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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第二章 妖精秘境編 前編
73/364

57 元勇者の魔王で代表、準備は万端か? 【修正】

23/03/22 全体を加筆修正

 魔物保全機関の二階、執務室の右隣りに位置する自室。


 簡素な室内に、仕舞われていた荷物が床一面にぶちまけられている。



「お着替えは……え、これだけですか? 少なくありません?」


「別に、裸でさえなければ何でも良いでしょ。テキトーに2・3着、入れときなさいよ」


「裸ってなぁ、そりゃ流石に極論が過ぎるだろ。んなことよりも、だ。剣やら鎧やらはどうしたんだ? そういや、こないだ戦ってた時も着てなかったみてぇだが」



 あれよあれよという間に、帰郷のための準備が進められてゆく。


 当人のはずの俺を置き去りにしたままに。


 僧侶さんの発した疑問に、魔法使いと戦士が反応した。



「えぇっと……生活費の足しにと、売ってしまいました」


「──あ?」


「は? 冗談でしょ?」


「えぇっ!? う、売っちゃったんですか!?」


「えぇまぁ。もう不要だと思ってもいましたので」


「おいおい。あんな物騒な代物、変な連中の手にでも渡ったら事だぞ」


「いつの話よ、それ」


「もう一年以上前になりますね」


「まだお店に残っているでしょうか」


「まあ、昔ならいざ知らず、今は魔物の脅威も薄れて久しいしな。他の冒険者にしろ、装備を手放すことこそあれ、大金を払ってまで買い足すとは思えねぇが」


「それはどうかしら。実用目的では不要でも、貴族や商人が観賞用として収集してるかもしれないわよ」


「一応、探してみますか?」


「いえ、普段着で十分ですよ」


「その無駄な自信の根拠は何なのよ?」



 ジト目で見つめてくる魔法使いに、答えと返す。



「そもそも、転職したことでレベルは1になりましたけど、ステータスは500越えしてますしね」


「んだと? 500って、レベル1でAランク相当かよ」


「光魔法も前と変わらず使えますし、問題はないでしょう」


「帰郷には不要かもしれないけど、王子や魔物との戦闘では必要だと思うわ。面倒この上ないけど、こっちで探しておくしかないでしょうね」


「だな。こないだみたく、ふざけた格好で戦闘しようなんざ、馬鹿な真似が過ぎるってもんだ」


「馬鹿に馬鹿って言われてるようじゃ、ホントどうしようもないわね」


「ああん!?」


「コホン。勇者様、装備を売却して得たお金についてなのですが、もしかして寄付されたのではありませんか?」


「へ?」



 僧侶さんからの唐突な話題の変化に、生返事をしてしまう。



「より具体的には、孤児院に寄付されたのではありませんか?」


「何故それを」


「やっぱり! もう、どうしてそう他人にばっかり!」



 俺の返事を聞いた僧侶さんは、珍しく少し怒った様子で口調を荒らげた。



「馬鹿ね。度し難い程の馬鹿ね。装備を売った挙句、お金は他人にあげるなんて」


「マジかよ……流石にオレも擁護はできねぇな」


「よろしいですか? 先程お渡ししたお金は、他人に施しては駄目ですよ?」


「そんなに心配せずとも大丈夫ですよ。ほんの数年前まで、皆と一緒に旅をしていたじゃないですか」


「そのとおりです。皆と一緒に、です。お一人で旅をされていたわけではないのですよ? きちんと自己管理していただかないと」


「子供じゃないんですから。大丈夫ですよ」


「信用できません」


「信用できないわね」


「信用できねぇな」



 何故だか、即座に否定されてしまった。



「やっぱり、誰かが付き添ったほうが良いんじゃないでしょうか」


「あのねぇ、過保護も大概にしときなさいよ」


「折角の帰郷なんだ、一人にしてやろうぜ」


「ですが──」



