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107.あなただから

「ここは元々魔物被害に悩まされていた土地だったのですが、月夜の聖女ララミーティア様の御業より魔物は一夜にして消滅しました。その後黒髪の守護者イツキ様の御業により魔境の森、ミーティア集落、ミーティア街道、街道の途中にお二人の手によって作られた公園や森林は魔物だけではなく、悪意を持った者の侵入を防いでおります。」

「何だか御伽噺ですね…。うちの親父、本当とんでもない人達と友達になったんだなぁ。」


アンが集落を歩きながらスラスラと説明をする。

オチルはイツキとララミーティアの評価を何段もあげ、感心が止まらない状態だ。


「ふふ、お二人はとても気さくな方ですので。決して尊大な態度は取らずに私達にも優しくしてくれる素晴らしい方々です。集落の塀から家まで全てお二人やお二人が保護したお子さん達が見返りなしでここまで快適な集落にしていただいています。」

「まるで聖人君子ですね…。しかし里親とはいえお子さんが居たんですか!初耳です。」


オチルが驚いた様に言うとアンはクスリと笑って答える。


「今は行商人をしていらっしゃる龍人族の夫婦と一緒に大陸中を学びながら旅していると伺って居ます。私は彼らが旅立ってからこの集落で保護されましたので、お顔を拝見したことはないのですが…。」

「そう言えばアンさんは以前エルデバルト帝国の奴隷だったと伺いましたが、どういった経緯でこちらに保護されたのですか?奴隷の身でありながらここまで逃げ出すなんて中々想像がつかないのですが…。」


オチルの言うとおり、特に亜人の奴隷は道具扱いなので自由なんて物は無い。

そんな環境で隣国まで逃げ出すなんて芸当は到底考えられない。

アンは切なそうな表情で笑い、これまでの経緯を説明する。


「元々安住の地を求めて一人旅をしていたんです。今考えれば無謀でした。そこでエルデバルト帝国を通過しようと乗った乗合馬車が盗賊に襲われまして、馬車付きの護衛も勝てないと分かるとアッサリ降伏しました。」

「亜人は大陸を大回りしてでもエルデバルト帝国は通過するなと言いますからね…。しかし本当に物騒なんですね。」


なんと言ったら良いか分からないオチルは一般論を述べる。

アンはそんなオチルに気を使わせないようにと微笑んでみせる。


「奴隷商で買われたのがエルデバルト帝国の諜報部隊、まとめて50人程亜人の奴隷が買われました。それで腕や首に鉄製の輪っかを付けられて馬車に詰め込まれたどり着いたのがこの集落でした。私達を馬車から降ろして鞭で脅され『あの集落へ行け』と言われた私達は集落に向けて走りました。」

「…。」


オチルは無言で頷く。


「集落ではララミーティア様とイツキ様が心配そうに見守っていました。イツキ様が私達を保護しようと近寄ってきたその時、私達の首輪や腕輪が次々爆発しました…。結界の中に入れる奴隷爆弾ですね。」

「そんな…。」


アンは努めて明るく振る舞うが、オチルは言葉が満足にでてこない。


「こんなよく分からない状況で妙な死に方をするんだと冷静に思う自分と、死にたくないと泣き叫ぶ自分と…。兎に角必死でララミーティア様に向かって走りました。イツキ様はエルデバルト帝国の諜報部隊に対して激怒し、その場で帝国の諜報部隊を瞬殺してしまいました。人を殺めたことが無かった人が私達奴隷の為に怒り狂ってその手を汚してくださったのです。私は魔力視は出来ませんが、あの時のイツキ様のオーラはそんなスキルが無くても分かるほど凄まじかったです。凄まじく強かったです。」

「そんな酷い事があったのですね…。」


アンはオチルの前を歩きながら言葉を続ける。


「ララミーティア様もイツキ様も驚いたことに『ごめん』と何度も謝り涙しながら亜人であるハズの私達を爆発する輪っかから解放し受け入れてくださいました。このミーティア集落も暖かく私達を迎え入れて下さいました。以上が私がここまでやってきた理由になります。」


アンは振り返ってオチルを見る。

アンの目が潤んでいたのをオチルは見逃さなかった。

オチルは迷わず自身のアイテムボックスからネックレスを取りだしてアンに差し出す。


「あの…!俺からは、その大した事は出来ないし、気が利いたセリフも出てこないんですけど…、俺が作ったこれでアンさんを笑顔に出来ないでしょうかっ!渾身の自信作です!受け取って下さい!」


オチルがそう言って差し出したのはミスリルで出来たペンダントだった。

ペンダントトップが花のモチーフになっていた。

まるで雪の結晶のような精巧な花で、人が手作業で作ったものとは思えない出来映えだった。

アンは差し出されたペンダントに見とれ、涙を拭いながら微笑んでみせた。


「私なんかに良いんですか?」

「その、…アンさんだから渡したいんです。」

「ありがとうございます。つけて貰えますか?」


アンはオチルの前で目を瞑ってじっと待つ。

オチルは震えてしまう手をグッと堪えてアンにペンダントをかけた。


「どうぞ。とても似合います!」

「こんな素敵な贈り物初めてです!ありがとうございます、オチル様。」


アンの顔に満開の花が咲いた。


趣味が悪いと思いつつ、どうしても気になったイツキとララミーティアにシモンまでもが畑に身を潜めてアンとオチルの様子を見守っていた。


「オチルも中々やるわね。」

「アンさんも嬉しそうです。あんな嬉しそうな姿は初めて見ましたよ。」

「なーんかいい感じじゃない?良いね良いね!次はさ、ミーティア街道の公園を案内させようよ!」


3人がワイワイ盛り上がっている中、アンがズンズンと近寄ってきた。


「こんな畑の中で一体何の相談をなさっていたのですか?」

「ふふ、ごめんなさいね。ついつい。それにしても素敵なペンダントを貰ったわね。とても良く似合っているわ。」


ララミーティアが巧妙に話を逸らす。

アンははにかみ、後ろからついて来たオチルは顔を赤くして俯く。

シモンはニコニコしながらアンに提案をする。


「まだ日は高いです。切開ですのでミーティア街道の公園を紹介してはいかがでしょう。あそこなら歩いてもそんなにかかりませんし、何よりあそこはティアさんとイツキさんの渾身の力作です。」

