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96.おもてなし

夜を待たずしてイツキとララミーティアはシモンの家にて宴の準備を始めた。 


食べ物に関しては、酒の肴に合うものというより、この世界の人達に割と人気だった物をララミーティアが挙げていき、イツキがそれらを酒に合うかは一旦置いて、次々と召喚していった。


ラインナップは唐揚げ、フライドポテト、枝豆、ハンバーグ、エビチリ、豚カツ、八宝菜、シーザーサラダ、チーズ芋餅、レタスチャーハン、かなり滅茶苦茶なラインナップだが、ちょっとずつ摘まんでもらえばと、兎に角片っ端から召喚していった。


焼き鳥やステーキなども人気と言えば人気なのだが、こちらの世界でも肉を焼く料理は普通にあるし、イツキはそこまで高級な肉を食べていた訳ではないので割愛した。

寿司や刺身はやはり生魚という事で抵抗感が強い人が多く、今回は流石にと言うことで見送った。


酒に関してはララミーティアはさっぱりなので、イツキが片っ端から赤ワイン、白ワイン、ラム酒、日本酒、梅酒、ウイスキーに関してはスコッチやアイリッシュやカナディアンなど種類は気にせず様々な銘柄を。

焼酎はイツキは専らイモ焼酎派だったので、これもイモ焼酎の様々な銘柄を。

後は瓶ビールを大量に召喚していった。

カクテルに関しては勝手な偏見により、ジュースのような酒は飲まないだろうと結論づけ、割愛した。


今回アーデマン辺境伯だけをもてなすのも悪いという事で、外で野営する羽目になってしまった護衛や使用人達にも、同じようなラインナップを用意して、差し入れすることになった。




シモンの家にて、イツキとララミーティア、シモンとアーデマン辺境伯であるラファエル、執事のポールという五名で食事会が始まった。


ポールは「私は… 」と言って遠慮というか職務というか、とにかく参加しないで控えていると言って聞かなかった。

しかしラファエルが「折角の気を使わない宴も仏頂面で素面の奴がボンヤリ立っていたら楽しくないだろうが」と一喝し、ポールも渋々参加と言うことになった。

イツキやララミーティアも「この集落は絶対に安全だから」と何度も念押しをし、どうにか五名で実施する運びになった。


ラファエルは流石貴族だけあるからか、豪快に笑ったり喋ったりしつつも所作はとても美しかった。

普段から見ているわけでは無かったので気がつかなかったがシモンの所作もどこか上品で、執事のポールも当然の事ながらテーブルマナーの先生のようにカッチリしており、イツキやララミーティアは思わず見ほれてしまう程だった。


ラファエルとポールはまるでグルメレポーターのように口にした物の感想を述べていった。

それが楽しかったらしく、ララミーティアは終始興味深そうにラファエルとポールが述べる料理の感想に聞き入っていた。


それにしてもこの世界の人は滅法酒に強いようで、あらゆる酒をいわばちゃんぽん状態であれこれ飲んでいた形になるが、ラファエルもポールも顔色一つ変えずに酒を満喫していた。

シモンが酒に強いのは集落の宴で見ていたので知っていたが、今の所酒を飲んで豹変したりするのはララミーティア以外では1人も見たことが無かった。


なお、ランブルク王国で広く飲まれている酒は主にエールが主流だそうだ。

イツキが驚いたのはこのエールと呼んでいるものがかなり地球のビールと似ている点だ。

ランブルク王国の北の方ではホップ栽培が盛んらしく、文明レベル的にはエールの製造過程でホップが入ってなくても何ら不思議ではないが、エールに関してのクオリティはホップが入っているせいなのか中々の物のようだ。

