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150.サーラという人物

すっかり日も暮れて外が真っ暗になった頃。


ララミーティアはまだ昼寝をしていた。

目を覚ましてぼんやりとソファーに座っていたイツキの視界に結界に覆われたガレスとルーチェ、それにサーラとベルヴィアが写りこんだ。


暗闇の中、光魔法でぼんやりした明かりに照らされた一同がゆっくりと本邸の前に降りてくる。

イツキは内側から扉を開けて口元に指を立てて「しーっ」とジェスチャーをして静かにするよう促す。


(サーラ!ほら、この家は中々面白いのよ!さあ!先に入ってみてよ!きっとサーラも驚くって!)

(本当ですか?ベルヴィアさんったら大袈裟なんだから!そんな押さなくてもちゃんと入りますよ)


いつの間にか意気投合している仲良さげな様子のサーラとベルヴィア。

ベルヴィアにグイグイ背中を押されて苦笑いのサーラが本邸の中へ入ってくる。


(悪いようにはならないから安心してくださいね!)


サーラを不安にさせないよう小声でフォローを入れるイツキ。

サーラが入り口をくぐる。


『身体のスキャンを開始します。システムバイオレット。ステータス偽装を検知。解除を試みます。解除中、解除中、成功。敵性確認開始。居住者は警戒して下さい。居住者は警戒して下さい。』


「ちょちょ!ちょっと何があったの!?」

「ティア!そのまま!」


気持ちよさそうにソファーで眠っていたララミーティアが飛び起きる。

イツキはララミーティアを庇うようにして立ち、キョトンとしているサーラを睨みつける。


「ベル隊長!危ないよ!」

「ルーチェ!下がってろ!」


口をポカンと開けていたベルヴィアを羽交い締めにしてルーチェが後方へ飛んで距離を取り、ガレスはルーチェの前に立って戦闘モードの表情になる。


『敵性確認完了。脅威レベル1、と判断。身体のスキャンを再度開始します。オールグリーン。治療の必要はありません。名前の偽装を確認。解除。年齢の偽装を確認。解除。種族の偽装を確認。解除。各ステータスの偽装を確認。解除。各スキルの偽装を確認。解除。各特性の偽装を確認。解除。』


「あの…、えーと…。皆さんに危害を加えるつもりは決してありません。皆さんを騙すような真似をしてすいませんでした。何もしません。何もしませんから一旦説明させて頂けませんか?」


サーラの背中にはまるでアゲハチョウのような羽が生えていた。

サーラは悲しそうな表情をしたままキョロキョロと一同を見ている。


「みんな、とりあえず落ち着こう。何かあったら俺がなんとかするから、一旦サーラさんの話を聞こう。ね?ほら、入って入って。」




看破魔法でも特段悪意を感じられなかったサーラをとりあえず本邸の中へ招き入れ、一同はサーラから話を聞くことにした。

ベルヴィアはサーラの背中から生えた羽に興味津々だったが、流石に空気を読んでかチラチラ盗み見るに留まっている。


「本当にすいませんでした。まさか私の隠蔽がこうもアッサリ破られるなんて夢にも思っていなくて…。」

「そんなに謝らないでちょうだい。きっと何か事情があるんでしょう?」


しゅんとしているサーラの肩に隣に座っていたララミーティアが手を乗せる。


「私の本当の名前はサーラ・マム=ケクチ・ウェウェ。種族は人族ではありません。…いつしかハイジさんが仰っていた、滅びたと言われている妖精族です。」

「ダークエルフ族と一緒に滅びたって…あの?」


イツキがそう尋ねるとサーラは複雑な表情をする。


「半分正解です。妖精族もダークエルフ族も…、滅びていません…。ティアさん、ずっと黙っててすいませんでした!ダークエルフ族は滅亡なんてしていません!数は多いとは言えませんが、この大陸にまだ僅かながら生き残りが居ます…。」

「そんな…、私の他に…ダークエルフが居るの…?」


ララミーティアは呆然とした表情でサーラを見つめる。


「僅かな生き残りが私たち妖精族の隠蔽で隠れて暮らしています。そして妖精族がダークエルフ族と共に人族に成りすまして千年前から大陸の動向を監視していました。ティアさんの噂は以前から確認できていました。あちこちで情報を掴み、最終的に魔境の森にどうやらダークエルフが居るらしいという話を掴んだ私達は、ゆくゆくはティアさんと接触して私達の里へ迎え入れる予定でした。そのうちに幸せに暮らしていると知り、私がミールの町で見守っていました。」

