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141.新しい朝

劇によるガレスとルーチェの物語が終わり、壇上にガレスとルーチェが呼ばれる。

ガレスとルーチェがステージに上がると会場は一気に盛り上がり、あちこちからガレスとルーチェへの祝福の声が聞こえてくる。


まずはガレスが口を開いた。


「今日は皆さんありがとうございました!俺達の出逢いから父さん母さんに保護して貰うまでの出来事が劇になって、俺もルーチェもとても幸せです。悲しくて辛い過去だけれども、あれがなかったら今頃ルーチェはそのまま野垂れ死んで、俺は今でも奴隷のままでしょう。あの悲しくも辛い過去の上に今の俺達が居るんです。」


ガレスは一呼吸置くとルーチェの手を握る。


「この劇で表現された出来事の数々は全て事実です。エルデバルト帝国のトロップ子爵領の南に位置する町トゥイールで実際にあった出来事です。余りにも辛くて父さん母さんにもここまで細かく話したことはありませんでした。でも、この時代に実際にこんな事があってそれは特に珍しくも何ともないありふれた光景だったと言うことを、この先千年経って例え平和になったとしても色褪せないで語り継いで欲しいと願っています。俺達は運良く保護されましたが、理不尽な暴力で命を落としたり魔物の餌になっていった人達が大勢います。服や道具だってもっと大事に扱う筈なのに、そんな扱いすら許されなかった人達が大勢います。後世に『千年前、亜人の中には酷い扱いを受ける人達も居ました』という一言で片付けられてはいけないんです。」


ガレスが一呼吸置くとルーチェが間髪入れずにしゃべり出す。


「私は名前もない亜人の孤児でした。産みの母親の微かな記憶だと母親は人族だったので、恐らく望まない形で産まれたのがこの私だったのだと思います。私のような種族は亜人の中でもかなり珍しい部類で、しかも禁忌されているゴブリンと人族のハーフです。この劇では表せない程に酷い暴力を受けていました。そんな先の見えない闇の中で差し込んだ光がガレスでした。ガレスは私に『光』という意味のルーチェという名を与えてくれました。私に僅かなパンを分け与え、言葉を教えてくれて、そして沢山の愛をくれました。」


