134.火種
超長命種と対等に戦う為に、人族は五千もの兵力を用意する必要がある、という有名なたとえ話がこの大陸ある。
いつ、どの時代の誰が言い出した事かは定かではないが、この大陸においてそのたとえを聞いたことがない者はいない。
しかし同時に実際に超長命種と人族の軍隊とが戦ったという交戦記録についてもどこの国にも残されていない。
超長命種は基本人里離れた場所でひっそりと暮らしているとされている。
まるで人族等には興味がないと言わんばかりに。
実際に試したことのない、あくまで超長命種を敵に回してはいけないという教訓じみた戒めだと言う者もいれば、交戦記録が残せない程に文字通り全滅させられたのではと言う者もいる。
中には『ではそれ以上の兵士を集めて不意打ちすれば勝てるのでは』という愚かな算段をする者もいる。
教国暦元年冬の期の58日
ララハイディはランブルク王国の最北端ヴァイツマン伯爵領のノースエンドの港町まで来ていた。
ノースエンドの町は川を挟んでエルデバルト帝国のモーベイロン子爵領のスヴァーリフの町が隣接している。
ひたすら小競り合いが続く二国の間でも、この町同士だけは古くから仲が良く交易が盛んだった。
どちらの町も市民の証明書さえあれば手続きも税金もなく自由に往き来できるという何とも異質で大変珍しい文化があった。
古くからの言い伝えによれば、破滅の魔女に打ち勝つより前の時代にはノースエンドの町とスヴァーリフの町は人族が住まう一つの拠点だったらしい。
それが時が経つうちに川が町を二つに引き裂いてランブルク王国とエルデバルト帝国とで分断されてしまった過去があるようだった。
しかしここは中央の目が殆ど届かない最果ての町でもある。
国と国とで別れようとも住人達が従来のまま交流を続けたのが何百年も経ち、半ば黙認されズルズルと今日まで奇妙な町同士の交流が続いている。
もし魔境の森からノースエンドまで移動するとすれば、慣れた旅人でも魔境の森からはどんなに早くても半年はかかる。
イツキとララミーティアから貰った重力魔法が込められたらミスリルレイピアを駆使しララハイディは結界で身を守りつつ並列思考と多重詠唱を駆使し、ものの2日でノースエンドの町まで到着してしまっていた。
魔力切れについてはルーチェから余ってある魔力回復の水とクッキーを貰っていたのでなんて事はなかった。
このように遠方の亜人保護はもっとも高速で移動できるララハイディが任されていた。
帰りについてもイツキがやって見せたような巨大な結界の中に保護した人々を閉じ込めて魔力回復しながら帰るという方式をララハイディだけでなく、どの班も採用していた。
ガレスとルーチェは旅立ちの際にイツキとララミーティアから渡された魔力回復の水とクッキーに殆ど手を出さなかったので、今こうして亜人保護の為にテッシン、リュカリウス、ララハイディに多めに渡していた。
ララハイディは神聖ムーンリト教国の親書を持参してヴァイツマン伯爵に挨拶へ行っていた。
ヴァイツマン伯爵領も根っからの北部貴族なので亜人差別の意識は強烈。
普段はエルフ系の種族というだけで亜人ではあるが多少優遇されるララハイディでも町中至る所でアチコチから不愉快な扱いを受けることが多々あった。
とは言え王宮から亜人を無条件で解放するよう命が下っていた以上、ヴァイツマン伯爵自身は渋々と言った具合に応対していた。
予め神聖ムーンリト教国への移住希望者は募られており、亜人やまたその家族である人族など、他の町同様に漏れなく移住希望だった。
どの町でもそうだったが、予め住むところや家具や日用品などは全て用意すると伝えられていた為、大抵の者は大きな麻袋や精々木箱が一つか二つという程度の荷物しか無かった。
大荷物だと移動が大変で移住を断念するものが出るかもしれないと懸念し、その辺についてはイツキとララミーティアの召喚に頼る形になっていた。
