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86.定例会2

「それでは今月の定例会を開催しまぁす。司会進行は私テュケーナが務めさせて頂ますぅ…。」

「ちょっと…、少しはシャキッとしなさい!いつまで経っても『ですよぉ。』とか『ますぅ。』とか、間延びしたそういう言葉。早く直しなさい。」


デーメ・テーヌの指摘に面倒臭そうに「改善しますぅ」とぶっきらぼうに言うテュケーナ。

ここは天界のデーメ・テーヌがメインで担当している世界のコントロールルームの会議スペース。

机にはデーメ・テーヌとテュケーナが並んで座り、対面にはベルヴィアと聖フィルデスが座っている。


「いつも面子は変わらないのですし、いいではないですか。」

「まーたそうやってテュケーナを甘やかして…、まぁいいわ。テュケーナ、進めて頂戴。」


テュケーナが早速定型フォーマットにデータを落とし込んだ資料を配る。


「魔力消費量は計画通り安定して推移してまぁす。相変わらずどの加護も予定通り満遍なく使用してくれていてぇ、えーとぉ、計画値通りに世界全体の魔力量は推移していまぁす。六年分のデータを落とし込んでシミュレートしてみるとぉ、当初見こんだ通りにぃ、五百年後には事件の前の水準近くまで落ち着くかなぁって思いますぅ。」

「何だかフニャフニャしていてイマイチ頭に入ってないわ…。まあわかりました。兎に角順調って事ね。」


デーメ・テーヌがため息をつきながらも了承する。

聖フィルデスは苦笑いを浮かべているが、ベルヴィアだけは真剣な表情でデータと睨めっこをしている。

デーメ・テーヌが聖フィルデスに話を振る。


「聖フィルデス、ミーティア集落の監視報告をお願い。」

「当初の計画はほぼ完成しました。強固な壁に覆われ、区画分けされた上に道も整備されて町の導線も完璧。住居も壁同様に強固な作りになっていまして、余程の上級魔法でもないと町には傷一つ付けられません。備蓄倉庫や集会場などにも手が回り、住人たちの自衛意識も非常に高いです。要になるガレスとルーチェの戦闘力は既に種族の上限に達しており、イツキ・ララミーティア・ララハイディ・リュカリウスの教えを受けて戦闘のセンスも非常に高くなっています。衣食住に困らない住人達による自発的な戦闘訓練などが町としての防衛力や積極性の底上げに貢献しています。」


聖フィルデスが一旦一呼吸を置いて更に報告を続ける。


「ガレスとルーチェの意識の誘導は問題ありません。彼等は出自が出自でしたので日々の言い聞かせ程度で済みました。決してイツキ・ララミーティアには過度に依存せず、ここまでこの調子で推移しましたので、今後も特に問題はないでしょう。住人達もガレスとルーチェを信頼し、大変良好な関係が築けていますので、きっと良い方向に事が運ぶかと思います。とても素直で可愛い子達でした。ひねくれる事無く真っ直ぐ育つでしょう。」

「凄く優秀な子達で本当に運が良かったですねぇ。」


テュケーナがにっこりと微笑みながら一言挟む。


「ええ。このまま進めばミーティア集落は問題にはなりません。」

「それで、シミュレートの方はどう?」


デーメ・テーヌがベルヴィアの方をみる。

ベルヴィアは真剣な表情で資料を見たままじっと考え込むようにしている。


「………。」

「ベルヴィアちゃん?」


デーメ・テーヌの呼び声にビクッと反応するベルヴィア。


「あっ、はい。えーと…。」

「シミュレート。」

「はいはい、今用意します…。」


考え事を誤魔化すように愛想笑いを浮かべながらアタフタウィンドウ画面を操作するベルヴィア。


「ベルヴィアちゃん、まだあの事を悩んでいるの?」

「だって…、他のエリアみたいにしないって事はないんですか?何もあの大陸まで…。」


デーメ・テーヌが眉を八の字にしてため息をつく。


「元からの決定事項です。そうやって周知してしまっているし、今更計画自体を『やっぱりやめます』は難しいですよ。何らかの形にはしないと。」

「そうかもしれないですけれど…。」


ベルヴィアは悲しそうに更にモゴモゴと言葉を重ねる。


「とりあえず以前聖フィルデス様の提案したティアちゃんのステータスの件については上限解放のみであればと言うことでようやく許可は降りましたので、早速上限解放しています。その上でシミュレートしてみると、大陸が消滅するとか、星がどうこうなるというような結果は以前に比べて出てこなくなりました。彼等の性格からして、こちらから加護の使い方について丁寧に説明さえすれば加護の回収は特段必要ないと思います。」


