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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第二章 妖精秘境編 前編
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71 元勇者の魔王、何を優先するのか

 アンデッドの後始末が終わった頃、辺りはすっかり暗くなってしまっていた。


 馬車も呼び寄せ、町の中に入って貰った。


 今は町の中心にある広場で、ささやかな宴がもよおされている。


 襲撃から町を守ってくれた事への感謝の印との事だ。


 この場には冒険者が多く居る。


 ブラックドッグをこの場に同席させるのは危うかろう。


 馬車内に残すのも可哀そうなので、黒霧化してローブの下にまとう事にした。


 最近、携帯食料のみの食事が続いていた為、ちゃんとした食事にことの外、口と胃が喜んだ。


 話をよくよく聞いてみれば、王都での魔物の襲撃の噂を聞き、大勢の冒険者を護衛に雇い、十数台にもなる荷馬車が出発する寸前に、この町でアンデッドの襲撃を受けてしまったらしい。


 タイミング良く、そこに鉢合わせる形となった訳だ。


 道中で見かけた宿場の話をすると、住人達の表情が明らかに雲った。


 皆、口々に悲痛な声を漏らす。


 折角の雰囲気を台無しにしてしまっただろうか。


 そんな俺の元に、一人の老人が近づいて来た。



「ご挨拶が遅れ、申し訳ございません。町を代表して、改めて御礼申し上げます。魔物の脅威からお救い下さり、ありがとうございました」



 言動から察するに、町長のようだ。


 腰を折り曲げ、お礼を述べてくる。


 慌てて立ち上がろうとするのを、手で制された。


 仕方が無く、座りながら返答する。



「いえ、お力になれて幸いでした。それに、他の冒険者の方々がいらっしゃらなければ、間に合う事も叶わなかったでしょう。どうか、冒険者の方々にも同じく感謝を述べて頂きたい」