 なおも食い下がる僧侶さん。


 余程に心配らしい。



「お気持ちだけで十分ですよ。大体、子供のころに一人で王都まで来れたんですから。それに比べれば、どうということはありませんよ」


「あ、そうそう、その犬は連れて行きなさいよ」



 思い出したように、魔法使いが付け加えてくる。



「ブラックドッグを? 何故ですか?」


「アンタって本っ当に馬鹿ね。今の王都に魔物っぽいの置いとくとか、火に油じゃない。アンタがついでに連れてってよ」


「しかし、この子にはエーテルを与えてやる必要があるんです。どれぐらいの日数になるかも分からないのに、用意していくのも難しいでしょう」


「……はあ? 何よアンタ。まさかとは思うけど、毎度エーテルを買い与えてたってわけ?」


「??? そのとおりですが」


「金欠の癖して無駄に金を使ってたとか馬鹿過ぎるんだけど。魔法が使えないならいざ知らず、魔法が使えるのに、何でエーテル買い与えてるわけ?」


「どういうことですか? 分かるように説明してください」


「だ・か・ら、魔法使う時みたいに、魔力を込めてやればいいでしょ? 思いつかなかったわけ?」


「魔法を使わずに、魔力だけ込めるんですか?」


「魔力操作のイロハは教えたはずでしょ? できないとは言わせないわよ」



 以前、王城の書庫で学者くんと話していたように、魔力を他者に割譲する魔法は無いはずだ。


 それに、魔力を込めて触れてたとしても、他者に魔力の割譲はできない。


 だが、そもそも、魔力のみを必要としているブラックドッグになら、魔力を込めて触れてやるだけで、同様の効果が見込めるというのだろうか。


 魔法使いに言われたとおりに、大人しくそばに座っていたブラックドッグに触れ、魔法を発動するように、しかし、魔力だけを込めてみる。


 すると、ブラックドッグの体が淡く光ってみせた。


 エーテルを与えた時と同様、魔力が吸収されているようだ。



「……本当に可能なんですね」


「妖精なんだから、魔力を吸収できるのは当然でしょ?」


「やはり、妖精なんでしょうか」


「魔物は軒並み支配されていったんでしょ? その範囲内にあって無事ってことはつまり、魔物じゃないってことでしょ」


「……そう、なんですかね」



 そうだろうとは思ってはいたが、確信には至れてはいなかった。


 王様のように、ステータスを確認することもできなかったし。



「今まで幾ら使ったのか知らないけど、勿体ない話よね。でも、これで魔力の問題は解決したでしょ? じゃあ、連れてってね」


「オマエよぉ、単に犬が苦手なだけじゃねぇのか? オマエが触ってるとこ見たことないぜ?」


「アンタと違って、魔法使いのアタシが、万が一にも魔力を吸われるわけにはいかないってだけよ」


「ハッ、ちげぇねぇ。魔力の無い魔法使いなんてのは、まさに役立たずだしなぁ」


「その鬱陶しいアフロ、この際だから消し炭にしとく?」


「っておい、目がマジじゃねぇか!? 止せ、やめろって!」



 魔法使いは脅しだけで済ますつもりはないのか、はたから見ても分かる程の魔力を込め始める。



「室内では止めてくださいね。やるなら外に行ってください」


「そういう問題じゃねぇ! 見てねぇで、この馬鹿を止めろや!」


「逃げるな! 死ね!」


「狙ってるのは頭じゃなくて命のほうかよ!?」


「では勇者様。お荷物はこれで十分でしょうか。出発は夜中、馬車をご利用くださいね」



 ドタドタと廊下へと走り去ってゆく2人を尻目に、僧侶さんがテキパキと荷物の整理を進めてくれていたらしい。


 いつもはスライムの入っていたバッグ。


 今にも中から跳び出してくるかのよう。


 だが、いくら待とうとも、そんなこと現実には起こり得ない。


 助け出すまでは、決して。


 と、先程の言葉がようやく脳着した。



「出発が夜中? 夜中まで待つんですか?」


「はい。そのほうが目立たずに済むでしょうから」


