1.新米女神
初投稿です。
温かい目で見守って下さると嬉しいです。
「百草一樹様、気がつかれましたか。」
優しそうな声に、うつらうつらとしていた一樹はハッと目を開ける。
(ん……おっとっと。あー、やばっ……寝落ちしたかな……)
一樹はそう考えつつ、大きな伸びをしながら目の前に意識を向けた。
そして、目の前に広がる光景に、我が目を疑った。
(なっ……こ、これは……!!ええぇっ……?)
眼前に広がるのはただただ真っ白な空間の中。
そして目の前に佇んでいるのは西洋絵画の中で見た女神様のような、とびきりの美人。
古代ローマ人のような白いローブを身にまとい、テレビの中でしか見かけないような綺麗なブロンドの髪を流している。
「えーと、帰ってきて部屋の中に……?えーと、すいません。あの……ここ、どこ……ですか?」
夜遅くに会社から帰ってきて、着がえも早々にソファにどっかり座った所までしか覚えていない一樹。
頭を急速にグルグルとフル回転させるが、納得のいく答えは出て来そうもない。
一樹の格好はというと、仕事から帰ってきた時のまま。
半袖の黒いポロシャツにベージュのチノパンだった。
靴下は五本指ソックスな上、右足の親指に穴があいている。
夢のような光景ではあるが、自身が今、夢を見ているなという感覚はない。
(こ、これは夢じゃないぞ……!ら、拉致?いやいや、こんな身よりのないオッサンを拉致したって意味ないだろ。ひょっとして……し、死んだのか?あ、それはさもありなんだな……。あー、こんな事ならもっとマシな服装で……あぁ、勿体ぶらずに新しい靴下を卸すべきだったかな)
と、一瞬にしてグルグルと頭を働かせ、自身のお粗末な恰好に後悔した一樹。
しかしそれどころではない状況なのを思い出して、目の前美人の返答を待つ。
「あなたの世界に置きかえて分かりやすく言えば『天国』のような場所、と言うのが最も最適です。」
「はあ、天国、なるほどですね……。」
荒唐無稽な回答ではあるが、今は尤も納得のいく答えだった。
「私はこの空間の管理人をしております、名をベルヴィアクローネと申します。」
「ベルヴィアクローネ様……。天国……あぁ、俺……じゃなくて、私は死んでしまったってことですか?」
「ふふ、そのままの口調でいいです。名前もベルヴィアとお呼び下さい。ちなみに一樹様の仰るとおりです。あなたはお亡くなりになりました。」
目の前の美人が穏やかな表情で微笑む。
(あーマジか……やっぱり死んだのかぁ……。思ったより早かったなぁ……まぁ、あんな暮らしをしてたら当然の報いか。しかしあれだな、死んでから、こんなとてつもない美人と会えるなら、存外悪くないな。いやぁ……しっかし、随分と綺麗だなぁ。優しそうだし、美人だし、……おっぱいデカっ!!天国って凄いな……!すげー美人!)
一樹の思考が段々と脱線してゆく中、目の前の美人、ベルヴィアの顔が段々と茹で蛸のように真っ赤になっていく。
目の前の美人もといベルヴィアが咳払いを一つする。
「あの……か、考えていることが分かりますので!そ、その……あまり……褒めたりしないで下さい。そ、それにしても!じ、自身の死に対しては冷静でいらっしゃいますね。」
(照れてる……!!は、破壊力が凄い!おっと、すいませんでした……)
一樹が頬をポリポリとかきながら心の中で謝罪する。
とりあえず今置かれている状況はわかったので、主旨を確認することに。
「死んだことについては分かりました。ちょっと死ぬの早いなとは思いましたが、正直なんでこんな生活送ってて過労死しないんだろうとも思ってたし、俺が死んで困るのは同僚や上司だけなんで、正直未練みたいなのも驚くほどないですね……。それで、死んだ人はみんなここに来るものなんですか?」
「いえ、通常は魂が浄化され、再び輪廻転生の輪に戻っていきます。」
そう言うと、ベルヴィアは右手の人差し指をクルッと回す。
すると、ホログラムのような惑星と、土星の輪のように惑星をぐるりとメビウスの輪のような捻れた輪が、さらにその上にパルテノン神殿のようなものが出てきた。
星のような粒が輪の中をぐるぐると回る中、パルテノン神殿のような場所に入って、また輪に戻る様子が目の前で繰り広げられている。
