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90.新たな住人

ミーティア集落にやってきた奴隷は全部で46人。

その全ては女子供のみで構成され、そのうちの殆どが動物に近い獣人族、ハーフリング族や単眼族にサキュバス族など珍しい種族がごく少数混じっていた。


亜人系の中でも桁違いに強いエルフ系の種族やリュカリウスのようなやたら強い魔人系種族以外の亜人で鍛えていない一般庶民の場合、鍛えている人族の集団には抗えない事が多く、今居る獣人系種族達もその殆どがエルデバルト帝国の奴隷商人によって里丸ごと狩られて連れ去られてしまった口のようだった。


解放された奴隷達の集団の中で皆の意見を取りまとめていたハーフリング族のアン曰く、元々全員同じ奴隷商のところで売られていたのだが突然エルデバルト帝国の兵士が奴隷商人の元にいた在庫を50人程買って、何も告げられないまま首輪や腕輪を付けられ、ひたすら馬車に揺られていたらしい。


なぜ女子供だけなのかという点について、まず亜人は人族に見た目が近ければ高値で売れる。

しかし動物の方に似ている者について、男は労働力になるが、女や子供は売れ残る傾向があるらしい。

ハーフリングは見た目がずっと子供なので売れず、単眼族は人族と瓜二つだが目が一つという事で毛嫌いされ、サキュバス族は種族的に女しか生まれず種族特性として魅力関係のスキルを所有しているので、奴隷として購入しても人族のような弱い種族は簡単に籠絡されてしまい、自身が不利になるのを恐れられ意外と人気がないようだ。


ちなみにアンも見た目はガレスやルーチェと同じか年下くらいに見える子供だが、既にイツキたちより少し年下というくらいの年齢らしい。

アンは綺麗なブロンドのロングへアで目の色は緑色をして大人びた表情をしているが、少しとがっている耳を隠して無邪気に振る舞われてしまえば人族の子供と言われても判断が付かない。


要するに亜人の男は労働力、人族に似ていて見た目がよければ貴族や豪商の夫人のような者に高く売れ、女は人族の男に都合が良ければ人気が出て高く売れ、都合が良くない場合は売れ残る。

そう言うわけで今回買われたのは売れ残りだったので男は全く居らず、女と子供しか居なかったという事らしい。

アンが奴隷事情を良く知らないイツキに淡々と説明をしてくれたが、イツキはそんな人を人と思わない価値観のエルデバルト帝国に益々嫌悪感や怒りを覚える。

しかしララミーティア曰くエルデバルト帝国ではごく普通のことらしい。

他にも奴隷制度がある国は数多く存在しており、この大陸の人族国家は大抵奴隷という存在を容認。

これまで散々イツキも見聞きしていたように亜人を差別するのはごく当たり前との事だ。


「亜人は人じゃないのか…。道具みたいに扱って、扱われる方の気持ちとか少しでも考えないのかな…。普通は罪悪感に押しつぶされそうになると思うんだけど…。」

「ご飯を食べるときに野菜や肉に対して罪悪感を覚えないのと一緒。彼らの中では当たり前の事なのよきっと。」


ララミーティアの言葉に奴隷達の先頭を歩いていたアンが反応する。


「仰るとおりですね。ペットも移動手段としての馬を飼うのも、普通は罪悪感は覚えません。ペットや馬の方が可愛がられるかもしれないですけどね…。それらと同じ感覚なのでしょう。」

「そんな!そんな…。…ちなみに年配の人は居ないの?よく分かんないけど、みんな若そうだよね。」


イツキの言葉に暫く誰も反応しなかった。重苦しい雰囲気に何となくさっしてしまうイツキ。


「まさか…。」

「通常奴隷狩りは老人や病人は連れて行きません。ですのでその場で…。」


漸く口を開いたアンの言葉にイツキは言葉を失って黙りこくってしまう。


人族の生活圏から遠く離れてひっそりと平和に暮らしていても、ある日突然訳も分からず奴隷狩りによって里が襲われて全員商品として連れて行かれてしまう。

里の老人や病人はその場で皆殺しだ。

本当にそんな事が平然と行われているのであればこの世は間違いなく地獄だ。


「まぁ、今はエルデバルト帝国憎しよりも保護した皆の生活、よ?私達も忙しくなるわ。メソメソはしていられないわ。ね?」


集落に向けて歩いてる途中で元奴隷たちを連れながら悔しそうに俯くイツキを勤めて明るく励ますララミーティア。

イツキは悔しそうな表情でララミーティアの方を見ると、周囲の視線を気にせずそのままララミーティアを抱きしめた。


「ごめん…。」


謝るイツキにララミーティアは耳をピコピコさせながら照れ臭そうに微笑む。


「恥ずかしいわ。でもそうやって思いやれるイツキが大好きよ。さあ、忙しくなるわ。ね?私の愛しい旦那サマ?」

「そうだね、ガレスとルーチェの変わりに頑張ろう。」




集落の入口ではシモンを先頭に住人たちがイツキたちの様子を心配そうに見ながら待っていた。

イツキが申し訳無さそうに先頭にいたシモンに説明しようとしたとき、シモンから先に奴隷達向かって話しかけた。


「月夜の聖女を信仰する町、ミーティア集落へようこそいらっしゃいました。我々は皆さんを心より歓迎します。住むところも食糧も十分にあります。もう大丈夫です。皆さんは我々の仲間です。」