ホップが入っている以上、この世界のエールはビールと呼んでも差し支えはないだろう。


とは言え地球産のビールの品質には到底太刀打ち出来ず、ラファエルやポールも瓶ビールを大絶賛していた。

ランブルク王国の貴族はエールも飲むが、国内で作られるりんご酒をよく飲むらしい。

ワインについては大陸の南側の国から輸入される物に頼る形となってしまい、結果高くつくようで全く飲まないわけではないが普段あまり飲むことはないようだ。

ワインも然りだがリンゴ酒も中々に高価なものらしく、庶民は専らエールを飲むらしい。


ララミーティアはうっかり酒を飲まないよう常にイツキの召喚したジンジャーエールを飲んでいた。

イツキも酒は強い方だと思っていたが、流石にこの世界の人達のペースには合わせられず、途中からはララミーティアと同じく専らジンジャーエールを飲んでいた。




イツキとララミーティアは一旦本邸に帰ったが、ラファエルはそのままシモンの家に泊まることになった。

翌朝、流石に多忙を極めているのかラファエル達は早々に帰ることになった。

なんとラファエルもポールも中級ウィンドウ魔法が使えるらしく、それならばと暫く数年は酒には困らぬような量の様々な酒を持たせることにした。


「イツキ殿、ララミーティア殿、どうかシモンをよろしく頼む。」

「この集落に居る以上は絶対安全なのでどうか安心して下さい。」

「またいつでも来てね。歓迎するわ。」


ラファエルは人々の前ではきっちりとした貴族らしい所作で振る舞っていた。

イツキとララミーティアに一言礼を言うと、シモンに向かってうむと一つ頷き、来たときの馬車に乗り込んでいった。

そうしてミーティア集落へ初めてやってきた貴族のおもてなしは無事完了した。




見送りが終わった後、イツキとララミーティアは遠くなってゆく馬車を見つめながらぼんやりと呟く。


「しかしさぁ、ラファエルさんは兎も角としても、ポールさんも中級ウィンドウ魔法が使えるってことは強いって事なんだよね。ステータス見ておけば良かったなぁ。」

「ふふ、そうね。まさか強いと思わなかったものね。あんなキッチリ着込んで、いざとなったら戦えるのかしら。」


2人のポール談義にシモンが補足を入れる。


「ポールは身体強化を駆使して体術で戦うスタイルです。一通りの属性の魔法は使えますが、詠唱に気を取られるのが嫌なようで、実践ではあまり魔法は多用しません。」

「わぁ、格好いいなぁ!あんなバッチリ着込んでて、いざとなったら拳で主を守る!くぅー!格好いいなぁ。」


目をきゅっと瞑って拳を握るイツキにシモンは更に続ける。


「アーデマン辺境伯家の使用人は侍女やメイドもスカートの中にナイフを隠していますよ。何があっても自分の身くらいは護れるのが採用条件です。」

「ふふ、らしいわね。」

「ですね。見習いは武術も習うなんてアーデマン辺境伯家くらいです。」


シモンが苦笑いを浮かべる。

そして咳払いをしてからイツキとララミーティアに数枚の紙を渡してきた。


「エルデバルト帝国から入手したお二人の調査結果や、先日の殴りこみの証言の写しのようです。諜報員から回ってきた物を写したものとの事です。今更ですが良ければ目を通してみますか?」

「お、そんな書類みせちゃっていいの?」


イツキが質問しつつも紙を受け取った。


「ええ、父上から渡された物です。こんな集落に置いておくよりお二人に持っていていただいた方がいいでしょう。ま、大したことは書いてませんでしたし。」


イツキとララミーティアが紙に書かれた事を読んでいく。

中にはララミーティアの生い立ちから近況についてだけでなく、イツキやガレスやルーチェの事までが記載されていた。


「へぇ、私そういう名前の町に居たのね。本当よく調べるわねぇ。」

「ティアだけでなく、ガレスやルーチェまで駒にしようと画策してたのか…。何というか無謀だねこりゃ。」


イツキが余りの杜撰な計画に思わず鼻で笑ってしまう。

ララミーティアは紙を読んで唸ってしまう。


「奴隷を使って結界内部に間接的に攻撃を仕掛けてくるなんて抜け道、よく思い付いたわねぇ。確かにそれだと『城塞の守護者』には引っかかってこないわ。奴隷には敵意が無いものね…。」

「人を道具だと思っていないと到底出来ない芸当だね。エルデバルト帝国が大人しくなるのであれば、まぁ良いけどさ。」


イツキは紙から視線を上げ、遠い空を見つめる。


「ガレスとルーチェ、大丈夫かな…。エルデバルト帝国では一応犯罪者扱いなのか…。」

「2人とも重力魔法が使える魔剣を渡しているから、何かあってもきっと大丈夫よ。この紙にも書いてるとおり、やっぱり重力魔法に対抗するのは不可能よ。」


ララミーティアはイツキに向かってウインクをする。イツキは眉を八の字にして肩をすくめる。


「まぁそうだよね。実際城の中にいた兵士とか魔法使いも拍子抜けするほど弱かったよ。」

「人族はすごい数で集団を作れるから厄介なだけで、普通の人達はどうしても弱いわ。テッシンやキキョウも居る以上間違いなく脅威ではないわね。下手するとハイジとリュカリウスも居るものね。」


ララミーティアがそう言うと、後ろにいたシモンも同調する。


「暫くエルデバルト帝国は亜人の取り扱いでゴタゴタすると思いますので、ガレス君やルーチェちゃんの事で何か心配なことが起こることは無いと思いますよ。エルデバルト帝国も今はそんな暇はないでしょう。」


シモンの言葉にイツキも納得し、暫く紙を眺めていた。

ララミーティアは自身の記載についてぽつりと零す。


「両親の記憶も無いし、他のダークエルフも見たことがないから何となく分かっては居たけれど、やっぱり私の出世は謎のままなのね。奴隷商人も亡くなっているんじゃ真相は闇の中ね。」

「手詰まりか…。やっぱり気になる?」


イツキがララミーティアに聞いてみると、ララミーティアは肩をすくめてみせた。


「知れるなら知っておきたい気もするけれど、調べてまで知ろうとは思えないわ。今が幸せだからかしらね。自分の過去よりイツキの事の方がもっと知りたいわ。」


イタズラっぽく微笑むララミーティア。

イツキはララミーティアにそれ以上何も聞かず、2人は遙か遠い空を眺めるのだった。


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