58 元勇者の魔王で代表、相応しい物 【修正】
23/03/23 全体を加筆修正
荷造りを終え、仲間と共に執務室へ戻ったところに、何処かへと出かけていたらしい秘書さんが帰ってきた。
「馬車の手配が滞りなく完了いたしました。深夜出発し、街道を南進。道中、幾つかの町を経由しつつ、代表の故郷へと向かう予定となっております」
夜の出発や馬車の利用など、自分を除いて情報の共有がなされていたようだ。
「すみません、手配をお任せしてしまったみたいで」
「いえ、どうかお気になさらず。代表の補佐こそが、私の仕事でもありますから」
「機関が立ち上がったばかりだというのに、押し付けるような形になってしまって申し訳ありません」
「そちらに関しても、どうかお気になさらないでください。私も副代表ですから。形だけの肩書とならず、むしろ安心しているぐらいです」
「何かあれば、僧侶さんを頼ってください」
「はあぁ!? そこで頼るべきは、アタシでしょ!?」
魔法使いが、すかさず口を挟んできた。
「僧侶さんなら、上手く二人を捌いてくれますから」
「はい、お任せください。勇者様のご期待に沿えるよう、尽力します」
「結局、碌に再会を祝うこともできなかったな。せめて今夜ぐらいは、パーッとやるか!」
「あら、アンタにしては気の利いたこと思い付くじゃない。褒めてあげるから、むせび泣くといいわ」
「誰が泣くか!」
「そうですね。折角ですし、再会と門出を祝して」
「門出……ですかね?」
「夜逃げのほうが、適当な表現よね」
「やる前から台無しだぜ。流石は破壊魔。雰囲気すらも、ぶち壊しやがる」
「誰が破壊魔よ、誰が! もし本当にそうだったら、アンタ今頃、生きてないわよ」
「破壊対象、オレかよ!?」
「コホン。宴は無礼講が常とはいえ、まだ始まってもいませんよ? 強制的に大人しくされたいですか?」
「「すみません、勘弁してください」」
「あ、良いことを思いつきました! 魔法使いさんに倣って、ワタシも勇者様に何か餞別をお渡ししますね」
戦士と魔法使いの二人を諫めたかと思いきや、僧侶さんがそんなことを言い出した。
「餞別ねぇ……まぁ折角だし、オレも何か見繕ってやるとすっか」
「いえいえ、そのお気持ちだけで十分ですよ」
「そうは参りません! おそばにお仕えできない以上、せめて何か代わりとなる品を贈らせてください」
「ったく、貰えるもんは貰っとけっての。ただでさえ、施す側なんだからよぉ、オマエは」
「──それでは、僭越ながら私からも、何か贈呈させて頂きたく存じます」
遂には、秘書さんまでもが、そう言いだしてしまった。
「え? いや、皆、おおげさですよ。少しの間帰省するだけですし」
「駄目です! もうすぐ夕方ですね……少し王都で出物を探して参ります」
「オレも少し出てくるわ。買う物は決まったしな」
言うが早いか、二人共、足早に執務室を後にする。
夜も近いとなれば、一般の店は直に閉まってしまう。
急がなければ、目当ての物を買うことはおろか、ゆっくりと品定めすらできないだろう。
理由が自分とあって、どうにも申し訳ない気持ちになってしまう。
「一応言っとくけど、アタシは何も用意しないからね」
「もう十分過ぎるほど頂きましたから。有難うございます」
「フ、フン」
今も首から下げている赤い宝石に、バッグの中に入れた薬液の入った2つの瓶。
帰郷することになるなどと、想定していたわけはなかろう。
つまりは、元々用意してあった品々に違いあるまい。
「──ぼ、ボクにも何か贈らせてください!」
執務室の隅。
今の今まで、一言も発していなかった学者くんが、唐突に声を上げた。
「誰よアンタ? こんなの今まで居た?」
「い、居ましたよ!? ず、ずっと居ました! こ、この機関の職員です!」
「アタシ相手に気配を消してみせるだなんて、中々やるじゃない。さてはアンタ、暗殺者ね! これでも食らいなさい!」
「勘違いが過ぎますよ! 彼は本当に、この機関の職員ですから!」
室内だろうがお構いなしに、いきなり魔法をぶっ放そうとするのを諫める。
どうにもこの魔法使いは、行動までの工程が常人よりも少な過ぎる。
戦闘に於いてならば頼もしいことこの上ないが、戦闘以外となると、いらぬ騒動の元となってしまうこともしばしば。
速攻されがちな魔法の発動前に制止の声が掛けられたのは僥倖といえる。
「本当に暗殺者じゃないわけ? 妙に特徴無いし、偽装か偽者なんじゃない? 一発当てれば、嫌でも正体が分かるでしょ」
「ひぃっ!?」
「当てなくても分かってますから。少し落ち着いてください」
「ぼ、ボクも何か探して来ますねっ」
身の危険を嫌という程感じたのだろう。
学者くんは、執務室から脱兎の如く逃げ出した。
「で? 眼鏡は行かないわけ? 何か贈るんじゃなかったの?」
眼鏡って……秘書さんに向かって、あんまりな呼び方じゃないかな。
「私のお贈りする品は、既に決まっておりますから。用意もすぐに済みます」
「……まさかとは思うけど、イヤラシイ類じゃないわよね? 自らの身体を捧げる的な」
──は?
魔法使いさんや、何を言っておられるのか?
「突然、何を言い出してるんですか!?」
「アンタは黙ってなさい。それで、どうなの?」
「勿論違います」
「あっそ。なら良いわ」
意外な程にあっさりと、矛を収めてしまった。
「ず、随分とあっさり納得したんですね」
「別に、本気で疑ってたわけじゃないわ。冗談よ冗談」
どうにも腑に落ちないが、問い詰めたところで答えそうにない。
君子危うきに近寄らず。
無理矢理、納得することにした。
「少し早いですが、夜の準備をいたしましょうか」
「そうですね、どうせ手持ち無沙汰ですし」
「しょうがないわね。アタシも手伝ってあげるわよ。感謝しなさい」
秘書さんの提案に、俺も魔法使いも同意する。
「あ、そうそう、絶対に調理には参加しないでくださいね」
「ふん、言われなくても分かってるわよ。アタシの料理は、今の人間には、まだ早過ぎるのよ」
「物は言いようですね」
「ならアンタが責任持って、全部食べなさいよね」
「容器が溶けるような出来栄えでなければ、食べてもいいですけど」
「どうかしらね。日によって威力は違うし」
「威力って時点で、料理として間違っていますがね」
「まぁいいわよ。今日のところは勘弁しといてあげる」
「料理であれば、専門の者がおりますから、ご心配には及びません」
「他人の仕事を奪ってもあれだしね。大人しく食べる側に徹するわよ」
「魔法使いは、大人しくしているぐらいが丁度良いと思います」
「……へぇ。その話、詳しく聞こうじゃないの」
「あれ? もしかして怒ってます?」
「どうかしら? もしも生き残ってたら、考えてみれば?」
癇に障ったらしい魔法使いから逃げつつ、準備のために一階の食堂へと向かった。
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