104.覚醒ララミーティア
昨日30000PVいきました。
いつも読んで下さっている皆様、本当にありがとうございます。
とりあえず自身が魔法付与したマジェステによる拘束を解いて貰ったイツキの手を取って起こしたララミーティア。
一同は一旦テーブルに付いて改めてミスリルの付与についての話に戻る。
「エルフ系種族の私でもミスリルへの魔法付与なんて出来なかったし知らなかったのだけれどイツキはね、人族でも桁違いの魔力を持っているから付与出来てしまうのだと思うの。私もまだよくわからないのだけれど、多分ミスリル自体は本来は魔法付与が出来る素材なんだと思うわ。ただ要求魔力量が膨大すぎるだけでね。」
「うーん、まあ実際そうなんだろうな。嘘偽りなく確かにこの目で見ちまったしなぁ…。おおっ!遅くなったがとりあえず飲んでくれ。」
ボルドが思い出したように先程運んできた木のカップを勧めてくる。
イツキとララミーティアは好意に甘えて木のカップをグイッと呷る。
「ぶはっ!!ゴホッ!!ゴホッ!!こ、これ酒ですかっ!?水かと思ったんで噴き出しちゃいました、すいません。」
「あんた!外から来た人にはいきなり酒は出すなって言っただろう!?外の世界では来客になにも言わずに酒を出すなんて事はしないんだよ!普通は水かお茶だよ!初っ端から酒を出すのなんてドワーフ族くらいだよ!」
「ガハハ!すまんすまん!ついな、つい!」
「親父ぃ…。すいません、本当に世間知らずの親父で…。」
ボルドは無意識で酒を出してしまったようで、それを水と思って思い切り飲んでしまったイツキは盛大に噴き出して咽せてしまった。
ナランツェツェグがボルドの腕をグーでごつっと殴りつける。
オチルは呆れたと言わんばかりに木のカップを呷りながらジト目でボルドを睨み付ける。
イツキがはっとしてララミーティアを見つめる。遅かった。
「えへへ、なんらかゆかいなきぶんになってきたわぁ!これもっとおかわりちょーらい!!」
ララミーティアがイスからガタッと立ち上がり、空になった木のカップでボルドの頭をコンコンと叩く。
ナランツェツェグとオチルはその様子を見てギョッとするが、コンコン頭をノックされたボルドは豪快に笑いながら自身のアイテムボックスに入っていた酒瓶を取り出す。
「ガハハ!ララミーティア氏はいける口だな!?よしっ!盛り上がってきたなっ!!今日はとことん飲むぞ!」
「とことんのむぞーっ!おーっ!!こんなちいさいやつじゃなくて、ビンでもタルでももってこーい!!あはは!!!」
ナランツェツェグが心配そうにイツキに耳打ちする。
「あの、ひょっとして…。」
「極度の酒乱なんです…。すいません、こうなるともうどうにもなりません…。」
「あ!あ!あ!いいことひらめいた!!しょうかん!えーる!!」
ララミーティアは部屋中にかつてイツキが召喚していた大量のジョッキに入った生ビールを召喚してしまう。
一転して床に足の踏み場が無くなってしまった。
ボルドは狂喜乱舞と言った具合で盛大に盛り上がり出す。
「こりゃ凄い!!ここは楽園か!?ガハハ!!みんなじゃんじゃん飲め飲め!!おい、オチル!外からみんな連れてこい!!ガハハ!!夢みたいな光景だぞおい!ガハハ!!」
「ま、まぁ確かにこりゃ飲みきれないな…。」
そういうとオチルはジョッキを倒さないようにそろりそろりと家の外まで出てゆく。
ナランツェツェグとイツキもとりあえず近場にあったジョッキを置けるだけテーブルに置いてゆく。
ボルドとララミーティアは競うようにして次々とジョッキを空にしてゆく。
「なんら!しょーぶかぁ!?まけないぞー?」
「ガハハ!腹がはちきれるまで飲むぞ!!」
「はちきれても、わらしがまほーでちょちょいとなおしてあげちゃう!」
「ガハハ!とことんやるぞ!」
「とんとこ!とんとこ!あはは!」
ナランツェツェグが心配そうにイツキに話しかける。
「あの…、ララミーティアさんは大丈夫ですか?」
「そのうち眠くなって唐突に寝ると思います。健康面で何か影響がありそうな感じではないのですが…、何か本当にすいません。」
イツキが空になったジョッキと床に置かれたビールが入ったジョッキを交換しながら済まなそうにして言う。
ナランツェツェグもイツキと同じくジョッキを交換しながら笑う。
「この里じゃよくある光景だから気にしないでいいですよ!あぁ、もういいや!今日はもう無礼講だね!イツキさん、飲もう飲もう!」
段々交換が面倒になってきたナランツェツェグがジョッキを手に持って豪快にゴクゴクと生ビールを味わう。
「かぁーっ!!こりゃ美味い!!」
「ガハハ!美味いなツェツェ!!ツェツェもドンドン飲め!!」
イツキもその様子を見て苦笑いを浮かべ、近くにあったジョッキを一気に煽る。
「あーっ!確かに美味い!やっぱりビール美味いなぁ!」
「ガハハ!今日は良い日だな!」
「イツキもどんどんのめのめー!あはは!たのしいたのしい!」
ララミーティアはイツキの頬に熱烈な口づけを送る。
やがてオチルが数名のドワーフを連れて帰ってくる。
数名のドワーフ達は家の中の光景を見ると目の色を変えて狂喜乱舞しながら次々と飲み始める。
「今日はオボグ工房でタダで酒が飲めるぞ!!みんな来い!!」
