表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第二章 妖精秘境編 前編
75/364

59 元勇者の魔王で代表、餞別 【修正】

23/03/24 全体を加筆修正

 窓の外が赤から黒へと染まり始める頃になり、僧侶さんと戦士が帰って来た。


 機関一階にある広い食堂では、既に夜の宴の準備が進められていた。


 料理は粗方完成し、今は配膳しているところだ。


 食堂の中央にテーブルを二つ並べ、他は隅に片してある。


 そもそもが、利用する人数に対して、机と椅子が多過ぎる。


 いずれは、全て埋まる日が来るのだろうか。



「ねぇ、お菓子が見当たらないみたいなんだけど?」


「夕食なんですから、お菓子を用意してるわけがありませんよ」



 さもあって当然と言わんばかりの魔法使いの態度。


 しばらく会わない間に、間食から主食へと昇格してしまったのだろうか。



「だから何? 夕食にお菓子を食べちゃ駄目なわけ?」


「普通は食べないでしょう」


「普通って何よ。他人の生き方なんて、知ったこっちゃないわよ。好きな物を我慢するなんて、馬鹿らしいったらありゃしないわ」


「旅してた頃は、そんなこと無かったでしょうに。いつから、そんな食生活に変わったんですか?」


「アンタに関係無いでしょ? 放っておきなさいよ」


「はいはい、ワタシがお菓子も買ってきましたから、夕食後に余裕があったら食べましょう」


「ホント!? 流石は僧侶ね。誰かさんと違って、アタシのことよく分かってるじゃない」



 流石は僧侶さん、扱い方をよく心得ている。


 今ので納得するのなら、主食云々(うんぬん)は早合点だったのかな。



餞別せんべつは宴の席で渡すとすっか。まずは配膳を済ませちまおうぜ」


「後から来といて、偉そうに仕切らないでくれる? 大皿はアンタが運びなさい。落としたら消し炭よ」


「とても頼んでるって物言いじゃねぇな」


「アンタ相手に頼みごととか、するわけないでしょ? 自惚うぬぼれないでくれる?」


「はいはい、口よりも手を動かしましょうね」



 軽く手を叩きながら、戦士と魔法使いの仲裁をする僧侶さん。


 長い旅を終えてから数年。


 それでもなお、変わらない光景が此処にはあった。



「しっかしよくもまぁ、この短時間でこれだけの量の料理をこしらえたもんだな」


「参加するのは、ワタシたち4人と秘書さんに学者さんの、合計6人ですかね」


「6人分にしちゃあ、ちいとばっかし多過ぎやしねぇか?」


「あら、良かったじゃない。悪食あくじきの本領発揮よ。残飯処理は頼んだわ」


「誰が悪食あくじきだ、誰が!」


「無理に全部召し上がる必要はございません。残りは後日、もしくは、勇者様のお弁当にしても、よろしいかと存じます」


「それは良いアイディアですね、秘書さん」



 秘書さんの発言に、すぐさま僧侶さんが同調してみせる。


 しかし、秘書さんの発言に気になる箇所があった。



「呼び方、"代表"じゃなくなってますけど」


「宴であれば無礼講が習わしというもの。機関の代表としてのお仕事ではありませんから」


「……そういうものですか?」



 よくは分からないが、秘書さんなりのこだわりがあるらしい。



「男の癖にネチネチと。陰湿な真似しないでよね。気持ち悪い」



 魔法使いが、痛烈な突っ込みを入れてきた。



「気持ち悪いはあんまりでは」


「呼び方なんて、コイツとかアイツで十分でしょ」


「魔法使いさんはもう少し、勇者様をうやまいましょうね」


「い・や・よ」



 僧侶さんが口添えしてくれるも、すげなく却下されてしまった。


 そんなこんなで、夕食の準備は整った。






「んじゃ、何か挨拶頼むぜ」


「え!? 俺がですか!?」



 突然のフリに、当惑してしまう。



「アンタが此処を出ていくんだから、当然でしょ」


「言い方ってもんがあんだろ、流石によぉ」


「どうせ意味は変わらないでしょ。時間と労力の無駄」


「はいはい、騒がない。ワタシも勇者様が挨拶なさってくださると嬉しいです」


「はぁ……でも、気の利いたことなんて言えませんよ?」


「ああ、全然期待してないから。さっさと済ませて、お菓子を食べましょう」


「菓子じゃなく、夕食な」


「──それでは、勇者様。ご挨拶をたまわりたく存じ上げます」



 秘書さんに促され、咄嗟とっさに挨拶を考える。



「えー、この度は大変お日柄も良く──」


「似合わないから。変な喋り方しなくて良いから」


「勇者様、変にかしこまらず、普通のお言葉で大丈夫ですよ」



 開始早々に、魔法使いと僧侶さんから、そんな言葉を掛けられてしまった。


 普通……普通、か。



「コホン……皆が来てくれて、嬉しかった。しばらくの間、王都を頼みます」


「こういう場合は、乾杯が定番だぜ?」


「じゃあ、乾杯!」


「「「「「乾杯!」」」」」


 各自が、手に持ったグラスを掲げながら唱和した。






「さてと、早速飯にありつきたいところだが、まずは忘れない内に、餞別せんべつを渡しとくか」



