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111.オボグ工房ミーティア支店

「と、とりあえずミーティア集落が安全な場所って事は分かったよ。とは言え鍛冶が出来る建物を建てるとなると春まで待たないとダメだねえ。カズベルクの里の暇な連中を連れてくるとして…そうさねえ。」


ベアトリーチェとナランツェツェグが腕を組みながらあれやこれや意見を交わしている。

その間にイツキとシモンは集落の中をウロウロして何やら議論していた。

ララミーティアはベアトリーチェとナランツェツェグに声をかける。


「心配いらないわ。まぁ見ててちょうだい。」


ララミーティアがふとイツキに視線を送る。

ベアトリーチェとナランツェツェグもイツキの方を見やる。

集落の隅の畑地帯へ向かったイツキとシモンは何やら話をしているようで、やがてシモンがイツキから離れる。

しばらくするとイツキの前に大きめの建物が現れる。


「オボグ工房じゃないか!嘘だろう!」

「ボルドの工房か!神様と奉られるだけあるんだねえ。いやぁ、あっぱれだよ。」


ナランツェツェグとベアトリーチェが驚くが、盲信しているレベルのシモンの話を聞いていたので、すぐに目の前の光景を素直に受け入れた。


ララミーティアに促されて3人はオボグ工房ミーティア集落支店に向かう。

途中からオチルとアンもオボグ工房の存在に気が付いて駆け寄ってくる。


「イツキ様が召喚なさったのですか?」

「話には聞いていましたが驚きました!どおりで以前泊まられた時に家のあちこちを見せてくれと言っていたのですね!」


一同がオボグ工房ミーティア集落支店の前に集まる。

シモンがにこやかな表情を浮かべる。


「ミーティア集落では鍛冶により作られる日用品などは外部に頼りきりという形が続いていて大きな課題の一つでした。我々はオボグ工房を歓迎致します。一応中を確認してみてください。どうぞ。」


そう言って一同は中へと入ってゆく。

中はテーブルや椅子など、大きめの家具はそのまま残っているが、棚の中身やタンスの中身は空になっていた。

更には今すぐ鍛治が出来る環境にはなっていたが、あちこちに置かれていた武器や防具類の一切が存在しなかった。


「これだけ環境が揃っていれば、後はカズベルクの里から道具を持ってくればすぐにでも開けるね。オチル、あんたこの町でがんばんなよ。どうせそのつもりだろう?」


ナランツェツェグがオチルの背中をバシンと叩く。

オチルは喜びに満ちた表情で大きく頷く。


「俺頑張るよ!カズベルクの里代表として立派にやってみせる!」

「大丈夫だとは思うけどさ、念の為部屋の方とかも一応確認しておいてね。」


イツキがオチルに促し、オチルとその後ろにアンがついて行く形でアチコチ見て回る。


「寝室はやっぱここかな、直ぐにでも生活出来そうだね。」

「そうですね、陽当たりもいいから朝の目覚めが良さそう!」

「洞窟の中じゃないから何だか印象が違うなぁ。」


オチルとアンは仲睦まじげに内見に来たカップルのようにあれやこれや意見を交わしている。

そんな様子を暖かく見守る一同。

やがて一通りチェックも終わり、ベアトリーチェがオチルとアンに声をかける。


「さっきは私も余計な事を言ったけどさ、あんた達夫婦になんないかい?」

「ちょっとおばあちゃん!」


ナランツェツェグが慌ててベアトリーチェを止めようとするが、ベアトリーチェは真面目な表情でナランツェツェグを静止する。


「ツェツェ待ってくれ。真剣だよ私は。なぁアンさん、オチルはドワーフ族だけど私らハーフリングの血も色濃くて武器や防具だけじゃない、繊細な作業が特に上手いんだ。生粋のドワーフみたいに酒に溺れる事もないし、鍛冶の腕も確かだし、ハーフリングみたいに頭の回転も早い。どうだろう。身内の贔屓かもしれないけどよ、オチルの事を傍で支えてやってくれないか?」

「おばあちゃん…。アンさん、まぁうちの息子もこんなに露骨だからさすがに分かってるとは思うけどさ、アンさんの事ばかりなんだよ、この子。早くミーティア集落に行きたいってんで食うことも寝ることも忘れて鍛治ばかりしちゃってさ。今日も『ミーティア集落行くよ』って言ったら目の色を変えて大喜びしちゃってさ。」


真面目なベアトリーチェにナランツェツェグも今更かと思って追撃する。

アンは顔を真っ赤にして俯いていたが、やがてチラリとオチルを見る。

オチルも耳まで顔を真っ赤にしつつ、意を決したかのように口を開く。


「アンさん、アンさんと出会ってからずっとアンさんの事ばかり考えています。早くミーティア集落に行く口実が欲しくて必死で鍛治もやりました。」

「わ、私もっ!私も、空を見上げる事が…増えました。」


アンの口から思わず本音が口をついて出る。

アンは胸元に光るペンダントをギュッと握りしめている。


「アンさんを幸せにします、俺と結婚して下さい!」

「幸せにしてください。私も幸せにします。」


そうしてオボグ工房ミーティア集落支店の誕生とともにしっかり者のアンと支店長に就任したオチルの結婚が決まった。


その後季節はまだ冬と言うことで、イツキはカズベルクの里からボルドやバトサイハンなどオチルの身内だけをピックアップしてミーティア集落まで案内した。

ドワーフ族は軽くレクチャーしてしまえば重力魔法で空を飛ぶこともあっと言う間に慣れてしまった。

手分けして魔法に自信のないものを背負う形でミーティア集落を目指した。

ドワーフ族がどうして風魔法にまで精通しているのかイツキがボルドに尋ねたところ、鍛冶の時の送風に使うようだ。

別にふいごのような道具でも問題無いようだが「魔力を鍛えてアイテムボックスが欲しいからな、みんな」と豪快に笑いながら言っていた。


ミーティア集落に残ったララミーティアはパーティーの用意を進め、シモンは片っ端から宴の案内と会場設営の協力を仰いで回った。

アンを着飾るのはベアトリーチェとナランツェツェグが行い、オチルの準備については集落で手の空いている者が行うことになった。

衣装については布工場が一肌脱いでくれて、簡素ではあるがアンのドレスを採寸してその場で手分けして物の数時間で簡素ながらもしっかりドレスらしいものを仕上げてしまった。