「シモンさん、良いんですか?」


イツキは驚いてシモンに聞き返すが、シモンはにっこりとしながら返事を返す。


「お二人がどう思い、どうしたいのかくらい私達だって分かりますよ。それに、この集落はガレスくんとルーチェちゃんがここまで発展させたも同然です。彼らもまたお二人の意志を受け継いでいます。絶対に受け入れますよ。そのために大量に空き家を作っていたんです。」

「ありがとうね。私達も全面的に協力するわ。」


そうして住人達が次々に前に出てきて元奴隷たちの手を取ったり抱きしめたりして、手分けして各家庭に連れて行ったりして世話を焼き始めた。


基本的に子供単独というパターンは無かったが、一人か、母親に子供が一人か二人などのパターンしかいなかった。

空き家の大きさ的に、後から建てた石で出来た建物は一人で暮らすには少々広すぎた。

とりあえずはララミーティアの小屋のコピーを中心にあてがって行った。

一人や二人で暮らすには最適な大きさで且つ最初から必要な家具が全て揃っているので、ずっと空いていた小屋達はあっという間に埋まってしまった。


それでも10棟程不足したので、ララミーティアとシモンとで相談し、特に何を建てる予定もなかった空き区画に召喚で建てていった。

イツキが心配して小屋の中を確認したが、ミスリルソードとミスリルレイピアはちゃんと最初から無かったので、ベルヴィアがちゃんと仕事しているんだなと思って感慨深くなるイツキだった。


集落の事はララミーティアとシモンに任せ、イツキは先程のハーフリングのアンとサキュバス族の女を連れて馬車のところまで事情聴取と調査、後片付けに向かった。

集落からもミールの町からの初期の移住者であるオスカーという20代中盤くらいに見える男が同行した。

こちらの世界でよく見かける栗色の髪に目の色も同じ栗色で、日頃から畑仕事やリュカリウスやララハイディの鍛練に参加していたからか筋肉質に見える。

オスカーは真面目な好青年といった印象の独身者で、集落の中でも率先して人の手伝いなどを進んでしている特に評判のいい男だった。

サキュバス族の女性はエメという名前で見た感じオスカーと同じくらいの20代中盤くらいに見える。

髪の色は薄い紫色で、瞳の色はピンク色と、ミーティア集落やミールの町では見かけなかったような色をしていた。

サキュバス族は特徴として頭に小さいコウモリの羽のような羽が生えているのと、背中からも同じような羽を生やしており、後は人族との違いは特になかった。


一同が馬車に到着すると、早速馬車の状態をオスカーとエメが確認し始めた。


「イツキさん、この馬車も馬もそのまま使えますよ。集落の中に馬小屋を作って集落でこの馬達の面倒を見るよう提案します。いやぁ、それにしてもよく訓練された馬達です、とても賢い顔をしていますし人懐っこいです。」


馬を撫でるオスカーに促されてイツキも恐る恐る馬を撫でる。

地球での経験も含めて馬に触るのは初めてなイツキ。

馬は大人しく、イツキを一瞥するとそのまま身を任せているようだった。


「しかし間近で見ると大きな馬車だなぁ。これが粗末な馬車なんだ?馬車の良し悪しはよく分かんないなあ。」


イツキから見ればよく漫画なんかで見かけるオーソドックスな馬車だ。

イツキは頬をポリポリかきながらそう呟く。

オスカーは説明を続ける。


「馬車と馬とで明らかに格が違っていてチグハグですね。馬車も一見すると粗末な馬車ですが、近くで見ると足まわりがかなり上等なものでしっかりしているのが分かります。上物と足まわりの格が全く違います。よくよく見てみると本当に違和感が凄いですね…。ぱっと見ボロ馬車だったから手直しが必要だと思ったけれど、そのまま使えますね。馬に関しても体つきも毛並みもいいですし、こんなボロ馬車をひくというよりは、貴族家の立派な馬車を引く方が似合いそうですね。よしよし、賢いなーお前たち。よしよし。」


オスカーはそう解説しながら馬を頭を抱き抱えるようにして撫でる。

馬はオスカーの胸に顔をすり付けている。

エメもオスカーの隣で馬の首を撫でながら口を開く。


「馬車も帝国でよく見かける普通の幌付きの馬車です。作物などを大きな町に納めに行くときなどに役に立つと思います。中は汚いですが、洗浄魔法でどうにでもなる感じです。馬に関しては多分帝国の軍馬かもしれません。あんな奴隷商人のような身なりをしていましたが、私が感じた限りでは話し方の感じや指示命令系統が商人のそれではありませんでした。」

