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125.作戦会議

ランブルク王国への反乱についてラファエルが亜人避難の状況を説明する。


「王都の亜人街のに住む亜人は全員ミーティア集落への移住を希望。現在アーデマン辺境伯家で二割程度、ターイェブ子爵家で一割程度、聖護教会で一割程度と、この半年でそれしか進んでいない。亜人街を現在持ちまわりで管理している担当は幸いに春まではターイェブ副団長が居た第三騎士団で、ここが反乱に協力してくれており、派手には出来ないが地道に移住を進めている。居なくなった亜人達の代わりに税を工面しているが、これ以上は難しい…。一部の亜人が夜逃げしたとして現在第三騎士団が亜人街の出入りを厳重に管理して何とか誤魔化しているが、新たに王が即位して王宮のゴタゴタが落ち着いてしまえばバレるのは時間の問題だろう。」

「ちなみにアーデマン辺境伯家で町の防衛のリソースを除いて革命に参加出来る私兵は2000。ターイェブ子爵家で800。後は我々が長年秘密裏に支援してきた亜人解放戦線。しかし彼らはエルデバルト帝国やランブルク王国の北部貴族の町に居る亜人達の支援で手が放せない状態です。はっきり言って全く足りておりません。あげく王都は立地や城壁の関係から、真正面から突入するしかありません。作戦も何も、夜襲くらいしか手はありません。とは言え我々は既に警戒されており、夜襲も意味はないでしょう。現在王都へ向けて各領から続々と私兵が集まっております…。」


ラファエルに次いでドゥイージルも苦々しい顔で報告をする。

テオドーラが凛とした表情のまま口を開いた。


「正面から突入しましょう。右翼と左翼にララハイディさん、リュカリウスさん、テッシンさん、キキョウさん、ガレスさん、ルーチェさんを配置して各領の私兵を抑えて頂きます。正面からはジャクリーン副団長と私が2800の私兵を率いて堂々と向かいましょう。」

「しかし!それではテオドーラ王女が危険です!私では守り切れません…。王に即位するポール8世を打ち倒したとしても、あなたが倒れては意味がないのです!」


ジャクリーンが立ち上がってテオドーラに向かって叫ぶが、テオドーラはニヤリと不敵に微笑む。

いつかガレスやルーチェにララミーティアが見せたように右の手のひらに6属性全ての魔法を展開してみせる。


「私は『月夜の聖女』ララミーティア・モグサ・リャムロシカの弟子です。もう人族相手に倒れるような柔ではありません。」

「ん。確かに強い。ガレスやルーチェに匹敵する程魔力を持っている。いや、それ以上。勝手にドーラと呼ぶけれど、確かに上位種族にカウント出来る力はある。しかし何故そんな作戦を立てる必要があるの?」


ララハイディの突然の発言にリュカリウスが眉を八の字にしながら慌ててララハイディを窘める。


「ハ、ハイジ?これから革命を起こそうとしているんだぞ?そりゃ作戦は立てるよ?」

「リュカは待って。ドーラ、あなた何でランブルク王国が欲しいの?王位に着いて人族至上主義で溢れている貴族を沢山従えて、一体なにを為そうとしているの?ドーラが目指す理想郷は何?みんなもそう。私はあんな亜人の犠牲の上にある、手垢と血で染まっている国はいらない。くれると言われても断る。」


ララハイディは無表情のまま淡々と語る。

珍しく真面目なララハイディに誰も口が出せない。


「エルデバルト帝国を見てきた。建前上奴隷禁止や亜人差別禁止を謳ったところで実態は何も変わっていなかった。奴隷だった者は奴隷と言われなくなっただけ。奴隷だった頃は道具なので税金を支払う必要が無かったけれど、奴隷禁止によって奴隷時代の税金を請求されていた。亜人の奴隷だったものだけ。人族の奴隷にはそんな事はしていない。勿論払えず労役。奴隷の名前を変えましたというキャンペーン。大陸中の人族の町にいる亜人の意見を聞いた。みんないつか楽園を目指したいと言っていた。そう、みんなここの事を楽園だと言っていた。人族の町には楽園は無い。断言する。楽園はどこにも無かった。あるのは人族という悪魔が支配する地獄ばかり。」


ララハイディは無表情のまま静かに涙を流していた。


「私は森エルフ。亜人なのに何故か差別されない。今は比較的マシだからみんなは知らないと思うけれど二百年前は亜人だと入れない店、使ってはいけないトイレ、乗ってはいけない馬車、そもそも入ってはいけない町、大陸中殆どがそうだった。私は何故か人族に近い扱いをして貰えた。リュカは見た目が人族そっくりだから身分を誤魔化せば暮らせた。テッシンとキキョウもそう。ローブを被れば普通に暮らせた。でも誤魔化せない亜人は違った。トイレを使ってごめんなさい。馬車に乗ろうとしてごめんなさい。酒場に入ろうとしてごめんなさい。同じ空気を吸ってしまってごめんなさい。」


