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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第二章 妖精秘境編 前編
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78 元勇者の魔王、平和の在り方

 平野と畑の境目まで歩いて来た。


 別段、変わった様子は見受けられない。


 だが、やはりブラックドッグは何かを感じているのか、しきりに周囲を見回している。


 試しに、畑から平野へと一歩踏み出してみた。


 途端、ブラックドッグは見回すのを止めた。


 平野側ではなく、畑側に何かあるようだ。


 と、ここまで察しはつくものの、正確には何も分からない。


 分からない事は、尋ねてみるに限る。


 近くの民家の住民に、話を聞く事にした。






 話を聞いた限りでは、何か変わった事をしている様子は感じられなかった。


 ただ、驚いたのは、かつて魔王が居た時から、魔物の襲撃に見舞われた事が無いらしい。


 これはかなりの大事おおごとだ。


 当時の王都でさえ、何度も襲撃を受けていた筈だ。


 この周辺には、木柵もくさくすらなく、ただ畑が広がっているだけだ。


 にもかかわらず、魔物からの被害が無いと言うのだ。


 ブラックドッグの様子といい、この畑に何かあるのは間違いない。


 だが、何度尋ねてみても、畑に特別な事はしていないという。


 先祖代々、この場所で畑を耕しているだけだ、と。


 では、畑というよりかは、この場所にこそ原因があるのだろうか。


 魔物を寄せ付けない理由が分かれば、他の町にも流用出来るかもしれない。


 しかし、残念ながら、それ以上詳しい事は何も分からず仕舞いだった。


 魔物を寄せ付けない何か。


 妖精には感じられるっぽい何か。


 平野には無く、畑にはあるモノ。


 何だろうか。


 コレだ、というものは思いつかない。


 試しにブラックドッグを好きに歩かせてやってもみたが、特定の場所に興味を示す様子もない。


 ただただ、周囲を見回すだけだ。


 そういえば、とふと思い出す。


 かつて、子供の俺が一人で王都を目指していた際、途中までは魔物に襲われなかったように思う。


 あれは、もしかしなくとも、畑地帯だったのだろう。


 やはり、当時から魔物の被害には遭ってはいないのだ。


 いや、待てよ?


 魔物を何らかの理由で寄せ付けないとして、野生の動物が農作物を狙ったりはしそうなものだ。


 だから、木柵もくさくで囲ったりはしそうなものだが、それも無い。


 だと言うのに、見る限り、農作物への被害は無さそうだ。


 これは、野生の動物にも何らかの影響を与えているということだろうか?


 人間には感じ取れず、他の生き物は感じられている?


 結局、詳しい事は何も分からぬままに、宿屋へと引き返す事となった。






 翌日には村を出立した。


 徐々に遠くに見える山へと近づいている。


 王都を出発してから、何日が経過しただろうか。


 馬車でこの日数だ。


 当時、子供の足で、徒歩で王都まで行った俺は、とてもではないが正気とは思えない。


 数週間は言うに及ばず、一ヵ月以上はかかったのではなかろうか。


 子供の頃の行動とは言え、無謀と言うか何と言うか。


 事前の準備などそこそこに、故郷を飛び出した。


 道中、酷い空腹と疲労に見舞われていたのを、今でも覚えている。


 そんな状態ではあったが、先の畑などの農作物に手を出したりはしなかった。


 相当に飢えていた筈。


 理性よりも本能が勝るような状況だ。


 にもかかわらず、一切の手出しはしなかった。


 何故だろうか。


 農家の住民に見つかり、叱られた?


 いや、そんな記憶はない。


 そもそも、畑に踏み入った記憶すら無い。


 もっとも、当時は魔物も多く生息していた。


 襲って来たのを返り討ちにし、食べてもいた。


 ハウンドはともかく、ボアなら一体でかなりの量の肉にはなった。


 それに野生の動物だって居たのだ。


 畑を荒らさずとも、食い繋げてはいたのかもしれない。


 だが、魔物も動物も寄せ付けないのであれば、あるいは人間すらも寄せ付けないのではなかろうか?


