69 元勇者の魔王、不安は尽きぬ
スキル名は【】、使用した能力や魔法は≪≫で記載しております。
荷馬車を先頭に、箱馬車が追従する形で街道を行く。
馬の負傷が塞がったとはいえ、人と荷物を運んでいるのだ。
無理のないペースで馬を走らせている。
自分達が先頭を行くと、荷馬車の様子を窺い知れない為、この配置となった訳だ。
ゆっくりとした速度で窓の外の景色が流れてゆく。
荷馬車の人間の話では、近くに宿場があるらしい。
昼はそこで休憩するつもりだ。
しかし、これは後々深刻な問題になりかねないのではなかろうか。
街道の荷馬車が魔物に襲われる。
そうなれば、当然、物流は滞る事になる。
向かっていた先は王都。
つまりは、王都への物資の供給が滞ってしまう事態へと発展してしまう。
所謂、兵糧攻めを狙った、王子の策略なのだろうか?
王都近郊だけで、王都の住民全員を賄えるだけの食料の調達は難しいだろう。
流石に、いずれは事態を察して、兵士が街道へと派遣されはするだろう。
だが、遠方になればなるほど、対応は後手に回る事になる。
遠方にあるのは、田畑を有する農家だ。
食料の供給元を断たれれば、街道をいくら警備していようが、意味がない。
冒険者も動員しての、早急な対応が必要だろう。
あるいは、元を断つか。
魔物の狂暴化は見受けられないが、アンデッドは明らかに跋扈し始めている。
アンデッドの処理に当たるよりも、その元凶を止める方が効率的ではある。
だが如何せん、その居所が不明だ。
もし仮に、アンデッド化も支配と同様に遠隔での使用が可能ならば、どこかに身を隠されてしまえば、こちらが圧倒的に不利だ。
いずれ操る死骸も尽きるとはいえ、新たに犠牲を強いらないとも限らない。
相手は魔物を支配出来る。
魔物に襲撃させ、その後、更に死骸をアンデッド化し襲撃させる。
そうなってしまえば、魔物も動物も人でさえも、減っていく一方だろう。
そうなる前に、王子を見つけ出し、止めなければならない。
ならないのだが、居場所が分からない。
思考は堂々巡りに陥る。
今出来ない事を考えても意味はない。
出来る事は、道中で遭遇したアンデッドの討伐。
そして、襲われた人々を助ける事だ。
魔王を倒して手にした筈の平和。
それはもう、既に失われてしまったのだろうか。
日は中天に差し掛かり、昼も過ぎた頃。
宿場へと辿り着く事が出来た。
否、宿場だった場所と言うべきか。
宿屋と食事処。
僅か二軒の建物は、明らかに何者かの襲撃を受けた後といった有様だった。
入り口や窓は壊され、そこから窺える内部は荒らされている。
出迎える人間も居ない。
魔物の仕業か、あるいは、野盗による所業か。
箱馬車から降り、屋内を検める。
ブラックドッグには、万が一、馬車が襲われた際の護衛を指示しておいた。
足を踏み入れはしたものの、内部に気配は無い。
だが、物音は奥から聞こえてくる。
建物内に生存者は居ない。
居るのは襲撃したモノと、人だったモノ。
二軒とも二階建て。
念の為、隈なく生存者を探したが、発見には至らなかった。
既に手遅れ。
建物内にはアンデッドしか居ない。
街道に戻り、馬車を先へ進ませるよう促す。
このまま放置する訳にもいかない。
建物も、この惨状では、再利用する訳にもいくまい。
諸共に、処理するしかない。
≪光炎≫
光の上級魔法。
偽りの太陽が、街道の只中に現出する。
纏う炎が、建物ごと中身を焼き尽くす。
失われゆく様を視界に収めつつ、在り得たかもしれない可能性を考えずにはいられない。
もっと早くに駆け付けられていれば。
荷馬車に構わず、最速で進んでさえいれば。
間に合ったのではないのだろうか。
助けられたのではないのだろうか。
一人を助けた事で、複数人が犠牲になった。
そんな風には考えたくはない。
考えてはならない。
誰かを助ける為に、他の誰かを犠牲にする。
そうあってはならない。
こうして感傷に浸る暇があるのならば、先の道行を急ぐべきだ。
一人でも多くを助ける為に。
再び馬車での移動。
流石に、先程の場所の近辺で、昼休憩を取る気にはなれなかった。
焼け跡が視界に入らなくなった辺りで、ようやく停車する。
街道の脇に馬車を寄せ、携帯食料を食べる。
会話は無い。
空気も重い。
他に手が無かったとはいえ、一般人に先程の光景は心労を掛け過ぎただろうか。
効率を優先し、心証には配慮しなかった。
正しく弔ってもやれない。
いや、王子が居る限り、死体も死骸も、アンデッド化する恐れがある。
となれば、土葬はせず火葬する他ない。
この先、幾度、そうせざるを得ないのだろうか。
気が重くなる。
場合によっては、感謝などされず、罵倒されかねない。
死者を焼いて回るような行為。
故人の家族や知人ならば、耐えがたい行為の筈だ。
例えアンデッド化していようとも、魔物と断じて気持ちを切り替える事は、そうそう叶いはすまい。
だが、例え人から恨まれようとも、助ける事を止めはすまい。
命の価値を信じている。
善もあれば悪もある。
全てを助ける事なんて、到底叶いはしない。
それでも。
それでも、理不尽に命が失われる様を、許容などしたくはない。
助けた者達に恨まれようとも。
助けた者達に罵られようとも。
一度は手にしかけていた筈の平和。
必ず、掴み取って見せる。
休憩を終え、再び街道を馬車二台が行く。
人目があった為に控えていたが、馬車内に戻った事で、ようやくブラックドッグに魔力を供給してやる。
やはり気怠い。
魔力不足を感じる。
睡眠が不足している。
外を警戒するべきだろうが、いざという時に魔力切れは避けたい。
魔法使いのエーテルもありはするが、今は使うべき時ではないだろう。
少しでも魔力の回復を図るべく、座席に横になる。
珍しく、ブラックドッグが乗っかって来ようとはせず、窓の外を眺めている。
もしかすると、俺の代わりに外の警戒をしてくれているのかもしれない。
単に外が物珍しいだけかもしれないが。
少しだけ、心が安らいだ。
そのまま目を閉じる。
目覚めた時は、また戦闘に見舞われるのだろうか。
アンデッドの脅威は、より明確になりつつある。
これまでの道中の町は大丈夫だろうか。
これから先の町や村は?
今度は間に合うのか?
不安は尽きない。
考えるのを止め、しばしの眠りにつく。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




