139.2人の報告
昨日はアクセス数もですが、評価も多めに頂けました。本当にありがとうございます。
近況ですが、仕事が忙しくて本編を進めるので精一杯な状況です。(現在168話に取り掛かっています)
序盤の拙さがとても悔やまれますが、ここまで見てくださる皆様にはただただ頭が下がる思いです。
イツキとララミーティアは相変わらず日中は玄関広場のウナギの寝床でダラダラと過ごしていた。
あれからも子供達は毎日遊びにやってきた。
流石に分かりやすい大怪我をしている人などそう簡単に居るはずもなく、ただお菓子やジュースを楽しんだり、イツキとララミーティアが暇つぶしにやっていたボードゲーム類で遊んだりして、気が向いたら『また偵察に行く』と言って町へ飛び出していくのだった。
ここ最近の一番の成果はオボグ工房のあたりの鍛冶屋街にいるハーフリングの男の腰痛だ。
木箱に入った鉄鉱石を持ち上げようとしたときに腰をやってしまったらしく、偶然通りかかった子供達が目聡くもその瞬間を目撃。
イツキとララミーティアのもとへ息を切らせながら興奮気味に報告に来たのだ。
イツキとララミーティアはついでに武器でも眺めるかといってまた『奇跡』を起こしに出掛けたのだった。
しかし腰痛が治ったところでハーフリングの男自身も『奇跡』が起きたとは分からず、ホッとした顔で引き続き木箱を運んでいた。
この日は丁度昼時。
子供達がウナギの寝床でワイワイ遊んでいる隙にイツキが子供達の家にこっそりと伺い「お昼ご飯はこっちで食べさせる」と伝えて回って子供達と一緒に昼ご飯を食べることにした。
昼食にシチューとパンを召喚して子供達と一緒に昼食を食べ、食後はウトウトし始めた子供達を奥に用意した布団に寝かせた。
やがて子供達はスウスウと仲良くお昼寝を始めていた。
イツキとララミーティアが食後のハーブティーを飲みながら子供達を起こさぬよう、玄関広場を行き交う人の流れをぼんやり眺めている。
やがて向こうから手をつないだガレスとルーチェが現れた。
「相変わらず暇そうだなー。おっ、近所の子供?本当に子供の面倒見るの好きだなぁ。」
「暇そうだねー本当。」
イツキとララミーティアはハッとしてガレスとルーチェに返事をする。
「ガレスにルーチェか。これでも朝っぱらから畑に加護を与えたりしてんの。」
「夜は聖女の力も使ってるしね。とは言え正直暇ね。」
ガレスとルーチェが自分達のアイテムボックスから丸太のスツールを取り出して勝手にテーブルにつく。
ララミーティアはハーブティーを追加召喚してガレスとルーチェの前に差し出す。
「で、お金が無いので貸して下さいって相談?ダメダメ!相談窓口を間違ってるなぁ!」
「ふふ、そうね。お金の相談だったらキキョウあたりが最適かしらね。」
イツキとララミーティアは目を合わせて悪戯っぽく笑い合う。
ガレスとルーチェは眉を八の字にして噴き出す。
「今日はね、2人に報告があって来たの!」
「2人にお金を借りに来た訳でも金貨を複製して貰いに来たわけでもないよ。ルーチェもさ、そろそろ成人になるだろ?」
「そうかー、そうだなぁ。そうなんだよなぁ。」
「早いものね本当に。」
イツキとララミーティアは幼い頃のガレスとルーチェを思い出して顔が綻ぶ。
「私もそろそろ成人になるからね、ちょっとだけ早いけど落ち着いたからガレスと結婚しようって、その報告。暫くしたらまた仕事で忙しくなりそうだしね。」
「そういう事なんだ。」
ガレスとルーチェは照れ臭そうにはにかみながら視線を合わる。
イツキとララミーティアは穏やかな表情になる。
「そうか、そうだよなぁ。そんな歳だもんなぁ。おめでとう!」
「いつかは結婚するとは思ってたけど、もうそんな歳になったのね。2人とも本当におめでとう!決死の覚悟で亡命してきたあの子供達がもう結婚する歳になったのね…。今でも昨日のことのように思い出すわ。ぐったりしているルーチェを優しく横たえた時のガレスの優しい表情、手製のブラックジャックを持ってフラフラになりながらルーチェを守り抜くって覚悟を決めていた不屈の瞳。」