「おお、これは『輪廻転生』ってヤツですか?」
「ご明察です。」
「へぇ、人類の想定もあながち間違いじゃないんですね?」
「ええ、数ある宇宙の中でも、地球がある宇宙だけは他と違ってかなり独特な進化を遂げているんです。皆さんの文明の想像は限り無く近いと言えます。」
「へぇ、じゃあ他にも無数に並行して宇宙が存在しているんですか?宇宙とかその辺は全然詳しくないんですけど、なんで地球がある宇宙だけ違うんですか?」
ベルヴィアが少し考え込む仕草をした後に、再び話し出す。
「一樹様にわかるように説明します。」
「あ、是非、お願いします。」
「宇宙が箱庭だと考えて下さい。」
「ほうほう、箱庭……はい。」
「新しく箱庭を作りました、こんな感じなので皆さんもやってみませんか?と箱庭の開発者がデモンストレーションをします。その後も試行錯誤を繰り返す中で、新しい要素を取り込んだり、排除したりとしていきます。そして正式な箱庭がリリースされます。」
「修正パッチが当たったりバージョンアップが来たり……ですね。」
ベルヴィアが人差し指をピッと上に立てる。
「ご明察です。地球は、その一番最初のデモンストレーションのときに作成された箱庭なのです。他の大多数の宇宙との大きな違いはズバリ『魔力』の有無です。」
「ほうほう……えっ?ま、魔力っ!?あの、ファンタジーもので良く登場する、あの魔力ですか?」
「ええ、その魔力と思って差し支えないです。地球がある宇宙だけは魔力がありません。」
「やっぱ無いんだ……。」
「ええ、なぜ途中から、魔力有りがスタンダードになったかというと、いざ皆が箱庭を始めてみても、魔力なしだと、生命が誕生するところまではおろか、そもそも生命が誕生出来る惑星の誕生まで辿り着けなかったのです。」
「へえ、そうなんですね。」
「地球は一番最初のプロトタイプにして、実は相当なレアケースだったのです。」
どうやら地球にはファンタジー要素でおなじみの魔力が存在していないようだ。
どうりでインチキみたいなマジシャンしか居ないわけだと納得する一樹。
「話の流れからするに、ひょっとして俺はそんな魔力溢れるファンタジーの世界にこれから行けるって事なんですか?」
「はい、一樹様さえよろしければ。俗に言う剣と魔法のファンタジーものの世界です。」
「あ、でも魔力がない世界の人間を送り込んだところで、魔力がないと苦労しませんか?俺は魔力ないんでしょ?即ゲームオーバーになりそうな予感が……。」
一樹の心配はもっともだ。
一樹は魔力を感じ取れないし、当然魔法だって使うことが出来ない。
そもそも魔法と言われても、アニメやゲーム知識での中二病全開の物のイメージしかない。
そんな人が、ファンタジー世界に放り出されても、野垂れ死ぬ未来しか見えてこない。
「その辺はこちらでその世界のスキルやアイテムなどを与えますのでご安心下さい。」
「はぁ、ならいいんですけど。しかしなんでわざわざ?同じ魔力があるような世界の人をあてがった方が効率がいいのでは?」
「そうですね、同じ世界の人間を再度送り込めばすぐに順応すると思います。そもそもなぜ地球の方を転生をさせるかというと、魔力が実装されている世界では魔力が枯渇するという事態が時折起きます。」
「へえ、エネルギー資源みたいな感覚なんですね?」
「ええ。魔力の需要と供給のバランスが時折崩壊するんです。崩壊するとその星は滅亡します。そこで、お恥ずかしい話なのですが、ある時バグが発見されました。」
「え?バグ?」
ベルヴィアが真剣な顔で一樹に向かう。
ベルヴィアの視線に一樹は少し照れて顔が赤くなる思いだった。
「はい。魔力のない地球の人間の魂を浄化せず、魔力がある別の宇宙にそのまま魂を送り込んだとき、地球の人間のパラメーターに想定されていない魔力というパラメーターの項目が無理やり追加されます。本人に付与される魔力も、パラメーターのレコードがズレる形で無理やり付与されます。本人の魔力も通常の一般的な魔力よりも強大な魔力が付与される上に、その地球の人間が降り立った世界にも、本来存在しないはずの、パラメーターにエラーが起きている人間が組み込まれる事で、修正力が働き、結果膨大な魔力が生じます。」