「やっぱりそうなんですね。この馬たち、本当にいい馬ですよ。お利口だな、よしよし、お疲れ様。可愛いヤツめー、後でたっぷり野菜をやるからな?ここの集落の野菜はうまいぞー。仲間にもここは期待できそうだって伝えておいてくれよ?な?はは!」


オスカーが馬の額や首のあたりを撫でながら話し掛ける。

イツキは博識な2人の話を聞いた上で改めて馬達や馬車も見てみるが、本当に粗末な馬と馬車を見たことがないので結局イマイチよく分からなかった。


「ふーん、俺には馬車も馬も、善し悪しは…やっぱよく分かんないなぁ。でも馬は本当にお利口そうな馬だね。間近で見ると目がつぶらで可愛いな…。」

「イツキさん、もっと撫でてみて大丈夫ですよ。ほらほら、お利口だってさ。良かったなー?はは、本当に可愛いなぁ。」


エメはオスカーが優しく馬に語りかける様子を見て静かに涙を流しながら微笑んでいた。

それに気が付いたオスカーが慌ててエメに声をかける。


「えーと、エメ?ちゃん、どうしたんだい?」

「違うんです。私、助かったんだなって思って、今更になって…。あはは、すいません。」


エメは笑顔で誤魔化しながらあふれる涙を両手で何度も拭う。

オスカーはドギマギしながらも馬から離れてエメの背中を何度も優しくなでる。


「泣きたいときはたっぷり泣くといい。ここは大陸で一番種族が関係なく暮らせて一番安全な集落だ。俺達は新たな仲間を大歓迎するよ。」

「うう…。ありがとうございます。」


馬や馬車については良し悪しが全くわからないイツキは、エメを慰めるのも馬車もその辺全てをオスカーに全面的に任せることにしてそっと2人から離れた。


ハーフリングのアンは最後尾の馬車の荷台をゴソゴソ確認し、やがてイツキに声をかけてきた。


「イツキ様、これを見て下さい。随分杜撰な人達でしたね、帝国の紋章が入ったローブや武器が木箱に入ってました。帝国は何か狙いがあってこんな偽装をしてまでわざわざこの集落まで来たようですね。」

「みんなは帝国のどこから運ばれてきたの?」


イツキが馬車から下ろした木箱の中身をガサゴソ漁りながらアンに尋ねる。


「みんな帝都の外れにある奴隷商の店からそのまま連れてこられています。説明などは特に受けずに首輪と腕輪だけ無言でつけられて、この馬車に押し込まれました。」

「ふーん…、帝都ってどの辺?」


イツキが顔を上げてアンに質問すると、アンは暫く思案し、やがてエメやオスカーに話し掛ける。


「帝国の帝都はどの辺りか分かりますかー?多分あっちですよねー?」


エメはエルデバルト帝国方面を眺めつつ暫く考え込んで、北東の方を指差す。


「そうですね、多分そっちです。」

「そうだね、ミールの町があっちだからそっちで合ってると思う。」

「帝都は無駄に立派ですので、遠目から見ても分かりやすいと思いますよ。皇帝の威厳を見せびらかしたいのだと思いますが、見栄えにはやたら拘っているんですよ。」


オスカーもエメの意見に同意し、エメはイツキの方に顔を向けてそう告げた。

イツキは木箱と遺体をアイテムボックスに収納すると、その場にいた3人に指示を出した。


「…ふーん、ありがとうね。俺さ、ちょっと見学がてら装備品とか遺体を返してくるから、みんなはこの馬車を集落まで運んじゃって。オスカーくん集落の方も頼んだよ。馬小屋についてはとりあえずシモンさんとティアに聞いてみてね。」

「えっ!返してくるって…、凄く遠い…。」


アンがイツキに向かって話しかけている途中で、イツキは空高く舞い上がり、そのまま物凄いスピードで空を飛んでいってしまった。


その場に残されたアンとエメは目を丸くしてその様子を呆然と見ていた。

見慣れているオスカーはそんな2人に話し掛ける。


「イツキさんや奥さんのティアさんはよく分からないけれど、空を飛ぶ魔法が使えるんだ。いつもあんな風に魔境の森から来るし、すぐに見慣れると思うよ。」

「あんな魔法初めて見ました…。」


エメはポカンとしたままイツキが飛んでいった空を見上げる。


「私もです。私達、すごい人に助けられたのですね…。」


アンも呆然として立ち尽くす。


すぐに気持ちを切り替えて3人は集落まで馬車を誘導する事にした。




集落に戻るとオスカーはシモンとララミーティアを捕まえて事情を説明する。

ララミーティアはイツキが恐らく帝都まで言ったことに酷く動揺したが、すぐに気持ちを切り替えたのか、シモンと馬小屋の場所について相談し、ガレスやルーチェのように土魔法で簡易的な馬小屋を作り始めた。


(イツキ、大丈夫かしら…。心配よ…)


ララミーティアはエルデバルト帝国の帝都の方角を時折見つめては心の中でイツキの身を案じた。


面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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