59 元勇者の魔王で代表、餞別 【修正】
23/03/24 全体を加筆修正
窓の外が赤から黒へと染まり始める頃になり、僧侶さんと戦士が帰って来た。
機関一階にある広い食堂では、既に夜の宴の準備が進められていた。
料理は粗方完成し、今は配膳しているところだ。
食堂の中央にテーブルを二つ並べ、他は隅に片してある。
そもそもが、利用する人数に対して、机と椅子が多過ぎる。
いずれは、全て埋まる日が来るのだろうか。
「ねぇ、お菓子が見当たらないみたいなんだけど?」
「夕食なんですから、お菓子を用意してるわけがありませんよ」
さもあって当然と言わんばかりの魔法使いの態度。
しばらく会わない間に、間食から主食へと昇格してしまったのだろうか。
「だから何? 夕食にお菓子を食べちゃ駄目なわけ?」
「普通は食べないでしょう」
「普通って何よ。他人の生き方なんて、知ったこっちゃないわよ。好きな物を我慢するなんて、馬鹿らしいったらありゃしないわ」
「旅してた頃は、そんなこと無かったでしょうに。いつから、そんな食生活に変わったんですか?」
「アンタに関係無いでしょ? 放っておきなさいよ」
「はいはい、ワタシがお菓子も買ってきましたから、夕食後に余裕があったら食べましょう」
「ホント!? 流石は僧侶ね。誰かさんと違って、アタシのことよく分かってるじゃない」
流石は僧侶さん、扱い方をよく心得ている。
今ので納得するのなら、主食云々は早合点だったのかな。
「餞別は宴の席で渡すとすっか。まずは配膳を済ませちまおうぜ」
「後から来といて、偉そうに仕切らないでくれる? 大皿はアンタが運びなさい。落としたら消し炭よ」
「とても頼んでるって物言いじゃねぇな」
「アンタ相手に頼みごととか、するわけないでしょ? 自惚れないでくれる?」
「はいはい、口よりも手を動かしましょうね」
軽く手を叩きながら、戦士と魔法使いの仲裁をする僧侶さん。
長い旅を終えてから数年。
それでもなお、変わらない光景が此処にはあった。
「しっかしよくもまぁ、この短時間でこれだけの量の料理を拵えたもんだな」
「参加するのは、ワタシたち4人と秘書さんに学者さんの、合計6人ですかね」
「6人分にしちゃあ、ちいとばっかし多過ぎやしねぇか?」
「あら、良かったじゃない。悪食の本領発揮よ。残飯処理は頼んだわ」
「誰が悪食だ、誰が!」
「無理に全部召し上がる必要はございません。残りは後日、もしくは、勇者様のお弁当にしても、よろしいかと存じます」
「それは良いアイディアですね、秘書さん」
秘書さんの発言に、すぐさま僧侶さんが同調してみせる。
しかし、秘書さんの発言に気になる箇所があった。
「呼び方、"代表"じゃなくなってますけど」
「宴であれば無礼講が習わしというもの。機関の代表としてのお仕事ではありませんから」
「……そういうものですか?」
よくは分からないが、秘書さんなりの拘りがあるらしい。
「男の癖にネチネチと。陰湿な真似しないでよね。気持ち悪い」
魔法使いが、痛烈な突っ込みを入れてきた。
「気持ち悪いはあんまりでは」
「呼び方なんて、コイツとかアイツで十分でしょ」
「魔法使いさんはもう少し、勇者様を敬いましょうね」
「い・や・よ」
僧侶さんが口添えしてくれるも、すげなく却下されてしまった。
そんなこんなで、夕食の準備は整った。
「んじゃ、何か挨拶頼むぜ」
「え!? 俺がですか!?」
突然のフリに、当惑してしまう。
「アンタが此処を出ていくんだから、当然でしょ」
「言い方ってもんがあんだろ、流石によぉ」
「どうせ意味は変わらないでしょ。時間と労力の無駄」
「はいはい、騒がない。ワタシも勇者様が挨拶なさってくださると嬉しいです」
「はぁ……でも、気の利いたことなんて言えませんよ?」
「ああ、全然期待してないから。さっさと済ませて、お菓子を食べましょう」
「菓子じゃなく、夕食な」
「──それでは、勇者様。ご挨拶を賜りたく存じ上げます」
秘書さんに促され、咄嗟に挨拶を考える。
「えー、この度は大変お日柄も良く──」
「似合わないから。変な喋り方しなくて良いから」
「勇者様、変に畏まらず、普通のお言葉で大丈夫ですよ」
開始早々に、魔法使いと僧侶さんから、そんな言葉を掛けられてしまった。
普通……普通、か。
「コホン……皆が来てくれて、嬉しかった。しばらくの間、王都を頼みます」
「こういう場合は、乾杯が定番だぜ?」
「じゃあ、乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
各自が、手に持ったグラスを掲げながら唱和した。
「さてと、早速飯にありつきたいところだが、まずは忘れない内に、餞別を渡しとくか」
戦士の言葉を皮切りに、魔法使い以外が集まって来た。