ララハイディが珍しく声を荒らげる。


「私達は同じ大陸で生きている。家族も居れば友達も居る。悲しければ泣くし楽しければ笑う。恋もすれば子供も作る。新たな命が産まれれば祝うし、死ねば弔われる。ご飯も食べれば排泄もする。人族と何が違う?犬に似ているとなぜいけない?蛇のようだと何が悪い?ずっと子供のようだと迷惑?耳が長いと他人が困る?人族でブクブクに太った豚のような者の方がよっぽどおかしい。みんな一緒。同じ命の筈。」


ララハイディの表情はいつしか怒りに満ちていた。

ララハイディは涙をこぼしながらも話を続けた。


「この大陸のどこの町を見ても綺麗な聖護教会の教会は無い。信徒は兎も角として、肥えている教会関係者は居ない。何故だかわかる?助けても助けても救われる亜人より苦しむ亜人が多いから。私はいらない。ランブルク王国もエルデバルト帝国も人族が亜人を虐げ抜いて亜人の犠牲の上に作り上げた国はいらない。そんな手垢にまみれた国を貰ってもそこに住まう人族は変わらない。同じ事の繰り返し。私は里で聞いた話がある。千年前の大戦までは妖精族とダークエルフ族という良き隣人が居たと。ダークエルフ族は兎も角、みんな妖精族なんてそんな種族は知らない。なぜならアルバン・ランブルクという大罪人が謂われのない罪で根絶やしにしたから。」


リュカリウスはララハイディの涙を拭う。

先程頭を下げていた面々は驚愕の表情でララハイディを見つめる。


「リャムロシカの里ではみんな寿命が長い。いつだって過去のことはわりと簡単に忘れる。てもこれだけは忘れなかった。偉大な英雄はララアルディフルー・イル・リャムロシカだと。全種族連合を束ねたララアルディフルーは何かと戦い、土壇場で人族に裏切られたと。妖精族は詠唱魔法が森エルフより得意で空を飛べて隠蔽が得意。ダークエルフ族は他の追随を許さない圧倒的な魔力とMPで無詠唱魔法が得意な誇り高い戦士の集団。アルバン・ランブルクは何かの力を得て、人族繁栄の邪魔になるその種族を裏切って油断している隙に皆殺しにした。森エルフは後方支援に徹していたお陰で数少ない里が被害を免れた。後の詳しい事は知らない。私が里で聞いたのはそれだけ。もう森エルフすら当事者が居ない。私はそんな裏切り者の大罪人の子孫が作った国には住めない。これを暴露すれば亜人はみんな同じ気持ちになる。」

「人族に伝わる御伽噺とは全然違う…。アルバン・ランブルクは…。」


ジャクリーンはそう漏らすがそれ以上は言葉が続かなかった。

ララハイディは話を更に続ける。


「妖精族・ダークエルフ族・森エルフ族・上位の魔人族・龍人族。遥か昔はこういう種族が仲良く暮らしていた。他の種族もそう。今の傾向を見れば分かると思うが、大概の種族は自活することに長けているから他の種族を従えようとか侵略しようとは決して思わない。自分達の力でどうにでもなるから。それが出来ない種族は?一つだけいるでしょ?人族。何故最強の種族がわざわざ遠くに住んでいる弱い種族を虐げようとする?おかしいと思わない?違和感は覚えなかった?いくら強くてもそこまで暇人ではないはず。逆でしょ?人族は自分達の力だけでは自活出来ない。身を守るのもギリギリ。取り立てて得意なものはない。数がやたら多い。それだけ。自活能力が高い妖精族がわざわざ人族から略奪をすると思う?自活能力が高いダークエルフ族が人族を奴隷にしようと思う?森エルフ族がこれまでに人族の町を乗っ取った事があった?魔人族に支配された町は?龍人族が占領した城は?ハーフリングが商業面で人族から支配権を奪い取って牛耳った町は?魔人系種族のライカン族が面白半分で人族を皆殺しにした事件は?やろうと思えば一瞬で朝飯前で出来るけれど、そんな話は一つも無い。何故ならば要らないから。はっきり言って価値もなければ意味もない。」

