148.ふたつ
昨日50000PV達成しました。
いつも見てくれている皆様、そしてブックマーク登録してくれた皆様、ありがとうございます。
教国歴二年春の期 79日
テオドーラとウーゴの結婚式の日程が見えてきたある日の事。
昼間にする事もなくぼんやりと玄関広場を眺めていたイツキとララミーティアだったが、やけに静かなララミーティアをイツキがふと見ると、ララミーティアは頬杖を付いたまま眠り込んでしまっていた。
ベルヴィアは朝から晩まで飽きもせずにアチコチほっつき歩いてはアチコチに新しい友達を作っては楽しく過ごすという事を繰り返している。
そんな訳で日中2人で過ごしているととても静かでのんびりした時間を過ごせるのだ。
いつもならジッと視線を送るとまるで起きていたのかと思うくらいにすぐさまハッと気がつくララミーティアだが、ここ最近はこのように居眠りをしていても全然気がつかない事が殆どだった。
風邪を引くといけないとイツキは召喚したブランケットをそっとララミーティアの肩にかける。
それでも気がつかないララミーティアは、そのままテーブルに突っ伏すようにして本格的に昼寝を始めてしまった。
(最近夜も眠いってすぐ寝るんだけど、寝不足なのかな…。)
心配するイツキをよそにララミーティアは涎を垂らしながらスウスウ寝ていた。
「ねぇ、俺ひょっとして鼾が五月蝿かったり寝相が悪かったりする?」
「え?そんな事はないと思うわ。イツキのそういう寝姿はちょっと見たこと無いかしら。どうしたの?」
突然の質問に首を傾げるララミーティア。
「いやぁさ、さっきもテーブルでぐっすり寝てたでしょ?ティアってそういう時でも視線を送るとパチッと目を覚ましたりしてたのに、ブランケットをかけても気がつかなかったからさ、ひょっとして俺のせいで寝不足になってるのかなーと…。」
イツキの言葉にしばらく考え込むララミーティア。
「言われてみれば最近妙に眠いかも…。」
「何か心なしか食欲も減ってない?」
「確かに最近あまり食欲が湧かないわ。何か病気かしら?」
イツキは即座に首を横に振る。
「本邸に帰ったらいつもグリーンだからそれはないよ。まぁ気にしすぎかなぁ。」
「風邪引き始めも見逃さない本邸のお墨付きならまぁ気にすることもないのかしらね。」
これ以上考えても答えは出ないと思った2人は、何となく町中をぶらつく事にした。
首都ミーティアは活気に溢れていて、ただ宛もなくブラブラするだけでも中々楽しくて、こうして2人で町中をぶらつくのも日課の一つになっていた。
「最近屋台も増えたねー。屋台で売ってる食べ物って何であんなに美味しそうなんだろうなぁ。」
「ふふ、確かに肉を焼く匂いってそそられるかも。ってベルヴィアとハイジ!2人で食べ歩きしてるのかしら。」
ララミーティアが指さす方にはベルヴィアとララハイディが2人でアチコチの屋台を梯子している姿が見えた。
「食いしん坊がついにコンビを組んだんだな。よし、ちょっと声かけてみるか!」
「ふふ、一体どんな会話をしてるのかしら。」
「どうせ食べ物の感想だろう。あっちの店は何がうまいとか、こっちの店はこれがうまいとかさ。それで仕舞いには『イツキに美味しい物を召喚して貰おう!』とかなってウナギの寝床まですっ飛んでくるって訳だ。『カツサンドを出して欲しい』とか『ぼさっとしてないでデザートだしなさいよ!』ってな具合でね。」
「ふふ、あながち間違いでもなさそうね。絶対そうなるわ。」
イツキとララミーティアはクスクス笑いながら両手に串焼きを持っている二人組に駆け寄る。
屋台の傍に近付いたその時、ララミーティアが突然うずくまってその場で嘔吐をしてしまった。
あまりに突然の出来事に驚いたイツキが声を上げる。
「ん、えっ!?ティ、ティア!大丈夫!?」
イツキの声に気がついたベルヴィアとララハイディが手元の串をさっさと口の中に片付けて咀嚼しながら駆け寄ってくる。
