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147.操り人形

寂しそうな顔をしたイサベラーネは話を続ける。


「あちしは昔からお人形さんを使って劇をするのが好きだったなのです。みんなを楽しませる傀儡子になりたくて里を出たのが始まりなのです。両親はあちしの生き方に口出ししなかったなのです。でも「人前でデモンパペッタ族だと言うのは辞めておけ」と口を酸っぱくして言われてたなのです。だからあちしはテイミングが得意な普通の魔人系種族として、ウサギやリスやネコを飼って彼等を操って動物劇をやっていたなのです。」

「ふふ、随分と可愛い劇団ね。」


ララミーティアが微笑む。

イサベラーネもニコリと笑う。


「動物達はよく懐いてくれたから1人でも寂しくなかったけど、あっと言う間に歳を取って死んじゃうなのです。千年は生きるあちしと彼等とでは流れる時間があまりにも違いすぎたなのです。」

「小動物は短命種どころじゃないからなぁ…。」


イツキの言葉に一同はこくっと頷く。


「そんな寂しい思いをしてた時、小動物達の可愛い芸が話題になって貴族のパーティーで披露する事などもあったなのです。ご令嬢や御夫人方には可愛い可愛いと評判だったなのです。段々忙しくなってきた頃に1人また1人と亜人達が助手をしてくれた事が劇団の始まりなのです。仲間がドンドン増えていって楽しかったなのです。」

「へぇ、ちなみに劇団スーゼランズなんて名前だけどイサベラーネはスーゼランド王国出身なの?」


ベルヴィアがそう尋ねるとイサベラーネは首を横に振った。


「全然違うなのです。あちしの里は大陸の南西の方にあるどこの国にも属してない里なのです。単純に旗揚げを決めたのがスーゼランド王国だったから名前に採用しただけなのです。縁もゆかりもない国だったけれど、思い出深い国なのです。」

「そう言えばさっきその力を殆ど試したことがないって言ってたけれど、殆どという事は実戦で使ったことがあるって事かしら。」


ララミーティアがハーブティーを飲みながら尋ねると、イサベラーネは俯きながら小さくこくっと頷いた。


「ずっと昔に今はエルデバルト帝国に吸収されたとある小国で、あちしを町中で見かけたのか魔力視出来る人族にあちしが超長命種だという事がバレたなのです。町にいた貴族にあちしだけ呼び出されて、その隙に劇団員を人質に取られたなのです。」

「それでどうなったの?」


ベルヴィアが聞くと、イサベラーネは苦々しい表情になる。


「超長命種に対抗する為だと言って五千人の兵を集めていたなのです。劇団員という人質も居るし、超長命種のお馴染みの例え話通りであればきっとあちしは降参して軍門に下るとでも思ったなのです。あちしは闇魔法で四方八方から針の雨を降らせて全員を『デモン・マリオネット』で傀儡にして殺し合いをさせたなのです。」

「超長命種と人族が戦ったなんて、ハイジ以外でそんな話聞いたことないわ…。」


ララミーティアがそう呟くとイツキがぽつりと呟く。


「伝える人が1人も居なかった…。」

「イツキ君の言うとおりなのです。仮にどこかで見てた人が居たとしても、味方同士で殺し合いをしているようにしか見えないなのです。二百年経っても噂一つ聞かないから、きっと誰も知らないなのです。」


イサベラーネは話し終わったのかハーブティーを飲んでホッと一息ついて手元のカップをユラユラ揺らす。


「みんな操られているとは言ってもさっきのララミーティア君のように意識があるなのです。勝手に殺し殺され、阿鼻叫喚の地獄なのです。とは言えあちしも大切な劇団員を人質に取られて冷静ではいられなかったなのです。とても後味が悪かったなのです…。もう殺し合いに使いたくないなのです。あちしの力はみんなを笑顔にするためにある力なのです…。」


イサベラーネはそういうとニッコリ微笑んで見せた。




イサベラーネも相当暇だったようで、その後も「何か劇の参考になるような話があれば聞きたいなのです」と話を振ってきた。

それに食い付いたベルヴィアは水を得た魚のようにイツキとララミーティアの事について本人に無断で赤裸々に語り出した。

どうやら天界から時折2人の様子を覗いていたようで、2人しか知らないはずの恥ずかしいやりとり等も詳らかに語り出し、いよいよララミーティアの魔法によって口を塞がれてしまうのだった。


イツキも折角だからと、地球に居た頃に好きだった漫画やアニメの話をこの世界にあるもので置き換えつつ話した。

これにはイサベラーネだけではなくララミーティアまで食い付いて、拘束されたままのベルヴィアも首を縦に振ったりして食い付いていた。




「そんな!それじゃあその女の子は愛する男を守るため嘘をついて犠牲になったの!?ふっ、復活するんでしょう?」

「生き返らないとあまりに悲しすぎるなのです!」

「モガッ!モガモガッ!!」


3人とも眉を八の字して悲痛の叫びを上げながら前のめりになってイツキに詰め寄る。

イツキは目を閉じて首を横に振る。


「復活はしない。2人してどうにか敵を倒した時には女の子の方は既に手遅れになっていたんだ。そもそも男の方だって捨て身のフォローで女の子を庇った時にそのまま死んでいたっておかしくなかったところを、女の子が魂を削って男の為に全てを捧げたんだ。」