ララミーティアは涙ぐんだ目元を拭って微笑む。
イツキも組んだ手に顎を乗せて遠くを見つめながら独り言のように呟く。
「昼御飯を食べた後はあの子たちのようにお昼寝してたっけな…。2人とも寝ているはずなのに手を手を絡ませてしっかり手をつなぐんだよ。夢の中でもいつも一緒なんだなってティアと見てたっけ。」
「ふふ、ガレスは一生懸命自分を追い込むようにひたすら鍛えて鍛えて、それでも弱い自分が悔しいって泣きながら鍛えてたわね…。ルーチェはガレスの為に料理を作ったけど、上手くできないってポロポロ大粒の涙をこぼしていたわ…。」
「2人に短剣をプレゼントしたとき、無邪気に喜んでたよなぁ…。」
「初めて作った砥石。2人の枕元に並べて置いてあって、余程嬉しかったのねって。懐かしいわ。」
イツキとララミーティアが涙をこらえながらポツリポツリと話す思い出話にやがてルーチェはすすり泣きを始める。
ガレスはルーチェの背中をさすりながらじっと涙を堪えるようにして唇をキュッと結ぶ。
ララミーティアは微笑みながら自身のアイテムボックスから突然鍋と大皿を取り出す。
「2人がいつか結婚するって報告に来たときに食べようと思ってたの。」
ガレスとルーチェが鍋や大皿を覗き込む。
その中には形がバラバラな野菜、一部焦げている肉が入った赤トマリスのスープ、厚さがマチマチな細瓜のハーブ炒め、まだつぶし切れていないマッシュポテトの残りがあった。
「あの時、結構いっぱい作ったから余ったのよ。まだあの時の暖かさが残ったままよ。…食べましょう!」
「ティア!ズルいなー、この演出。たまんないよ…。」
イツキは珍しくポロポロ涙をこぼしながら泣き出してしまった。
ガレスとルーチェは嗚咽を殺しながら静かに泣く。
「私達家族の大切な思い出よ、ガレスとルーチェも子供が出来たらいっぱい幸せな思い出を作ってあげて。私達、あなた達の親になれて本当に幸せだった。ありがとう、ガレス、ルーチェ。私達の大切な子供達。」
「これからも、ずっと…ずっと俺達の子供だからね。何かあったらいつでも頼りに来てくれよな。いくらでも力を貸してやるさ。」
ガレスとルーチェは嗚咽混じりに何度も頷く。
ララミーティアがずっと取っておいた料理を皿によそい、みんなでルーチェが初めて作った料理を一緒に食べる。
今になって改めて食べてもなかなか美味しくできていて、ルーチェも微笑みながら幼かった頃の自分を誉めていた。
「形は悪いけど確かに美味しくできてる。初めてにしては上出来だね。自分で自分を誉めたいよ。」
「だろ?普通に美味しいよこれ。ルーチェが俺のために作ってくれたって事が堪らなく嬉しかったよ。まさかあの時のオリジナルがまた味わえるなんて夢にも思わなかったな。」
ガレスとルーチェはニコニコしながら食べている。
やがて奥でお昼寝中だった子供達も料理の匂いにつられて目を覚まし、ララミーティアが召喚する形で同じ料理を出して少しずつ子供達にも食べさせる。
「みんなで食べると美味しいね!私知ってるんだよ、2人はガレス様とルーチェ様でしょ?凄い魔法使いで、この町を殆ど作ったってお父さんとお母さんから教えて貰った事あるよ!」
サーシャはガレスとルーチェを見て興奮気味に語り出す。
するとアイセルもハッと思い出したような顔をする。
「ガレスさま…ルーチェさま…!!あっ!お母さんからきいた!ガレスさまとルーチェさまはこの町のえらい人だって!えーとえーと、とちち?とぢち?えーと…。」
「とちじだよ!あちこちから沢山の人を連れてきたり、でっかい家を作ったり、ケガをしてる人を治してくれたり…、ケガ…僕達の商売敵だよ!」
ホセの言葉に首を傾げるガレスとルーチェ。
イツキとララミーティアは慌てて誤魔化そうとする。
「あ!ほらほら、アイス食べる?美味しいわよ!」
「ジュース!そうだ、ジュース飲まなきゃ!なっ?」