「……。」


頭を下げていた面々はなにもいえない。

ジャクリーンがぽつりと呟く。


「…それでも、…それでも今も苦しんでいる亜人達が居るんだっ…!私達が剣を持ち、茨の道を突き進まなければ…、親の愛をする事もなく死んでゆく亜人が…。」

「簡単な話。国を作ればいい。ここに。何故イツキとティアを勘定に入れようとしない?イツキとティアで王都に行かせれば亜人の保護なんて一瞬で終わる話。結界で守られているここで新たな国を起こせば手出しが出来ない。襲ってきたら圧倒的な力でねじ伏せればいい。テッシン、キキョウ、私、リュカが空からアーデマン辺境伯領とターイェブ子爵領を見張ればいい。攻めるより簡単。カズベルクの里はガレスとルーチェ。ここは残りで守る。自分達の力に拘っているというのはさっき耳にした。立派な発想。では何故その自分達の中にイツキとティアはいつも入らない?ムーンリト教の話も聖護教会へ立ち寄って聞いた。信仰は自由。好きに信仰する権利がある。でもイツキもティアも信仰の対象である前にこの大陸で今を生きているただのお人好しのラブラブ夫婦。私達みんなと同じ。私からのお願い。どうか『自分達』の中にイツキとティアをもっと入れてあげて。」


ララミーティアが口を開く。


「私やイツキを慕ってくれるのは嬉しいわ。でもね、みんなが悩んで苦しんでいるのに私達だけ外野に居るのは寂しいの。何よりみんなが平和に暮らせるのを優先したい。そのためなら私だって意地悪してくる国の一つくらい滅ぼして来ても構わないわ。私は偉大な魔女ララアルディフルーの最後の弟子にして唯一の娘なのよ。」

「見栄とかプライドじゃないかもしれないけどさ、本当毎度言いたいのが『俺達を頼って』だよ。力にならせてくれよ。国作るなら協力するからさ。」


テオドーラが口を開く。


「亜人の希望の光になりましょう。長い年月がかかるかもしれないけれど、私達が亜人達が道に迷わないように、煌々と輝く光になりましょう。ムーンリト…ムーンリト教、そうですね…。」

「私達聖護教会は傘下に入ることを決めております。」

「カズベルクの里もいっちょ咬ませてもらうよ。面白そうじゃないか、亜人の国。」


聖護教会のサーラとカズベルクの里のベアトリーチェがテオドーラに賛同する。ララミーティアとイツキがボソボソと小声で囁き合う。


「宗教国家なら王国じゃなくて教国かしらね…。」

「そうなるのかな?皇国いや、教国かな…。」

「魔境の森を中心に…そうねぇ採用しにくい名前ね、魔境って…。」

「あの森ももう魔境ってよりは神聖な森だけれどね…。」


リュカリウスの膝に座ったままのララハイディの鋭い視線がイツキとララミーティアに向けられる。


「イツキとティアの提案をまとめた。『神聖ムーンリト教国』はどう?我ながら良いセンスだと思う。何となく凄そうな国という気がする。我ながらセンスが良い。」


ララハイディがララミーティアの呟きをすくい上げて賺さず右手をぴんと上に上げて勝手に意見を出す。

ルーチェがクスクス笑いながらガレスに話しかける。


「センス良いだって。チュニック一丁で百年ウロウロしてた人が。」

「あっこら!それ言ったらハイジ落ち込むぞ!ああ見えて凄く気にしてるんだよ。」


ガレスとルーチェの話が聞こえてきてリュカリウスに抱きつくララハイディ。


「あの子供達が私の傷口に嬉々として塩を塗る。慰めて。」

「はは、もうみんな忘れてるんじゃないか?きっと。」


そのやり取りを聞いていたベアトリーチェが机をバンと叩いて立ち上がる。


「あんた!80年前の変態エルフ!酒でドワーフ共を釣って次から次に訳の分からない武器ばかり作らせて!!大変だったんだよ!酒が足りなくなって逃げたのを知らないバカどもが喜んで売れない武器ばかり作っちゃって!!」

「そ、そんな大昔の事は覚えていない。多分人違い。」

「チュニック一丁の露出狂の森エルフなんてそんなに人違いするほど居るかい!」


会場の話題が段々脱線する中、ラファエルが徐に立ち上がる。


「アーデマン辺境伯領とターイェブ子爵領は幸運な事に魔境の森にも隣接地しているしそれぞれ隣り合っている。神聖ムーンリト教国の建国にあたって暫くはランブルク王国との競り合いが続くと考えられる。皆様のお力をお借りし、この局面を乗り越えるという事で何卒お願い致します!」


一同は頷く。


「これから暫くの間はシナリオを検討する必要があります。皆様、お付き合いの程、何卒。何卒!」


ラファエルが深々と頭を下げる。


「………。」


その中でイツキ只一人思考の海に漂っていた事に誰も気がつかなかった。


ララハイディがイツキたちと出会った頃に、なぜ森エルフの秘薬をあちこちに配ったのかしらないと言ってたのは、何だかんだララハイディはまだイツキとララミーティアを警戒していた節があったからです。

と言うか、自分も里でうっすら聞いただけの話だし、あの段階であまり悪戯に人族憎しを増長させてもどうなのかなと思ってた…そんな感じです。


正直に言えば私のウッカリでララハイディにあんな無知な感じで喋らせてしまったという感じです…


面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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