124.再会
テオドーラ改造計画が始まってふた月が経過した。
テオドーラはまだ成長はするにはするが、さすがにそろそろ成長が鈍くなってきた。
このふた月テオドーラは朝起きて夜遅くに寝るまでひたすらMP枯渇と回復を繰り返し続けていて、枯渇しにくくなるといつかララミーティアとララハイディがやっていたように上空に上級相当の無詠唱の風魔法を展開し続けていた。
ララハイディとの違いはその間ティータイムでは無かった点だ。
延々燃費の悪い無詠唱魔法を展開し続けながら鬼教官ララミーティアの地獄の特訓を受けていた。
ララミーティアの戦い方も完全に頭に叩き込まれているテオドーラはまさにララミーティアの弟子と名乗っても恥ずかしくない程に逞しく成長していた。
それでも枯渇の度合いが鈍くなってくると、ララミーティアは見様見真似のガレスとルーチェ式の限界突破を常時発動させて武術の訓練をイツキと行った。
身体は常に悲鳴を上げ続けたが、ララミーティアは聖女の力で癒やして続行させた。
MP枯渇を起こせばララミーティアはすぐさま回復させ、特訓を始めた頃と同じペースで枯渇を繰り返させた。
テオドーラは初めて会ったときの自信のなさやオドオドした様子は全く無くなり、強くなった自分に自信が持てるようになったようで、活発で自信に満ちた顔をするようになった。
時たま見せる遠くを見つめるその姿は王族として恥ずかしくない立派なものになっていた。
このふた月程、一度もミーティア集落に顔を出していなかったテオドーラとララミーティアと一緒にイツキはミーティア集落へと向かうことにした。
イツキ自身はちょくちょく報告をしに顔を出していたが、そろそろジャクリーンが言っていたふた月もしくはみ月という期限にかかってきたから、一度話し合いをしておこうという魂胆だ。
何より今日はラファエルとドゥイージルが聖護教会のいつぞや来たサーラ・ミシリエというミールの町で司祭をやっていた女の人を連れてくるらしいのだ。
現在ミーティア集落に一番近い場所にいるのがサーラのようで、今日はある意味決起集会のような物だ。
イツキは予めカズベルクの里にも声をかけており、あっさり了承してくれたベアトリーチェとナランツェツェグが現在オチルとアンの所に前泊している。
このふた月で様変わりして上級ウィンドウ魔法まで手にいれた人族最強と言っても過言ではない王女テオドーラ・ランブルクを御披露目してみんなの度肝を抜いてニヤニヤしようという何ともしょうもないいつものイツキの大した計画も後先も考えない雑なサプライズだった。
イツキは自身のアイテムボックスからミスリルソードを出してテオドーラに渡す。
テオドーラは差し出された剣を流れでそのまま受け取る。
「これは?くれるの?」
「ああ、なんせティアの弟子だからね。俺たちの弟子の証みたいな?まぁタダで譲り受けたようなものだから遠慮しないでよ。」
「ありがとう!嬉しい…。」
テオドーラは剣をじっくり眺め、笑顔でイツキとララミーティアを交互に見る。
ララミーティアは微笑みながらテオドーラの頭を撫でる。
「本当に良く頑張ったわ。その剣には重力魔法が付与されているの。無闇にあげていいものではないのだけれど、ドーラなら大丈夫ね。今のうちに重力魔法に慣れておきなさい。」
「はい!ありがとう!」
ミーティア集落に行くに当たって早速自分自身で飛ぼうという事になり、イツキとララミーティアから空を飛ぶときの重力魔法の匙加減を教わり、あっと言う間に感覚を覚えたテオドーラはすぐに自由に飛び回れるようになった。
なお、ミスリルに魔法が付与出来る点や重力魔法については秘密という事でテオドーラに言い聞かせたが、元々その辺の知識が無いのと、イツキとララミーティアを慕っているのとで、特に疑問を持つこともなく素直に言いつけを飲み込んでしまった。
「自分で飛ぶと気持ちいいな、どこまでも飛んで行けそうな気がする!」
テオドーラはくるくると旋回しながら飛んでいる。
ララミーティアはイツキに横抱きにされたままクスクス笑う。
「確かにそうね。でも私はこうして抱き抱えらて飛ぶのが一番好きかしら。」
「2人は本当に仲がいいね。私もいつかそう思える人と巡り会えるかな…。」
テオドーラは照れくさそうに笑いながら仰向けになって飛んだまま空を見上げる。
「ドーラならきっと巡り会えるさ、いい子だもん。」
「そうね、良い子だもの。それにとびきりの美人じゃない。」
2人の言葉にテオドーラははにかむ。
「美人か。自分で言うのもなんだけど、私母親に良く似ているって言われてたの。母親は絶世の美人だったって噂が誇らしかったな。」
「時の王に見初められたくらいだから余程だったんだろうねー。」