「私はそこの里の産まれなの…?」


ララミーティアが恐る恐る尋ねるとサーラはゆっくりと首を横に振った。


「私達の里ではありません。赤子が連れ去られたなどという事件はありません。可能性としては、後からちゃんと説明しますが、私達があるところから持ち込んだ道具によって守られた千年前の当時の赤子だった可能性が考えられています。使い方によっては赤子を入れる事も出来なくもない道具でしたので、恐らく亡くなったダークエルフがティアさんを隠したのだと思います。」

「…千年前…。」

「あの、どうして未だに隠れて暮らしているのですか?」


イツキの質問にキュッと口を噤み、暫く考え込むサーラ。


「…復讐…ですね。私は千年前の唯一の生き残りだと思います。私達は人族を、神を許さない。機を見て全ての人族を根絶やしにし、神に一矢報いたいのです。私達がされたように。ベルヴィアさん。今デーメ・テーヌ様、見てますかね?これからお話しする事は…、分かりますよね?これを話さないことには話が進みません。ララアルディフルー亡き今、最後の当事者でもあるこの私が生きているうちに、この機会に全てを打ち明けます。」


サーラの言葉にベルヴィアは神妙な面持ちになる。


「いつかは話す機会があるのかとは思ってたけれど、まさかこんなタイミングで…。確認するからちょっと待っててね。」


そう言うとベルヴィアは手元にウィンドウ画面を出して何やら操作を始める。

ガレスとルーチェは口を挟まずジッと座ったままだ。

イツキがふとララミーティアを見ると、ララミーティアは放心状態のままだったので肩を抱き寄せる。


「大丈夫。きっと大丈夫。俺たちは変わらないよ。」

「…うん。」


暫くして本邸の中に光の粒子が集まって、やがて二つの人の姿に変わる。


「皆さん、実際に会うのは初めてでしたね。私も当事者として同席します。」

「私も同じく当事者です…。教会にも体はありますのでご安心下さい。」


現れたのは普段天啓ウィンドウでしか見ないデーメ・テーヌと、教会に残ったはずの聖フィルデスだった。

サーラは賺さず右手を前にすっと出し、手元から光の矢を連発する。

イツキが慌てて結界を張る。


「危ないっ!!」

『システムエラー。特権ユーザへの攻撃は禁止されています。』

『システムエラー。特権ユーザへの攻撃は禁止されています。』

「やっぱり、ですね。大丈夫ですよ。ソイツらに私達の攻撃は一切効きません。悔しいですけどね。」


本邸でもない、どこかから感情のないメッセージが流れてくる。

サーラの表情は怒りに満ちていた。

ただならぬ空気にイツキを始め誰も口を開くことが出来ない。


「怒って当然の事をしましたもんね。みんな気にしないで頂戴。」

「私達も座りますね?デーメ・テーヌ、座りましょう。」


そう言ってデーメ・テーヌと聖フィルデスは近くにあったダイニングの椅子を持ってきて座った。

サーラは落ち着いた表情で話を続ける。


「では話を続けます。千年前、人族のアルバン、森エルフ族のララアルディフルー、ダークエルフ族のナースィフ、そして妖精族の私の四人で大陸を旅していました。特に当てもない、気楽で楽しい旅でした。」

「アリーと旅…。」


ララミーティアがぽつりとそう呟くとサーラはいつものように微笑む。


「当時結界魔法という物はあくまで盾でしかなく、足場にするなどという今では普通の使い方はありませんでした。アリーは結界を上手いこと足の裏に展開して固定する手法を考案し、海の上を歩く方法を見つけたんです。ハイジさんとそっくりでしたよ。ひたすら強さを求めて、どんな魔法でも他に活用方法がないか考える。話を戻しますが、海のずっと向こうに何があるのか若かった私達は交代で結界を張り直しながら何日もかけて歩いてみたんです。無謀でしたね、懐かしいな…。」