4人はシミュレート結果についての資料をしばらくじっと眺める。


「一旦危機は回避出来たと思っていいかしらね。私達も強情に当初の計画だけを追い求めている訳ではないわ。だからそんなにヤキモキしないで。そもそも当初と種族の分布がまるっきり変わっちゃって、今では殆ど居ない種族や完全に隠れちゃった種族もいるんですもの。ダークエルフもティアちゃん1人よ?私だってちゃーんと色々考えています。」


デーメ・テーヌの言葉にベルヴィアは少しだけホッとする。

聖フィルデスが口を開く。


「なお、恐らくですがイツキくんは言葉には出さずとも、ある程度感づいているかもしれません。最初の頃の定例会を見られたのは致命的でした。あれからしばらく私が様子を窺うように、彼らも私の様子を窺っていました。それでも何も言ってこないのは、本気でティアちゃんと仲良く暮らせていれば問題ないと思っているんだと思います。ある程度方針が固まったらいっそのこと打ち明けて協力を仰ぐのも手だと思います。」

「あの2人なら、ずっと2人で一緒に居れるよぉって言えば二つ返事で快く了承しそうですねぇ。そっちの方が確かに余計な心配もなくなるかもぉ。現地の管理人代行としてって感じでもいいかもですねぇ。」


聖フィルデスの意見にテュケーナもなるほどなと頷きながら同調する。

ベルヴィアもうんうんとしきりに頷き、その様子を見ていたデーメ・テーヌも「そうねぇ」と言ったまま考え込んでしまった。


「うーーーん。確かにそうなのよね。あの2人なら…。ちょっと真面目に検討してみるわ。なんせ前例が無いから時間はかかるけどね。」


デーメ・テーヌが観念したとばかりに肩をすくめてみせる。

テュケーナが賺さずベルヴィアに嬉しそうに声をかけた。


「ベルヴィアちゃん!やったわねぇ!検討してくれるってぇ!」

「ありがとうございます!」

「『検討してくれるってぇ!』じゃないわ!あなたも検討するんですよ!テュケーナ!」


呆れながらもテュケーナを叱るデーメ・テーヌはテュケーナのおでこをデコピンでピンと弾いた。


「痛っ!えへへ、やっぱり?」

「そんな舌出して『てへっ』てしてもダメ!色々検討するから忙しいなるわよ!」


デーメ・テーヌは困り顔でため息をはいた。


「それよりこれを見て。やっぱり気がついていますね。暫くは様子見していて貰いましょう。」


聖フィルデスがイツキとララミーティアの様子を全員の手元に共有する。

暫く画面の向こうの2人の会話を聞き入る一同。やがてベルヴィアが独り言のようにボソッと呟く。


「そうですね…。イツキ、そりゃ察しますよね…。ってわぁっ!消して消して!」


初めはアンニュイな様子で眺めいたベルヴィアだったが、やがて画面の中でイツキとララミーティアの熱い情事が始まり、聖フィルデスが慌てて画面を終了させる。


「わぁ!わぁわぁ!…えー…?」


テュケーナは消えてしまった画面に不満げに口をとがらせる。

聖フィルデスが顔を真っ赤にしながら口を開く。


「あの2人のリアルタイムの状況、これだからあまり見たくないんですよね…。」

「はぁ…。のんびり暮らしたいわね…。私もテュケーナがしっかりしていれば長期ログインして遊び、じゃなくて監視しに行くのに…。」


デーメ・テーヌは益々溜め息をついた。


「酷い!私だってぇ、デーメ・テーヌ様がもっとしっかりしてたらぁ!長期ログインして遊びに行けるのになぁ!デーメ・テーヌ様操作下手くそなんだもん!」


頬をぷくっと膨らませるテュケーナの頬を指でついて萎ませながら益々ため息が深くなるデーメ・テーヌだった。




テッシンとキキョウがやって来た日の夜。

部屋の明かりを消して2人でベッドに横になっていた時にララミーティアはふと自身のステータスを開いたかと思うとぼーっと画面を眺めていた。


「どうしたの?自分のステータスなんて眺めて。」

「うーん、最近変なの。」


ララミーティアがそういうとイツキにも見やすいよう身体を密着させてステータスウィンドウを見せる。


「ほら、ここしばらくステータスの上がり方が凄いの。」

「あー言われてみれば上がってるかも。でも不思議なもんなの?あっ、種族の限界ってやつ?」


イツキがそう尋ねるとララミーティアは頷いて同意してみせる。


「その通り。普通はある程度まで上がってしまうと、殆ど伸びなくなるものよ。ガレスやルーチェもそうだったでしょ?私もずいぶん前にそうなったはずなの。ハイジたちと鍛錬してた時だって全くって訳ではないにしても殆ど上がらなかったわ。」

