、ララミーティアは程々に食べつつも満足そうにお腹をさすっている。

サーラは茹でる前の乾麺のそうめんを手にとってしげしげと眺めている。


「確か小麦粉と塩水で練った生地をちょっとずつ伸ばしつつ熟成させつつ最終的にそれくらいの細さまで伸ばすんだったかなー。ちょっとノウハウのある人が教えないと難しいかも。ここまで細くしなくてもいいならそんな難しくないけどね。」

「うどんを細くした感じ?」


ララミーティアの問いにイツキは頷く。


「うんうん、確か一緒。あれ、そういや塩水で思い出したけど普通の人は塩ってどうしてるんだろう?海は随分遠いけど…。」

「塩は砂糖みたいにその辺の植物から取れる物ではないから、この辺は岩塩が多いかな。岩塩が取れる場所は案外多いよ。後はソータンの茎だけど、こっちはマコルの実みたいに魔力が多い場所じゃないとちょっと見つけにくいんだ。」


ガレスがそういうとサーラも頷く。


「海が近ければ海水から取りますし、塩湖があればそこから、内陸部は岩塩をといった感じでしょうか。ソータンは人の手で栽培出来るような物ではないですが、山深い里等ではポピュラーですかね。この辺でも冒険者がよく持ち込んでくれますよ。普通の植物でも一応しょっぱいエキスを出す木が無きにしも非ずですが、その手の木は真水と海水が混ざり合うような場所に群生地してますね。」

「あるある、あのヌメヌメしてる木だね!」


ルーチェがそう言うとガレスも思い出したのか「あったあった」と同意する。


「じゃあ無事にお悩みも解決したって事でイツキ。例のアレを…。」

「待って待って!ベル隊長が喜びそうな甘々の奴はお母さんが胸焼けするかもしれないから、大陸の南側諸国で仕入れてきた良い物があるの!」


ルーチェが賺さず口を挟む。


「じゃーん!ドライフルーツ!身体に良いって奴!」


そう言ってアイテムボックスから平たい木皿に並べてゆくルーチェ。


「中にツブツブしたのが入ってるのがフィグ。黒っぽいのがプリャ。後はミーティアで買ってきたやつね!」

「ドライフルーツかぁ…。まあ美味しいんだけどね…。」


口を尖らせるベルヴィア。

デーメ・テーヌが「こらっ!」と小声で注意する。


「ほらほら、折角だからみんなで食べましょう。」


ララミーティアが早速ドライフルーツに手を伸ばす。


思ってたデザートと違ったベルヴィアも大満足な程にドライフルーツは美味しく、あっと言う間に木の皿は空っぽになってしまった。

フィグとプリャはイツキとララミーティアの召喚の打線入りする事となった。




「テュケーナを1人で留守番させるのは心配なので私は戻ります。イツキ、ティアちゃん。2人にはもう隠している事も無くなりました。これからは腹のさぐり合いなんてする必要はありません。何かあれば気軽に相談して頂戴ね。」

「ええ、今度はテュケーナ様も連れて遊びに来てね?」

「そうだね、また遊びに来て下さいよ!」


デーメ・テーヌはララミーティア、イツキの順番に軽く抱擁をする。

ガレスとルーチェにも同じようにして、最後にサーラの前に立つ。


「あなた達がこれから新しく在り方を模索するように、私達天界側も過去の行いを反省して新たな方法を模索しています。」

「…。」


デーメ・テーヌの言葉にサーラは押し黙っている。


「サーラ、どうかあなたが長年人族の町で積み重ねてきた治癒魔法とは違う医療の知識をみんなに還元してあげて頂戴。」

「…そうですね。そんな生き方もいいかもしれません。」




一通り挨拶を済ませたデーメ・テーヌは小さく頭を下げて微笑むと、夜空に燦然と輝く星のようにキラキラと光の粒子となってやがて消えていった。


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