「アンタが此処に居ても迷惑だけど、余所よそに行くのを目撃されるのも迷惑なのよ」


「馬車ん中で寝てりゃ良いだけの話だろ? そんな難しく考えるなっての」



 ようやく冷静さを取り戻したのか、2人が部屋へと戻ってきた。


 そうそう、肝心なことを確認していなかった。



「それで、帰郷している期間についてなんですが──」


「アタシが転移させるまで、戻って来なくて良いわ」


「は?」


「だから、帰還する時期はアタシが決定するから。それまで好きにしてなさい」


「こっちの状況も分からないままに戻って来られても、騒動の種になりかねない、か」


「勇者様におかれましては、こちらのことは気にせず、家族水入らずでおくつろぎくださいませ」



 家族水入らず……。


 それは存外、難しいかもしれませんがね。



「父親と不仲なんでしょ? 嫌味なんじゃないの、それ?」


「えぇ!? で、では、お父様との溝を埋める絶好の機会ですよ、勇者様!」


「酒でも酌み交わせば、少しは理解も深まるかもな」


「お酒なんて飲んだことありませんよ」


「んあ? そうだったっけか?」


「勇者様にお酒なんてもってのほかです!」


「あーそういや、いっつもこんな調子で、僧侶に止められてたんだっけか。家族水入らず、なんだろ? 固いこと言うなっての。機会がありゃ飲んでみりゃ良いさ」


「でもでも、飲み過ぎは体に毒ですからね?」


「自分の限界を知るってのも、良い機会なんじゃねぇか?」


「暴飲、暴食、ダメ絶対、です!」


「へいへい」


「良いですね、勇者様? お酒は飲んでも飲まれるな、です」


「そいつはちぃっとばかし違う気がするがね」


「まぁ、検討はしてみますよ」



 戦士と僧侶さんの遣り取りに圧倒されつつも、何とか答えを返す。



「じゃあ、忘れない内に渡しておくわ。これが"転移結晶"よ。常に肌身離さず持ち歩いてなさい」



 親指大の赤い宝石を手渡された。



「常に、ですか? 風呂の時とか、どうすれば──」


「アタシに聞かないでよ、そんなこと! なんとかなさい!」


「はいはい、少し貸してください」



 僧侶さんが宝石をヒョイっと掴み取り、何やらゴソゴソし始めた。



「ちょっと!? 変なことしたら、使えなくなるのよ!? 分かってる!?」


「大丈夫ですよ。ほら、ペンダント風に、鎖を付けただけです。これで身に着けやすくなったでしょう?」


「ありがとうございます。助かりました」



 僧侶さんからペンダント風に手を加えられた宝石を受け取る。


 忘れない内に、首に掛けておく。


 一応は、これで大丈夫なのだろうか。



「いえいえ。お役に立てて光栄です」


「アタシが渡したんだけど? で、後はコレ」


「おっと」



 魔法使いから、数本のビンを渡された。


 中は凄い色の液体で満たされている。


 というか、これらを取りに戻るために、先程部屋を出て行ったのだろうか。



「こ、これは?」


「緑色がエーテル、青色がポーションよ」



 んん? 緑とか青とか、どちらの見た目も同じ色なんだが……?



「どっちがどっち……いえ、それよりも、"ぽーしょん"って何ですか?」


「薬草代わりの回復薬よ。草食べるの嫌がってたでしょ?」


「まぁ、好きではありませんでしたけど」


「お手製の一品よ。効果は保証するわ」


「味のほうは?」


「効果は保証するわ!」


「そ、そうですか」



 魔法使いが調理を担当すると、散々な目に遭ったものだが。


 となれば、味もお察しというもの、か。


 いざという時に飲もう。


 相応の覚悟を決めた上で。


 ありがたく、バッグの奥に仕舞い込んだ。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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