「そう言われると案内せざるを得ないですね。それではオチル様、ご案内致しますね。」

「よろしくお願いします!」


そうしてアンとオチルはミーティア街道へと消えていった。


その後アンとオチルは辺りがすっかりオレンジ色に染まった頃に帰ってきた。

オチルは街道のまっ平らさや、それをイツキとララミーティアが2人で数日でミールの町まで舗装した事について非常に驚いていた。

無理もない話しで、この世界の人にとってしたらここまで綺麗な道を敷設しただけでも驚きなのに、そんな驚きの道が延々ミールの町まで続いているのだ。


公園に到着しても、2人でのんびり過ごせた様で、アンがボルドやナランツェツェグの夫婦漫才のようなやり取りや、カズベルクの里の豪快なエピソードなど、オチルから面白おかしく聞いたようだった。

ララミーティアが「どんな事を話していたの?」とアンに尋ねてもクスクス笑いが止まらないあたり、余程楽しく過ごしたのであろう事は十分にわかった。


すっかり遅くなったので、オチルはそのままシモンの家に泊まることになった。

イツキとララミーティアは本邸に戻り、また翌朝ミーティア集落へ行くことにした。




「何だか本当に初々しかったねー。」

「そうね。見ててこっちまで幸せな気分になれたわ。」


イツキとララミーティアは寄り添いながら湯船に浸かっていた。

余計なお節介とは知りつつも、ああも初々しい様子を見るとついつい気にかけてしまう2人だったが、イツキはお節介について「誰だってそうさ」と言って自重しようとはしなかった。


「これからもちょくちょくカズベルクの里には遊びに行きたいと思っているし、連れて行ってくれって言われたら連れて行くだけでもいいんじゃないかしら?」

「そうだね。あれは放っておいてもうまく行きそうな気がするよ。」


イツキは両手でお湯を掬ってバシャバシャと顔を洗う。

ララミーティアは肩にお湯を掛けながら寂しそうに呟く。


「私達はこれから悠久の時を過ごすわ。きっとこんな風に色々な人達の営みをいくつも見守って行くのね。」


寂しそうなララミーティアの肩を抱き寄せるイツキ。


「そうだね。俺もイマイチ想像がつかないけれど、周りは何世代も繰り返すんだよね。」

「長命種、特に私達みたいな超長命種がやたら表に出てこない理由がよく分かるような気がするわ。私達って人族や獣人系種族で置き換えると良い歳ですもんね。」


ララミーティアの言葉にイツキは湯船の縁に頭を乗せて天井を見上げながら呟く。


「そうだよなぁ。親しい人達がどんどん亡くなっていくのは耐えられないだろうね。自分達はいつまでも見た目は若者なのに、ついこの間赤ちゃんだった子がヨボヨボの老人だもんな。」


ララミーティアは暫くしてクスクス笑い出す。


「でも、何百年後とかに私達の子孫がやってきて『あなたが私のご先祖様なんですか!?』って驚かれるのはちょっと楽しみね。暫く名前を名乗らないで『ところで月夜の聖女様と黒髪の守護者様はどちらにいらっしゃるんですか?』なんて聞かれて。」

「はは、それいいね。その頃にはダークエルフの血を引く人も増えてるかもよ。ダークエルフの血が流れているそんな人達の源流が俺達だ。」


何気なく思い付いたことを口にしたイツキだったが、ララミーティアはイツキの何気ない一言にすっかりあてられてイツキの身体に絡みつく。


「ふふ、じゃあ2人で沢山作らないとダメね、赤ちゃん。頑張ってね、お父さん。」




その後長風呂も終わり、イツキとララミーティアは瓶に入った冷たい牛乳を立ったまま並んで飲む。


「いやぁ、ちょっと風呂場で頑張りすぎたね。少しのぼせた…。」

「イツキがその気にさせることを言うからよ。笑顔であんなこと言われたら煽りたくもなるわ。」


ララミーティアがクスクス笑いながら肘でイツキを突っつく。

2人はソファーに腰をかけ、イツキが冷凍ミカンを召喚してララミーティアにも渡す。


「はーこれ本当に美味しいわ。お風呂上がりにピッタリ。」

「そういやさ、ガレスとルーチェはそろそろ14歳と13歳だね。」


イツキは冷凍ミカンをひょいひょい口に入れながらふと呟く。

ララミーティアは切なそうに微笑みながら冷凍ミカンを口に入れる。


「きっとぐっと大人らしくなったでしょうね。今頃何をしてるかしら。」

「今頃はカーフラス山脈の向こう側の暖かい場所かな。この大陸で人族の成人は15だったっけ?」

「そうね。もうすぐすると2人とも立派な大人よ。結婚しても早いには早いけれど、別に不思議な話ではないわ。」


イツキはララミーティアの後ろ髪を弄りながら遠い目をする。


「ついこの間ここに転がり込んで来たのになー。子供はあっと言う間に成長するね。下手するとティアが子供を産む前に孫が出来るかも。」

「それは大変!それじゃあこの後も頑張りましょう。ね?」


魔性の女ララミーティアは妖艶な表情でイツキに絡みついた。


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