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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第二章 妖精秘境編 前編
72/364

56 元勇者の魔王で代表、いいから帰郷しろ 【修正】

23/03/21 全体を加筆修正

 衝撃の発言に場が凍結する中、いち早く氷解してみせたのは、秘書さんだった。



「──勇者様が不要とは、どういうことでしょうか? 詳しくご説明をたまわりたく存じ上げます」


「やたらと堅っ苦しい喋り方ね。何とかならないわけ? 聞いてるだけで、こっちは息苦しくって仕方がないんだけど」


「ちょっと魔法使いさん!? 勇者様を王都から追いやろうだなんて、いったいどうゆうつもりなんですか!?」



 今度は僧侶さんが氷解して、魔法使いに食って掛かる。



「だってコイツ、今の王都に居ても役に立たないでしょ? アタシ、役立たずって嫌いだし」


「え、ちょっ、そんな理由なんですか!?」


「勿論違うわよ。取り敢えず、ほとぼりが冷めるまで、王都から余所に行っててもらうのよ。どうせ、此処で保護する魔物も居ないわけじゃない?」


「ほとぼりって、勇者様を犯罪者みたく言わないでください!」


「僧侶も見たでしょ? この王都の連中の反応を。不信感ってのいうは、そう簡単には払拭ふっしょくできないわ。火種が王都に残っているより、余所に置いとくほうが鎮火も容易でしょ?」


「今度は火事扱いして……でも、一理あるかもしれませんね。今の王都は、勇者様の精神衛生上、よろしくないように思えます」


「まぁ、アタシは精神なんか気にしないけど、辛気臭いヤツに、いつまでも居られても迷惑なのよね」


「魔法使いさん!」


「何よ、悪い? アタシは言いたいことはハッキリ口にするたちなの。知ってるでしょ?」


「ま、確かに口が悪いのだけは、昔っから変わらねぇわな」


「アンタは黙ってなさい。どうせアンタの意見なんて、何の役にも立たないんだから」


「へいへい、オレが悪うございましたよっと」



 アフロの中に手を突っ込むと、ボリボリと頭皮を掻く音が遅れて聞こえてきた。


 魔法使いと僧侶さんが、無言で非難めいた視線を向ける。


 当の戦士は、そっぽを向いて知らん顔を決め込んでいる。


 どうやら、嫌がるのを分かっていて、わざとやっているようだ。



「……で、どう? 何か反論でもあるわけ? 無いわよね? じゃあこれで決定ってことで」


「いやいや、待ってください! ここは勇者様が代表を務める、国営の機関なんですよ!? その代表者がいきなり不在だなんて。今後の運営はどうするつもりなんですか!? それこそ、周囲からの評判が悪くなるだけなんじゃないですか!?」


「万事抜かりないわ。見たところ、そこの眼鏡が副代表なんでしょ? 頭はそれで十分。後は運営だっけ? 要は魔物について報告上げてればいいわけでしょ? アタシの知識があれば十分事足りるわ」


