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121.儚げな王女

シモンの家にてランブルク王国の雲行きについて話し合いをしていて、アーデマン辺境伯家当主ラファエルとターイェブ子爵家当主ドゥイージルが土下座をしてまで保護を求めたランブルク王国第三王女のテオドーラ・ランブルクが侍女のお仕着せを纏って部屋の奥から出てきた。


ジャクリーンと殆ど同じ色合いの髪を肩の辺りまで伸ばし、おどおどしている瞳は真っ赤にキラキラ輝いていた。

イツキとララミーティアから見ても、ガレスやルーチェとそう変わらないのではないかと思うくらいにどこか子供っぽい印象を与えている。


「イツキ・モグサ様、ララミーティア・モグサ・リャムロシカ様、お初にお目にかかります。私はランブルク王国第三王女、テオドーラ・ランブルクと申します。よろしくお願い致します。」


そう言うとテオドーラはカーテシーをしてイツキとララミーティアに挨拶をする。

その所作はとても優雅で美しく、到底侍女とは思えぬ高貴なオーラが漂っていた。


「よろしくね。私のことはティアで良いわ。」

「俺はイツキでいいよ。ところでここに居て、さらには俺たちが保護するっていうのは知られては…?」


シモンが眉を八の字にしてボソッと呟く。


「いけませんね…。」

「まぁそりゃそうだよね。じゃあ申し訳ないけれど、俺達が保護した娘のドーラとして接することにしようか。えーとドーラと呼ぶよ?それでいいかい?」


イツキが務めて優しくテオドーラにそう聞くと、テオドーラはこくっと頷く。


「はい。ドーラで結構です。改めてよろしくお願いします。イツキ、ティア。」

「そんな訳だからラファエルもドゥイージルも安心してちょうだい。また何かあったらいつでも頼ってね。あとドゥイージル、教会の方もテュケーナ様が立場も考えずにあんな風に言っちゃった以上、私はもう気にしないわ。とは言えミーティア集落に殺到するのは勘弁するように言っておいて欲しいかな。」


ララミーティアの言葉に「はっ!」と言って深く頭を下げるドゥイージル。

イツキは腕を組みながらテオドーラを眺めて苦笑いを浮かべる。

テオドーラはそんな視線を感じてモジモジとしてしまう。


「あと変装するにしてももっと何か考えないとなぁ…。正直このメイドさんみたいな格好だけどさ、チグハグ感が物凄いって言うか、なぁ?」

「そうねぇ。私たちですら違和感を覚えるわ。暫くは誰も来ない私達の広場に連れて行って普通の暮らしに慣れさせた方が良さそうね。私達の暮らしが普通かどうかは置いといてね。」


ララミーティアがそう言ってテオドーラにウインクをしてみせると、テオドーラは顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「こちらは王都に残っているテオドーラ様が何かと気にかけていた亜人達の保護を進める。テオドーラ様には誰もつけないが2人ともそれで良いか?」


ラファエルがイツキとララミーティアにそう確認するので、イツキは首を傾げる。


「そりゃこっちは良いけどさ、王女様をそんな無防備に俺たちに預けちゃっていいものなの?普通は護衛の騎士とか凄腕の侍女とかが両隣にいるもんじゃないの?」

「イツキ殿とララミーティア殿はこの大陸で一番強く、それに最も信頼出来る夫婦だと私は思っている。それに、王国最強と言われた私が姫様の護衛についたところで2人には太刀打ち出来ないだろう?」


ジャクリーンが笑いながらイツキの肩をバシバシ叩く。

ドゥイージルもニコニコしながらテオドーラに話し掛ける。


「テオドーラ様、この様に彼等はこの大陸で最も強く、そして最も信頼出来るお方です。お二人はこの世界を見守っていらっしゃいますデーメ・テーヌ様やテュケーナ様と交流も御座います。どうぞ事が落ち着くまでお待ちになって下さい。」

「まぁ、そうなのですね。ターイェブ子爵、アーデマン辺境伯、何から何まで本当に苦労をかけます…。本当にありがとう。何も出来ない無力な自分が情けないです…、情けない王女でごめんなさい…。」


単にへりくだる癖があるのか程度に感じたイツキとララミーティアは目を合わせて軽く肩を竦めてみせるが、テオドーラはそのままウルウルと泣き出してしまい、イツキとララミーティアはぎょっとする。


「どうやらいつもの事の様です…。」


シモンがイツキとララミーティアの後ろからコソッと告げる。

テオドーラはラファエルとドゥイージルに励まされ、ジャクリーンは頭をかきながらその様子を見守っていた。


「これは中々に…中々ね…。とりあえず私達がしっかり預かるから大丈夫よ。ドーラの事については安心して。」

「ま、まぁ集落も暫くは大丈夫そうだし、暫く森の中でゆっくり過ごすよ。もし用事があったらジャッキーにこれを渡しておくから、飛んで来て知らせてよ。広場の位置は何となく知ってるでしょ?」


そう言ってイツキは予備として重力魔法を予め付与しておいたミスリルレイピアをシモンに渡す。


「でも正直何でそこまでするの?どうしてわざわざ危ない橋を渡ろうとするのかしら。」

「そうだよね。様子見してりゃ別に何もない訳でしょ。下手すれば王国とバチバチになるじゃん。」


イツキとララミーティアの問いにシモンは苦々しい表情を浮かべる。


「当代の領主が偶然亜人差別撤廃という訳ではありません。以前ご説明した通り遙か昔から脈々と受け継がれた思想なんです。例え王国とは言えど、亜人差別を助長するような政策にはもう耐えられません。今、最も機が熟したのです。そのためなら頭を地に擦り付けるくらいお安いものなんですよ。」


