66 元勇者の魔王、怪獣大決戦? 【修正】
スキル名は【】、使用した能力や魔法は≪≫で記載しております。
23/04/28 全体を加筆修正
突然の報せに、町は騒然となった。
表通りから、見る間に人の姿が消えてゆく。
情報をもたらした人物の下へと、詳しい話を聞くべく駆け寄る。
その間も、他に集まって来る者はいない。
先程見た冒険者ギルドに、冒険者の姿は見当たらなかった。
そもそもが、この町には滞在していないのか。
はたまた、状況の推移を見守っているのか。
「化け物の居場所と特徴を教えてください」
「お、おぅ、あんちゃん、もしかして冒険者か!? 早く何とかしてくれ! とにかくでっけぇ化け物だ! 町の西側から向かって来てやがる! こんなちゃちな外壁じゃ、幾らも持ち堪えられやしねぇ!」
この人は別段、兵士でも冒険者でもないのか。
分かったことと言えば、精々が大きいらしいということぐらい。
動物であれば、そう言うだろう。
外壁が突破されかねないなどと、尋常な相手ではあるまい。
該当しそうな魔物と言えば、ドラゴンぐらいなもの。
まさか、またあのダークドラゴンが、俺を狙って現れたのか?
「分かりました。化け物の対処は俺が引き受けましょう。貴方は、兵士や冒険者ギルドへ連絡をお願いします」
「おいおい、アンタだけで何とかするつもりか!? 壁よりでっけぇ化け物なんだぞ!」
この町を囲う壁の高さは、二階建て程度。
それを超えるとなると、やはりドラゴンか、あるいは、以前撃退した異常なジャイアントだろうか。
「これでもステータスだけなら、Aランク相当の冒険者ですから。大丈夫、どうにかしてみせます。防衛は、壁外ではなく壁上に。遠距離武器か魔法を扱える者で構成してください」
「Aランクだぁ? Aランクと言やぁ、冒険者の1割にも満たないって話じゃねぇか。んな猛者が、こんな町に都合よく居るはずがねぇだろうがよ。下手な嘘つきやがって! オレを揶揄ってやがるのか!?」
「いえ、そんなつもりは──」
身体を揺らす地響きが、言葉を中断させた。
この揺れの感じ……あの時のジャイアントに近しい気がする。
ドラゴンならば、飛んで来そうなもの。
「うひぁっ!? も、もうすぐ近くまで来てやがるんだ!」
「──行きます。決して外には出ないように」
それ以上は構わず、町の西を目指して駆け出す。
律儀に門を経由している場合ではない。
手頃な家の壁の間を蹴り上がる。
屋根伝いに駆け抜け、勢いそのままに、壁外へと飛び降りた。
壁外に遮蔽物はない。
開けた視界に、異様が映り込む。
小さな丘。
だが、色味が周囲に比べて明らかにおかしい。
平野の緑の中に、白い丘があるのだ。
のみならず、こちらへと近づいてきている。
骨の塊──つまりは、アンデッド。
沼で目撃された個体と同一かは分からないが、ようやく邂逅できた。
その姿形は、ドラゴンはもちろんのこと、ジャイアントですらもない。
ボアと呼ばれる、猪に似た魔物が近しいだろうか。
ただし、その大きさを除けば、だが。
どうやら先程聞いた情報に、誇張はなかったらしい。
その巨体は、背後の外壁を優に超えることだろう。
目算で高さ10メートル超、全長は如何程もあろうか。
これほどまでに巨大化したボアなど、聞いたこともない。
最大でも、3メートルが精々のはず。
以前のジャイアントに引き続き、またしても異常個体。
スカルドラゴンならぬ、スカルボアというわけか。
近づくにつれて、違和感を覚える。
見える限りの骨という骨が罅だらけ。
以前遭遇したスカルドラゴンと比べて、状態が劣悪過ぎる。
全身が砕かれるような、惨い最期を遂げたのだろうか。
既に死した存在。
今更、救う手立てはない。
俺にできることは、速やかに終わらせてやることのみ。
≪光縛≫
光の初級魔法。
白骨の巨体を地に縫い留める。
アンデッドへの対処法は、聖魔法による浄化、復元不可の破壊、焼却の何れか。
光体は使用後のリスクが大きい。
まだ他の個体が現れないとも限らない。
それに、これだけの大質量の完全破壊ともなれば、用意ならざるのは試さずとも察せられる。
ならば、ここは焼却一択。
≪光炎≫
光の上級魔法。
疑似太陽が、スカルボアのすぐ上に現出し、一瞬で全身を炎が包む。
赤も黄も通り越した白光が、全てを焼失させてゆく。
数千度にも達する熱が、周囲の地面諸共、骨をも溶かす。
──はずだった。
眼前の炎が弾け飛ぶ。
小高い丘ほどもあった巨体が、バラバラに四散する。
咄嗟に後方へと飛びずさる。
弾けた衝撃によるものか、炎が掻き消えてしまっていた。
散り散りになった欠片が、見る間に形を成していく。
そうして、先程よりも小さい、通常サイズのボアへと変形してみせた。
その数、10。
アンデッドから新たなアンデッドが生成されるなど、知り得ない事象。
どの個体の骨にも、不思議と先程あった罅が見当たらない。
これはいったい、どういう……。
元々、罅など入ってはおらず、複数のボアを組み合わせていた?
