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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第二章 妖精秘境編 前編
76/364

60 元勇者の魔王で代表、宴 【修正】

23/03/26 全体を加筆修正

 食堂の中央に2つの机がくっつけられ、大皿に盛られた色とりどりの料理が所狭しと並ぶ。


 椅子は壁際に配され、簡易的な立食パーティーといった様子。


 主に戦士が料理を消費してゆくなか、皆、思い思いの場所で食事を取っている。


 皿に料理を載せ、部屋の隅、ブラックドッグが寝そべっている場所へと移動した。


 ついつい料理をあげたくもなるが、非常に残念なことに、見た目が犬に似ているだけで、一度たりとも料理を食べてくれたことはない。


 椅子を一脚手繰り寄せ、腰かける。


 見るとはなしに目を向ける先。


 かつての仲間たちと、新たな同僚たち。


 望んでいた光景。


 しかし、決定的に足りないモノがある。


 本来であれば、この場には5体の魔物が居たはずなのだ。


 スライムたち、セントレア、そしてブギーマン。


 とはいえ、ブギーマンは人の恐怖を具現化するという性質上、同席するのは難しいかもしれないが。


 仲間たちには、ブギーマンは何に見えただろう。


 料理を食べるのもそこそこに、物思いにふけっていると、すぐそばに人影が現れていた。



「料理を食べ終わらないと、僧侶が用意してくれたお菓子が食べれないじゃない。サボってないで、アンタも料理を平らげなさい」



 視線を向ければ、目に飛び込んでくるのは橙色のクセ毛。


 ブラックドッグを避けるようにして立って居たのは、魔法使いだった。



「見た感じ、到底6人では食べきれませんよ」


「折角だから食い溜めしておきなさい。そうすれば、道中で無駄にお金を使わずに済むでしょ」


「人間の身体は冬眠する動物とは違いますからね。食べ溜めておく、なんて真似はできませんよ」


「どうかしら。アンタって本当に人間なの? 聞いたこともない勇者なんて天職の上、今では魔王だなんて。とても普通の人間とは思えないんだけど」



 普通、か。


 確かに普通ではないのだろう。


 極めて特殊な事例だという自覚ぐらいはある……つもりだ。


 だからといって、人外呼ばわりは流石に酷過ぎやしまいか。



「そこまで言われるのは心外ですね」


「そう? でも謝ったりしないわよ。悪気は無いから」


「少しは相手の心証も考慮してください」


「呆れた、どの口が言ってるんだか。その筆頭がアンタな気がするんだけど? 他人どころか、アタシたちのこともお構いなしって風だったくせに」


「そんなことは……」


「アタシが記憶違いなんて、するはずないでしょ。否定なんかさせないわよ」


「昔と今では、そんなに印象が違っていますか?」


「はぁ? 今は違うって言いたいわけ? 人に相談せず、勝手に決めて行動に移すってのがアンタじゃない。今回だってそうよ。懲りずに倒れてさ……ホント、馬鹿なんだから」



 神級魔法を使ったことを責めているのか。


 結果的に、無駄撃ちした形になったことは否定できない。



「相談できる状況でもなかったでしょう」


「状況が違ってても、相談したかは大いに疑問だわ」


「そんなに信用がありませんかね」


「当たり前でしょ。少しは自分の振る舞いを反省なさい」



 好き勝手をすると言うなら、むしろ魔法使いのほうではなかろうか。



「そう言う魔法使いはどうなんです? 他人を気にしなさ過ぎですよ」


「他人? 他人なんて、実験動物ぐらいにしか思ってないわね」


「実験動物って、そんな……」



 ……ん? 実験動物?