 戦士の言葉を皮切りに、魔法使い以外が集まって来た。



「よっと。オレからは、コレだ」



 一升瓶が手渡された。



「中身はお酒ですか?」


「親父さんと飲む用に、な」


「ありがとうございます」


「ちょっと、戦士さん!? これ、随分と度数が高くありませんか!?」



 横合いから、僧侶さんが一升瓶を覗き込み、声を荒らげる。



「酒ってのは酔ってなんぼだろ? 酔いたくなけりゃ、水でも飲んでりゃ良い」


「勇者様! くれぐれもお飲みになる際は気を付けてくださいね? 一気に飲んだりしては駄目ですよ?」


「どんだけ過保護なのよ、僧侶は」



 次に進み出て来たのは、僧侶さんだった。



「ワタシからは、コレです」


「これは……籠手こてですよね」



 白銀に輝く、肘から手までを覆う籠手こてが一対、手渡された。



「はい。光魔法に耐性がある一品だそうです。勇者様の魔法の負荷を、少しでも軽減できればと思慮しりょいたしました。どうぞ、お使いください」


「ありがとうございます。大事に使わせていただきます」


「絶対、安くないわよね、それ。また随分と奮発したわね」


「勇者様のお命には代えられません。それに、良い品には、相応の金銭が要求されるものです」


「あ~あ、アタシもみつがれる職業になりたいものね~」


「今でも十二分に我が儘放題だろうが。まだ不満なのかよ」


「世界一の天才に対して、畏敬の念が足りてないみたいね」


「んなもん、はなから持ち合わせてねぇしな」



 魔法使いと戦士が視線で火花を散らす中、続いて進み出たのは学者くんだった。



「ぼ、ボクからはコレを!」



 手渡されたのは、一冊の本。



「これは?」


「よ、妖精について書かれている本を、ぼ、ボクがまとめたものです」


「まさかこれをご自身で執筆なさったんですか!?」


「し、執筆だなんてそんな。た、大層なものではありません。い、色々な本から書き写しただけですから」



 素人目に見ても、言うほどに簡単なことでないのは明らか。


 それに、短時間で用意できる代物でもない。


 恐らくは、以前からコツコツと書き進めていたのだろう。



「ありがとうございます。道中、目を通させていただきますね」


「は、はい! こ、光栄です!」



 気が付くと、戦士との口論を止めた魔法使いが、今しがた受け取った本を、興味深げに眺めていた。


 もしかして、読みたかったりするのだろうか?



「では、最後は私からになります」



 そうして秘書さんから手渡されたのは、一本の短剣だった。


 以前、洞窟に落ちてしまったスライムを救助する際、賊から押収した物よりも、随分と上等そうな品。


 しかも、随分と使いこまれているように見受けられる。



「私が冒険者時代に使っていた短剣です。使い古しで大変恐縮ですが、ぜひ勇者様にお使いいただきたく」


「思い出の品ではありませんか? 本当に貰ってしまって良いのですか?」


「はい。もう使うこともありませんし。お役立ていただければ、私も短剣も嬉しいですから」


「──分かりました。では、ありがたく頂戴します」


「ちょっと待ちなさい! それってつまり、眼鏡は魔物と戦わない気なわけ?」


「成程、魔法使い様のご懸念はごもっともです。私は昔、足に負った怪我が元で、ろくに立ち回れません。近接戦では皆様の足手纏いとなることでしょう。ですが、いざとなれば、遠距離武器を使うつもりでおります」


「ふーん、怪我してたの。それは悪かったわね」


「あの洞窟の一件だろ? 覚えてねぇのかよ?」


「っ!?」



 戦士の言葉を聞き、秘書さんの表情が変わった。



「あの洞窟って、どの洞窟のことよ? アンタ、何か知ってるの?」


「昔、オレらで助けただろ? ほら、ライカン共の巣だよ」


「そんなこと、いちいち覚えてるわけ無いでしょ。むしろ、何でアンタは覚えてるのよ?」


「事、女に関して、オレが忘れるわけねぇだろ」


「「うわっ、気持ち悪い」」


「おい! 今、僧侶も言ったよな!?」


「すみません。つい本音が漏れました」


「本音かよ!」


「──私のことを、覚えておいでだったのですか?」



 おずおずと、秘書さんが問いただす。



「おうよ、一目見て分かったぜ。アンタ、美人だしな」


「うわぁ……口説き出したわよ、コイツ」


「違うわい! 正直な印象を述べただけだっての」


「そういえば昔っから、女性に関しての記憶だけは、ずば抜けていましたね」


「当然だ。脳内には、これまで出会った女を余さず記憶している自負があるぜ」



 俺の呟きに、戦士が応えた。



「「気持ち悪い」」


「またかよ!」



 思わぬところで、戦士の異常性が露見してしまった。


 にしても、ライカンスロープの巣か。


 秘書さんが恐怖している対象は、ライカンスロープなのかもしれないな。


 皆から貰った品を、帰郷の際に忘れずに持っていくように、心に留め置く。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