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106.ひょっとすると

朝カズベルクの里を出発したイツキたちは昼前にはミーティア集落に到着した。


今更イツキたちがやってきても特にリアクションもなく、近くにいた住人たちが「こんにちは」と挨拶するだけだった。

とりあえずシモンに紹介かなと思ったイツキとララミーティアはそのままシモンの家へと向かう。

道中ララミーティアがオチルに説明する。


「とりあえずこの集落の代表のところにでも行きましょう。そこではエルデバルト帝国で元奴隷だったハーフリングの娘もいるのよ。代表のシモンの補佐のような事をしているわ。」

「へぇ、そうなんですか。ハーフリング族は決まった里は持たずに様々な場所に定着するので、運悪くエルデバルト帝国で捕まっちゃったんですね。」


オチルの言葉にイツキが質問を投げかける。


「ハーフリング族の里みたいなのは無いの?」

「そのようですね。ひょっとすると知らないだけであるかもしれないですけど、ハーフリング族はとても社交的で頭も良い傾向がありますので、割とどんな場所でもとけ込めちゃうんですよ。」


ミーティア集落で保護したハーフリング族のアンもそうだったが、確かに社交的だし頭の回転も早い。

恐らくハーフリング族はそうやってこの大陸で生き抜くすべを確立したのだろう。

ボルドの奥さんのナランツェツェグも例に漏れず同じだったので、彼女が財布を握ることでオボグ工房は成り立っているようだった。


「さあ着いたわ。シモーン!居るー?」


ララミーティアが外から声をかけると、中からアンが出てきた。


「こんにちは、ティア様にイツキ様!あら、お客さんですか?今シモン様は畑の方か工場に行っていますよ。」

「あら、そうだったのね。すぐ戻ってくる?」


ララミーティアがそう尋ねるとアンは顎に手をやって首を傾げる。


「そうですね…。そろそろ昼食の頃合いなので戻ってくるかもしれませんね。何でしたらここで待ちますか?」

「そうだね。オチルさん、それでいいかな?後でゆっくり案内するからさ。」

「………。」


オチルはアンを見つめたまま放心状態になっていた。

イツキは一体どうしたのかと思いオチルの肩に手を置いて話しかける。


「疲れが出た?大丈夫?」

「あっ!すいません!つい…!お、俺はカーフラス山脈にあるカズベルクの里に住んでいるオチル・オボグ・カズベルクと申します!武器や防具も作れますが装飾や彫金が得意です!装飾品作りが好きです!お酒は好きですがほどほどしか飲みません!キセルは吸いません!えーと…。」


顔を茹で蛸のように真っ赤にしながら大声で突然自己紹介を始めたので、イツキとララミーティアはぎょっとしてオチルを見た。

アンは驚いた表情を浮かべたが、笑いがこらえきれないといった感じ手で口元を隠してクスクス笑い出してしまう。


「ふふふ、オチル様は面白い方ですね。私はアンと申します。家名や里の名前はありません。計算や頭を使うような仕事が得意です。お花が好きです。よろしくお願いします。」


シモンに教わったのか元から知っていたのか、可愛らしくカテーシーをするアン。

ララミーティアはそんな様子を見て察したようでイツキに耳打ちをする。


「オチルは今恋に落ちたのよ。」


イツキはワクワクしたような顔をしてララミーティアを見やる。


「ははぁ、なるほど!理解した!」


イツキとララミーティアの後ろの方からシモンの声が聞こえてくる。


「おやお2人ともこんにちは。お客様ですか?」

「そうなの。」

「それではとりあえず中に入りますか?」


そうして一同はシモンの家に入った。

オチルはその間もアンに視線を送ったままで、シモンもそれに気が付いてララミーティアに耳打ちする。


「ひょっとすると…、ひょっとする感じですか?」

「そうみたいなの。彼の里はドワーフとハーフリングが仲良くくらしてるから、間違いなくひょっとする感じよ。」


シモンは承知したと言わんばかりに小さく頷く。


テーブルについてアンが紅茶をそれぞれの前に出す。

シモンはアンにも促してアンをテーブルに座らせる。


一通り自己紹介を済ませ、ララミーティアが今回の経緯について話を始める。


「早速なんだけれどね。私とイツキがカーフラス山脈の山頂に行ってみたいねってなって山頂に行ったの。」

「流石です…。この時期のカーフラス山脈に行こうなんて人はまず居ないですよ。」


シモンのツッコミに苦笑いするイツキ。

ララミーティアは話を続ける。


「そこでカズベルクの里っていうカーフラス山脈にあるドワーフとハーフリングの里に住んでいる彼のお父さんと会って仲良くなって、その息子がオチルという訳。オチルは装飾品作成が得意なんだけど、立地的にほら、カズベルクの里はランブルク王国側からは誰も来なくて、エフェズ王国側からばかり買い付けに来るの。」

「魔境の森がありますから、北側諸国からは確かに行かなかったでしょうね。」


アンが頷きながら相槌を打つ。


「エフェズ王国はほら、好戦的な国家だから武器と防具しか売れないみたいなんだけれどね、ミールの町とかミーティア集落ならオチルの装飾品も人気が出ると思うんだけどなって言ったら是非行ってみたいってなって連れてきたの。」