後で識別できるように自分達で名前を書いたりしておき、ララハイディなど迎えに来た者がアイテムボックスに仕舞って対応していた。
とりあえず第一段としてヴァイツマン伯爵家のお膝元であるノースエンドの町に住んでいた移住希望者が私兵達の手により町の外に集められていた。
私兵から手渡されたリストを受け取って内容を確認するララハイディ。
出発までかなりの時間を要する大仕事のリストと実際の移住希望者との確認作業が始まる。
整然と並んでいる移住希望者の間を縫うようにしてヒアリングしながら荷物をアイテムボックスに仕舞い、リストにチェックを入れてゆくララハイディ。
私兵達はあくまで仕事なのでじっと立ったままその様子を見守っている。
北部貴族のどこの町でもよく見かける、なんて事無い普通の光景だった。
一通り確認作業が終わってララハイディがホッとして一息付いた時に事件が起きた。
これから始まる神聖ムーンリト教国での暮らしに胸を弾ませている移住希望者に向かって川の方から矢が一本飛んできた。
真っ先に気がついたララハイディは身体強化と思考加速を使って跳躍すると矢を素手で掴んだ。
ララハイディはそのまま着地して川の方をジッと睨む。
川原にはエルデバルト帝国の鎧を着た兵士達が大勢居た。モーベイロン子爵領の私兵達だ。
兵士達は船に乗っており、次々に川原へと降り立つ。
兵士達は緊張する様子もなく、どこか余裕そうな顔すら見せている。
「ここはランブルク王国。あなた達エルデバルト帝国のモーベイロン子爵の私兵でしょ?今他国に侵入して武力行為を働いている。ヴァイツマン伯爵家の私兵も見ている。一体何を考えているの?」
ララハイディの問いにモーベイロン子爵領の私兵達は終始にやにやしたままだ。
ララハイディの後ろで剣を抜く音が聞こえて振り返るとヴァイツマン伯爵家の私兵達も剣を抜いてニヤニヤしながらララハイディを見ていた。
「これだけ大勢の亜人が人質で居れば迂闊に手出し出来まい。しかも来たのがシティエルフと来た!我々は幸運だったな。滑り出しとしては上々だ。お前たち亜人共と神聖ムーンリト教国などと抜かす穢らしくも図々しい亜人共の国から来た使者を皆殺しにし、真の人族国家建国の足掛かりとなってもらうのだよ。」
そう言いながらヴァイツマン伯爵領の私兵達の間から下卑た笑みを浮かべたヴァイツマン伯爵がゆっくりと歩いてきた。
ヴァイツマン伯爵は更に言葉を続ける。
「ここはランブルク王国もエルデバルト帝国もない、一つの町なのだよ。」
「へぇそうなの、しょうもない情報をありがとう。私、人族の国の時勢なんて興味はない。まだアリの巣の内部構造の方がよっぽど興味がある。」
ララハイディが興味なさそうな台詞と共に溜め息をつく。
移住希望者達は身を寄せ合って不安そうに様子を見ている。
ざわつく声や子供のすすり泣く声が聞こえてくる。
「こんな大勢の兵士相手に勝ってこない。あんただけでも逃げなさい?私達の為に犠牲になる必要なんてないよ。もっと他にも移住を希望する者が居るだろう?お願いだから逃げなさい。」
シティエルフの老婆が微笑みながらララハイディに話し掛ける。
ララハイディの腕を掴んだ老婆の手は震えていた。
「私に任せて。あなた達に傷一つ負わせない自信がある。」
ララハイディはそう言って震える老婆の手にそっと手を重ねた。
やがてモーベイロン子爵領の私兵達の中からも恰幅の良い中年の男がゆっくりと出てくる。
「ふんっ、強がりおって!そうして居られるのも今のうち!我らエルデバルト帝国もランブルク王国もこの頃は亜人共に対し情けなくも弱気な姿勢を取っておる。我らエルデバルト帝国の有志連合とランブルク王国の北部貴族連合とで手を取り合って亜人排除に乗り出すことにしたのだよ。真の人族国家の勃興だ!今日はその真の人族国家の華麗なる幕開けの日という訳だ!貴様等の血で赤く染まった幕が今上がろうとしているのだ!」
