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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第二章 妖精秘境編 中編
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81 元勇者の魔王、拒絶

 ふと気が付けば、いつの間にか、外の色が茜色へと変わっていた。


 もう夕方か?


 自室に入ってから、どれぐらいの時間が経過していたのか。


 その間、ずっと窓から山を見続けていたのか?


 妙な行動を取っている気がする。


 道中、近づく山の風景ぐらい、何度も見かけていた筈だ。


 今更ながらに、見入るほどの光景とは思えない。


 にもかかわらず、日が暮れるまで見続けていたとは。


 すると、玄関付近から、誰かの話し声がする事に気が付いた。


 父さんが帰って来たのか?


 知らず、緊張が走る。


 途端、大声が家中に響き渡った。



「――何だその犬は!?」



 男の声だ。


 犬と言えば、ブラックドッグを母さんに預けた――正確には勝手に抱き上げられた――ままだったか。


 父さんに見咎められたのだろうか。


 急ぎ、自室を出て玄関へと向かう。



「黒色に赤目、コイツはブラックドッグじゃないか? どこで拾ってきたんだ?」


「お父さん、黒犬なんて、見たままじゃないですか」


「いや、そういう種族名なんだ。この辺りに居るなんて聞いた事も無いが」



 玄関に近づくにつれ、会話がハッキリと聞こえて来た。


 どうやら、大声の主は父さんで間違いないようだ。


 しかも、ブラックドッグを知っているらしい。



「そうそう、それより聞いて下さい。実は――」


「危険だから渡しなさい。どこか適当な場所へ放してやろう。山にやっては、他の人間に危害が及ぶかもしれんしな」


「――その必要はありません。ブラックドッグは俺が連れて来たんです」



 玄関に到着すると、割り込むように声を掛ける。


 すぐさま、鋭い視線がこちらへと向けられる。


 懐かしい顔、とは言っても、ブギーマンのお蔭で最近まで目にしていたようなものだ。


 何とも妙な感覚だった。



「誰だ? 何故家の中に居る?」


「お父さん。あの子が帰って来たんですよ」


「――何だと? 馬鹿な、ありえん」



 目が見開かれ、探るような視線を向けられる。



「一目で気が付きましたわ。随分と立派になって、お母さん嬉しくて」



 目を瞑り、かぶりを振りながら、父さんは尚も言い募る。



「いや、本物だろうが偽物だろうが関係ない。即刻出て行って貰おうか」


「お父さん!?」


「お前は黙ってなさい。君、今すぐ家から出て行ってくれ。迷惑だ」



 母さんが父さんへと詰め寄る。



「どうしてそんな事言うんですか!? 正真正銘、私達の息子ですよ!?」


「さぁ、早く出ていきたまえ」



 問答無用らしい。


 妙な話だが、警戒心や猜疑心といったものは見て取れない。


 いまいち、父さんの感情を理解出来ない。


 だが、歓迎されていない事だけは、間違いないようだ。



「自室に荷物を置いて来たままなので、取って来ます」


「いや、荷物なら私が取りに行こう。君は家の外で待って居なさい」


「お父さん! どうして実の息子に、冷たく当たるんですか! 折角帰って来たっていうのに!」


「お前も何時までも、ブラックドッグを抱えてるんじゃない。君、コイツも忘れずに連れて行ってくれ」



 母さんの腕の中からブラックドッグを掴み上げ、俺に手渡して来た。


 ブラックドッグは、一連の騒動の最中にあっても、大人しくしたままだ。


 どうやら、父さんは敵意を抱いていないらしい。


 騒動を起こす事は、俺の本意ではない。


 我が家とはいえ、十数年ぶりの帰宅だ。


 歓迎されると思っていた訳でも無い。


 促されるままに、大人しく家の外へと出ていく。


 家の中からは、母さんが尚も父さんに詰め寄っている声が漏れ聞こえてくる。


 二人共、余り見違えてはいなかった。


 だが、父さんへの印象は少し変わったか。


 父さんから、俺への忌避感や嫌悪感といったものは感じ取れなかった。


 もっとも、今は退去を命じられてしまった訳ではあるのだが。


 当時は厄介者扱いされているように感じたのだが、あれは俺の勘違いだったのだろうか。