 より正確には、害をなす人間を、と言うべきか。


 農家の人間は畑作業をしている訳だし、立ち入れない筈も無い。


 魔物、動物、そして人間。


 畑に害を成すであろう存在の立ち入りを拒絶している?


 そう、まるで結界でも張ってあるかのようだ。


 ふと思い至り、カバンから妖精の本を取り出す。


 開くページは、妖精の住処について。


 妖精が招いた者だけが、入る事が出来る場所。


 妖精が畑への侵入を許可している?


 誰を?


 畑に害を及ぼさないモノを、か?


 妖精の住処と同様に、畑にも結界のようなモノが張られているのではなかろうか?


 ブラックドッグが妙な反応を見せた事といい、妖精絡みのような気がする。


 これは、妖精に接触出来るチャンスか?


 しかし、肝心の妖精についての情報は、全く得られてはいない。


 農家の人の口からは、妖精の"よ"の字も出ては来なかった。


 関係していたとすれば、畑を切り拓いた、ご先祖の方々だったのだろうか。


 とはいえ、馬車の中でどれほど考え込んだところで、答えなど得られる筈も無い。


 ある程度の推論は立てられた。


 誰か物知りな人物か、あるいは、それらしい事が書かれた書物でも見付けられれば、事の真相がわかるかもしれない。


 故郷に着くまでの道中、探してみるのも悪くない。






 畑地帯に入ってから数日が経過した。


 やはりと言うべきか、最初の畑があった村から、アンデッドを全く見かけなくなった。


 勿論、襲撃を受けた様子も無い。


 至って平和。


 まるで、この場所だけが、世界から切り離されているかのような錯覚さえする。


 野営をする際も、いっそ見張りなどせず、寝入ってしまおうかと思える程に、何の脅威にも遭遇しなかった。


 時間の流れすら、緩やかに感じられる。


 成程、これが平和か。


 確かに、これは平和と言えるのだろう。


 "誰か"によって選別された者達だけが住まう楽園。


 脅威や外敵を排した、閉じた楽園。


 ここに魔物の姿は無い。


 ここに畑を荒らす無作法者は居ない。


 "誰か"にとっての理想郷。


 思い描いている平和とは、違っていた。


 人間と魔物と妖精と。


 勿論、動物に昆虫、そして植物も。


 住み分けるのは大事だ。


 無理に一緒に居て、争い合うべきではない。


 だが、この場所は違う。


 "誰か"による線引きの元、対象以外を排斥しているだけだ。


 内側の平和だけを守り、外側には頓着とんちゃくしない。


 選別による平和。


 思い描く平和とは、お互いを尊重し合える世界だ。


 相手も生きているのだと、意志ある存在なのだと、思いやれる世界だ。


 当然、理解し合えないモノは存在するだろう。


 結果、争い合う事になるのかもしれない。


 そんな結末を望みはしないが、必ずしも上手くいく筈もあるまい。


 だが、他を排斥していては、とても共存しているとは言えまい。


 例えこの状況こそが平和を維持する為の究極形なのだとしても、いびつであっても、他の生き物との共存の術を探っていきたい。


 平和を願いながらも、平和を乱す行為。


 我ながら行動が矛盾しているだろうか。


 元勇者だからか?


 それとも、現魔王だからか?


 いや、それは言い訳だ。


 俺は俺なのだ。


 職業が人間を、人格を形成している訳では無い筈だ。


 人間は人間だけの世界を望んでいるように思える。


 魔物はどうだろうか。


 妖精はどうか。


 理想と現実は違う。


 皆で共存するのか、種族毎に住み分けるのか。


 馬車が揺れる。


 俺の思考も揺れ続け、定まらない。


 俺に一体何が出来るのか。


 求める平和は、その形すら、まだ定まってはいなかった。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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