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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第二章 妖精秘境編 前編
82/364

66 元勇者の魔王、怪獣大決戦? 【修正】

スキル名は【】、使用した能力や魔法は≪≫で記載しております。


23/04/28 全体を加筆修正

 突然の報せに、町は騒然となった。


 表通りから、見る間に人の姿が消えてゆく。


 情報をもたらした人物の下へと、詳しい話を聞くべく駆け寄る。


 その間も、他に集まって来る者はいない。


 先程見た冒険者ギルドに、冒険者の姿は見当たらなかった。


 そもそもが、この町には滞在していないのか。


 はたまた、状況の推移を見守っているのか。



「化け物の居場所と特徴を教えてください」


「お、おぅ、あんちゃん、もしかして冒険者か!? 早く何とかしてくれ! とにかくでっけぇ化け物だ! 町の西側から向かって来てやがる! こんなちゃちな外壁じゃ、幾らも持ち堪えられやしねぇ!」



 この人は別段、兵士でも冒険者でもないのか。


 分かったことと言えば、精々が大きいらしいということぐらい。


 動物であれば、そう言うだろう。


 外壁が突破されかねないなどと、尋常な相手ではあるまい。


 該当しそうな魔物と言えば、ドラゴンぐらいなもの。


 まさか、またあのダークドラゴンが、俺を狙って現れたのか?



「分かりました。化け物の対処は俺が引き受けましょう。貴方は、兵士や冒険者ギルドへ連絡をお願いします」


「おいおい、アンタだけで何とかするつもりか!? 壁よりでっけぇ化け物なんだぞ!」



 この町を囲う壁の高さは、二階建て程度。


 それを超えるとなると、やはりドラゴンか、あるいは、以前撃退した異常なジャイアントだろうか。



「これでもステータスだけなら、Aランク相当の冒険者ですから。大丈夫、どうにかしてみせます。防衛は、壁外ではなく壁上に。遠距離武器か魔法を扱える者で構成してください」


「Aランクだぁ? Aランクと言やぁ、冒険者の1割にも満たないって話じゃねぇか。んな猛者が、こんな町に都合よく居るはずがねぇだろうがよ。下手な嘘つきやがって! オレを揶揄からかってやがるのか!?」


「いえ、そんなつもりは──」



 身体を揺らす地響きが、言葉を中断させた。


 この揺れの感じ……あの時のジャイアントに近しい気がする。


 ドラゴンならば、飛んで来そうなもの。



「うひぁっ!? も、もうすぐ近くまで来てやがるんだ!」


「──行きます。決して外には出ないように」



 それ以上は構わず、町の西を目指して駆け出す。


 律儀に門を経由している場合ではない。


 手頃な家の壁の間を蹴り上がる。


 屋根伝いに駆け抜け、勢いそのままに、壁外へと飛び降りた。






 壁外に遮蔽物はない。


 開けた視界に、異様が映り込む。


 小さな丘。


 だが、色味が周囲に比べて明らかにおかしい。


 平野の緑の中に、白い丘があるのだ。


 のみならず、こちらへと近づいてきている。


 骨の塊──つまりは、アンデッド。


 沼で目撃された個体と同一かは分からないが、ようやく邂逅できた。


 その姿形は、ドラゴンはもちろんのこと、ジャイアントですらもない。


 ボアと呼ばれる、猪に似た魔物が近しいだろうか。


 ただし、その大きさを除けば、だが。


 どうやら先程聞いた情報に、誇張はなかったらしい。


 その巨体は、背後の外壁を優に超えることだろう。


 目算で高さ10メートル超、全長は如何程いかほどもあろうか。


 これほどまでに巨大化したボアなど、聞いたこともない。


 最大でも、3メートルが精々のはず。


 以前のジャイアントに引き続き、またしても異常個体。


 スカルドラゴンならぬ、スカルボアというわけか。






 近づくにつれて、違和感を覚える。


 見える限りの骨という骨がひびだらけ。


 以前遭遇したスカルドラゴンと比べて、状態が劣悪過ぎる。


 全身が砕かれるような、惨い最期を遂げたのだろうか。


 既に死した存在。


 今更、救う手立てはない。


 俺にできることは、速やかに終わらせてやることのみ。



光縛ロック



 光の初級魔法。


 白骨の巨体を地にい留める。


 アンデッドへの対処法は、聖魔法による浄化、復元不可の破壊、焼却のいずれか。


 光体は使用後のリスクが大きい。


 まだ他の個体が現れないとも限らない。


 それに、これだけの大質量の完全破壊ともなれば、用意ならざるのは試さずとも察せられる。


 ならば、ここは焼却一択。



光炎プロミネンス



 光の上級魔法。


 疑似太陽が、スカルボアのすぐ上に現出し、一瞬で全身を炎が包む。


 赤も黄も通り越した白光が、全てを焼失させてゆく。


 数千度にも達する熱が、周囲の地面諸共、骨をも溶かす。


 ──はずだった。






 眼前の炎が弾け飛ぶ。


 小高い丘ほどもあった巨体が、バラバラに四散する。


 咄嗟に後方へと飛びずさる。


 弾けた衝撃によるものか、炎が掻き消えてしまっていた。


 散り散りになった欠片が、見る間に形を成していく。


 そうして、先程よりも小さい、通常サイズのボアへと変形してみせた。


 その数、10。


 アンデッドから新たなアンデッドが生成されるなど、知り得ない事象。


 どの個体の骨にも、不思議と先程あったひびが見当たらない。


 これはいったい、どういう……。


 元々、ひびなど入ってはおらず、複数のボアを組み合わせていた?