ヴァイツマン伯爵領の私兵とモーベイロン子爵領の私兵にいつの間にか完全に囲まれた移住希望者達。
私兵の数は全部で6000は下らない数だ。
中にはどちらの国の鎧も着ていない冒険者のような面々もいる。
明らかに思いつきで集まった数ではない。
最初から反旗を翻すために計画されていた事だったのだ。
「こちらから頼みもしていないのにペラペラとまぁよく囀る。」
ララハイディは溜め息をつく。
しかしヴァイツマン伯爵は下卑た笑みを浮かべたまま話を続ける。
「亜人達を守りながらどこまで戦えるかな?シティエルフのお嬢さん?シティエルフ1人で一体何が出来るというのだ!こちらは超長命種に対抗出来る五千という数を超えて六千の軍勢だぞ?ここで神聖ムーンリト教国の使者を亜人共もろとも打ち倒し!腑抜けたランブルク王国やエルデバルト帝国に成り変わり!人族様に何人も楯突かない真の人族国家を興すのだ!我々ランブルク王国の北部貴族連合とエルデバルト帝国の有志連合が集まれば両国家と同格、いや!それ以上の巨大国家の誕生だ!安心しろ、亜人共!男は労働力!女は慰み者として使ってやるぞ!ウハハハハ!!!」
「これまでにない強大な国家の誕生だ!人族様と肩を並べようとする愚かな亜人共め、楽園だ楽園だとヘラヘラしていられるのも今日が最後だ!」
ツバを飛ばしながらそう叫ぶモーベイロン子爵にララハイディは顔をしかめる。
「さっきから唾を飛ばして…汚い。」
「黙れっ!!先程から一々癇に障る奴め…!よし…、お前は慰み者として後でたっぷり可愛がってやろう…。」
モーベイロン子爵の厭らしい視線にララハイディは不快感を露わにする。
「そうはいかねぇぞ!俺達は亜人解放戦線だ!安心しろシティエルフの姉ちゃん!俺達が命の限り戦う!立ち上がれ野郎共!!」
移住希望者の中から一人の銀色の狼のような見た目をした男が躍り出てくると、次々に武器を手に持った亜人達が移住希望者の中から飛び出てくる。
種族は様々で、リーダーの思しき男のような獣人系種族だけでなく耳やしっぽだけ生やした人族に近い獣人系種族も居る。
更に魔人系種族も居ればシティエルフ族など、亜人解放戦線と称する面々は怒りに満ちた表情で取り囲む私兵達を睨み付ける。
「やはりな!泳がせておいて正確だったようだな、ヴァイツマン伯爵よ!」
「ウロウロと五月蝿いハエ共の鼻をへし折る絶好の機会という者だ!構わん構わん!邪魔者も一気に掃除できて好都合!多勢に無勢とはこの事だな!これだけの人質が居る状況で一体何が出来ると言うのだ!よしっ!!移住希望者もろとも皆殺しにしてしまえ!!」
モーベイロン子爵とヴァイツマン伯爵の声に応えるかのように私兵達は剣を構えてジリジリと取り囲まれた移住希望者達に躙り寄る。
「オラオラ野郎共!!行くぞ!!楽しい楽しい殺し合いの時間だ!!牙を剥け!!爪を立てろ!!人族至上主義者共に鉄槌を喰らわせてやれ!!鮮血の華を咲かせてやれ!!明日無き暴走行くぞ!!」
「おう!!いくぞーっ!!!」
銀色の狼のような男が黄金色の光を纏うと、躍り出てきた者達も同じく黄金色に輝き出した。
しかしララハイディは制止するように手をスッと上に上げる。
「大丈夫。皆のことは私が守る。皆には傷一つ付けさせない。私達の大切な国民になる人達を怖がらせた罪を償わせてあげる。」
ララハイディが振り返って亜人解放戦線のリーダーに微笑みを向ける。
「お、おい姉ちゃん…!」
「…いつでも戦えるようにしておけ…。あの姉ちゃん本当にシティエルフか…?」
「ウーゴ…、分かった。野郎共、いつでも戦えるようにしておけ!」
亜人解放戦線の面々は警戒しながらも様子を窺うように見つめる。
ララハイディは兵士達をぐるりと見渡すと溜め息を一つ吐き出した。