と、こちらの当惑に構わず、全ての個体が一斉に背後の町へと駆け出す。
もちろん、見逃したりはしない。
≪光牢≫
光の中級魔法。
すかさず魔法で拘束。
だが、先程弾け飛んだ所為で、町にかなり近づかれてしまった。
この距離では、光炎の使用は憚られる。
何せ岩をも溶かす熱量だ。
外壁は言うに及ばず、家屋まで焼き尽くしかねない。
他の手段を考えなくては。
生憎と、光炎以外に、焼却する術は持ち合わせていない。
であれば、全てを粉砕するしかない、か。
光体であれば、十分に可能だろう。
問題は、魔力を全消費してしまうこと。
光体を使用したら、光牢は解除されてしまうことになる。
時間は掛けられない。
一応、サイズが縮んだことで、外壁をそう易々と突破されることはないだろうが。
何の前触れもなく、ローブの内側がモゾモゾと蠢き出した。
そういえば、ブラックドッグを纏ったままなのを、すっかり失念していた。
危うく、このまま光体を使用するところだった。
魔法が齎す妖精への影響は未だ不明。
魔力と魔法は別物。
吸収できるとは思えない。
しかも超級魔法ともなれば、最悪、消滅させてしまいかねない。
1人で戦っているのではないことを、改めて認識し直す。
とはいえ、ブラックドッグがどうして動きを見せているのかが不明だ。
一旦、霧化を解除してやる。
実体化したブラックドッグは、淡く光を帯びている。
まるで魔力を与えた時のように。
──ん、待てよ?
まさか、光牢の維持に使用していた魔力が、ブラックドッグにも供給されてしまったのだろうか。
既に、今日の分の魔力は与え終わった後だ。
過剰な魔力供給が、どのような影響を及ぼすかは不明。
ブラックドッグの体が、一際光り輝く。
あまりの光量に、思わず目を閉じる。
光はすぐに止み、薄目を開けて状況を確認する。
すると、そこに居たのは、巨大な黒い獣。
ブラックドッグ……なのか?
常ならば、最大でも全長2メートルほど。
だが、今は優に倍、4メートル相当の巨体。
ボアの体長は2・3メートルほどのため、今のブラックドッグのほうが余程に大きい。
人が食事を取るように、妖精は魔力によって体を維持している。
吸収する魔力量に比例し、体積が変化するとでもいうのか?
疑問に答えを得られないままに、ブラックドッグが行動を開始する。
未だ光牢で拘束したままのスカルボアへと襲い掛かったのだ。
噛み砕き、薙ぎ払い、踏み潰す。
見る間に骨を砕かれてゆくスカルボア。
ブラックドッグから逃れる術は無い。
次々と蹴散らしてゆくブラックドッグ。
ここまでの攻撃性を見せるのは、最初に遭遇したとき以来になるか。
この行動は、ブラックドッグ自身の意志によるもの。
俺が指示したものではない。
殲滅し終えた後、大人しくなる保証はどこにもない。
最悪の場合、今度はブラックドッグが町に襲撃を仕掛けないとも限らない。
支配を施してあるとはいえ、指示を与えるには触れる必要がある。
万が一の場合に備え、ブラックドッグを拘束できるよう、魔法を使用する準備を整えておく。
そう考えている間にも、スカルボアは数を減らしていた。
既に半数が砕かれ、地面に痕跡が散らばるのみ。
残る半数も、最早時間の問題だ。
4体、3体、2体、1体。
そうして、全て倒されてしまった。
スカルボアを掃討し終えたブラックドッグは、町へと向かわず、俺の下へと戻って来た。
寄せて来た鼻先を、手で撫でてやる。
どうやら、暴走しているというわけではないらしい。
もしかしたら、俺を手伝ってくれたのだろうか。
妖精であるブラックドッグとは意思疎通は叶わないが、もう半年以上は共に過ごしている。
通ずるものがあると信じたい。
流石にこのサイズで町に戻るわけにもいかないので、小型犬サイズになってもらう。
一応、今までどおり、小さくもなれるようだ。
ひとまずは安心した。
だが、この事態は想定外だった。
壁上に集まった人たちが、巨大化したブラックドッグの姿を目撃してしまっていたのだ。
感謝されるどころか、町へ立ち入ることも許されない始末。
スカルボアだろうが、ブラックドッグだろうが、普通の人間にとっては、ただの脅威に過ぎないのだろう。
たとえ己が身を賭して守って見せようとも、長年染みついた恐れは拭えやしない。
町の外で、これからどうしようかと思案していたところに、御者が馬車を繰り、町から出て来た。
手を振ってみせると、すぐさま近づいて来てくれた。
どうやら町の騒ぎを察し、宿屋に置いてきた俺の荷物も回収して、俺を拾いに来てくれたとのこと。
そう、荷物を取りに戻ることも許されなかったのだ。
咄嗟の機転、感謝に堪えない。
残念ながら、宿泊することは叶わなくなってしまったが、馬車に乗り込み、次の町を目指す。
【次回予告】
まだまだ故郷は遠く、道中の危険は増してゆきます。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