 と、こちらの当惑に構わず、全ての個体が一斉に背後の町へと駆け出す。


 もちろん、見逃したりはしない。



光牢プリズン



 光の中級魔法。


 すかさず魔法で拘束。


 だが、先程弾け飛んだ所為で、町にかなり近づかれてしまった。


 この距離では、光炎の使用ははばかられる。


 何せ岩をも溶かす熱量だ。


 外壁は言うに及ばず、家屋まで焼き尽くしかねない。


 他の手段を考えなくては。


 生憎と、光炎以外に、焼却するすべは持ち合わせていない。


 であれば、全てを粉砕するしかない、か。


 光体であれば、十分に可能だろう。


 問題は、魔力を全消費してしまうこと。


 光体を使用したら、光牢は解除されてしまうことになる。


 時間は掛けられない。


 一応、サイズが縮んだことで、外壁をそう易々と突破されることはないだろうが。






 何の前触れもなく、ローブの内側がモゾモゾとうごめき出した。


 そういえば、ブラックドッグをまとったままなのを、すっかり失念していた。


 危うく、このまま光体を使用するところだった。


 魔法がもたらす妖精への影響は未だ不明。


 魔力と魔法は別物。


 吸収できるとは思えない。


 しかも超級魔法ともなれば、最悪、消滅させてしまいかねない。


 1人で戦っているのではないことを、改めて認識し直す。


 とはいえ、ブラックドッグがどうして動きを見せているのかが不明だ。


 一旦、霧化を解除してやる。


 実体化したブラックドッグは、淡く光を帯びている。


 まるで魔力を与えた時のように。


 ──ん、待てよ?


 まさか、光牢の維持に使用していた魔力が、ブラックドッグにも供給されてしまったのだろうか。


 既に、今日の分の魔力は与え終わった後だ。


 過剰な魔力供給が、どのような影響を及ぼすかは不明。


 ブラックドッグの体が、一際光り輝く。


 あまりの光量に、思わず目を閉じる。


 光はすぐに止み、薄目を開けて状況を確認する。


 すると、そこに居たのは、巨大な黒い獣。


 ブラックドッグ……なのか?


 常ならば、最大でも全長2メートルほど。


 だが、今は優に倍、4メートル相当の巨体。


 ボアの体長は2・3メートルほどのため、今のブラックドッグのほうが余程に大きい。


 人が食事を取るように、妖精は魔力によって体を維持している。


 吸収する魔力量に比例し、体積が変化するとでもいうのか?


 疑問に答えを得られないままに、ブラックドッグが行動を開始する。


 未だ光牢で拘束したままのスカルボアへと襲い掛かったのだ。


 噛み砕き、薙ぎ払い、踏み潰す。


 見る間に骨を砕かれてゆくスカルボア。


 ブラックドッグから逃れるすべは無い。


 次々と蹴散らしてゆくブラックドッグ。


 ここまでの攻撃性を見せるのは、最初に遭遇したとき以来になるか。


 この行動は、ブラックドッグ自身の意志によるもの。


 俺が指示したものではない。


 殲滅し終えた後、大人しくなる保証はどこにもない。


 最悪の場合、今度はブラックドッグが町に襲撃を仕掛けないとも限らない。


 支配を施してあるとはいえ、指示を与えるには触れる必要がある。


 万が一の場合に備え、ブラックドッグを拘束できるよう、魔法を使用する準備を整えておく。


 そう考えている間にも、スカルボアは数を減らしていた。


 既に半数が砕かれ、地面に痕跡が散らばるのみ。


 残る半数も、最早時間の問題だ。


 4体、3体、2体、1体。


 そうして、全て倒されてしまった。


 スカルボアを掃討し終えたブラックドッグは、町へと向かわず、俺の下へと戻って来た。


 寄せて来た鼻先を、手で撫でてやる。


 どうやら、暴走しているというわけではないらしい。


 もしかしたら、俺を手伝ってくれたのだろうか。


 妖精であるブラックドッグとは意思疎通は叶わないが、もう半年以上は共に過ごしている。


 通ずるものがあると信じたい。


 流石にこのサイズで町に戻るわけにもいかないので、小型犬サイズになってもらう。


 一応、今までどおり、小さくもなれるようだ。


 ひとまずは安心した。






 だが、この事態は想定外だった。


 壁上に集まった人たちが、巨大化したブラックドッグの姿を目撃してしまっていたのだ。


 感謝されるどころか、町へ立ち入ることも許されない始末。


 スカルボアだろうが、ブラックドッグだろうが、普通の人間にとっては、ただの脅威に過ぎないのだろう。


 たとえ己が身を賭して守って見せようとも、長年染みついた恐れは拭えやしない。


 町の外で、これからどうしようかと思案していたところに、御者ぎょしゃが馬車をり、町から出て来た。


 手を振ってみせると、すぐさま近づいて来てくれた。


 どうやら町の騒ぎを察し、宿屋に置いてきた俺の荷物も回収して、俺を拾いに来てくれたとのこと。


 そう、荷物を取りに戻ることも許されなかったのだ。


 咄嗟とっさの機転、感謝に堪えない。


 残念ながら、宿泊することは叶わなくなってしまったが、馬車に乗り込み、次の町を目指す。






【次回予告】

まだまだ故郷は遠く、道中の危険は増してゆきます。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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