「まぁさ、とりあえず作品を並べてみたら?」

「…えっ!あっ!はいっ!」


イツキに促されてオチルは慌てた様子でアイテムボックスから装飾品の数々を取り出してゆく。

ミスリル縛りがない様々な素材で作られた装飾品の数々が並ぶ。


「わぁ!可愛いですね!わぁ…凄い!」


アンは素が出たのか笑顔の華をぱっと咲かせるように破顔させて装飾品をキョロキョロと見渡す。

オチルはそんなアンの様子をぼんやり見つめる。


「えぇ、可愛いですねぇ…。」


ぼんやりとアンを見つめながら呟くオチルに、イツキもララミーティアも笑いをこらえる。

シモンも感心したように布越しに装飾品を手に持って確認する。


「流石ドワーフと言ったところですね。人族の鍛冶屋が作るものとは一線を画しますよ。ドワーフの職人が本気で装飾品を作るとこんな風になるのか…、ミーティア集落で委託販売みたいなのは大歓迎ですよ!」

「そう言って貰えると嬉しいです。里では変わり者扱いだったんで…。あ、ちなみに武器や防具だけでなく鍋から蝶番まで何でも作れます。」


その後オチルの作った作品をシモンとアンは興味深そうに見ていった。

イツキもララミーティアもよく考えたら装飾品ばかりで武器や防具は全然見ていなかったので熱心に見ていた。

シモンは流石貴族というべきか「これはここが素晴らしい」だとか説明していた。

アンやララミーティアもあれこれと意見を出していたが、イツキにはさっぱり分からない世界で、「へえ」とか「ふむ」などの感嘆詞を言うだけのマシーンと化していた。


暫くしてシモンがアンに声をかける。


「アンさん、切開だからオチルさんに集落を案内して貰えませんか?」

「私で良いんですか?」


アンが不思議そうに尋ねると、シモンは賺さず理由を説明する。


「私はこの後ティアさんとイツキさんと装飾品の販売について話をするので、よろしくお願いします。」

「承知しました。それではオチル様、ご案内させて頂きます。」

「よろしくお願いします!」


そうしてオチルはテーブルに出した装飾品を次々にアイテムボックスへ仕舞い、手と足が同時に動いているオチルと、それを見てニコニコしているアンが家から出て行った。


「さあ、あの2人は良いとして、俺とティアでカズベルクの里で大量に装飾品と交換したんですよ。この辺は武器とかよりもこんなのが売れるんじゃないかなーと思って。」

「そうなの。召喚で出したお酒と交換したし、欲しい物はもう抜いてあるから良かったらミーティア集落にあげるわ。良いお金になるでしょ?」


そう言ってイツキとララミーティアはテーブルの上に装飾品の山を築く。

シモンは関心しながら装飾品を品定めする。


「先ほどのオチルさんの作品も素晴らしかったですが、これらも中々の品物ですよ…。しかもミスリルばかりではないですか。」


シモンが布越しに装飾品を手にとって眺める。


「へぇ、鑑定しなくても分かるもんなんですね。」

「ええ。伊達に貴族をやってませんでしたから。分かりますよ。これは本当に素晴らしい出来です。しかし本当に良いんですか?お二人に得がないではないですか。」


シモンが困ったような表情でイツキとララミーティアを見比べるが、2人は目を見合わせて肩をすくめる。


「私達はお金は使わないから要らないわ。それよりこの集落の為になる方が嬉しいもの。」

「俺も同意見です。ティアが嬉しいならそれに越したことはないかな。本当にお金はいらないしなぁ。」


シモンは座ったまま深々と頭を下げる。


「ありがとうございます。もし必要でしたら集落の出納帳もしっかりお見せしますので!」

「いやいや、そこまでは疑ってないよ!」


イツキが慌てて否定するが、出納帳という言葉にピンとこなかったララミーティアが首を傾げる。


「スイトウチョー?何それ?」

「あー、えっとね。お金の出入りを管理している帳簿だよ。普通はおいそれと見せないやつ。」


ララミーティアが納得した顔で頷く。


「そうね。私達が管理している集落でもあるまいしチェックしないわ。何よりズルしてたらこんな質素な暮らしをしてる訳ないじゃない。」

「まぁそれはそうですね…、はは。」


ララミーティアの指摘にシモンは頭をかきながら笑う。

ララミーティアは人差し指をピンと立てて話を続ける。


「それよりこれから増えるかもしれない住人の為にでも取っておいて欲しいわ。後、ミールの町で貴族向けに作るって言ってたリゾート施設ででも売ったら?アレクソンに相談した上でね。」

「確かに…。これは集落で安値で売るってよりは貴族向けに販売した方がいいかもしれないですね。」


シモンが腕を組みながら頭の中でそろばんをはじき始める。


「カズベルクの里にはちょくちょく遊びに行くかもだから、新たに仕入れたらまた渡しますよ。集落用にミスリルじゃないもっと安価な装飾品を仕入れるものいいかもですね。」

「何から何まで本当にありがとうございます。感謝したりない程です。」


シモンがまた申し訳無さそうにほほえんで見せた。

ミーティア集落の主力産業のうちの一つが生まれた瞬間だった。


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