 おおよそ半生をここで過ごした筈だが、当時の記憶はどこか遠くあやふやだ。


 のんびり滞在出来なかったのは残念だが、両親の無事は確認出来た。


 差し当たって、脅威があるようにも見受けられない。


 次に会いに来る機会があるかは不明だが、息災であればそれで良い。


 家の中から足音が近づいて来る。


 玄関から少し離れて待つ。


 程なく内側からドアが開かれた。


 顔を覗かせたのは、母さんだった。


 バッグを両腕に抱えている。



「ごめんなさい。本当にごめんね。お父さんたら、どうしても言う事を聞いてくれなくて」


「いえ、何の前触れも無く、突然押し掛けた俺が悪いんです。どうか気に病まないで下さい」



 手渡されたバッグを受け取る。


 と、次の瞬間には抱きしめられていた。



「沢山お話ししたかった。今まで何をしていたのかとか、辛かった事、楽しかった事、ちゃんと聞いてあげたかった」


「母さん……」


「ちゃんと、貴方はここに居る。無事に帰って来てくれた。お母さん、嬉しいわ。ホントよ?」


「えぇ、ちゃんと伝わっていますよ。ありがとうございます」



 母さんからの愛情を確かに感じる。


 今の今まで、偽物か幻覚かとも疑っていた。


 だが、本物だ。


 上手く言葉では言い表せないが、そう感じる。


 抱きしめ返すのは少し躊躇われたが、軽く抱きしめ返した。


 母さんは、力強く抱きしめ返してくる。



「――いつまでそうしている気だ? さっさと集落から出て行け」


「お父さん! どうしてそんな事を言うの!?」


「いいか、くれぐれも山には踏み入るなよ? 余計な寄り道などせず、真っ直ぐ集落から出ていくんだ」


「お父さん!!!」


「母さん、いいんですよ。俺は気にしてませんから。ご忠告に従い、大人しく集落から出て行きます」


「そうしろ」


「では、母さん。どうかお元気で。――父さんも」


「また顔を見せに来てね? 絶対よ? 何かあったらすぐにでも戻って来なさい? いつでも帰りを待ってるからね!」


「はい、それでは」



 母さんに見送られながら、実家を後にする。


 背に視線を感じる。


 視線は二人分だ。


 母さんはともかく、父さんは俺の動向を監視しているのだろうか?


 脇目も振らず、ちゃんと集落を出て行くかが心配なのか?


 すると、腕の中で動きがあった。


 ブラックドッグだ。


 そういえば、父さんから受け取って、腕に抱えたまま、母さんからバッグを同じく腕に受け取ってしまっていた。


 押し潰されて苦しかったのだろう。


 胸とバッグの隙間から跳び出して来た。


 腕から抜け出し、地面へと降り立つ。


 挙動を見るに、大事はなかったようだ。


 と思ったのも束の間、ブラックドッグが駆け出した。


 突然の事態に反応が遅れる。



「――っ!? 待ちなさい! どこに行くんですか!?」



 言葉が通じないと知りながらも、たまらず声をかけてしまう。


 しかし、ブラックドッグは振り返る事無く、駆け続けている。


 向かう先は、集落の更に奥側。


 そびええ立つ山だ。


 慌てて俺も追いかける。


 背に大声が掛けられる。



「――おい! 聞いてなかったのか! 山へは立ち入るな! 戻れ!」



 声の主は父さんか。


 だが、今は言う事を聞いてはいられない。


 ブラックドッグは俺の支配下にあるとは言え、絶対に人を襲わないように指示を与えてはいない。


 今の状態では、敵意を向けられれば迎撃してしまう。


 父さんがブラックドッグを知っていたように、他の集落の住民達も、知らないとは限らない。


 いや、知らずともブラックドッグを間違えて襲ったりするかもしれない。


 ブラックドッグが怪我を負う可能性よりかは、ブラックドッグが怪我を負わせる可能性の方が高いだろう。


 いずれは然るべき場所へと帰してやりたいが、この山がそれに相応しい場所かも不明だ。


 どちらにせよ、放置は出来ない。


 小型犬サイズとは思えない脚力を見せるブラックドッグに、俺は全力で追い縋っていく。


 そうして、一人と一体は、山の中へと入って行った。






22/02/24 誤字修正


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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