 何か引っかかるな。


 何だったろうか。


 実験、実験、実験。



「──そうだ、思い出しました!」


「何よいきなり。大声なんか出して」


「ダンジョンですよ、ダンジョン。ゴーレムを改造しましたね?」


「ゴーレムって……アンタまさか、またあそこに行ったわけ? 随分な物好きね」


「他にも見覚えのない蜘蛛型のも居ましたし。しかも、俺を狙うように手を加えましたよね?」


「転移魔法陣の研究で行った時にね。ほんの少し手を加えといただけよ」


「どこが少しなんですか!? 通路を覆うほどに増えてましたよ!」


「自己複製の上限数は定めたし、ダンジョンから出ないようにもしていたはずだけど」


「いや確かに、外にまでは出ていないようでしたが。ですが明らかに、Cランクの冒険者が挑むはずの昇級試験を、逸脱した脅威度になっていましたよ」


「ま、そもそもが、突破させるつもり自体、無かったしね」


「……はい?」


「これから先──いえ、もう既に、冒険者の数は需要に対して、供給過多になってるわ。だから、一計を案じておいたってわけ」


「ではわざと強い敵を配置しておいた、と?」


「そうよ。けどまあ、アンタが今ここに居るってことは、敵わなかったってわけね。で、どう? アタシのゴーレムは手強かったかしら?」



 悪びれた様子など微塵も見せていない。


 それどころか、感想を求められる始末。


 半ば呆れながら返答する。



「厄介な相手ではありましたね。ご丁寧に光魔法への高い耐性を有していたみたいでしたし」


「そう。まだまだ改良の余地がありそうね。いずれはアンタ如き、捻り潰せるぐらいのを作ってみせるわ」


「結局のところ、あのゴーレムが俺に反応したのって──」


「そんなの、アンタを倒すために決まってるでしょ」


「なっ」


「ま、アレはその試作品に過ぎないけど」


「俺に何の恨みがあるって言うんですか」


「恨み? そうねぇ……アタシのゴーレムを倒されたって恨みはあるわね。でも、それが理由ってわけじゃないわ」


「ではいったい」


「この世界で、一番の脅威って何か分かる?」


「一番の脅威、ですか? えっと、そうですね……あの王子か、Sランクの魔物でしょうか」


「やっぱり、分かってないわけね」


「違うんですか?」


「アンタよ、ア・ン・タ。不用意に力を使って見せて。いくら平和ボケしていようが、遠からずアンタの危険性に気が付く連中が出て来ることでしょうね」



 俺の、危険性?


 俺が魔王だからってことを言ってるのか?



「アンタの使える光魔法は、ハッキリ言って異常よ。神級はおろか、超級だって、他の誰にも使えないし。聞いたことすらなかったわ」



 魔法使いの口調が、真剣みを帯びる。


 魔王としての力ではなく、勇者としての力のほうを警戒されている?