しかし子供達は既に満腹で首を横に振る。
「そんなことよりキーツとエリザベスはガレスさまとルーチェさまのお父さんお母さんなの?ガレスさまとルーチェさまのお父さんお母さんはこの国の一番えらいひとだって言ってたよ?」
「違うって、エリザベスじゃなくてパトリシアだよ!この国の一番偉い人はみんなから崇められる『しょーちょー』だって聞いたよ?2人は何者なの?」
「わー!その話は今はちょっと…!ほらほら、お菓子をあげるから、ね?」
ララミーティアが慌てて鳥の形をしたサブレを取り出して子供達に渡すが、三人とも「お母さんにあーげよっと」といってさっさと仕舞い込んでしまった。
イツキは閃いたという顔をし、急にニヒルな顔をしてみせる。
「…ある時は玄関広場の暇人夫婦。ある時は世間の悪事を暴く夫婦探偵。またある時は国の象徴。またある時は秘密結社のキーツとエリザベス!しかしてその実体は!正義と真実の使者!救国の勇者イツキとティア!」
イツキはララミーティアの後ろにパッと移動してアイテムボックスから聖剣デミ・パライソという名の木刀を取り出して妙な変身ポーズを取ってみせる。
目を輝かせている子供達の為に、巻き込まれ事故ながらも妙な変身ポーズを取らされる羽目になったララミーティアは耳をピコピコさせて俯きながら片手で顔を隠すようなポーズを取る。
ぽかんとするガレスとルーチェをよそに子供達は大興奮だ。
「やっぱり凄い人だったんだ!」
「キーツもエリザベスも凄いんだね!イツキとティアってのがホントの名前?」
「ねえねえ、またスターライトレイヴやりたい!」
アイセルの言葉にガレスとルーチェはいつぞやのイツキのたこ踊りを思い出して笑い出してしまう。
イツキとララミーティアの妙なポーズに、外を行き交う住人達はウナギの寝床を覗き込んではクスクスと笑いつつ通り過ぎてゆく。
イツキとララミーティアは顔を真っ赤にして姿勢を直す。
イツキはそそくさと木刀をアイテムに仕舞うと、千切れんばかりに耳がピコピコ動いている茹で蛸ララミーティアの肩に手を置く。
「そ、そんな訳だから深く考えなくていいんだ。偉い人とか凄い人とかじゃなくてさ、普通にイツキとティアとでも呼んでくれ。千ある名前の中でもさ、そ、その名前が一番しっくりくるかな。ねえティア。」
「ふふ、そうね。エリザベスでもパトリシアでもなくてティアって呼ばれる方が一番しっくり来るわね。ほらほらイツキ!また子供達にスター、ぷっ!スターライトレイヴを…ぶっ!!スターライトレイヴを体感させてあげたら?ぶっ!!」
ララミーティアは仕返しとばかりにガレスとルーチェの前でやりたくなかったスターライトレイをイツキにさっさと振る。
そしてそのままララミーティアは顔を背けて笑いを堪えていた。
こういう時のララミーティアはとても悪戯好きだ。
「えー…?そ、そうだね。じゃあ手短にね…。」
目を輝かせる子供達の手前、今更聖剣デミ・パライソの設定を覆す事も出来ないイツキ。
ガレスとルーチェが笑いを我慢している中、自信なさげに再び木刀をアイテムボックスから一本スルスルと取り出す。
アイセルがはっとした顔で賺さず余計な指摘をする。
「けんげんせよ!ってやらなくても出てくるの?なにもいわないで出てきちゃったら『ふりょく』へったりしない?だいじょうぶ?ちゃんとズルしないでやったほうがいいよ?アイセルたち、まつよ?」
「あー、はは。それそもうかもね。えーと…顕現せよ聖剣デミ・パライソ…。わ、我に力をー。なんてな…。はは。違うんだよガレス、ルーチェ。」
ガレスとルーチェの顔色をチラチラ伺いながらコソコソ木刀を自身のアイテムボックスから取り出すイツキ。
ホセが真っ赤っかなイツキに追い打ちをかける。
「ガレス様!ルーチェ様!凄いんだよ!聖剣デミ・パライソはね!二本になるんだよ!ね?やってよ!」
「へぇ!そうなのか!見てみたいなぁ!」
「本当だねー!見たい見たい!」
ガレスとルーチェはニヤニヤしながらイツキを見るが、イツキは天井を見つめて視線を逸らしている。