「なんというか、ゲームというか、プログラムというか、そういう感じですね……。」
「そうですね。プログラムは同じなのですが世界のバージョンが、どの世界も地球とは全然違うので、意図的にバグを起こして、そんな状況を救済措置として逆手にとって運営している、という感じでしょうか。」
「しかし随分都合良く地球でいうところの『ファンタジーもの』に酷似するもんなんですね。」
「ええ、実は地球人に対して何の知識もなしでただ放り込むと、順応できずに不幸な結果になる事が多かったのです。それではあまりに無責任だと言う意見が多く、インスピレーションという形で異世界の文化の知識を地球人に植え付ける事で、剣と魔法の世界に行ってもすんなり順応出来るようにあらゆる形で俗に言う『ファンタジーもの』が今の形になって浸透しています。」
そこからは転生先の世界の説明を受けた。
転生先は一樹の知識で言うところのSFよりな世界。
よく異世界転生もので出てくるような文明レベル低い、ファンタジーな昔のヨーロッパのような世界ではないようだ。
魔力をエネルギーとした魔導兵器の進化、やがて星全体での世界大戦。
魔力を周囲から取り込み魔力を馬鹿食いする兵器。
それを防ぐ結界も魔力を馬鹿食い。
気がつけば魔力が枯渇寸前、戦況は膠着。
魔力の補充の為に、次から次へと送り込まれる地球の人間。
それでも星の再生や戦況は膠着。
疲弊しきった人々により、魔力を媒体としない文明がやっと進み出そうとしている世界、との事だ。
しかし、魔力が自然に回復できる環境が破壊し尽くされており、自然が回復するにも魔力が足りず、結局はジリ貧になっているとの事。
魔力に依存している世界では、生命誕生からある程度までの進化がお手軽な反面、有りすぎれば魔物が溢れて生命のバランスが崩壊して激減するし、無さ過ぎれば自然が失われて結局生命が激減する両刃の剣ようだ。
一樹はそんな世界に降り立って、とりあえず普通の生活を送ればいいようだ。
新作の投稿をしています。
毎日朝の6時50分投稿です。
記憶をなくした少女と、そんな少女をサポートするハーフリングの冒険ものです。
記憶をなくした少女の一人称視点で書いています。
本作では余り書けなかった冒険がメインになっています。
こちらも是非よろしくお願います。
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『不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚 』
https://ncode.syosetu.com/n1154jd/
私がその少女と出会ったのは、私が17歳になったある春の日の事だった。
その少女は使用人の格好をしていて、漆黒の髪に黒い瞳、まるで遠い異国から来たかのように特徴的な顔をしていて、とても可愛らしくてあどけない人間の少女だった。
いつもオドオドと背中を丸め、あちこちキョロキョロと忙しない視線で、どこか自信のない様子。
毛虫やヘビすらも怖がり、人を思いやれるごくありふれた普通の優しい女の子。
しかし少女は驚くべき力を秘めていた。
自然の力を操り多くの魔物を一瞬でなぎ倒し、強敵すらも屠ることができる強大な魔法。
その身一つで腕に自信のある大男をいとも簡単にねじ伏せてしまう圧倒的な力。
そんな少女は一切の過去の記憶を持ち合わせていなかった。
伝説のサポーターである遠い祖先のマテウスのように、頼もしい相棒と面白おかしくも手に汗を握る大冒険に憧れていた私。
そんな私の前に彗星のごとく現れた少女。
少女が身一つで軽々とねじ伏せたかつて大陸にその名を轟かせた傭兵組合の所長。
そんな所長に涼しい顔をしたまま古ぼけた木の杖を突きつける少女。
私はそんな異様な光景に果てしない夢を見た。
私は彼女に幼い頃からの夢を託し、生まれ故郷を立つ決心をした。
それまで良きパートナーに巡り会えなかった理由はきっとこの少女と出会う為だったのかと、全ての合点がいった気分になった。
これは、そんな不思議な魔女っ子とサポーターであるちびっ子の私が織り成す果てしなく壮大な冒険の物語。
(引用 『フレヤの冒険譚』(著:フレヤ) プロローグより抜粋)