「ウハハ!ボルド!!ありがとうな!!とことんやるぞ!!」
やがて家の中では収まりきらず、家の外でまで宴会を始めるドワーフとハーフリングが溢れかえっていた。
ララミーティアは上機嫌で里のアチコチをフラフラし、人を見かけてはジョッキを召喚して振る舞っていた。
イツキも初めはララミーティアを窘めていたが、里の人々の楽しそうな表情を見ているうちにやがてオードブルを召喚して併せて渡してララミーティアに付き添うように歩き回った。
「おら!なーにしらふでいるんら!!のめのめ!!しょーかん、えーる!!あはは!どんどんのめーっ!!」
「どうぞ飲んでください。これもついでに食べてください。あとそのコップも皿も差し上げますので!」
「ええっ!?これタダでいいのか!?ありがとよ!美人のねーちゃんとにーちゃん!!」
「おかわりはオボグ工房にありますんで!あーティア待って!!失礼します!」
そんな感じで里中練り歩く頃にはすっかり里は大宴会になっていた。
ボルドがイツキとララミーティアをカズベルクの里に連れて帰ってきた時から、ララミーティアのその希少性と、イツキの黒髪黒目の珍しさから、行商人や冒険者が噂していた『月夜の聖女』と『黒髪の守護者』とやらではないかとヒソヒソ噂されて居たが、ララミーティアが上機嫌でタダ酒と料理を振る舞って練り歩いたお陰で、カズベルクの里では酒を振る舞ってくれる『酒の聖女』と、味わったことのないような美味しい物を振る舞って『食べ物の兄ちゃん』として完全に浸透してしまった。
「あはは!!!こーんなゆかいなひはないわ!!おーいみんな!!!いまから、このわらしが!!すっごーいきれいものみせてあげるからついてこい!!!あはは!!こいこい!!」
「ちょちょティア!そんなフラフラしながら危ないよ!」
ララミーティアが何の魔法を使ったのか、里中に聞こえる声でそう叫ぶと、フラフラとしながら上機嫌で里の外へと歩き始めた。
イツキも慌ててララミーティアの後をついて行く。
後から大勢のドワーフとハーフリングが酒を片手に『何か始まるらしい』と口々にああでもないこうでもないと話し合いながらゾロゾロついて行く。
外へでると、まだ夕方ではなかったが大分日は傾いていた。
ララミーティアがクルッとついて来た大勢の方を向くと、ニコニコしながら聖女の十字架を取り出す。
「わらしここすっごーいきにいっちゃった!!らから!せいじょのちからみせてあげる!すごいのいくぞぉ!?」
ララミーティアがそう言うと聖女の十字架を持ったまま両手をかざして広範囲を浄化してみせる。
見ていたカズベルクの里の住民たちは大盛り上がりだ。
その反応に益々気を良くしたララミーティアは地面に両手をついて魔力の流れの正常化を行う。
カーフラス山脈のあちらこちらから光の柱が出てきて歓声と口笛がララミーティアを唆す。
「わらしは『つきよのせいじょ』ららみーてぃあよ!!」
ララミーティアは聖女の十字架をバッと天に向かってかざし、空に向かって白い光の矢を無数に放ってみせる。
白い光たちはやがて四方八方へとまるで花火のように散っていった。
日中でも分かるほどに眩しくも優しい光だった。
カズベルクの里の住民たちはカーフラス山脈から上がる光の柱に、空で舞い散る光にと、その幻想的な光景に歓声も口笛も忘れて見入ってしまう。
「きょうからここはわらしの、おきにいりでーとすぽっとよ!!!ねえ、イツキー?すきすき!!」
完全に油断していたイツキはララミーティアの両手によって顔をガシッと捕まれて、そのまま熱烈な口づけを貰う。物凄く酒臭い。
カズベルクの里の住民たちも漸く我に返り、辺りは物凄い歓声に包まれた。
その後宴会は夜遅くまで続き、ララミーティアは眠ってしまうどころか益々上機嫌になり、オボグ工房の前で先程オチルにプレゼントした酒の瓶を大量に召喚し、オボグ工房の前はまるで歳末助け合いの炊き出し会場の様相を醸し出していた。
イツキはララミーティアの隣でおつまみの召喚と子ども達にもジュースとお菓子を配ることに専念していた。
そんな状況でとてもではないが、イツキはララミーティアを抱えて帰れる訳もなく、結局イツキはベロンベロンになって寝てしまったララミーティアを抱きかかえたままナランツェツェグの好意に甘えてオボグ工房で一晩泊まることになった。
案内された部屋に入ると、とりあえずララミーティアをベッドに横たえる。ララミーティアは幸せそうにニコニコしながら寝ている。
「…んー…、いつきぃ…。おさけ……そんな…のんじゃらめよ…。」
夢の中で自分のことを棚に上げて注意してくるララミーティアに思わず苦笑いをしてしまうイツキ。
無防備に眠っているララミーティアの隣へ静かに滑り込むと、眠っているララミーティアがイツキをそのまま抱きしめるようにして寝返りを打ち、イツキの頬に口づけをしたまま止まってしまった。
「まぁ…、たまにはこんなのもいいかな…。」
外からは未だ賑やかな声が聞こえてくる。
イツキは愛おしそうにララミーティアの髪を撫でつけ、眠っているララミーティアに口づけて眠りにつくのだった。
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