「な、なな何でそこまでするなのです?男はどうして何もしなかったなのです!」


イサベラーネはそう言うとテーブルをガンと叩く。


「最初に言ったとおり。元々女の子は敵側の駒で、寿命と引き換えに強くなっていたんだよ。最後の最後にまさか寝返った上にするとは思っていなかった恋までしてしまって、どうせ短い命、最後に後悔だけはしたくないと全てを男に捧げた。そこで仮にさ『実はあなたを助けるためには魂を削らないとダメなんです』なんて一々了承を得た日には男は優しいからそれを絶対拒む。だから女の子は全然何でもないフリをして嘘をついた。そして死んだって訳。」

「そんな!あんまりなのです!何も殺すことは無かったなのです!愛し合ってたなのです!酷いなのです!訂正するなのです!奇跡の力とか…!ああ、あ…愛の力?とかでなんとかなるところなのです!」


イサベラーネはヒートアップしてイツキの胸倉を掴んでグラグラと揺らす。


「そ、そんな事俺に言われても!だって、メインヒロインは居るし流れ的に殺して退場させるしかないでしょ!っていう俺が考えた話じゃないから知らないよ!」

「そうだったわね、イツキに詰め寄っても無意味ね…。」

「それもそうなのです…、あちしその話をハッピーエンドにするなのです!こうしては居られないなのです!皆様、失礼するなのです!」


ララミーティアの言葉でイサベラーネはイツキを解放し、その場でペコッと頭を下げた。

そしてそのまま走ってどこかへ消えてしまった。


「確かに腑に落ちない話ではあるけど、メインヒロインが居たんじゃどうしようもないわねー。途中で主役交代するわけにはいかないもんねー。」


いつの間にか拘束を解かれたベルヴィアがジュースを飲みながらふんぞり返ってそう言うと、ララミーティアも眉を八の字にして唸りながら頷く。


「あの、ちなみに作り話だからね?ティアもそこまで悲観的にならないでね?娯楽作品だから!話に出てきた人は1人も実在してないからね?」

「それはそうだけど、自分の立場になって考えてみたら悲しすぎるわ。でも、自分の命を犠牲にしてまで愛する人を救いたいって切なる願いは痛いほどわかるわ。」


ララミーティアは滲んでいた涙を拭うと、立っていたイツキに抱きつく。

ベルヴィアは慣れたものでそんな2人の事は気にせずにテーブルに残されたお菓子に夢中だ。


「恋するとそんな感じになるのかしらね?私だったら命を落としてまで救うかって言われたら『えっ!?そ、それは…』って躊躇っちゃうかなー。だからダメダメなんだろうなー。」

「ティア、ほら、よしよし。んー、確かに俺でも同じ選択肢を選ぶかなー。目の前で愛する人が死にかけてて、例え命を落とすとしても唯一助かる方法があるんだよ?我が身かわいさで生き延びたらさ、多分それ死ぬまで後悔し続けるコースだよ。俺はそんな後悔にまみれた人生はゴメンだね。」


イツキはララミーティアを抱いたまま肩をすくめてみせる。

ベルヴィアはクッキーを食べながらボヤく。


「あーあ、私もそんな燃えるような恋がしてみたいなー。お前とまた綺麗な夕日が見たいとか言われたいなー。私の為に命とか落として欲しいなー。いや、命落としちゃダメか。それくらいの気概があるといいなー、か。」

「そればっかりは狙って出逢えるものじゃないものね。私だってベルヴィアが間違ってくれなかったら一生魔境の森でコソコソ暮らす暗くてつまらない人生よ。」

「俺に至っては過労死の孤独死で実際一回死んでるからね。」


イツキの言葉にはっとしたララミーティアはまじまじとイツキの顔を見る。


「そう言えばイツキは一回死んでるんですものね…。一度死んだはずの違う世界の人に出逢うなんて奇跡という言葉じゃ陳腐に聞こえるくらい奇跡的ね。」

「俺ですら未だに実感ないよ。家でウトウトしてて気がついたら死んでたんだから、居眠りしてたら異世界に飛ばされた感じ。でもあの時死んでなかったら確実にこんな幸せにはなれなかった、それだけは断言出来る。そう考えるとベルヴィアのミスを責める気には到底なれないなぁ。」


ベルヴィアは2人の様子をしみじみしながら眺める。


「イツキを転生者として選んだのは偶然じゃないんだけれど、魔境の森に降りたったのは完全に偶然ね。元行く予定だった世界の座標に偶然大陸があって、魔境の森だったって感じ。下手したら海の上とか地中からスタートだってあり得たもん。」

「うわ…、責めないという言葉を受けてサラッと良い思い出のように偉いこと暴露したな…。俺来て早々に即死する可能性もあったんだ…。」


血の気が引いたイツキを見てケラケラ笑うベルヴィア。ララミーティアはイツキに抱きついたまま口を開く。


「だからきっと運命なのよ。そう思った方が素敵でしょ?行った先に意志疎通できる人が居て、しかも異性で惹かれあって夫婦にまでなるなんて普通じゃ考えられない事よ。」

「ティアちゃんは今とても良いことを言いました!そうよそうよ、運命運命!もっと前向きに考えなさいよ!まぁ仮に即死したらまた天界で拾ったわよ!」


カラカラ笑うベルヴィアに2人はつられて笑い出してしまう。

ウナギの寝床は今日も平和だ。


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