61 元勇者の魔王、町での過ごし方 【修正】
▼10秒で分かる、これまでのあらすじ
王都の事は仲間に任せて、帰郷する事になった
機関を離れてしまったので、サブタイから代表が取れました。
それでは、本編の続きをどうぞ。
23/03/29 全体を加筆修正
瞼越しに光を感じて、意識が浮上する。
次いで感じたのは、身体の揺れ。
眩しさに目を細めつつ、状況の把握に努める。
一部屋分にも満たない、狭く見慣れぬ場所。
頭上に見えたカーテンをズラすと、外の景色が横に流れ続けている。
此処は……ああそうか、箱馬車に乗っていたんだった。
夜中に王都を出発し、程なく座席に横になって寝ていたらしい。
お腹の上では、身を丸めたブラックドッグが、呼吸に合わせて上下している。
ブラックドッグを座席にそっと移してやり、上体を起こして、改めて車窓から外を眺める。
まだ早朝なのか、外は白み始めた頃合いだ。
遮蔽物の無い、一面の平野が広がっている。
今はどの辺りなんだろうか。
窓を開けて、周囲の様子を窺ってみる。
真っ直ぐに伸びた街道には、人影はおろか、他の馬車の姿も見受けられない。
確か、予め聞いていた予定では、町で一泊してから、次の町へと向かうらしい。
夜中の移動は最初だけとのこと。
そもそもが、人目を忍ぶための夜中の移動。
王都から出てしまえば、俺の素性を知る者は極めて少ないだろう。
もっとも、王都で判別されることも少なかったわけではあるのだが。
王都の外ともなれば、誰も知り得ていなくとも不思議ではない。
視線を進行方向へと巡らすと、既に町を囲う外壁が見え始めていた。
夜通し移動していたことだし、到着したら、馬を休められる宿屋の確保から済ませないとな。
王都に次いで発展した、大きな町。
石造りの外壁を備えており、兵士が常駐してもいる。
高山が連なる地形のため、北部で暮らす人々は多くはなかった。
そこに魔王率いる魔物の群れが現れたことで、王都以北で暮らすことは事実上不可能と言っていい。
そうして王都に移住できなかった人々が、自然豊かな南部へと移ることで、町村を発展させたり、新たな集落を形成していった。
南部には田畑が広がっており、農業を中心とした村や集落が幾つもあったはず。
田畑をさらに南下した先、山に囲まれた場所に、故郷たる集落があった。
馬車で半月ほどは掛かるだろうか。
かつて故郷を飛び出し、単身王都へと向かった際は徒歩だった。
しかも当時は10代前半の子供。
野宿を重ね、数カ月かけて王都まで辿りついた。
北部に比べれば数は少ないとはいえ、南部にも魔物は相当量が存在していた。
冒険者が狩り尽くせないほどに。
野生の肉食動物だって居たし、稀ではあるが、行商人を狙った野盗だって出没していた。
我がことながら、随分と無茶をしたものだ。
「──そこの馬車、止まれ! 町へ入りたくば、身分を明らかにしてもらおう」
威圧的な声に、思考から脱して窓の外を窺う。
どうやら感慨に耽っている間に、馬車は町へと到着したようだ。
外壁の門で守衛に付いていた兵士により、停車させられる。
御者が手慣れた所作で通行手形を見せ、特に待たされることもなく、町の中へと入ることが叶った。
行商人、荷馬車、今利用している人の移動を目的とした箱馬車など、王都や近郊の町に入る際には、組合から発行されている通行手形が必要となる。
冒険者の場合であれば、ギルド証の提示が必要だ。
面倒この上ないが、王都近郊へ不審者の侵入を阻む目的らしい。
偽称・偽装・偽造などは当然の如く犯罪に当たる。
王都直近の大きな町だけあって、車窓越しでも兵士の数が多いのが分かる。
人数の多さは、治安維持もさることながら、魔物などの危険を察知した際、早馬を王都へと走らせるためでもあるのだろう。
以前ジャイアントが王都へと迫った折、事前に魔物接近の報が伝わらなかった。
平和になっていたことでの気の緩みも、多分にあったのだろう。