「よっと。オレからは、コレだ」
一升瓶が手渡された。
「中身はお酒ですか?」
「親父さんと飲む用に、な」
「ありがとうございます」
「ちょっと、戦士さん!? これ、随分と度数が高くありませんか!?」
横合いから、僧侶さんが一升瓶を覗き込み、声を荒らげる。
「酒ってのは酔ってなんぼだろ? 酔いたくなけりゃ、水でも飲んでりゃ良い」
「勇者様! くれぐれもお飲みになる際は気を付けてくださいね? 一気に飲んだりしては駄目ですよ?」
「どんだけ過保護なのよ、僧侶は」
次に進み出て来たのは、僧侶さんだった。
「ワタシからは、コレです」
「これは……籠手ですよね」
白銀に輝く、肘から手までを覆う籠手が一対、手渡された。
「はい。光魔法に耐性がある一品だそうです。勇者様の魔法の負荷を、少しでも軽減できればと思慮いたしました。どうぞ、お使いください」
「ありがとうございます。大事に使わせていただきます」
「絶対、安くないわよね、それ。また随分と奮発したわね」
「勇者様のお命には代えられません。それに、良い品には、相応の金銭が要求されるものです」
「あ~あ、アタシも貢がれる職業になりたいものね~」
「今でも十二分に我が儘放題だろうが。まだ不満なのかよ」
「世界一の天才に対して、畏敬の念が足りてないみたいね」
「んなもん、はなから持ち合わせてねぇしな」
魔法使いと戦士が視線で火花を散らす中、続いて進み出たのは学者くんだった。
「ぼ、ボクからはコレを!」
手渡されたのは、一冊の本。
「これは?」
「よ、妖精について書かれている本を、ぼ、ボクが纏めたものです」
「まさかこれをご自身で執筆なさったんですか!?」
「し、執筆だなんてそんな。た、大層なものではありません。い、色々な本から書き写しただけですから」
素人目に見ても、言うほどに簡単なことでないのは明らか。
それに、短時間で用意できる代物でもない。
恐らくは、以前からコツコツと書き進めていたのだろう。
「ありがとうございます。道中、目を通させていただきますね」
「は、はい! こ、光栄です!」
気が付くと、戦士との口論を止めた魔法使いが、今しがた受け取った本を、興味深げに眺めていた。
もしかして、読みたかったりするのだろうか?
「では、最後は私からになります」
そうして秘書さんから手渡されたのは、一本の短剣だった。
以前、洞窟に落ちてしまったスライムを救助する際、賊から押収した物よりも、随分と上等そうな品。
しかも、随分と使いこまれているように見受けられる。
「私が冒険者時代に使っていた短剣です。使い古しで大変恐縮ですが、ぜひ勇者様にお使いいただきたく」
「思い出の品ではありませんか? 本当に貰ってしまって良いのですか?」
「はい。もう使うこともありませんし。お役立ていただければ、私も短剣も嬉しいですから」
「──分かりました。では、ありがたく頂戴します」
「ちょっと待ちなさい! それってつまり、眼鏡は魔物と戦わない気なわけ?」
「成程、魔法使い様のご懸念はごもっともです。私は昔、足に負った怪我が元で、碌に立ち回れません。近接戦では皆様の足手纏いとなることでしょう。ですが、いざとなれば、遠距離武器を使うつもりでおります」
「ふーん、怪我してたの。それは悪かったわね」
「あの洞窟の一件だろ? 覚えてねぇのかよ?」
「っ!?」
戦士の言葉を聞き、秘書さんの表情が変わった。
「あの洞窟って、どの洞窟のことよ? アンタ、何か知ってるの?」
「昔、オレらで助けただろ? ほら、ライカン共の巣だよ」
「そんなこと、いちいち覚えてるわけ無いでしょ。むしろ、何でアンタは覚えてるのよ?」
「事、女に関して、オレが忘れるわけねぇだろ」
「「うわっ、気持ち悪い」」
「おい! 今、僧侶も言ったよな!?」
「すみません。つい本音が漏れました」
「本音かよ!」
「──私のことを、覚えておいでだったのですか?」
おずおずと、秘書さんが問いただす。
「おうよ、一目見て分かったぜ。アンタ、美人だしな」
「うわぁ……口説き出したわよ、コイツ」
「違うわい! 正直な印象を述べただけだっての」
「そういえば昔っから、女性に関しての記憶だけは、ずば抜けていましたね」
「当然だ。脳内には、これまで出会った女を余さず記憶している自負があるぜ」
俺の呟きに、戦士が応えた。
「「気持ち悪い」」
「またかよ!」
思わぬところで、戦士の異常性が露見してしまった。
にしても、ライカンスロープの巣か。
秘書さんが恐怖している対象は、ライカンスロープなのかもしれないな。
皆から貰った品を、帰郷の際に忘れずに持っていくように、心に留め置く。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




