72 元勇者の魔王、聞き分けが良くなる方法
スキル名は【】、使用した能力や魔法は≪≫で記載しております。
馬に積んだ荷を解き終えたらしい兵士達。
三名が町の中へと入って来る。
他の者達は、そのまま町の周辺を警戒するようだ。
町の左右に別れて、展開してゆく。
町に入って来た三名は、早速町長と今後の相談をし始めたようだ。
会話に横入りするのも憚られるので、終わるまで時間を潰す事にする。
まずは御者を探し、今後についての話をしておく。
町周辺への補強工事もそうだが、一度はアンデッドとの戦闘を兵士達と共に経験しておいた方が良いだろう。
兵士達は、ともすれば、戦闘経験など全く無いかもしれない。
そんな集団を置いて、次の町へと出発してしまえば、町の未来は決して明るいものではないだろう。
補強工事は町の住民達にも手伝って貰い、形だけでも手早く整えておきたいところだ。
明日明後日に出発とはいかない。
少なくとも、三日以上は滞在を余儀なくされるだろうか。
準備万端整った後に、アンデッドの襲撃があるのが理想的だ。
いや、本当ならば、アンデッドの襲撃自体、無いに越したことはないのか。
兵士と町長の会話がひと段落した頃を見計らい、話し掛ける。
「すみません。襲撃への対抗措置についてご相談がありまして」
「何だキサマは? 町の者か?」
突然声を掛けた俺に対し、町長と話していた兵士が誰何の声を上げる。
俺が答えるよりも早く、町長が口を開いた。
「いえいえ。こちらの方は、昨晩町へといらした方でして。冒険者の方々と共に、魔物と戦って下さった、町の恩人でございます」
「ほぅ、では随分と腕に覚えがあるようだな? それで我らにご高説でも賜り下さる、と?」
どうにも、先程出立した部隊長とは打って変わって、随分と高圧的な人物のようだ。
提案への助力は、想定以上に難航するかもしれない。
「昨晩の魔物は20体程でした。現状の兵士の数では、抗し得ないと思いますが、どうですか?」
「ふん。毎回、同じ数が襲撃してくる訳でもあるまい」
鼻を鳴らし、どこか楽観した意見を述べて来る兵士。
何とも危うい感じのする兵士だ。
懸念を口にしてやる。
「そうですね。毎回、少ない数が襲撃してくるとは限りません」
「……それで? 我らにどうしろと言うつもりだ?」
「あくまでご提案です。町の周囲に土壁と、その外側に堀を作り、敵を足止め出来るようにしては如何でしょうか?」
「キサマは、我らに土いじりをしろと言うのか? 兵士が持つのは武器の剣や槍であって、農具の鍬ではない!」
声を荒げる兵士に対し、少し搦め手で対処してみる。
「何の対策も無しに魔物の襲撃に見舞われれば、町への被害は免れませんよ? 町を見捨てるおつもりですか?」
流石に今の言葉は無視出来なかったようで、周囲の町の住民達も、こちらへと視線を向けてくるのが分かる。
「くどいぞ! 何者かは知らんが、したいと言うならキサマがすれば良かろう!」
周囲がにわかに騒然となるのが感じられた。
住民達の前でも態度を変えないとは、中々に頑固な性格らしい。
これは説得は難しいかな。
あんまり多用したくはないのだけれど、背に腹は代えられない。
素早く人差し指を兵士の額に押し当てる。
「突然何をする!? さっさと離れ――」
≪支配≫
「――――」
随分と久々にスキル【魔王特性】の支配を使用する事になってしまった。
とはいえ、このまま放置していては、この町の未来が危うい。
ここは心を入れ替えて、町の為に尽くして欲しい。
「町の周囲に土壁と、その外側に堀を作成して下さい。ちなみに、街道は塞がないように」
「はい」
「堀には引火しやすい草などを敷き詰めて置き、敵が堀に落ちた際には、火矢を放って下さい」
「はい」