とはいえ、10メートル越えの巨体を見逃されるようでは、不安も尽きない。
いや、もしかしたら、アレも王子によって引き起こされた事態だったとは考えられやしまいか。
行方をくらましたのも、確かあの騒動の後だったはず。
転移を使用すれば、事前の発見が叶わなかったことにも納得がいく。
そもそもジャイアントは、北部の山脈に生息していた。
南部に居たこと自体がおかしい。
故郷への道すがら、南部の魔物の様子についても、確認しておければいいのだが。
王都直近の大きな町だけあって、表通りの道幅は広く、馬車同士が余裕をもってすれ違えるほど。
道沿いには、冒険者や行商人相手の宿屋、食堂、酒場、露店などが軒を連ねている。
王都の造りと同じく、町の奥まった辺りに住宅が密集しているらしい。
宿屋の幾つかは、馬を休ませられる厩舎が併設されてもいる。
別々の場所に泊るのも手間だし、御者と一緒の宿屋に泊るとしよう。
ブラックドッグを連れているため、部屋は別が望ましい。
御者に声を掛け、厩舎が併設された宿屋に、一緒に泊るよう提案する。
快諾してくれたのを確認し、共に宿屋を目指した。
意外と言っては失礼かもしれないが、何件か宿屋を回る羽目になった。
聞くところによると、宿泊客が普段よりも多いらしい。
宿泊客の多くは、王都が目的地だろうに。
王都までは半日程度の距離しかない。
この町に、多くの人間が留まる理由とはいったい……?
首を捻ってい俺に、御者が耳打ちをしてきた。
王子率いる魔物たちによる王都襲撃の一件が尾を引いているのでは、とのこと。
皆、次の襲撃を警戒して、王都へ向かうのを躊躇っているわけか。
平和になったはずの、このご時世に、数百もの魔物の群れが現れたのだ。
一般人は勿論、冒険者であろうとも、警戒するのは無理からぬこと。
今朝方、街道で馬車や人影を見かけなかったのは、この所為だったのか。
ようやく泊まれる宿屋を見つけ、部屋に荷物を運び込む。
この町に1日滞在し、明日また箱馬車で、次の町へと移動することになる。
先程目覚めたばかりだし、特に眠気はない。
何をして過ごしたものか。
学者くんから貰った本を読んでみるのもいいだろう。
それとも、この町の冒険者ギルドの依頼でも確認してみるか。
ふうむ……本は馬車の中でも読める、か。
ひとまず、冒険者ギルドに出向くことにした。
目を覚ました小型犬サイズのブラックドックを引き連れ、冒険者ギルドへと向かう──のは思い留まり、ブラックドッグを霧状にして身に纏い、上からローブを羽織ってから宿を出る。
以前、王都でやらかしたのは、苦い記憶だ。
無用な騒動を避けるためにも、冒険者ギルド付近には、ブラックドッグを表立って連れ歩かないほうが無難だろう。
久々の服装に、少し懐かしさすら覚える。
最近は、ブラックドッグを隠すこともなくなっていたしな。
騒ぎを起こす前に、気が付いて良かった。
気を取り直して、冒険者ギルドへと向かう。
初見でこそないものの、土地勘などほぼ皆無に等しい。
旅の殆どは、魔王城のあった北部を中心として行っていた。
帰郷を避けていたこともあり、南部へはあまり来た覚えがない。
宿屋の主人に場所を尋ねてから外に出る。
朝靄は消え去り、もうすっかり朝だ。
人通りも増えてきている。
お目当ての冒険者ギルドは、表通りを道なりに進めば見えてくるとのこと。
まぁ、それもそうか。
目立たない場所に建てる意味は薄い。
彷徨うこともなく、割とすんなり見つけることができた。
王都とは違って、二階建て。
扉は開け放たれている。
中に入るまでもなく、想像以上の人数で混みあっていることが窺い知れた。
何故、これ程混みあっているのだろう。
正面のカウンターは、人でごった返していた。
途切れ途切れに聞こえてくる声からは、依頼を奪い合っている、といった様子ではない。
どちらかというと、押し付け合っているような感じだ。