カズベルクの里に行っていたイツキがオチルの身内を引き連れてミーティア集落に戻る頃には既に準備は整っていた。

カズベルクの里から連れてきたドワーフやハーフリング達はみな陽気で、ミーティア集落の面々とあっと言う間に仲良くなってしまい早速酒を飲み始めてしまった。

イツキやララミーティアが間を取り持つような気を回す必要は全く無かった。


「この町でよ!俺の倅のオチルって奴が鍛冶工房をやるんだよ!腕はなかなかのモンだからみんな頼むぜ!な?ガハハ!」

「うちの集落でも鉄の日用品が高くついて困ってたんだよ!この間露天でオチルさんが売ってた物を見たけど、人族の町から仕入れる物より品質が良かったぜ!」


ボルドと集落の人族の男が笑いあいながら酒を飲み交わしている。

バトサイハンや他のドワーフやハーフリングも獣人系種族の面々の中に混じって豪快に笑いあっていた。


やがて工場からオチルとアンがゆっくり出てくる。


流石にドワーフ達も静かになり、一同は固唾をのんで若い二人を見守っている。

ドワーフの結婚式は終始ドンチャン騒ぎという勝手なイメージを持っていたイツキだったが、新郎新婦の入場?は厳かに見守るらしい。


工場からしばらく会場まで2人でゆっくり歩き、皆から見える位置に陣取ったオチルとアン。

ドワーフ式の結婚式は分からないという事で今回ミーティア集落の面々は指示を仰ぎながら基本的には流れに身を任せている。


銀で作ったような巨大な杯をオチルとアンが座っているテーブルに、本人達の丁度真ん中あたりにごとりと置く。

バトサイハンがアイテムボックスから出した酒をゆっくりと注ぎ、杯に火魔法で火種を飛ばすと高さ40センチはある火柱が立ち上がった。

ここで大盛り上がりするのかと思っていたイツキとララミーティアだったが、ドワーフやハーフリング達が整然と列をなし順番にその火に手をかざしてお辞儀をしてゆく姿に少し驚いてお互い見やる。


ミーティア集落の面々も倣って同じ様にする。

それに倣ってイツキ達も同じ様に並んだ。


そのうちベアトリーチェが刃渡り30センチはあるであろう長い包丁を取り出し、予め用意してあった石で出来た台の上にそっと置く。

まだ持ち手に何の処理もほどこしていない為、包丁はピタリと綺麗に台に乗っかる。

またその列にドワーフ達やハーフリング達が列を作る。

ベアトリーチェの横に居たバトサイハンが並んでいる者に年季の入ったハンマーを手渡し、台に置かれた包丁に優しくハンマーを振り下ろす。

一通り全員終わったら最後にボルドとナランツェツェグが2人で一つのハンマーを持ち、他の者と同じく優しくハンマーを振り下ろす。

そしてそのハンマーをオチルとアンに手渡すと、最後にオチルがアンの耳元で何か言い、オチルとアンとで優しくハンマーを包丁に振り下ろして、最後にハンマーをバトサイハンに深々とお辞儀した後に手渡した。


バトサイハンは至極まじめな表情ですうっと息を吸い、辺りに聞こえるように声を上げる。


「2人の未来の為に!火の精霊の祝福を!」


ドワーフやハーフリング達がバトサイハンに続くように復唱する。

ミーティア集落の面々も少しズレつつも同じ様に復唱した。


「2人の未来の為に!水の精霊の祝福を!」

「2人の未来の為に!土の精霊の祝福を!」

「2人の未来の為に!風の精霊の祝福を!」


四属性分言い終わると、ボルドとナランツェツェグがオチルとアンを挟むようにして立ち、一同に頭を下げた。

バトサイハンが突然くしゃりと破顔させると大声を出す。


「精霊達にも届くように!野郎ども飲んで歌って騒げー!!」


厳かな雰囲気から一転、会場はどんちゃん騒ぎが始まった。

イツキとララミーティアが魔境の森から力業で引き抜いてきたマコルの木に実ったマコルの実で最近作られたマコル酒がミーティア集落より振る舞われる。

マコルの実で作られた酒だと知らされたドワーフ達やハーフリング達は初めて味わう果実酒に大満足の様子だった。


ララミーティアにお酒が入らないよう、イツキは終始ララミーティアと後ろの方から賑やかな様子を眺めていた。

人族、獣人系種族、魔人系種族、ドワーフ族にハーフリング族など、様々な見た目の人達が楽しそうに大騒ぎしながら酒を酌み交わしている。


「ついこの間まで独りでコソコソ生きていたことを忘れそうになるわ。このミーティア集落はきっと種族の坩堝になるのね。」

「見た目で人の中身までは決まらない。きっとここは笑顔が溢れるいい町になるさ。」


ララミーティアとイツキは2人で寄り添い合いながら皆の楽しそうな姿をいつまでも眺めていた。




面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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