サーラは遠い向かいに思いを馳せているのか、切ない笑顔を浮かべている。


「私達はついに新大陸を発見しました。大陸は他にもあったんです。私達は歓喜に沸きました。でも歓喜はすぐに消えました。そこに住まう人たちに命はありませんでした。」

「それはどういう…?」


イツキが賺さず質問すると、デーメ・テーヌが喋り出す。


「イツキは何となくピンと来ていると思うから私から正直に説明します。結論から言うとこの世界は作られた物、ゲーム…遊戯でもあり、私達の暮らしのために様々な検証を行う環境なんです。私が管理するこの世界は、一から世界を作って、そこに産まれた人格達に文明を築き上げて貰う。よりリアルな世界観のゲームの舞台が生まれて整った頃に人格達をゲームの駒にする、と。一番見つかって欲しくないシミュレーション環境下の人格達にゲームステージが見つかってしまったんですね。」

「お、俺たち…。」

「どういう意味?」


呆然とするイツキにすがりつくララミーティア。

しかしイツキは口をつぐんだままだ。

ガレスとルーチェもお互いに顔を見合わせるが肩を竦める。

ベルヴィアは俯いたままじっとしている。

デーメ・テーヌが話を続ける。


「この大陸の文明レベルでは理解出来ないのは当然です。理解してもらうには説明すべき事があまりに多すぎます。イツキはピンと来ましたよね。最初のデモンストレーション環境でもあった筈の地球は魔力もないのに全世界でも一番発展してしまいました。もう暫くすれば宇宙誕生の謎なんていう物の真理に辿り着くかと思います。」

「説明出来るわけないでしょ…。何もかもがシミュレーション…。ベルヴィアが最初に言ってたヤツって例え話でも何でもない実話じゃないか…。」


イツキは髪をぐしゃぐしゃかいて俯いてしまう。


「私達が見つけた新大陸は、もう生きている人は居なかったんです。町の人も一定の言葉しか喋らない。時間によって一定の行動しかしない。驚きましたよ、人が道具のように鑑定出来てしまうんですよ。到底受け入れられない事ではありましたが、それでもやはり生きてはいませんでした。」


サーラは無表情のまま話を続ける。


「そんな中、町の人たちとは異なる、普通に生きているようなランダムな行動をとる人達が居ることに気がつきました。彼らは自分達をプレイヤーと呼んでいました。私たちは彼らに似せて全員人族として偽装し、新大陸で活動を始めました。新大陸ではレベルという概念がありました。この大陸では存在しない概念です。」

「本当にゲームじゃないか…。」


ララミーティアも黙って話を聞いている。

イツキの手に手を乗せると、イツキはチラッとララミーティアを見つめて微笑んでみせる。


「プレイヤーは暫くすると消えてどこかに行ってしまいますが私達は勿論そんな事は出来ません。ひたすらプレイヤーのパーティーに潜り込んだりしてレベルという物を上げました。やがて気がつけば人族だったアルバンですら大陸の超長命種に負けないくらい強くなっていました。ある時、私達の存在を見抜いたプレイヤーが居ました。フィリーというプレイヤーです。」

「私ですね。管理していた世界が滅びて手が空いていた私は、同期のデーメ・テーヌのお手伝いをしていたんです。今で言うテュケーナちゃんのようなポジションですね。挙動が怪しいユーザが居たので潜入調査していたんです。」 


聖フィルデスはいつもの調子で微笑みを浮かべながら話す。


「フィリー、聖フィルデスをその時は信じ込んでしまい、そして仲間に入れて私達はあちこちを冒険してひたすら自身を強化しました。そんなある時、空からばら撒かれたチラシを手に取った私達は言葉を失いました。そこには私達の大陸の絵と新種族実装という言葉が書かれていて、私達の大陸もここと同じ様になるんだという事を知りました。」

「当時の目玉企画というヤツですね。シティエルフより強い森エルフとダークエルフ。初めから強い初心者向けの単眼族やライカン族などの魔人系種族。上級者向けの妖精族やデモンパペッタ族。獣人族も兎に角多彩な種類。この大陸は亜人の楽園という設定で、利用者を一気に増やす期待の大型アップデートでした。」