「超級の魔力の全消費、神級の生命力の消費。他の魔法に比べて、負荷も桁違いよ。特に神級は別格ね。使用を控えないと、い先短いわよ」


「おいそれと使うつもりはありませんよ」



 俺の返答を聞き、目をすがめる魔法使い。



「どうせ、いざって時には使うんでしょ? 削れる命にも、限りがあるわよ?」


「他の誰にもできないなら、自分が助けになるのであれば、迷わず使います」


「ホント馬鹿ね。どうせ使い潰す命なら、実験台になってほしいわ」


「それは勘弁願いたいですね」



 少し弛緩した空気。


 だが、釘をさすように、魔法使いは言葉を投げかけてくる。



「いい? よく覚えておきなさい。アタシが転移させるまで、神級だけは使わないように。いざって時に疲弊してるんじゃ、話にならないわよ?」


「そう、ですね。肝にめいじておきます」


「脳に刻み付けておきなさい。心臓は記憶なんて真似、できやしないんだから」



 言うが早いか、魔法使いはきびすを返し、歩き出していた。


 振り返ることはない。


 結局、ゴーレムの件で謝罪はされなかったな。






「厄介なのに絡まれてたみてぇだな。大丈夫か?」



 魔法使いが立ち去ったかと思いきや、すぐさま声が掛けられた。


 相手は確認せずとも分かる。


 戦士だ。



「絡まれていたというか、宣戦布告されたというか、警告されたというか」


「そりゃまた、短時間に随分と詰め込まれたな」


「それで、どうかしましたか? 心配して声を掛けてきたわけでもないんでしょう?」


「野郎の心配をオレがするはずもねぇわな。いや、少しばっかり無理矢理過ぎたかと思ってな」


「? 何のことですか?」


「帰郷に関してさ。あんま乗り気じゃねぇみたいだしな」


「本当に嫌なら、了承しませんでしたよ」


「そうか? なら良いが、あくまでもオマエを休ませるのが目的なんだ。くれぐれも無理はするなよ?」


「休ませるのが目的、ですか」


「"アレ"の所為で、数日寝込んでたのを忘れたわけじゃねぇだろ? まだ負荷が残ってねぇとも限らんしな。王都中の住民の視線に晒されるよりかは、故郷で親父さんと向き合う方が気楽かと思ったんだが、そっちはどうよ?」


「後者の方が、難敵ですかね」


「そんなにこじらせてやがるのか。そいつは悪かったな」


「いえ。良い機会と捉えることにしますよ」


「ここまで言っといて何なんだが、相応の覚悟はしておけよ? 手紙の遣り取りもしてなかったんじゃ、故郷が無事とは限らねぇからな」


「そう、ですね」



 確かにそうだ。


 故郷が、家族が無事とは限らない。


 一応、風の便りで聞いたことはないのだし、故郷自体が無くなっている、なんてことはない、はずだ。


 それでも、家族が無事とは限らない。


 魔王を倒すまでの間、魔物による被害は多かった。


 記憶にある限りでは、アイツは、父さんは、故郷を飛び出すまでの、当時の俺よりも強かった。


 冒険者で例えるなら、Bランク相当の強さはあっただろう。


 とはいえ、相手は魔物。


 万が一が無いとも限らない。



「オレが言えた義理じゃねぇが、あんまり気負い過ぎるなよ。例え、何があったとしても、な」



 軽く肩を叩くと、戦士は離れて行った。


 今更考えても、どうにもならない、か。


 我ながら薄情なことだ。


 旅の道中、多くの悲惨・悲哀・悲劇を目の当たりにした。


 だからだろうか、幸福よりも、不幸や不運をこそ、余程身近に感じてしまう。


 この身に降りかからないとも限らない。


 他人事ではない。


 だが、不思議と不安は希薄だ。


 恐らくだが、家族は無事な気がする。


 特に根拠らしい根拠はないのだが、そんな予感がするのだ。






 夕食の時間は、あっという間に過ぎ、遂に馬車に乗る時間が迫った。


 用意してもらった荷物と、先程貰ったばかりの餞別せんべつを忘れずに持つ。


 後ろからは、小型犬サイズのブラックドッグが付いて来る。


 機関の建物の前。


 皆が見送りに出て来てくれた。



「お弁当は忘れずにお持ちになられましたか? 飲み水には十分にお気を付けくださいね?」


「分かってますよ。心配無用です、僧侶さん」



 気づかわしげな僧侶さんを少しでも安心させるよう努める。



「のんびりしてこいや。こっちのことはオレらに任せとけ」


「はい。王都の守りは任せます」



 戦士の軽い口調に、少しだけ気が軽くなった気がする。



「ゆ、勇者様! ど、どうかお気を付けて!」


「はい、有難うございます。そちらも、どうか無理のない範囲で、秘書さんを補佐してあげてください」



 精一杯の声を掛けてくる学者くんに応じる。



「さっきの忠告を忘れないようになさい」


「はい。脳に刻み付けましたよ」



 魔法使いの短い忠告を、再び刻み付ける。



「では勇者様。くれぐれもお気を付けて。お帰りをお待ちしております」


「はい。帰るタイミングは、魔法使い次第ですがね」



 腰を折りお辞儀する秘書さんに、こちらも頭を下げ返す。



「では、行ってきます」



 皆に手を振り、ブラックドッグと共に、箱馬車へと乗り込んだ。


 乗車を確認した御者ぎょしゃが、馬車を出発させる。


 宵闇の中、故郷へ向かい馬車が街道を行く。






【次回予告】

いよいよ王都の外へと旅立ちました。

平和になった筈の世界は、どのような様子なのでしょうか。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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