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12.威力

先程まで世界がどうだとか壮大な話に巻き込まれていた2人だが、天啓が終わった後の静けさは何となく気まずかった。

そんな気まずさを誤魔化すかのようにイツキの腹がぐぅと鳴る。


「今日は私のところで何か食べる?大したものは用意できないけど、ご馳走するわ。」

「おお、この世界に来て初めての人が作る料理だよ!遠慮せずご馳走になろうかなー。」


そうして2人はソファから立ち上がり、ララミーティアの小屋へ向かう事にした。

ララミーティアがふと外に目をやると、遠くの茂みから狼が一頭顔を出しているところを見かけた。


「…ウルフね。ほら、あそこの茂み。」


ララミーティアが指さす方向に目をやるイツキ。


「本当だ。この距離から見ると、ただの大型犬に見えるなぁ。あれは魔物?」

「ええ、弱い部類になるけれど一応魔物よ。体内から魔核が出てくるわ。それにしても家の中からこんなに見やすいのは便利ね。おなかも減ったし、解体するには今日はもう遅いから、仕留めたらアイテムボックスに閉まっておきましょうか。外に出ると気がつかれるから、中から仕留めましょう。イツキは扉を開けてくれるかしら。」


そういって弓と矢を用意するララミーティア。


「じゃあ扉を開けるね。」


そういってイツキが扉に近づいて扉を開けたその時、茂みにいたウルフ目掛けてどこからともなく光が数発音もなく飛んでいった。ウルフはその場で倒れてしまった。


「へぇ凄いな…!これはティアの魔法?」

「…わたし、まだ何もしてない…。」

「と、とりあえず外にでてみようか。」


2人が恐る恐る外にでてみる。


イツキがふと小屋の上を見てみると、ドーム型の頂点にいつの間にかタレットのような物が設置されており、グルグルと旋回しているのが見えた。


「あれだ!多分あのタレットが撃ったのかも。」

「たれっと?あの黒い棒の先から光が出たの?」

「うーん多分ね。この小屋の機能なのかな、説明不足過ぎるんだよなぁ…。」


2人があれこれ考察をしているうちに、再びタレットから光が数発飛んでいった。

目をやると先程のウルフのあたりに、ウルフの死骸が増えていた。


「これは便利ねぇ、勝手に魔物を捜して撃つ武器なんて見たことがないわ…。」

「便利だね…。でも勝手に倒してくれるのはいいけど、乱獲になって生態系に悪影響はないのかなこれ。朝起きて死骸がゴロゴロなんて嫌だな…。」


死骸に向かって歩きながらイツキが気がかりなことを呟く。


確かに毎朝増える死骸を回収して回るなんて日課は、想像するだけでげんなりする。

しかしララミーティアは明るい表情で「確かに嫌ね」と言った。


「大丈夫、ここは開けている分、そこまで魔物は来ないわ。」

「何となく広場というと寄ってきそうな気がするけど、なんで?」

「魔物や動物にとってこの広場は何もない癖に目立つの。魔物も余程強くない限り、わざわざ危険を冒してまで目立つ場所にノコノコ現れないわ。イツキの小屋も早めに隠蔽魔法で隠してしまいましょう。一帯を隠蔽してしまえばますます近寄る魔物は滅多に来ないと思う。」


ウルフの死骸を回収しながらララミーティアがイツキに提案をする。

確かに隠蔽魔法でさっさと隠してしまった方がいい。

イツキは小屋に向かって隠蔽魔法をかけて存在を隠してしまう。


しかしここでふと疑問が頭の中に浮かぶ。


「これさ、お互いにお互いの小屋は見えるように出来ないの?」

「出来るわ。隠蔽するとき、そうね…分かりやすく言うと、隠蔽させたくない相手と仲良く一緒に過ごすイメージを浮かべながら隠蔽魔法をかけるの。そうすれば上手いこと隠蔽魔法がかけられるわ。詠唱するだけでは出来ない応用編のようなものね。」


そういってララミーティアは自身の小屋に隠蔽魔法をかけた。

その時なぜかララミーティアは顔を真っ赤にして俯いていた。


イツキはララミーティアが何故そんなに顔を真っ赤にしながら隠蔽魔法をかけるのか意味がわからなかったが、いざ自分でやってみるとすぐさま顔が赤くなる理由が分かった。


(ティアと仲良く過ごすイメージ、あれ、うわっ、なんかこれ凄く恥ずかしいな)