「えぇえぇ、それは勿論。後、宿場での一件、お伝え頂き感謝いたします。あの者達も、この町の出身。弔ってはやれませんでしたが、せめてこの町で供養してやります」


「そちらに関しては、お力になれず申し訳ありませんでした」


「そんな、とんでもない! お伝え頂けたばかりか、辛いお役目まで担って頂いたんです。感謝こそすれ、恨み言などあろう筈もございません」



 辛い役目とは、被害者への対処の事だろうか。


 あの場で亡くなったばかりか、アンデッド化までしていたようだった。


 やはり、王子は遠隔でアンデッド化を成しているようだ。


 町長は、最後に深くお辞儀をすると、再び戻って行った。


 とはいえ、だ。


 今回は襲撃をしのげたとはいえ、次回への備えが問題だ。


 荷馬車の護衛に冒険者が出払ってしまえば、この町は無防備となってしまう。


 かといって、冒険者にこの町に留まり続けて貰えば、王都と、それまでの町への物資の供給がとどこおってしまう。


 まさしく、彼方あちらを立てれば此方こちらが立たぬ、といった状態である。


 俺とて、いつまでもこの町に留まり続ける訳にもいかない。


 故郷には、覚えている限り、冒険者ギルドなども無かった。


 もしかしたら、新たに開設されているかもしれないが、楽観視してばかりもいられない。


 これだけアンデッドが蔓延はびこっているのであれば、故郷とて無事では済まないかもしれない。


 子供の頃、魔物が狂暴化していた時でさえ、何故故郷が無事だったのか不思議だったぐらいだ。


 今回も無事かもしれないが、直接確認するまでは、安心出来よう筈も無い。


 誰も彼もが助けを求めている。


 そして、助けられる人は限られる。


 片方を選ぶなら、もう片方は見捨てるに等しい。


 だが、今、この町を見捨ててしまえば、結末は一つしかない。


 今はまだ、この町を離れる訳にはいかない。


 帰郷は遠退きそうであった。






 幾人かが交代で町の周囲を警戒する中、更なる襲撃もなく夜が明けた。


 前もって決めていた訳でも無いが、示し合わせたかのように、皆が広場へと集まって来る。


 皆が口にする話題は、やはり今後の町の防衛に関してだった。


 荷を届けない訳にはいかない。


 その護衛も不可欠だ。


 だが、そうなると町の防衛が成り立たない。


 誰も口には出さないが、無言の圧力を確かに感じる。


 俺に留まって欲しいのだろう。


 しかし、それを自ら口に出すのははばかられるという訳か。


 自発的な協力を求められている。


 何とも言えない雰囲気の中、次に動きをみせたのは、この場の誰でも無かった。


 町の外、街道から砂煙が上がっている。


 方向的には俺達が来た側、つまりは王都側からだ。


 何事かと身構える。


 途端に周囲の緊張感が増した。


 見張りをしていた冒険者の一人が、声を上げる。


 向かって来ているのは、兵士の集団らしかった。


 その言葉を理解したのか、周囲の緊張感が緩和する。


 次いで浮かび上がるのは疑問だ。


 何故、兵士達がここに来たのか。


 皆が見守る中、程なく、兵士達の集団が町へと到着した。






 馬から降り、数人の兵士が町の中へと入って来る。


 部隊の長らしき先頭の兵士に、町長が歩み寄る。



「ワタシは王都より派遣されてきた兵士達を預かる部隊長だ。アナタがこの町の長だろうか?」


「いかにも、ワタクシめが、この町の長を務めさせて頂いております。つきましては、この町に何か御用でありましょうか?」


「この町というか、街道の警備を言い付かって参った次第。何でも、アンデッドが目撃されたとの報告があったのだ。この町の周囲に焚火のような痕跡が散見されたが、大事なかったか?」


「左様でございましたか。丁度昨晩、襲撃に見舞われたばかりでございます。頃合い良く、冒険者様方のご尽力により、九死に一生を得たところでございます」


「そうでありましたか。ご無事で何より。冒険者の方々は、この町に滞在なされるのですかな?」


「いえ、それが残念ながら、荷馬車の護衛にと雇った方々でして。近々王都方面へと出立せねばなりません」


「成程。それはご心配もつのりましょうな。王都からは、各町に兵士を駐留させるようにも言い付かっております。この町にも兵士を駐留させるのでご安心下さい」


「何と! それは真でありますか!? いやはや、ありがたいありがたい」


「これも職務です故、どうか顔をおあげ下さい。つきましては、一つお願いがございまして。兵士の駐屯場所をご提供願いたい」


「それはもう、是非もありません。すぐにご用意いたしますので、少々お時間を頂きたい」


「よろしくお願いいたします。では、駐留させる兵士以外を連れ、ワタシは先を急がねばなりません。これにて失礼致します。後の事は、残してゆく兵士にお尋ね下さい」


「はい。畏まりました。お勤め、お疲れ様でございます。皆様方の道中のご無事をお祈り申し上げます」


「かたじけない。では、これにて失礼」



 部隊長は、そう言ってきびすを返すと、町の外へと歩み去って行く。


 町の外では、10名程の兵士が馬から降り、荷をほどいている。


 どうやら彼らが、この町に駐留する兵士達のようだ。


 残りの兵士達は、戻った部隊長らしき人物の号令に従い、王都とは反対側へと馬で走り去っていく。


 突然の事態ではあったが、一応防衛戦力は補充されたようだ。


 とはいえ、昨晩の襲撃の規模と照らし合わせると、10名程の兵士だけでは対処しきれないだろう。


 正直、王都の兵士の強さは大したことは無い。


 冒険者で言えば、良くてBランク相当といった程度だ。


 恐らく、先程の部隊長がBランク、他はCランクぐらいだろう。


 これでは、当てにならない。


 アンデッドに対して有効な手段となれば、火を用いるのと、足を狙う事。


 防衛戦力が乏しいとなれば、町を簡易的な要塞化するしかない。


 町の周囲に土を積み上げ壁を作り、その外側の地面を削り、堀を造る。


 そうすれば、土壁の高さ不足を堀の深さで補える。


 堀にハマった敵を火責めにすれば、人的被害も抑えられるだろう。


 その辺りの事を、先程の部隊長に伝えて、実施して貰えれば話は早かったのだが。


 そうそう上手く事は運ばない。


 すぐの出立を諦め、残った兵士に話を持ち掛ける事にした。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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