ルーチェとガレスは見つめ合って微笑みあう。


「神聖ムーンリト教国が未だ闇の中で彷徨う人達の光であるように、私もガレスもこの国を支えていきます。皆さんどうかこれからもよろしくお願いします。」

「沢山の祝福の言葉、ありがとうございました。」


ガレスとルーチェは見守っている住人達に深々と頭を下げると会場は拍手喝采、割れんばかりの拍手でガレスとルーチェは包まれた。




劇団スーゼランズは暫く首都ミーティアに滞在するようで、特設ステージはそのままに一同は一旦テオドーラの館に戻ることにする。

劇団員達は暫くテオドーラの館の敷地内で寝泊まりすることとなっているようで、座長のイサベラーネが自身のアイテムボックスから次々に小屋を敷地内に設置していった。


イサベラーネによる設営が終わると劇団員達は今日の公演の反省会と打ち上げをやるという事でそのまま集まって話し合いが始まった。


再び結婚式の会場でもあるエントランスホールに戻った一同は思い思いに歓談を始める。

戻る途中、道端で酒盛りをしていたウーゴを見つけたテオドーラが遠慮するウーゴを無理矢理横抱きにして会場に連れて行ってしまった。

いつもクールなウーゴだが、テオドーラに横抱きにされて「おい!行くからもう降ろしてくれ!」と終始顔を赤くしてテオドーラに抗議していた。


会場のエントランスホールに戻ってからイツキとララミーティアは少し疲れた顔をして座ってるガレスとルーチェに近づく。


「お疲れさん。堂々として立派だったなー。」

「本当にお疲れ様。ふふ、都知事らしかったんじゃないかしら?」


ガレスとルーチェは眉を八の字にして苦笑いを浮かべる。


「立派に見えた?その辺の仕事はひたすらシモンさんに投げっぱなしだったから、まだ名ばかり都知事だけどな。」

「沢山の人が見てたから緊張しちゃった。ああいう時もっとうまい事言えたらなー。」


ララミーティアはガレスとルーチェの肩に手を置いて微笑む。


「ほらほら、2人とも新婚さんなんだから今日は早く帰った方がいいんじゃない?明日の朝は新しい朝よ。2人はもう夫婦なの。」

「あっ、新婚!じゃあガレスとルーチェにもハチミツ酒をプレゼントしようか。」


イツキは自身のアイテムボックスからハチミツ酒を取り出してガレスに手渡す。

ガレスはハチミツ酒を受けとって瓶をまじまじと見つめ、やがてルーチェにも見せるために渡す。


「有り難く受け取っておくよ、ありがとう。」

「ありがとうね!聖フィルデス様にも結婚した私達を見せたかったなー。一緒にお酒も飲んでね。」

「そうだな。元気にしてるかな…。」


幼い頃にもう一人の母親のように2人を見守ってきた聖フィルデス。

既に遠い日の思い出のようになっていたが、それでもいつかまた遊びに来てくれるとガレスとルーチェは信じて居た。

切ない笑顔を浮かべてん微笑むガレスとルーチェ。イツキも遠い目をしてぼんやりと呟く。


「そういやまた遊びに来るって言ってたな…。一言天啓で伝えておくべきだったかな…。」

「そうね。何となく見守ってくれてると思い込んでた節はあったかも。」


ララミーティアが反省するように自らの頬に手を当てる。


「どっちかは出るだろうから、デーメ・テーヌ様にでも取り次いで貰おうかしら。」

「そうだね。そうしようか。」


イツキとララミーティアがそんな相談をしている最中、エントランスホールにコンコンと扉をノックする音が聞こえる。

扉の近くに居たシモンとジャクリーンは劇団スーゼランズかと思って何気なく扉を開ける。


扉を開けると白いローブを身に纏った女が金髪を靡かせてワッと部屋に飛び込んできた。

後からブラウンの長い髪を後ろで一つにまとめておっとりと優しそうな微笑みを浮かべた女も入っていた。


ガレスとルーチェは椅子をひっくり返す勢いで立ち上がる。


「「隊長!聖フィルデス様!」」

「ガレスにルーチェ!会いたかったぁ!結婚おめでとうねー!」

「2人とも結婚おめでとう。あんなに小さかった子供達がすっかり大きくなっちゃって。2人とも素敵な大人になりましたね。いつも見守ってましたよ。」


部屋に飛び込んできたのはベルヴィアと聖フィルデスだった。

ベルヴィアはガレスとルーチェに飛びついて頬をグリグリと2人の顔に擦り付ける。

聖フィルデスはベルヴィアの後ろでニコニコしている。


「聖フィルデス様も!会いたかったよー!」

「ふふ、大人になってもまだまだ甘えん坊ですね。よしよし。」


泣きながら抱きついたルーチェに聖フィルデスは子供をあやすように背中を優しくさする。

思わぬサプライズにイツキとララミーティアも二柱のもとへ駆け寄る。


「天啓で連絡しなくてごめん!ベルヴィアも聖フィルデス様も来てくれてありがとう!」

「お久しぶりね。そっちも相変わらずな感じね。」


イツキとララミーティアも合流して再開を喜んでいる間、二柱とも交流があるテッシンとキキョウやシモンが状況を理解していない面々に説明をする。

イツキとララミーティアに近しい者達は他の世界の神様とも交流があるとはうっすら聞いていたが、いざ目の前でご本人登場を目の当たりにして動揺してしまう。


「そこまで畏まらなくて良いと伺ってますので、堅くならなくて大丈夫ですよ。なぁキキョウ。」

「そうねえ。イツキくんとミーちゃんのお友達だと思って接すれば大丈夫よお。」


テッシンとキキョウは手元の酒を飲みながら呑気にしているが、テオドーラはオロオロしたままだ。


「お友達って…!だって…!」

「気にすんな気にすんな。テッシンさんとキキョウさんがそう言ってるんだ。それにあの様子を見る限り多分本当なんだろうよ。」


手元で酒の入ったコップをユラユラと揺らしながらウーゴが顎でイツキ達の方を指す。


「うーん、確かに…。」

「テオドーラ様、大丈夫ですよ。私も集落立ち上げ当初は何かとお世話になりました。とても気さくな方々です。」


シモンがニコニコしながらテオドーラにそう言うと漸く納得したのかテオドーラはしきりにうんうんと頷いていた。


その後改めてベルヴィアと聖フィルデスの紹介を正式に行うことにした。

一同は今受けたばかりの説明で何となく納得し、とりあえず友人達として受け入れることになった。


数が膨れ上がった住人達に対してもイツキとララミーティアの友人として見せるように普通に扱うように方針が決まった。


別にイツキとララミーティアの元に神様が遊びに来ても不自然ではなく、建国の時の流れを考えればおかしい話ではない。

しかしベルヴィアと聖フィルデスが「普通に町を見て廻りたい」と要望したのと、イツキとララミーティアも「これ以上崇められたりされたくない」と要望したのと相まってそのようになった。




「改めてガレス、ルーチェ。2人ともおめでとう。この私、ベルヴィアクローネより…、祝福を…しゅく…、祝福…をね?しゅく…」


一同がじっとベルヴィアを見守る中、澄まし顔のベルヴィアの目から涙がつーっと垂れてきたかと思うと、堰を切ったかのように大粒の涙が零れ落ちてきた。

ガレスとルーチェが眉を八の字にしながらベルヴィアの傍に向かう。


「うわーん!良がっだよーっ!ふだりが!!ふだりが!!うわーん!」

「もうベル隊長ったら!こっちまで泣けて来ちゃうよ!」

「ベル、本当にありがとう。」


ガレスとルーチェに慰められつつ大泣きで喜ぶベルヴィア。

鼻水を垂らしながら泣いて喜ぶ女神の姿にほっこりいてしまう一同だった。


こうしてガレスとルーチェの結婚式の夜は穏やかに過ぎていった。


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