「最早乗っ取りだろうがよ、それ」


「アンタは黙ってなさい! 同じことを二度も言わせないで。つまり、コイツが居なくても、機関とやらは当面回せるわ」



 まだ仕事らしい仕事をしてもいないんだが。


 魔法使いはいったい、俺に何をさせるつもりなのだろう。



「ですが、また王子様が襲来した場合は、如何なさる御積もりでしょうか? 勇者様のお力が必要になると、愚考致しますが」



 最初に疑問を呈して以降、黙っていた秘書さんが、再び質問を投げかけた。



「抜かりないって言わなかったかしら? 聞いてなかったの? まだ試作品だけど、一回だけ使える転移結晶を持ってきてるのよ」


「てんいけっしょう、ですか? 何です、それ?」


「僧侶も当然知ってると思うけど、ダンジョンの最奥に転移魔法陣ってあるじゃない? アレを解析・研究して、人工的に再現してみせたのが、転移結晶ってわけ」


「転移魔法陣って、ダンジョンの脱出用にある床に描かれた模様のことですよね? そんなモノ、外でどう使うんですか?」


「詳しい原理の説明ははぶくけど、要するにあらかじめ決められた場所へ転移可能ってわけよ」


「決められた場所、ですか? ダンジョンの場合は出入口ってことですよね」


「そうなるわね。この試作品の場合、転移先はアタシ」


「つまり何処に居ても、魔法使いさんの元に転移可能ってことですか? それってもう、先日の王子様と同じことが可能ってことなんじゃ……?」


「たかが魔王如きにできて、天才のアタシにできないわけがないでしょ。一応、魔法を用いている品だから、魔法が使えない場所でなければ、って条件付きだけど」


「しかしながら、遠く離れた場所からでは、王都の危急を勇者様が知るすべが無いと思われますが?」


「──あ。そ、そうですよ! まさか勇者様に王都の外で野宿でもさせるつもりなんですか!?」



 秘書さんからの質問に、僧侶さんが質問を重ねてゆく。



「ん? あぁ成程、説明が不十分だったわね。転移先はアタシだけど、発動するのもアタシなわけよ。コイツが発動するんじゃないから」


「??? 勇者様を魔法使いさんが転移させるんですか? じゃあ、勇者様が王都へ戻ってこようと思った場合は?」


「歩けば良いじゃない。脚、怪我でもしてるわけ?」



 相変わらずの物言いに、魔法使い以外の全員がしばらく閉口してしまった。



「つ、つまり、王都に王子様が襲来した際には、魔法使いさんが勇者様を王都へ転移させる、と?」


「そうよ。完璧でしょ」


「んで? 結局のところよぉ、コイツを何処にやるってんだ?」


「さぁ? 別に王都以外なら何処でも良いんじゃない?」


「そこは考えてねぇのかよ!」


「べっつにぃ、コイツの世話するために来たわけじゃないもの。優先順位で言えば、お菓子が一番の目的よ」



 そういえば、魔法使いはお菓子が大好物だったな。


 大量に買い込んでは、保存が効かずに駄目にして、都度、周囲に当たり散らしていたものだ。


 この様子だと、好みは今も変わらないんだな。



「……これはマジだな。コイツ、もう役に立たねぇぞ。どうするよ?」


「勇者様は、何処か行きたい場所はございますか?」



 僧侶さんからの質問に、しばし考え込む。


 急展開過ぎて、頭がまだ上手く回っていないが、最近の不能っぷりよりは、幾分回復したらしい。


 行きたい場所、か。



「そういやアンタ、ずっと王都に居たわけ?」


「え? えぇ、そうですが」


「じゃあ、一度も故郷に帰ってないってことよね? アンタってば、故郷を飛び出してから、一度でも故郷に連絡とかした?」


「いえ、全く」


「はぁ、やっぱりね……そんなことだろうと思ったわよ」


「ったく、しょうがねぇヤツだな。この機会に、故郷に帰っとくべきじゃねぇか?」


「ご両親も心配なされていると思いますよ?」


「勇者様、ご帰郷なされるべきかと」



 四人にそう言われてしまった。


 同席──というか部屋の隅で直立したままだった学者くんは、終始、一言も発しなかった。






「じゃあ、帰郷で良いな」


「いえ、帰るつもりは毛頭ありませんが」


「い・い・か・ら・か・え・れ!」


「もしかして、お父様のことでしょうか? 苦手としていらっしゃるとは聞き及んでいましたが。ですが、お母様にはお会いになりたいのでは?」


「それは……まぁ、勿論そうですが」


「妙なとこで意固地だよな。平和になったとはいえ、王子の一件もある。また魔物が狂暴化してるとも限らねぇんだぞ? 心配じゃねぇのかよ?」



 魔物の狂暴化?


 そうか、その可能性をすっかり失念していた。


 どういうわけか王子もまた、俺と同じく魔王となったらしい。


 あの王子の振る舞いからして、魔物の命を尊ぶとは思えない。



「心配ではあります」


「帰りたがらない理由は、その父親ってわけ? そんなに嫌いなの?」


「嫌いですね」


「これまたハッキリ言い切りやがったな。オマエにしちゃ、結構珍しいよな」


「昔と今では、色々と感じ方も変わってくるかもしれませんよ?」


「そうでしょうか」



 故郷を離れてから、もう10年以上は過ぎたか。


 何かが変わったりしているのだろうか?


 アイツはもとより、母さんのことすら、あまり思い出すことはしなかった。



「あーもう! グダグダ言わず、帰りなさいよね!」


「オレが言えた義理でもねぇが、親の面倒を見るってのは、息子の役目だと思うぜ?」



 皆の両親、か。


 そりゃあ、当然居るに決まってるよな。


 今の今まで、気にしたことすらなかった。



「もしかしたら、弟さんか妹さんが、増えているかもしれませんよ?」


「おいおい、そりゃ、今言わなくてもよくないか?」


「僧侶、アンタねぇ」


「え? え? 嬉しくない……ですか?」


「正直、複雑な心境ですね」


「あっれぇ~?」



 どうにも皆、帰郷させたがっているようだ。


 乗り気にはなれない。


 二度と帰るつもりは無い。


 そんな決意のもと、実家を飛び出した。


 確かに、幼いころのことだ。


 考えてみれば、色々と様変わりしていてもおかしくない。


 そもそも、無事で暮らしているとも限らない。


 様子ぐらいは見に行っておくべきなのか。



「恐怖には打ち勝たれたのでしょう? まだ、恐れがありますか?」



 不意に秘書さんから問われる。


 ブギーマンによる恐怖の具現。


 もうアイツの姿を幻視することも無くなって久しかった。


 向き合うべき時なのだろうか。



「父親が怖いとか、正気?」


「魔法使いさん!」


「オマエ、虫が苦手だろ? あんな小さいのに。怖いものなんざ、人それぞれだろ」


「人間なんて怖がる理由無いわよ。でも、虫は違うでしょ。気持ち悪いったらありゃしない」


「蝶とかも駄目じゃなかったか? あんなもんの何が怖いってんだ?」


「目よ。あの複眼ってやつ。あーやだやだ、想像するだけでも気持ち悪い」


「複眼って、そうじゃない虫も居ると思うが」


「もう! アタシのことはいいでしょ!」


「そんな怒るなよ。父親と虫じゃあ、比べるべくもねぇが、苦手なもんってのは、他人から見ると、理解の及ばねぇもんってこった」


「えっと、どうでしょうか勇者様? どうしてもお嫌ですか?」



 嫌ではある。


 嫌ではあるが、心配というのも嘘ではない。


 平和であり続ければ、不安もなかったが。


 今ではそれも危うい。


 一度ぐらいは帰ってみるべき……か。



「分かりました。帰郷してみます」


「拒否っても、強制だったけどね」


「オマエってホント、他人に容赦ねぇよな」


「そんなに抵抗することでもないでしょ? いちいち突っかからないでくれる?」


「へいへい、悪かったよ」


「謝るなら、キチンと頭を下げなさいよね。ああついでに、その頭で床掃除でもしたらいいんじゃないかしら」


「やらねぇよ!」



 思いがけず、帰郷する運びとなってしまった。


 色々、王都に心残りはあるものの、仲間たちの存在は心強くもある。


 後事を任せるには、申し分ない。


 記憶が刺激されたのか、いつぶりかの懐かしい故郷の風景が脳裏に浮かび上がっていた。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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