「私に牙を向く愚かなゴミ虫達に死ぬ前に教えてあげる。何か勘違いをしているようだけれど私はシティエルフではない。私は破滅の魔女ララアルディフルーの弟子にして森エルフのララハイディ・サルバルト・リャムロシカ。さっきの矢は返してあげる。しっかり受け取りなさい。」
そう言うとララハイディは手に持っていた矢をモーベイロン子爵領の私兵に向けて投げ返した。
矢は射ったときよりも遥かに速いスピードで私兵達の胸を次々に貫通してしまった。
そのまま数名の私兵達がその場に崩れ落ちる。
私兵達は何が起きたか理解出来なかった者も多く、何が起きたのかとざわつきだした。
「こんなおもちゃを向けられ、臭い口で頼みもしない三文芝居のシナリオを一方的にペラペラと説明されてとても不愉快。これからの暮らしへ胸を膨らませるみんなの膨らんだ希望を恐怖で萎ませるなんて、最高に不愉快な人族達。」
ララハイディの遥か頭上では禍々しい黒い炎が轟々と渦巻いている。
「こんな愚かなゴミ虫達に一時でも勝てるなんて思われた事が最高に不愉快。それにこの場にいるみんなを想像の中だとしても蹂躙されたかと思うと腸が煮えくり返る。」
ララハイディの周りには黒い炎の玉が次々と現れて、上空に集まってゆく。
「…私は『月夜の聖女』や『黒髪の守護者』のように優しくはない。たった一本のふざけたおもちゃの矢が私を怒らせた。私が期待通り喧嘩を買ってあげる。地獄に行ったら何がいけなかったのかみんなで仲良く反省会でもするといい。」
ララハイディの表情が無表情なものから、怒りに満ちた表情に変わる。
「いつもいつも…いつもいつも!亜人達を楽しそうに虐げる人族を堂々と殺せるなんて。喜びなさい。私は今産まれて初めて堂々と人殺しが出来ることを心から喜んでいる。私は幸せ者。」
すると空からおびただしい数の黒の線が伸びてぐるりと取り囲む私兵達に降り注ぐ。
両軍ともに私兵の半数はその場に崩れ落ちる。
遥か上空で轟々と蠢いていた黒い炎が槍となって降り注いできたのだ。
「な…、なっ…!!」
ヴァイツマン伯爵はその場に膝を突いて愕然とする。
モーベイロン子爵も唖然としながら立ったままだ。
生き残った私兵達はじりじりと後退りを始める。
「も…森エルフ…。」
「に、逃げろ!撤退だーっ!」
「早く撤退しろ!」
「もう作戦なんてどうでもいいっ!逃げろーっ!!」
「は、早く逃げろ!!」
やがて生き残った私兵達は蜘蛛の子を散らすようにして逃げまどうが、ララハイディは土魔法のウィードウィップで生き残った私兵達を拘束して誰一人逃がそうとはしない。
「あなた達は運良く生き延びた訳ではない。覚えておくといい。あなた達はアリの巣に悪戯をする時『一人対数十万匹との戦いだ』と思う?普通は思わない。なぜなら強さの次元が余りにも乖離しているから。超長命種が来るから五千人を上回る六千人を用意した?ちゃんちゃらおかしい。私以外の別の使者が来ても結果は一緒。余りに考えが足りな過ぎる。無謀。杜撰。」
両手で小さい黒い炎をお手玉のように遊びながらララハイディはゆっくりと歩き出すし、近くにいた拘束されている私兵の顎をクッと持ち上げる。
「これからあなた達ゴミ虫に何をするか解説しながら殺してあげる。早く死にたかったらのたうち回って無様に泣き叫ぶといい。今回あなた達ゴミ虫によくお似合いの闇魔法で行く。」
そう言うと黒い霧が拘束された兵士達を包み込み、やがて身体の穴という穴から黒い霧が入り込んでいった。
「闇魔法エンハンスドペイン。これで痛覚が倍増した。次にまた闇魔法タナトススコール。無詠唱魔法が得意なら降り注ぐ闇属性の礫を微小な物にする事なんて造作もない。普通なら恐怖状態になって地味に痛くて相手を怯ませる魔法だけれど、エンハンスドペインで痛覚が研ぎ澄まされていたらどうだろう。痛覚倍増させた意味が分かった?すぐ発狂してはダメ。それでは面白くない。どうせ死ぬのだから精々私を楽しませて欲しい。」