「すっごくかっこいいの!見て見て!クロスブレードやって!」
「やったー!早くスターライトレイヴやりたい!ガレス様ルーチェ様!スターライトレイヴをやると凄い強くなるの!スターライトレイヴ!!スターライトレイヴ!!早くそーけんけーたいにして!!くろすぶれーど!!」
イツキは何度も咳払いをして外をチラチラ見ると、遠巻きに住人達がクスクス笑いながらこちらを見てるのに気がついて益々顔を赤くする。
「あ、あんまりその名前を連呼するんじゃない…!やるから!ちゃんとやるから!!じ、じゃあ行くぞ…!もう諦めたぞっ!よし子供達よ!全力でいくぞ!一緒に叫ぶんだ!!せーの!はいっ!!チェーーーンジ!!モォォォードッ!クロォォォス!ブレェェェド!!」
「「「チェーーーンジ!!モォォォードッ!クロォォォス!ブレェェェド!!」」」
子供達を巻き込むことであくまで子供に優しい『象徴』の姿を演じようと汚い魂胆で子供達にも技名を叫ばせたイツキ。
子供達は目を輝かせてイツキと声を揃えて叫ぶ。
イツキはさも分裂したかのようにアイテムボックスからもう一本の木刀を取り出す。
子供達はその光景に益々ヒートアップするが、ララミーティアだけでなくガレスやルーチェも俯いて必死に笑いを堪えている。
外から遠巻きに見ている住人達もクスクス笑いながらその様子を見守っている。
「よし…、そ、双剣形態になったな…。ほら、順番に…。て、手短にね!ささっと!ほら!」
「スターライトレイヴやりたい!私が先!」
「じゃあ僕そっちでスターライトレイヴやる!」
「ずるい!スターライトレイヴやりたいよー!スターライトレイヴ!」
子供達が大声で木刀の取り合いを始める。
「な?ほら!あんまりスターライトレイヴとか大声で連呼するんじゃない!ね?順番順番!じゃあまずはサーシャとホセ!ほら、パパッとスターライトレイヴやろうか!」
イツキが子供達の交通整理をしながらいそいそと身体強化を済ませてゆく。
ルーチェがララミーティアにこそっと耳打ちする。
(ねえねえ、身体強化してるの?)
(身体強化を付与したエルダートレントの木刀があったでしょ?あれを聖剣デミ・パライソだとか適当な事言って、ああやって遊んであげてるの。イツキが言い出したのよ?スターライトレイヴを体感するといい!とか言ってね。)
話を聞いたルーチェがガレスにも耳打ちして説明をする。
一通りスターライトレイヴが終わったらイツキは顔を真っ赤にしながらそそくさと木刀を仕舞い込む。
チラッと外の様子を見ると、住人達はしきりにクスクス笑って居るままだった。
ホセがガレスの顔を見ながら質問をぶつける。
「ねえねえ、2人とも強いんでしょ?えーとキーツじゃなくて、イツキとティアよりも強いの?」
「ん?いや、父さんと母さんには敵わないな。世界で一番強いと思う。なぁルーチェ?」
話を振られたルーチェはニコニコしながらガレスに同意する。
「そうだねー、一生追い付かないかなー?」
「え!?そんなにつよいの!?イツキ?とティア?いつもひろばでひまそうにしてるよ?こないだお茶のんだままうとうとしててね?私たち声かけたらビックリして2人ともお茶ひっくり返してたんだよ?全然つよくないよー!」
アイセルが目を見開いてイツキとララミーティアを交互に見つめて首を傾げる。
ララミーティアは悪戯っぽい微笑みを浮かべてアイセルを見つめる。
「本当にっ!ペラペラ何でも喋るイケナイ口ね!」
「アハハハ!くすぐったい!アハハハ!」
ララミーティアはアイセルを捕まえると脇をくすぐってアイセルの口をふさぐ。
サーシャはケラケラ笑ってルーチェにくっつく。
「ティアは強そうだけどイツキは強くなさそう!」
「えー?俺も中々強いんだけどなぁ…。」
賑やかな声が玄関広場に響く。
首都ミーティアの昼下がりは平和に過ぎてゆく。
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