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閑話.思い出の料理

今回は遙か未来に2人がイチャイチャしながら思い出に浸っている話です。

ララミーティアが自身の小屋で朝からずっと料理を作っている。

イツキはそんなララミーティアの後ろ姿をテーブルの席についてぼんやり眺めている。


今日は未明からずっと秋の長雨らしく、心を憂鬱にさせるような重たい雨が降り続いていた。


最近のララミーティアは雨が降ると、ひたすら料理を作ってはすぐにアイテムボックスに収納し、再び一から別の料理を作る作業に凝っている。

作り立てをそのまま収納しておけるアイテムボックスは本当に便利だなぁと毎回実感するイツキだった。


しかし作る料理は真新しいものではなく日頃食べているものだけで、イツキとララミーティアは都度都度料理に対する思い出や感想を語り合っていた。


やがて赤トマリスを煮込んだ匂いが小屋中に充満してきて、イツキは思わずにやけてしまう。


「いつ嗅いでも懐かしい匂いだな…。この世界に来て初めて食べた料理だったね、そのスープ。あとは細瓜のハーブ炒め。」

「ふふ、あの時のイツキったら目をウルウルさせて『美味しい!美味しい!』って。こうしてこのスープを作っているとね、あの時の胸の高鳴りが蘇るの。イツキの嬉しそうな顔が浮かんで、ドキドキするわ…。」


ララミーティアがチラリと振り返ってイツキにウインクを一つ送る。

イツキはそのウインクを優しい笑顔で返し、ララミーティアは再び料理に戻る。


「あの時『いただきます』って2人で挨拶するのがさ、一緒に暮らしているみたいで何かいいなって思ってさ、愛おしくて堪らなかったな。」

「ふふ、そうね。あの時はイツキに寄りかかるだけで心臓が破裂しそうなくらいバクバクしたわ。私達も初々しい時代があったのね。まだウブだったからどうしたら良いのか分からなくて、とてもじゃないけどそれ以上は何も出来なかったわ。」


後ろ姿のララミーティアは耳をゆっくりピコピコさせている。

きっと当時を思い出してドキドキしているのだろうとイツキは思う。

しかし料理の邪魔をしてはいけないので、抱き締めたい気持ちをぐっと我慢してイツキはほくそ笑んでしまう。


「きっと子ども達にもそれぞれの料理に大切な思い出があるわ。だからこうしていっぱい作っておいて、遊びに来たときに渡しておくの。そう考えたらズルしないでちゃんと作っておこう!って思うの。」

「じゃあいつもこの小屋で作るのも慣れている以外に何か理由があるの?」


イツキがふと思ったことを口にすると、ララミーティアは手を止めてイツキの後ろまで移動した。

そしてそのまま後ろから覆い被さるように抱き締める。


「ここで料理を作ってイツキが後ろに居て話をしているとね、告白してくれた時の事を思い出して幸せな気分になるの。『君が幸せな出来事を忘れてしまっても、俺が何度でも語り掛けて思い出させてみせる。君が涙を流すときは、俺が何度でも涙を拭おう。嬉しい時は一瞬に喜んで、悲しい時はずっと傍にいる。最期の時に、捨てたもんじゃなかったって笑い合えるような、そんな日々を君と過ごしたい。』ってね?」

「よく覚えてるなぁ!何だか照れ臭いな…。」


イツキの物真似をしながら自信満々で喋るララミーティアに、イツキが照れ臭くなって頬をポリポリとかく。

ララミーティアはそのまま言葉を続ける。


「私のこと、一生懸命に『綺麗だ』って言ってくれた。幸せな事なんてもっといっぱいあるって、本当に色々教えくれたわ。」

「ティアはちゃんと幸せだった?」


ララミーティアは抱き締める力を少しだけ強める。


「もちろん。ちゃんと幸せ。でももっともっと幸せになれるわ。だって私達はまだまだ時間があるもの。好きって気持ちがあの頃と全然変わらない。」


イツキはニヤッとする。


「…俺は、あの頃とは気持ちが変わってしまったよ…。」


急にトーンが下がるイツキにララミーティアは慌ててイツキから離れる。


「イツキ…?どうしたの…?」

「ティア、俺はあの頃とは気持ちが変わっている。」


イツキは椅子から飛び降りると、困惑しているララミーティアの前に片膝をついて俯いてしまう。

ララミーティアの困惑した瞳は少しずつウルウルと紫色を光らせている。


「俺はあの頃よりもっと好きになってしまった。変わってしまっただろう?お姫様。」

「…もうっ!バカね!」


立ち上がってニコニコしているイツキの胸に飛び込んでポカポカと胸を叩くララミーティア。


「驚いた?」

「落としてから上げる、本当にイツキはズルいわ!それだったら私だってあの頃よりもっと好きになってるのに!」

「ははは、ごめんごめん。大成功だね。って鍋ふきこぼれてる!」

「あっ!わー!」


ララミーティアが慌てて料理に戻る。

2人ともケラケラと笑いが止まらなくなって、イツキはしばらくララミーティアの腰に手を回して後ろからそっと抱き締めた。



やがて広場に人の気配が生じてイツキが窓から外を確認する。


「お、ルーがきた。テーゼウス君とグレースもセットだ。こりゃまたしばらく賑やかになるなぁ。」

「ふふ、そうね。じゃあこれも完成したし本邸に移動しようかしら。」


2人は寄り添いながらララミーティアの小屋を出た。

ずっと先に登場する予定の子どもを最後にチラッと登場させました。

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