話を聞こうにも、興奮気味の人たちが邪魔で、カウンターに辿り着けそうにない。
二階は、恐らく高ランク用の受付のはず。
Bランクで立ち入って良いのか不明だが、この場に残っても、カウンターは空きそうにない。
依頼は受けられずとも、事情を聞くことぐらいはできるだろう。
人垣を掻き分け、階段へ。
一階とは打って変わって、二階は閑散としていた。
カウンターの向こうに控えた受付嬢以外に人影はない。
意を決して近づく。
「お疲れ様です、冒険者様。ご用件は何でしょうか?」
「すみません。Bランクなのですが、こちらで依頼を確認できますか?」
「はい、問題ございません。一階はCランク限定。二階はBランク以上となっております」
では、階下の人たちは、全員Cランクだったわけか。
王都もそうだったが、依頼の数に対して、冒険者の人数が多過ぎるようだ。
「そうだったんですね。あ、これ、ギルド証です」
「お預かりいたします…………え、まおっ!? し、少々お待ちください」
「?」
言うが早いか、奥の部屋に駆け込んでしまった。
どうしたのだろう?
明らかに受付嬢の反応がおかしかった。
ギルド証を確認しただけのはずだけど。
……って、ああそうか。
職業、魔王だもんな。
そりゃあ、驚くのも無理はないよな。
少しして、部屋から受付嬢さんが戻ってきた。
「お待たせいたしました。ギルド証が本物であると確認できましたので、こちら、お返しいたしますね」
「どうも」
最初と違って、やや表情がぎこちない。
というか、ギルド証が偽物とまで疑われていたわけか。
まあいい、そんなことよりも情報収集だ。
「一階が随分と騒がしいみたいでしたが、何かあったんですか?」
「──実は、町に程近い場所で、魔物が見つかったようなのです」
「町の近くに魔物、ですか」
最近、王都の周辺で魔物の姿を確認することはなかった。
それこそ、王子の襲撃までは、Bランク昇級試験の際に遭遇した、ロックワームが最後だった。
北ならまだしも、王都よりも南で魔物の目撃例だなんて。
本当だろうか?
「はい。目撃情報では、死体が起き上がり動き出した、と」
「死体!? つまり、アンデッドというわけですか」
「……魔王が倒されて以降、まったく報告されていなかったのですが」
受付嬢の視線が痛い。
そうですね。
自分、魔王ですからね。
間違いなく、疑われてますね。
「その依頼、Cランクだけでしょうか? Bランクには?」
「まだ被害らしい被害は報告されていませんので、Cランクの依頼のみですね」
「成程。目撃された場所は?」
「町から一時間程の距離にある沼とのことです」
「分かりました。色々とありがとうございます」
「……失礼ながら、もしや向かわれるおつもりですか? しかし報酬は──」
「なあに、無性に散歩に行きたくなっただけのことですよ。差し当たって、沼にでも向かってみようかなと、ね」
それに、自分に無関係とも言い切れない。
アンデッドは魔物とは異なる存在。
自然発生などせず、唯一生み出せるのは魔王のみ。
俺にはできないし、するはずもない。
つまりは、もう一人の魔王である王子が関係しているに他ならない。
まさかとは思うが、この近くに潜んでいるのか?
分からないことは多いが、行かないという選択肢は無い。
早めに決着できるのであれば、願ってもない。
「では、これで失礼しますね」
「ほ、本日はご利用いただきありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」
受付嬢に見送られながら、カウンターを後にする。
アンデッドは動く死体。
生き物ではない。
かつては魔物か、動物か、あるいは人か。
いずれにしろ、生き物を冒涜する行為。
退治するのに、些かの躊躇もありはしない。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