「ちょっとちょっと!どうしたの!?」
「ティア大丈夫?イツキの只ならぬ声が聞こえたから心配で来た。」
ララミーティアはイツキに背中をさすられながらずっとえづいていて返答が出来ない。
オロオロしたイツキが不安そうな表情のまま替わりに答える。
「それが何が何だかよく分かんないんだ。2人が居たからちょっと行ってみようって駆け寄った途中で急に…。」
「イツキ様!とりあえず教会に運びましょう!」
「さあ、みんな退いた退いた!ティア様を教会まで連れてくよ!」
「よし!道を空けてくれー!」
周囲にいた住人の冷静な対応によってとりあえず教会へと行く一同。
ララミーティアはぐったりしたままイツキに抱き抱えられている。
今までに見たことのないララミーティアの姿にイツキは泣きそうな顔のまま必死に話し掛ける。
「教会すぐそこだからね。大丈夫、落ち着いたら本邸でチェックするなり聖女の力で治そう。大丈夫、大丈夫。今朝だってグリーンだったからさ、きっと大丈夫。ね?」
「…ごめんね…。何かしら…。無性に…気持ち悪いの…。」
ララミーティアは力無く笑ってみせる。
教会に着くと、いつぞや住人になったダウワース率いる冒険者パーティーが椅子に座って子供達相手に話をしている最中だった。
イツキ達の只ならぬ雰囲気にダウワースが真っ先に声を張り上げた。
「ちびっ子達!聖フィルデス様とサーラ呼んできてくれ!裏手に居るはずだ!」
「あたしも捜してくる!みんな行くよ!」
それを聞いたスライヤと子供達が弾けるようにして教会を飛び出してゆく。
アーティカとユスリィが暫くじっとララミーティアを見つめる。
「…アーティカ。これは…。」
「うん、ユスリィもそう思った?」
アーティカとユスリィは2人でニコニコする。
ララハイディがそんな様子を見て怒鳴るように声を上げる。
「今は笑ってる場合ではない!ティアの体調がおかしい!ここへ来る途中に治癒魔法をかけたけど効果が無かった!」
「笑ってる場合ですよハイジさん、魔力視はしてみましたか?」
アーティカがニコニコしながらそう言うと、ララハイディは首を傾げながらララミーティアを魔力視する。
「いつもと変わらない気がする。ん、でも魔力の纏い方が何かいつもと違うような…。」
「ど、どういう事!?ティアは大丈夫?魔力がこんがらがって良くない場所が何かさほら!こうキューっとなってさ、ぽてっと突然死んだりしないよな!?」
イツキは涙目になって宛もなくキョロキョロしながら叫ぶ。
ララミーティアはぐったりしたままぼんやりとしていた。
「私とアーティカが魔力視した瞬間に感じた見立てですが、イツキさん、ティアさん、どうやらティアさんのお腹の中に子供が居るようですよ。」
ユスリィがそういうとアーティカも「ですです!」とニコニコしている。
ララハイディは目を見開いて再度ララミーティアを凝視する。
「お腹のあたりに溜まっている魔力が言われてみれば確かに妙…。これは別の魔力って事なの?私は妊婦の魔力視はしたことが無かったから知らなかった…。納得。お腹に別の魔力がポコッとある。」
「えっ!?えーと…?」
「え…?こ、子供?私の?」
ララミーティアがイツキに横抱きされたままポカンとする。
そんなイツキもイマイチ状況が飲み込めていない様子だ。
「私もユスリィも治癒魔法と魔力視を駆使してお小遣い稼ぎで調子が悪い人を見てたんです。本業の治癒師にも負けないと自負がありますよ?兎に角、そんな中で妊婦さんに共通したある特徴を見つけたんですよ。」
「ええ、特に魔力が高い夫婦から出来た赤ちゃんは魔力が強いので、魔力視すれば一発で分かりますよ。ティアさんのお腹に2つの魔力があるんです。長年大陸のあちこちで見てきた経験から言って間違いないと踏んでいます。最近食欲がやたらあるとか、逆に小食になったりしていませんか?やけに眠かったり、何となく熱っぽかったり目眩やふらつきはどうです?」
