55 元勇者の魔王で代表、失敗した後には 【修正】
▼10秒で分かる、これまでのあらすじ
第一章を読んでください!
第二章、開幕です。
23/03/20 全体を加筆修正
あの日。
王子による王都襲撃があってから、何日経過しただろうか。
どうにも記憶が定かではない。
神級魔法を使用した後遺症か、皆を連れ去られた事へのショックか、それとも、王都の住人達からの視線故か。
避難した兵士か、王城に居た誰かなのかは分からないが、俺と王子の会話を聞いていた者が居たらしく、二人共が魔王となっていた事が、王都に広く吹聴されてしまった。
何となく、言いそびれていたまま、事此処に至ってしまった。
いや、言い訳か。
"勇者"として認知され、期待されておきながらも、その実、"魔王"へと転職していたのだ。
そして"魔王"が魔物を擁護しようとしていた。
住人達からは、そんな無言の圧力を感じる。
頭の中がグチャグチャだ。
連日、仲間達が今後の対策を議論してくれている。
遠い。
どこか遠い光景に思える。
現実感が希薄だ。
意思が、活力が湧いてこない。
ひたすらに、他人事のように眺めている。
このままではいけない。
心の何処かで、頭の何処かで、そう警鐘が鳴っている。
その音さえもが遠く、鈍い。
すべき事は沢山ある。
王子の捜索、魔物の解放、魔物保全機関の運営、王都の住民達への説明など。
いずれかだけでも、着手しなければならない。
ならないのだが。
頭の中がグルグルする。
上手く考えられない。
昔は違った筈だ。
いつもは違った筈だ。
何故、今は上手く出来ないのか。
焦燥感がある。
どんどん比重を増している。
だというのに、対処方法がまるで浮かばない。
話し掛けられている。
僧侶さんに、魔法使いに、戦士に。
だが、上手く返事も出来ない。
そもそも、話の内容が頭に入ってこない。
ただの音の羅列としてしか、感じられない。
最近では、話し掛けられる回数も、減った気がする。
不甲斐ない。
期待に応えられない自分。
上手くこなせない自分。
何かする事で、また失敗するかもしれない。
何か答える事で、また失望させてしまうかもしれない。
「──誰だって失敗ぐらいします」
ふと、そんな言葉が耳から頭へと響いてきた。
「どれだけ準備を万端整えようが、どれだけ努力を積み重ねようが、失敗する時はあります」
音の羅列。
それ以上の意味は無い。
「賢くなっても、強くなっても、上手くいく可能性は向上しますが、絶対ではありません。在り得ません」
言葉は続けられる。
しかし、悲しい程に、理解には及ばない。
「失敗しないに越した事はありません。失敗は必要な経験とは言い切れません。時に、取り返しのつかない失敗が、在り得るのですから」
失敗。
その言葉が重く響く。
「ですが、誰も動かなければ、失敗を恐れて何もしなければ、助からない命があります」
命。
大事なモノだ。
「かつての私がそうであったように、今も何処かで、助けを求めている存在が居るかもしれません」
助けられない。
助けられなかったのだ。
「私は助けられました。他ならぬ貴方に」
助けた?
誰が、誰を?
「あの時、あの場所で。希望は無く、助けを求める声さえも、上げる事は出来ませんでした。上げられたのは悲鳴のみ」
気が付けば、いや、気付かぬ内に、紡がれる言葉に耳を傾けていた。
「ですが、駆け付けてくれた者が居ました。闇を照らす光。魔を払う光。誰もがその光を見つめていました」
光。
「貴方です、勇者様。貴方が光だったのです。お陰様で、今こうして、お傍で侍る事が叶っております」
俺が光?
「どうか、どうかお助け願えませんでしょうか。今一度、立ち上がって頂く訳には参りませんでしょうか」
────。
「魔物は今でも怖いです。夜、夢に見て悲鳴を上げ、飛び起きてしまう程に。でも、それでも、全ての魔物がそうではありません。全てが恐れるべき相手では無い事を、私は知る事が出来ました」
魔物は怖い。
恐れるべき相手ではない。
「皆を助けてあげて下さい。望まぬ命令に従っている皆を。どうか、助けてあげて下さい」
皆を助ける。
どうやって?
出来た事と言えば、人間を守った事だ。
魔物は助けられなかった。
勇者だった頃なら、神級魔法で助ける事も叶っただろうが、今の俺は魔王に成ってしまったのだ。
精々、魔法を二度使用するのが限界だろう。
支配の解除。
いや、魔王と成った王子を倒す。
チャンスは二回。
だが、相手が皆を盾にしたなら。
神級魔法は強力だ。
手加減など出来よう筈も無い。
選択を誤れば、自らの手で、皆の命を奪うかもしれない。
助けたいのに。
魔物を倒したくはないのに。
何故、上手くいかないんだ。
「お一人ではありません」
「え?」
思考の合間に掛けられた言葉に、口から声が漏れる。
「勇者様のお仲間方がいらっしゃいます。微力ながら、私も。他にも協力して下さる方々は、必ずいらっしゃる筈です」
振り向いた先には、執務机の席の隣に佇む、秘書さんの真剣な顔があった。
「勇者様が皆を助けて下さるように、皆が勇者様を助けます。決して、お一人に背負わせるような真似は致しません」
眼鏡の奥から、視線が真っ直ぐこちらを射抜いてくる。
「お一人では出来なくとも、皆でなら出来るかもしれません」
目を逸らせない。
「それでも、失敗する事が恐ろしいですか?」
恐ろしい?
失敗が?
「失敗を、恐れている?」
思わず、口をついて出る言葉。
恐怖を、アイツを克服したのではなかったのか?
「──成程、そういう訳。随分と生意気な話よね」
この声は、魔法使いか。
声の方、執務机の正面にあるテーブルを囲むように配置された、ソファーへと顔を向ける。
「思い返してみれば、失敗らしい失敗って、して来なかったかしらね。つまり、初めての挫折ってやつ? ハッ、ご立派な経歴だこと」
「あ~ぁ、完全に台無しだな、これ。折角、秘書さんが良い話を語ってくれてたってのによ」
「すみません。聞き入っていたもので、制止が間に合いませんでした」
「いや、僧侶が謝らなくても良いだろ。悪いのは完全にコイツだしな」
「ちょっと、十分に黙っててやったでしょうが! もう良いでしょ!?」
「まぁ、なんだ。オマエもあんま、考え過ぎるなってこった」
「ワタシ達もおりますし、ね」
「あ~やだやだ。仲良し小好しとか、ホント気持ち悪い」
「オマエ、本当に残念なヤツだよな」
「五月蠅いわね! アタシは天才なの! 残念なのはアンタの頭の方でしょ!」
「はいはい、二人共、その辺で止めて下さいね」
「「はい」」
「あ、でも、立ち直ったのかどうかは知らないけど、アンタ、しばらく居なくて良いからね」
「おいコラ、何言い出して──」
「──王都から出て行ってくんない?」
魔法使いの言葉が、室内を凍り付かせる。
訳の分からない展開に、頭はやはり追い付けなかった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