デーメ・テーヌが淡々と喋る。

イツキはガバッと顔を上げて立ち上がる。


「さっきから何ゲームみたいに言ってるんだよ!俺達はこの世界で生きているれっきとした命だぞ!」

「ごめんね、イツキ。本当にごめんね…。」


ベルヴィアの今にも泣き出しそうな顔を見てイツキは悔しそうな表情を浮かべてソファーにドカッと座る。

ララミーティアはイツキの腕に手を絡める。


「私達も同じ反応でしたよ。アルバンとフィリーを新大陸に残して私達は大陸に戻ってありとあらゆる種族を説得して大陸連合軍を結成しました。」

「よく分からないけれど…、みんなよくそんな話を信じたわね…。」


ララミーティアの言葉にサーラは頷く。


「私達はためこんでいたありとあらゆるスキルブックや、大陸では想像のつかないほど強力な兵器などを各種族に惜しみなく配りました。種族特性やパーソナル特性のバリエーションが増えたのはその時ですね。明らかに外部から持ち込んだ物でしたので、皆あっさり信じてくれましたよ。」

「この大陸の連合軍が新大陸に攻めてくるという事は把握していました。本当にそんな事があれば前代未聞の出来事です。人格達にバレてしまっては非常に困ると焦りました。だから私達は聖フィルデスを使って新大陸に残ったアルバン・ランブルクを買収しました。」


デーメ・テーヌがそう言うとサーラはデーメ・テーヌを睨み付けた。


「コイツらは卑怯にもアルバンのコンプレックスに漬け込みました。人族は命も短いし力も弱い。それを克服できる術がある。それを渡すから大陸を説得してこい。とでも言ったのでしょう。」

「ええ、概ねその通りです。私はアルバンが持っていた『栄光の先導者』に新たな機能を実装しました。」


聖フィルデスが淡々とそう言うとデーメ・テーヌが口を開いた。


「『特権モード』です。配下の者全てを使用者と同じ強さまで引き上げて私達と同じ攻撃の一切を受け付けない力を与えました。」

「私達が次にアルバンに会った時、アルバンはもう別人のようになっていました。アルバンはその神に匹敵する力に溺れたのです。アリーを新大陸へ向かわせ、大陸では人族とその他全ての亜人連合軍とで戦いました。勝てるわけもない人族による一方的な大虐殺でした。超長命種に匹敵するアルバンの力を持った人族が何万人も居たんです。」


サーラがそう言うと、黙り込んでいたベルヴィアがふと顔を上げた。


「ララアルディフルーの必死な様子を見つけて話を全て聞いたユーザは驚いて怒り狂った。NPCだとばかりに思い込んでいた人達は実はここでちゃんと生きていた人達だったなんてと。複数のユーザが延々オープンチャットで全体にこのゲームのカラクリを暴露し続けた。あちこちのメディアにも拡散した。みんなずっとおかしいとは思ってた。世界観の作り込みが異常なまでに細かいの。だっておかしいでしょ、蟻の一匹一匹にまで違いがあるなんて。」

「その通り。すぐに運営会社は一気にバッシングされたわ。当時大きな議論にもなった。シミュレーション環境下にいる人格に対する扱いについてね。例えシミュレーション環境下であっても、そこで生きる人達はなにも知らずに命を育んでいると。ただの情報の一つとして適当に扱うのはあまりに非人道的過ぎるとか、極悪女神だとか。」


デーメ・テーヌは肩をすくめてみせた。


「人族に勝つ術がないまま大陸全土は全て人族の物に。甚大な被害を受けてほぼ壊滅した妖精族とダークエルフ族は共に身を潜め、森エルフ族は森深くの里に隠れ住み、後の亜人達は…。私達は復讐の機会を待ち続けました。人族の中に『栄光の先導者』が発現しないその時を。その時は人族を1人残らず根絶やしにすると誓って…。そんな訳で隠れ潜んで機会を窺っていたんです。」


サーラの話が終わり、暫くの間は沈黙が流れた。


「急に…受け止めきれないよ…。だって、そうだろ?…暫くティアと考えさせて欲しい…。」

「そうね、私達が作り物の存在だったという事は何となくわかったけれど、他のダークエルフが居るって急に知って動揺してるわ。サーラもベルヴィアも離れの方を使って良いから、イツキと2人になりたいかな。」


イツキとララミーティアはそう言うと手を握りあって黙り込んでしまった。

ガレスとルーチェに促されるまま残った一同は本邸の外へ出た。


イツキとララミーティアはその様子を黙って見守っていた。


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