シモンはそう言うと肩をすくめた。




その後暫く森に引きこもる為に早々にイツキとララミーティアはテオドーラを連れて広場に帰ることにした。

ミーティア集落の中でテオドーラの存在を隠す必要は無いとは思ったが、各国の諜報部隊がどこからどう探りを入れてくるか分からないので、集落を案内する事もなくそそくさと宙を舞った。


なお、ララミーティアがテオドーラを横抱きにする形で空を飛ぶことにした。


「どう?鳥になった気分は?」

「す、凄いです…!私、空を飛んでいるのですね!鳥さんはこんな風に大地を見下ろしているのですね…!」


ララミーティアの腕の中で興奮しながらしきりに可愛らしい感嘆の声をあげているテオドーラ。

そんな様子をイツキとララミーティアは微笑ましく見守っている。


「集落だけじゃなくて街道とかも紹介したかったんだけどさ、まぁとりあえずこの景色だけで我慢してよ。」


イツキが目を輝かせてあちこち見ているテオドーラに話しかけると、テオドーラは弾けんばかりの笑顔を浮かべる。


「はいっ…!」




本邸に到着してゆっくりとテオドーラを降ろすララミーティア。


「さあ、到着と。私達の家へようこそ。ここには殆ど誰も来ないし魔物も盗賊も居ないから、その辺でお昼寝しても平気よ。」

「さてさて、とりあえず昼飯にでもするかなー。ドーラは何が食べたい?」


イツキが自身のアイテムボックスからレジャーシートを取り出して地面に敷く。

イツキとララミーティアが履き物を脱いでレジャーシートに座り込むのを見て、テオドーラも怖ず怖ずと2人の真似をしながらレジャーシートに乗って座り込む。


「パンと、何かスープなど頂ければ…。」

「え?随分質素だなぁ。遠慮するなよー。」

「私達は神様のお友達よ?食べ物くらい魔法でちょちょいよ。」


随分と遠慮深いテオドーラに少し驚いてしまうイツキとララミーティア。

当のテオドーラははにかんでは居たが、少し陰のあるような笑顔を浮かべていた。


「えーと、頂ける物であれば何でも結構です…。有り難く頂きます。」

「そう?じゃあ…そうだなぁ…。あれいく?シチューと丸いミルクパンとか。」

「良いわね!ふふ、確かにリクエスト通りパンと暖かいスープの範疇ね。」


ララミーティアはイタズラっぽく微笑み、レジャーシートの上に鶏肉と野菜がゴロゴロ入ったクリームシチューと握り拳大のふわふわしたミルクパンを召喚してみせた。

テオドーラは突然目の前に現れた料理の数々に目を丸くしている。


「わっ…、凄い!上級アイテムボックス…ですか?」

「ふふ、上級アイテムボックスもあるけど、これは違うわ。これはこの世界とは違う世界の神様から貰った加護の力よ。」

「そう。だから別に手間もお金も掛かってないから遠慮しないで食べちゃってよ。」


ララミーティアとイツキに促され、テオドーラは胸元で手を組んで祈るようにして俯き、やがて恐る恐るパンを千切ってシチューに浸してみた。


「とても柔らかいパンなのですね…!簡単に千切れます!わぁ、このスープ、暖かい!いい匂いがします…!暖かいご飯ってとても美味しそうですね…!」


イツキとララミーティアが自分達も食べ進めながらもズレた感想を述べるテオドーラを見守っていると、テオドーラはシチューを浸したパンを口に入れて、カッと目を見開いて見せ、一生懸命モグモグしてみせた。


「…美味しいです!暖かい料理って美味しいですね…!美味しいです。」


どこかズレている気がするテオドーラの発言に首を傾げつつも、まぁ美味しいなら良いかと頷き合うイツキとララミーティア。

改めてテオドーラの様子を見ているとちぎったパンを摘みながらポロポロと涙を流していて、イツキとララミーティアは思わずぎょっとしてしまう。


「ちょちょ、どうしたの?そんなに熱かった?」

「ドーラ、大丈夫?」


ララミーティアはテオドーラの隣に移動して、座ったままテオドーラを横から抱きしめて落ち着かせる。


「ごめんなさい…。違うんです…。こんなに美味しい物を、私だけ…、こんな安全な所で…のんびり食べて…。食べることも叶わない亜人達が…、怯えながら…、なのに私…。」

「ラファエルとドゥイージルがその辺は何とかするって言ってたでしょ?きっとそのうちミーティア集落にでも連れてくるわ。」

「そうだなー。あの2人をとりあえずは信じよう。今はさ、とりあえず食べて元気になるのが先決だよ。ほら、冷める前に食べちゃおう。」


ララミーティアとイツキの言葉に涙を拭いながらもコクコクと頷き、テオドーラは昼食の続きを始めた。

テオドーラはそれでも涙を流しながらクリームシチューをしっかり堪能していた。


これは大変なことになりそうだぞとイツキとララミーティアは目を合わせてアイコンタクトを送り合うのだった。


こうして儚げな王女様との生活が始まった。



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