「リュカリウスさんもハイジも言ってたもんね。ある程度まで上がると頭打ちになるって。俺はステータスが上がるとかそういうの無いからつまんないなぁ、眺める楽しみが最初から無かった。」


イツキが自身のステータスウィンドウを開き、困ったような表情で笑うとララミーティアもくすりと笑う。


「確かにそうね。最初は偶然かと思ってたんだけどね、とにかくここ最近はまるで成長期よ。偶然なんかじゃないわ。とっくに頭打ちになったと思っていたのに、鍛錬すればするだけステータスがぐんぐん上がっていくの。」

「上がりすぎると何か困ることってあるの?」


イツキの質問にララミーティアは暫く「そうねぇ…」と言って考え込む。


「魔力に関しては上がれば上がる程寿命が伸びるかしら?後は単純に強くなるってだけで、色々考えてみたけれど特にデメリットというデメリットはないのよねえ…。困らない…かしら?」

「なーんだ。じゃあ別に気にしなくていいね。」


ララミーティアは少し考えてからポツリと呟く。


「天啓…、聞くべきかしらね。」

「まぁあの人達の仕業で間違いないだろうね。必要になればあっちから何か言ってくると思うよ。それまで天界の手のひらで踊っているのも悪くないかな。対立しちゃっても、対抗手段なんて全くわかんないし。」


イツキが困った表情をしてララミーティアの頬にキスをする。


「そうね。ま、イツキは多分種族抜きにして相当長生きするだろうから、私も頑張って鍛錬してもっと長生きできるよう目指してみようかしら。」


ララミーティアが妖艶な微笑みを浮かべてイツキの頬にキスをする。

イツキはララミーティアを抱き寄せてララミーティアの頬にお返しをした。


「少しでも長く一緒に居たいね。元々居た世界ではさ、80歳とか90歳くらいまで生きりゃアッパレだったはずなのに、いざティアと一緒になると、例え遙か長くまで生きれるとしても心の中にこう、何かモヤモヤが残るな。なかなかの欲張りだね、こりゃ。」

「ふふ、同じ気持ちよ。」


イツキは天井をぼうっと見つめてぽつりと呟く。


「いつだっか、昔ベルヴィアが言ってたけど、俺どんな種族よりも長生きするらしい。だから一緒になれたのがティアで良かったよ。もしこれで相手が短命種だったとしたら、残りの数百年の人生を独りで過ごすなんて到底考えられないよ。」

「確かに考えられないわ。長命種と短命種があまり一緒にならない訳はそこにあるわね。最愛の人に先立たれて、残りの人生どうなるか?逆に最愛の人を残して先に死んで、その後最愛の人に他にいい人が出来て、自分が忘れられたら…。難しい問題ね。」


ララミーティアがイツキにしがみつく。


「何だか切なくなって来ちゃったな。俺たちなんてずっと遠い未来の話なのに。」

「ふふ、本当。でも切なくなっちゃった。だから強く抱きしめて忘れさせて?」


ララミーティアがクスクス笑いながらイツキの胸に耳を寄せる。

イツキに強く抱きしめられ、ララミーティアはイツキの胸の音をジッと聴いていた。


「イツキの胸の鼓動。大好きな音。愛しいイツキが今ここで確かに生きてるって感じるからかな…。胸が暖かくなる。」


ララミーティアは暫くイツキの心臓が打つ鼓動をじっと聞いていた。

ララミーティアの髪の匂いがイツキの鼻孔を刺激し、段々と心の奥底からグラグラと熱い何かがせりあがってくる。


「あら、早くなってきたわ。」

「そりゃあ早くもなるよ。大好きなティアの匂い、もっと感じていたい。」


2人は唇を貪り合い、長い夜は始まるのだった。

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