75 元勇者の魔王、不運は重なる
スキル名は【】、使用した能力や魔法は≪≫で記載しております。
林から木材を調達してから二日後。
土壁と堀は昨日完成し、物見櫓も今日完成した。
今は、兵士達を中心に、町の住民達からの希望者と共に、習熟訓練中だ。
主に槍と弓矢。
槍はともかく、弓矢は一朝一夕で身に付くものでもない。
俺達が出立した後も、訓練を続けて身に付けて貰うしかないだろう。
しかし、今朝は珍しく雲行きが怪しい。
王都でもそうだったが、土地柄なのか、雨があまり降らない。
故郷の山間では、そこそこ雨が降っていたように思うが、王都周辺の平野では、一ヵ月に一度降るか降らないかといった頻度だ。
幸い、王都の近くには水源があり、水不足には至らないが、農作物を育てるのには向いていないらしい。
故に、王都から離れた場所に、田畑を育てている町村があるようだ。
その地域では、定期的に雨も降っているようだ。
王都よりは田畑の地域に近いであろうこの町は、もしかしたら定期的に雨が降るのかもしれない。
だとすれば、かなり不味い。
折角用意した土壁や堀、そして物見櫓ではあったが、もし雨の日に襲撃でもあろうものなら、肝心の火攻めが出来ないのだ。
予め油などを沁み込ませていれば、ある程度は燃えるかもしれないが、頻繁に大量の油を消費してもいられないだろう。
もっとも、ゾンビ相手ならともかくスカル相手では、火矢などではそもそもが火力不足ではある。
どのみち、万全とは言い難かった。
まずは相手の足を狙い、機動力を奪う。
その後に、トドメを刺すのだ。
数が相手でも、街道以外からの襲撃を壁と堀で防げれば、複数人で街道側を防衛に当たれる。
という予定だったのだが、堀への火矢が使えない場合、もしくは、相手が全てスカルだった場合を想定していなかった。
堀に落ちた後、這い上がってさえ来れなければ、左程脅威ではない。
と思いたいところだが、堀の中に魔物が溢れれば、後続の魔物が堀に落ちる事無く土壁を乗り越えかねない。
堀の魔物は手早く処理する必要がある。
やはり有用そうなのは、油を用いた火攻めだろうか。
いや、火が使えない場合、もしくは、油が無い場合も想定しておく必要があるだろう。
別の迎撃手段を新たに考えておく必要がある。
スカル対策としては、刃物ではなく鈍器を用いるべきだろう。
骨に斬り付けても、素人では断つことも叶わない。
鈍器で叩き砕く方が効率的だ。
叩くだけなら、素人でも出来なくはあるまい。
問題点としては、槍よりも接近する必要がある事か。
いや、もういっそのこと、槍で殴りつけてやれば良いのか。
物は使いようか。
む?
いやいや、待てよ?
素人で骨を断つのが難しいなら、ゾンビ相手でも、足を斬るのは至難の業か?
ゾンビにだって骨はある訳だしな。
想定が甘すぎたか?
んー、どうしたものか。
一応、肉に槍が突き刺されば、足止めにはなりそうだが。
それよりも、投網や縄で動きを封じた方が効果的か?
下手に足を狙った挙句、効果が無ければ、敵に雪崩れ込まれてしまう。
投網や縄で、ボアの筋力や、ハウンドの素早さに対応出来るかが課題だろうか。
自分基準で物事を考えがちで、一般人の場合の想定は、中々難しいものだ。
皆の意見も聞きつつ、色々と用意をしておいて、実際に試してみるしかないか。
時間が経つにつれて、空は雲に覆われてゆく。
日中だと言うのに、随分と薄暗い。
まだ雨は降りだしてはいないが、町の住民達が言うには、夜には降り出すだろうとの事だった。
ただでさえ暗い夜間に雨。
視覚と聴覚を妨害し、火まで封じる。
襲撃する側からすれば、この機を逃す手はあるまい。
アンデッドに思考力など存在しないだろうが、操っているのは王子だ。
余程の事がない限り、襲撃があると心掛けているべきだろう。
雨天下での戦闘を想定しながら、対策を模索する。
次第に周囲が闇を濃くしてゆく。
夜がもうすぐ訪れるようだ。
そして遂に、雨が降り始めた。
想定していた事態とはいえ、やはり良くは無い。
町の明かりが、逆に周囲の闇を濃くしている。
雨も相まって、遠くの様子など見通す事はかなわない。
物見櫓に兵士を立たせ、周囲の警戒に当たらせてはいるが、どれ程の効果がある事か。
周囲の緊張感が、次第に増してゆくのが分かる。
余り良くない状況だ。
襲撃が必ずある訳でもないが、今から緊張しているようでは、戦闘前に憔悴してしまう。
気を紛らわせてやりたいところではあるが、生憎、そういった事には疎い。
他の仲間であれば、それこそ魔法使いでさえ、こうした事態にも対応してみせただろう。
色々な事を、俺は仲間に頼っていたのだと痛感するばかりだ。
なるべく皆に声掛けを行い、俺なりに緊張を和らげるよう努める。
だが、成果を確かめるよりも先に、敵の襲撃が開始された。
頭上、見張りの兵士から敵襲との声が上がる。
途端、町の周囲から、雨音を遮りぶつかるような音が連続する。
恐らくは土壁か堀に、敵が衝突しているのだろう。
皆は取り急ぎ、街道に面した町の出入口の二か所の守りに着く。
俺はどうしたものか。
なるべく、皆に戦闘経験を積ませておきたい。
とはいえ、町や人に被害が出ては、士気も下がるだろう。
どうせなら、俺専用にでも、町の中央にもう一つ櫓を作っておいて貰えば良かっただろうか。
仕方なく、町の中央に陣取り、皆が取りこぼした敵への対処をする事に決める。
そうこうする間に、町の出入口に敵影が躍り出る。
町の明かりが敵影を照らし出す。
大きさから判別するに、ハウンドか。
色は白。
スカルハウンドだ。
真っ先に接敵した兵士二人が、左右から槍を振るう。
咄嗟の行動故に、判断が間に合わなかったのか、ただ戦闘経験の不足によるものか、柄の部分ではなく、刃先で斬り付けていた。
兵士の体が後退る。
遠目にも、刃が弾かれたのが分かる。
後ろに控えていた町の住民が、手にした槍を振るう事も忘れ、悲鳴を上げる。
調練してみたとは言え、実戦にはまだ対応出来ないか。
≪光糸≫
光の中級魔法。
光の糸を束ね、鞭の様に撓らせて地面に這わせ、敵を地面から打ち上げる。
「投網や縄での拘束を試してみて下さい!」
敵を一旦引きはがし、迎撃に当たっている皆に、そう声掛けする。
俺が敵を倒すのは容易い。
だが、そうしてしまえば、皆の成長は見込めない。
相手はアンデッド。
幾ら倒そうが、経験値は得られず、レベルも上がらない。
分かり易く強くなれる訳では無い。
それでも、経験だけなら積める。
場数を踏み、経験を積み重ねれば、失敗も減らせる筈だ。
もっとも、慣れから来る油断も禁物ではあるが、まずは一回でも多くの経験をこそ積ませるべきだ。
自らを守れるように。
そして、いずれは誰かを守れるように。
敵とて無尽蔵ではない。
俺か、もしくは仲間達が、王子を倒すその日まで。
どうか生き延びて欲しい。
その為の力を付けて欲しい。
宵闇に降りしきる雨の中、戦闘はまだ始まったばかり。
22/02/16 誤字修正
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