ユスリィの言葉にハッとするララミーティア。
「心当たりがあるわ…。ここ暫く体調が変だったの…。」
「ティアさんはみんなの宝物ですから、ちゃんとした専門家に見てもらうことをお勧めしますが、私達はその答えで確信しました。おめでとうございます。お身体を大事にして下さいね。」
イツキは目を潤ませたかと思うとそのまま涙を流し始めた。
「ありがとう、ティア。本当にありがとう。」
「ありがとう。ふふ、変ね。涙が出てくるわ…。」
「この…あぁ、この中に赤ちゃんが居るんだね。」
イツキが涙を浮かべたまま微笑む。
「うう、良かったよー…。ううー、良かった…!おーいおいおい…!」
ベルヴィアが号泣し始める。
イツキとララミーティアは鼻水を垂らしながらワンワン泣き始めるベルヴィアを見て思わず笑ってしまう。
「泣きすぎだよ!涙が引っ込んじゃったなー。」
「ベルヴィア、ありがとうね。私今とても幸せ。ベルヴィアのお陰よ。」
ララハイディが近寄ってきてララミーティアの頭を優しく撫でる。
「ティアおめでとう。いきなり2人のお母さんになるのは大変だろうけれど、きっとみんな協力してくれる。私も協力する。」
「ハイジ、ありがとう。何かあったらよろし…2人?」
ララハイディの言葉に引っかかりを覚えたララミーティアは首を傾げる。
ユスリィとアーティカはニコニコしながら口を開く。
「ええ、2人です。」
「お腹に2つの魔力があるから2人ですね。」
「良かったじゃねえか!双子か!こりゃめでたいな!」
ダウワースがはしゃぎだしてユスリィとアーティカもワイワイ話し出す。
「ティアもしんどくなかったら自分のお腹を見てみるといい。お腹の中に子供が居るとどう見えるかとても勉強になる。」
ララハイディがジッとララミーティアのお腹のあたりを凝視している。
イツキはうわずった声を上げる。
「ふ、双子だって!凄いね、2人で頑張ろう!」
「これは中々大変なことになるわね。確かに魔力視してみるとお腹に小さな魔力が2つあるわ。私の魔力とはまた別物ね。なるほど…。」
ララミーティアがジッと見ているお腹をイツキもジッと見ている。
やがて聖フィルデスやサーラを呼びに出て行った面々が息を切らせながら教会に入ってくる。
「ティ、ティアちゃんが…、重い病気で死ぬかもしれないって…!そそ、そんなハズは…!有り得ないハズなのですが…!!」
「聖フィルデス様とサーラさん連れてきたよ!悪いね、畑のほうに居たから時間がかかっちまったよ!」
スライヤが聖フィルデスを横抱きにしながらやってくる。
サーラも後から走ってやってきて、ダウワースが満面の笑みを浮かべてニコッとする。
「早とちりして悪ぃ!ユスリィとアーティカの見立てだと妊娠だとよ!それも双子だせ双子!双子なんて縁起がいいじゃねえか!最高にめでたいぜ!!」
「そうなの。魔力視してみるとお腹に私のとは違う別の魔力が2つあるの。拳と同じくらいの魔力だから、きっと赤ちゃんはまだそれより一回り小さめくらいかしら。」
イツキから慎重に降ろされたララミーティアがゆっくりと立つ。
聖フィルデスは安堵の表情でララミーティアを抱きしめる。
聖フィルデスは小声で話し掛ける。
「おめでとう、ティアちゃん。」
「ありがとう。私今とても幸せ。」
「何かあっても私が居ます。どうか安心してね。」
聖フィルデスは抱きしめたままララミーティアの背中をゆっくりとした手つきで撫でる。
後ろではワンワン泣くベルヴィアにイツキが何故か励ますように話しかけていた。
子供達はララミーティアの周りに集まって思い思いに話し合っている。
その輪の中でララミーティアは一際大輪の笑顔の華を咲かせていた。
面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。