「後数年もしたらきっとテオドーラだって絶世の美人よ。しかもジャッキーに引けを取らない強さの魔法使い。間違い無くモテてモテて仕方ないに決まってるわ。」
ララミーティアとイツキは目を合わせて「ねえ?」と頷きあう。
テオドーラはイツキとララミーティアに近付くと頬に口付けを送って笑って見せた。
テオドーラの顔に満開の笑顔が咲き誇る。
ミーティア集落が見えてくると、イツキとララミーティアはある一団を見つけて顔を見合わせ声を上げる。
「おっ!ティアティア!みんな帰って来てるんじゃないか!?」
「わぁ!帰って来たのね!ガレス!!ルーチェ!!それにみんなも!!」
ララミーティアが一団に声をかける。
すると大人のように成長したガレスとルーチェが空まで飛んできた。
予め重力魔法がかかっていたララミーティアはイツキの腕の中から飛び出す。
「ただいま!!帰ってきたよ!」
「お父さん!お母さん!ただいま!!会いたかった!!」
ガレスはイツキに飛び込み、ルーチェはララミーティアに飛び込む。
そのまま空中で抱き合ったままクルクルと回る。
「おかえり!世界をまわる旅はどうだった?」
「ああ、勉強になったよ。話したいことがいっぱいあるんだ。」
大人のような見た目でもその笑顔はあどけなく、イツキはガレスをギュッと抱きしめる。
ルーチェもララミーティアの胸の中でポロポロ涙をこぼしていた。
「色々ね…!色々あったんだよ…!話したいこと…いっぱい!…お母さん…、会いたかったよお…。」
「ふふ、身体は大きくなってもまだまだルーチェは子供ね。私の可愛いルーチェ。おかえりなさい。」
空中で再開を喜んでいたが、テオドーラは微笑みながら声をかける。
「さあ皆さん。集落に降りましょう。是非私にもご挨拶させて下さい。」
テオドーラは最近全然出さなかった王女らしさを見せて恭しく空中でカーテシーをしてみせる。
改めてミーティア集落に降り立ってみるとそこにはテッシンとキキョウの他にララハイディとリュカリウスも居た。
シモンとジャクリーンが出迎えでおり、ジャクリーンが一人一人固い握手を交わしているあたり、どうやらシモンが妻として紹介しているようだ。
「2人はもう紹介してもらった?シモンの奥さんのジャクリーン。ジャッキーよ。」
「ああ、もう挨拶したよ。凄くオーラのある人だね。多分だけどかなり強いんじゃないかな。純粋に剣で戦ったりしたら負けそう。」
「そうだねー、全然隙がないもんね!凄く綺麗だし!」
ガレスとルーチェの感想にイツキが反応する。
「前から気になってたんだけどさ、オーラが凄いとか隙がないとか、どうやるとわかるモンなの?魔力視みたいなもの?俺、シモンの横で普通に立って挨拶しているようにしか見えないんだけど…。」
イツキの間抜けな言葉にララミーティアはクスクス笑いながらイツキの腕をパシパシと叩く。
「感覚的なものよ。剣一つとっても、達人の佇まいと素人の佇まいって明らかにわかるでしょ?料理だって大工仕事だって。隙がないっていうのは、今攻撃したら確実に防がれそうだなとか反撃されそうだなっていう個人的な感想。」
「ははーん、なるほどね!俺だけ出来ない技なのかと思ったよ。」
「ふふ、仲間外れだと思った?ただの感想よ。」
「思った思った。強い人ってよくそう言うから心配しちゃったよ!」
「大丈夫、心配いらないわ。」
呑気にイチャイチャし始める2人を見てガレスとルーチェはニコニコしている。
そんなガレスとルーチェにテオドーラが恐る恐る話しかける。
「あの、紹介してもらえなさそうなので…。私ララミーティア様の元で鍛練して頂いておりましたテオドーラ・ランブルクと申します。ランブルク王国第三王女です。今は訳あってこちらに潜伏している次第です。」
「へぇ!私達じゃあ同じ先生から教わった仲間なのね!私ルーチェ・モグサ!よろしくね!何て呼べばモガッ!?」
ガレスが真っ青な顔をしてルーチェの口を慌てて塞ぐ。
「不敬な真似をしてしまい誠に申し訳ありません!どうか…」
「やめて下さい!そんな感じではないのです!面倒だな…、私亜人解放を掲げていて王宮では危ないからイツキとティアに保護して貰ったの!同じ人達から教えて貰った弟子同士仲良くしましょう?ね?歳だって同じくらいでしょ?」
「モガモガッ!ほら!そう言ってるよ?よろしくね!ドーラって呼んでもいい?私はそのままルーチェでいいよ!」
ガレスの拘束からスルリと抜け出すとルーチェはテオドーラに馴れ馴れしく抱きついて背中をポンポンと叩く。
テオドーラも同じく背中を軽く叩く。
「ドーラでいいわ、よろしくねルーチェ!」
「まぁ、いいのかな…。俺もそのままガレスでいいよ、よろしくドーラ。」
「ガレスもよろしくね!」
それぞれが立ち話に花を咲かせる中、シモンのかけ声で一同は学校へと向かう。