拘束された私兵達にピンポイントで黒い霧雨のようなものが降り注ぐ。
黒い霧雨を受けた私兵達は身動きを取ることも出来ず絶叫を上げ、辺りは阿鼻叫喚の地獄と化す。
「さっき黒い線が差し込んで大勢が絶命してたのは覚えてる?あれの加減を調整しながらじっくりと焼いてあげる。」
黒い霧雨のような物は止み、今度は先程よりも細い無数の黒い線が天から降り注いでくる。
身体を貫通するほどではないがあちこちをピンポイントで焼いていく黒い線に、辺りは独得な焦げ臭いが漂い始めていた。
「何だか焼けた臭いが臭くなってきた。肉を食べるのが暫く嫌になりそうだから、遊びはもうおしまい。さようなら。地獄へ行ったらちゃんと反省会をしなさい。」
ララハイディはそう言うと上空で渦巻いていた闇魔法のダークフレアを一気に下ろしてあたりの私兵達を次々に塵に変えてしまった。
あっと言う間の出来事だった。
ララハイディは固まって震えていた移住希望者達へ振り返り、微笑みを浮かべた。
「あなた達は神聖ムーンリト教国の大切な大切な国民。あなた達やあなた達の子孫をこの先未来永劫こんな目には合わせない。これがあなた達が合う最後の酷い目。もう安心して、あなた達の未来は明るい。」
亜人解放戦線のリーダーが声をかけようとする前にララハイディは腰を抜かして失禁しているモーベイロン子爵に洗浄魔法をかけ、そのままウィードウィップでぐるぐる巻きにしヴァイツマン伯爵の隣に放り投げる。
「ヴァイツマン伯爵領は他にもまだ町はある。あなたの生死については心底興味がない。だからあなたはこのまま生かしておいてあげる。でもそっちのあなたのお友達のハゲているナントカ子爵って人はランブルク王国の王宮に引き渡してくる。それでいい?」
「…は、……はい…。」
ララハイディはヴァイツマン伯爵からその言葉を聞いて、ヴァイツマン伯爵自体にも洗浄魔法をかけ、腰を抜かしているヴァイツマン伯爵の肩をポンポンと叩く。
「仲間にも伝えておいて、私のようなひたすら鍛練を続けた超長命種にはこの倍集めても全く意味がないって。対抗したかったら何百体もの古龍を連れてくるか、せめてでも魔法師団が居ない時点で何万人居ようと無意味。次からはもっと知恵を絞るといい。分かった?」
ヴァイツマン伯爵は必死で何度も首を縦に振る。
余程触りたくないのかモーベイロン子爵を足で蹴って転がしながら移住希望者達の元へと向かう。
「ごめんなさい。お待たせ。途中でこのハゲたゴミを王宮に引き渡す事になった。寄り道する事になったけれど私が必ずあなた達を神聖ムーンリト教国まで連れて行く。楽園はもうすぐ。それまで空の旅を楽しんで。」
「お、おう…。なんっつーか…、助かったぜ。俺は亜人解放戦線っつー、まぁ名前の通りの活動をしている団体のリーダーをやっている狼人族のウーゴだ。」
屈託のない笑顔で手を差し出すウーゴにララハイディは食い気味に両手でウーゴの手を掴む。
「私はハイジでいい。ウーゴ、よろしく。そ、そんな事よりあの格好いい技の事をもっと知りたい!明日無き暴走?格好良すぎる!ああああれを私にも是非かけて欲しい!」
「お…おう!いいぜ!ハイジは見る目があるな!後でいくらでもかけてやるぞ!」
「やりたい!私もあの時、黄金色に光って鉄槌を喰らわせる野郎共の一人になりたかった!あの演出は格好良すぎる!亜人解放戦線も是非神聖ムーンリト教国の国民になって教国軍に入って欲しい!」
先程まで私兵達を圧倒していた者と同一人物とは思えないララハイディの姿に、移住希望者達は緊張が途切れ、助かったという事実に歓声があちらこちらで上がり始めた。
また一つ虹の橋がかかった瞬間でもあった。
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