2人で一緒にご飯を作ったり、お喋りしながら楽しくご飯を食べたり、ソファーでならんで座りながら微笑み合っている姿、やがて顔と顔が近づき…。


「あ!あの、これ…、うん。わかった…。」

「そ、そう。良かったわ…。これで私達以外にはただの広場にしか見えないわ…。うん…。」


お互い気まずくなってそっぽを向きつつ言葉を繋げる。

ララミーティアがその場の空気を変えるようにイツキに提案をする。


「明日はこのウルフを処理しましょう。肉は食べられるし、魔核はそのまま火魔法か水魔法でも込めて、毛皮は処理すれば売ることが出来るわ。」


地球では牛や豚の大腸や小腸をホルモンとして食べたりもしたが、流石にウルフのホルモンはどうなんだろうと考えるイツキ。


(内蔵系はそんな素人が食べれるように処理出来るものなのかな、案外簡単に処理してしまうのかもしれない。地球でも趣味で猟をしている人がホルモンをお裾分けする事だってあった気がする)


結局ララミーティアに内蔵について尋ねる事にする。


「へぇ、内臓とかはどうするの?」

「人族の街では食べる部位もあるらしいけど、内蔵は解体の時に傷つけないように慎重に取り出して森の中に置いておくの。」

「野生動物とか魔物の餌?」

「そうね、内臓は処理が面倒だからそうするわ。食べるのは専ら動物だけれど、そうして森の生き物に還元する事で命を無駄にしないの。内臓を傷つけないのは、傷が付くと肉に臭いが移って臭くなって美味しくなくなるからよ。」


ララミーティアは「凄く臭いのよ」と言って顰めっ面のままでイツキに微笑みかける。

表情豊かで、そんな所も可愛いなとぼんやり見つめてしまうイツキ。


「ここではとりあえず革をなめし液に浸けて乾かして完成させることもあるけれど、除脂するだけで魔法で凍らせて行商人に渡すこともあるわ。革目当ての人は、何か革の処理の仕方に自分なりの拘りがある人が多いみたいで、内臓だけ取った状態で凍らせて丸ごと売るのが一番楽だし、行商人も捌きやすいみたい。」


ララミーティアはかなり手慣れているらしく、説明しているその表情もどこかあどけなくて得意気だ。

しかしそんな得意気な表情の中でも、長い睫毛が伏せがちになるたびに色気を漂わせ、小さくて控え目な唇は何も塗っていないだろうと思われるが、時々艶めいた印象を与える。

こんなにも与える印象は魅力的なのに、なぜ彼女は忌避されるのだろうと、イツキは途中から考えてしまう。


「…ねぇ。ねえってば。」

「…ん?聞いてたよ!」


先程渡した杖の先で地面にガリガリと説明用の絵を描きながら、ララミーティアが声をかける。

途中から違うことを考えていたイツキは慌てて意識を元に戻す。


「あの、そんなにじっと見つめないで…。」


途中からずっとイツキの視線を感じていたララミーティアは段々気恥ずかしくなり、胸が締め付けられるような不思議な気分を覚えた。


「あ…、いや!ごめん。時間はたっぷりあるし、こういうのってやってみたかったから楽しみだよ。」

「ふふ、そうね。私も誰かと何かをやるなんて凄く久しぶりだから楽しみ。」


忌避されていると聞いていたので、意外な発言だなとイツキは思ったが、確かに誰かに教えられないと出来ることではない。

ララミーティアにも師匠みたいな存在が居るんだなと思うイツキ。


「誰か師匠みたいな人が居たの?」

「ええ、私を忌避しない数少ない人よ。もう歳で亡くなってしまったけど、彼女は私を拾って、彼女の持っている全てを私に教えてくれたわ。不器用な人だったけど、この悪意に満ちた世界でも独りで生きていける術を与えてくれたの。私の名前もその人が付けてくれたのよ。」


ララミーティアは遠い昔を思い出すよう切ない表情を浮かべて薄く微笑んでみせる。

人差し指を口元に持って行き、頭を少しだけ横に倒してイツキに告げる。


艶めかしいその仕草に胸が高鳴るイツキ。


「後でゆっくり話しましょう。2人のこれまでの事。」

「ああ、楽しみにしておくよ。」


(天然なのか…、魔性の女、ってやつだね…)


イツキは心の中でブツブツと独り言を呟くのだった。


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