中にはいると既にラファエルとドゥイージル、ベアトリーチェとナランツェツェグ、いつぞや来た聖護教会のサーラが座っていた。
えらい人たちを待たせちゃいけないとイツキも皆を促して適当に座らせる。
「シモンさん、座る場所は適当でいいよね?自己紹介はとりあえず軽くって事で…、まぁ進行はシモンさんかな?後はよろしく。」
イツキもララミーティアの隣の席に座る。
ここの部屋に来るまでにテッシンたち同伴者四名とも軽く話をしたが、粗方話は聞いているようで、彼らの方から是非話し合いに参加させてほしいとシモンに頼んだそうだ。
みんなが神妙な面もちで座る中、神妙な面もちで明らかに無表情でふざけている者が居た。
ララハイディだ。
眉を八の字にして「ハイジマズいよ」と小声で指摘するリュカリウスの膝の上に横抱きされるような姿勢で座っていた。
「席は適当で良いと聞いた。私はリュカの膝に座るという選択肢を選んだ。大丈夫。私は真面目。話し合おう。」
「まぁ良いわ。ハイジはいいから始めましょう。」
一同はララハイディを無視して話を始める事にした。
先ずはシモンとジャクリーンが補足しあいながらこれまでのあらましを話す。
「テッシンさん、キキョウさん、ハイジさん、リュカさん、ガレスくん、ルーチェちゃん。カズベルクの里のベアトリーチェさん、ナランツェツェグさん。どうか皆さんの力を私達に貸して頂けませんか?」
「私からもお願いする。この通りだ!この無謀だった革命を成功させるには皆さんの力をお借りしたいのだ!」
シモンとジャクリーンだけでなく、ラファエルとドゥイージル、聖護教会のサーラ、そして第三王女テオドーラが深く頭を下げている。
ララハイディがリュカリウスの膝に座ったまま無表情で口を真っ先に開く。
「私は貸さない。」
「ハイジ!…話が違うだろ…?」
リュカリウスと予め協力すると相談していたのか、突然否定を始めたララハイディに慌てて小声で抗議するリュカリウス。
「落ち着いて。私は貸さない。貸すのではない、喜んで提供する。返して貰う必要はない。6人で楽しく大陸を回ってアチコチの町や里を見てきた。でもここほど種族に溢れて幸せそうに暮らしている場所は他には無かった。ここはこれからもっと発展してゆく未来がある町。私は見届けたい。だからここに住むことに決めた。戦闘に向いている住人が戦いに参加するのは当然の事。」
「はは、ハイジの言うとおりです。私達は結婚して改めて2人で大陸中を見て回りました。結果今回の旅の出発点だったここで暮らすのが一番良さそうだなと感じました。私とハイジだけでも小国なら滅ぼせますね。まぁランブルク王国ならば例え話に倣って最低でも一人5000人ずつ、と言った感じでしょうか。住人として当然の務めです。私達腕には少々自信がありますからね。」
ララハイディとリュカリウスの言葉に頭を下げた面々は涙を滲ませる。
「私達もいいかしらあ。前からそろそろどっかに腰を落ち着けて商売がしたいわあって思ってたのよお。ハイジちゃんとリュカくんが色んな町でどこに住みたいか話をしてたからねえ、私達もその気になったのお。ねえ、ミーちゃんにもイツキくんにも言ったでしょう?」
「ちょっと!み、みんなの前でミーちゃんって…!ま、まぁ言ってたわね。」
ララミーティアが耳をピコピコさせながら渋々返事を返す。
「ハイジさんリュカさんが腰を落ち着ける地を探していたので、私達も同じ様によさそうな町はないかと見ていたのです。リュカさんと同じ言葉になりますが、今回の旅の出発点だったここで暮らすのが一番良さそうだなと感じました。なあキキョウ。」
「ええあなた。ここなら色んな亜人が居るから目の色が金色でドラゴンの目をしてても気にせずに暮らせるものねえ。これからもっと発展しそうだし、商売をするのにもうってつけ。私達も戦闘が得意な住人としてどうかしら。私だってこう見えても中々のものよお?ねえあなた。」
テッシンはいつも通りニコニコしながら話を続ける。
「人化状態ならハイジさんやリュカさんと同じくらい、龍化すれば恐らくその倍は受け持てますよ。もっといけますかね?キキョウは私達のような戦闘狂ではないですが、まぁ相手が人族であれば特段問題ないでしょう。」
ガレスとルーチェもニコニコしながら頷き合い、ガレスが代表して話す。
「俺とルーチェで合わせて戦えばリュカやハイジにはなんとか勝てたり負けたり、テッシンさんだけは勝ったことないけど…、まぁだから2人でみんなと同じく1人としてカウントして下さい。同じくらいは相手に出来ますよ。」
反乱軍に希望の光が更に強く差し込んできた瞬間だった。
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