「街道に面した町の出入口には、予め複数人の兵士を配置しておき、槍で敵の足を狙って下さい。動きを封じた後、トドメを刺すように。常に複数人で、一体を相手取るように心がけて下さい」
「はい」
「周囲の警戒と、堀への火矢を放つ為、物見櫓を建設して下さい。出来れば町の左右に一つずつ」
「はい」
「ひとまずはこんなところでしょうか。では、早速取り掛かって下さい」
「はい」
先程まで、まったくと言って良い程に、聞く耳を持たなかった兵士が、いきなり素直に俺の指示に従って見せた。
周囲の人々は、当惑に包まれている。
すると、一緒に居た兵士二名が食って掛かって来た。
「キサマ! 一体、何をした!?」
「妙な真似を! コイツを元に戻せ!」
詰め寄って来る兵士達に対し、努めて冷静に言葉を返す。
「少し素直になれるおまじないをしただけですよ。それに、皆さんもご覧になっていたでしょう? 俺はただ、額に指先を当てただけです」
「いきなり態度が急変したんだぞ!? 何か仕掛けがあるに決まってる!」
「今すぐコイツを元に戻さないなら、然るべき措置を取らざるを得ないぞ!」
「どうして、王都の兵士は皆、聞き分けがないんですかね」
兵士達から尚も上がる抗議の声を無視し、闘気を放ってやる。
「「――っ!?」」
絶句した二人に対し、告げる。
「お願いするのは、これで最後です。これ以上は、お願いでは済まなくなりますよ?」
途端に冷や汗を流しながら、慌てた様子で言い募って来る。
「わ、分かった。だ、だから落ち着け、な?」
「何なんだ、一体!? 隊長よりもよっぽど……」
「さぁ、敵は待ってはくれませんよ。きびきび動きましょうね」
すっかり怖気づいた兵士達を促し、作業に着手させる。
敵は待ってなどくれないのだ。
油断も侮りも、そのツケは自分達が支払う事になる。
やれる事はやっておかねばならない。
生き残れなければ、後悔すらする事は叶わない。
「町の皆さんも、どうかご協力願います。土壁と堀。必ず皆さんを守る助けとなるでしょう」
一連の騒動に、呆気に取られていた住民達。
俺に声を掛けられ、ふと我に返ったように、ようやく再起を果たす。
皆は意見を交換し合っているようだが、協力を申し出てくれる者は現れない。
「土壁と堀が完成しなければ、次の襲撃には耐えられないかもしれません。皆で協力すれば、数日で形にはなるでしょう」
人間の手だけでは、もっと時間が掛かるかもしれないが、兵士達の乗って来た馬も居る。
馬力頼みで堀を造れれば、人手は土壁造りに回せる。
「冒険者も、兵士達も、いつまでもこの町に居続ける訳ではありません。人手がある内に、自衛手段を整えておくべきです」
住民達から、焦燥が伝わって来る。
彼らとて、気が付いてはいるのだ。
いつまでも、誰かが守ってくれる訳ではないのだと。
道中にあった宿場しかり。
何の対策も立てられなければ、同じ結末を迎える事になるだろう。
残念ながら、ひと時の平和は崩れ去った。
新たな魔王たる、王子の手によって。
再び魔王を倒すその時まで、あらゆる手を講じて、命を、身を守る必要があるのだ。
「聞いたであろう、皆の衆! いつまでも人様に頼ってばかりはいられぬ! 我々の身は、我々が守らねばならない! さぁ、ぼさっとしている暇はないぞ! 皆で力を合わせて、この町を守ろうではないか!」
声を上げたのは町長だ。
住民達を前に、老人とは思えぬ程の声量で言い放つ。
町長の言葉を聞き、住民達の目の色が変わったのが、傍目にも分かった。
ひとまずは、これでどうにかなりそうである。
【次回予告】
そろそろ故郷に辿り着きたいですね。
後、次回更新時は本編6話+SS2話の投稿予定です。
久々にスライム書いてます。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




