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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第一章 王都改革編
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SS-2 僧侶は憂う 【修正】

22/07/31 全体を若干修正

 正直、驚いた。


 あんなに感情を表に出すなんて。


 初めて見た。


 それだけに、喜びの感情でないことが残念でならない。


 本当に、勇者ではなくなったのだ。


 彼の苦しみは、彼自身にしか分かり得ない。


 勇者としての重圧。


 魔王になったことへの呵責かしゃく


 彼の言葉を聞きたい。


 彼の思いを聞きたい。


 背負わせてきたのは、紛れもなく、ワタシたちに他ならないのだから。






 彼は、またしても"アレ"を使用してしまった。


 他の誰にも扱えぬ、光魔法の極致。


 あんなモノは、断じて魔法などではない。


 神の如き御業。


 圧倒的で、理不尽な、ことわり


 かつて、魔王と対峙した際、使用していた。


 誰も知らなかった。


 力の程を。


 誰も考えなかった。


 力の代償を。


 "アレ"は魔力ではなく、寿命を消費する。


 正確には、生命力、とでも言うべきだろうか。


 魔王を倒した際、彼の消耗は途方もないものだった。


 一瞬、命すら失ったかと錯覚した程だ。


 衰弱していた。


 今にも息を引き取りそうな容体。


 歩けるようになるまで、一ヵ月程も掛かった。


 今回だって、動けるようになったのはつい昨日のこと。


 ワタシたちにすら知らされていなかった、勇者としての力。


 本当に、勇者の力、なのだろうか。


 もっと別の、違うモノに思えてならない。


 二度と使って欲しくはなかった。


 だと言うのに、目の前で、またしても使われてしまった。


 使わせてしまった。


 また負担をいた。


 もう苦しんでなど、欲しくはないのに。


 これ以上、その身を犠牲になど、して欲しくはないのに。


 不甲斐ない。


 これでも、ワタシが仲間内で一番の常識人で良識人だという自負がある。


 いつも、お説教をする立場。


 みんなのことを、一番よく見ている。


 一番、理解している。


 そう思っていたのに。


 彼は、魔物を倒す時、どう思っていたのだろう。


 ただの一度も、弱音を吐くことなど無かった。


 迷いも無かったように見えた。


 でも、違ったのかもしれない。


 ずっと、迷っていたのか。


 ずっと、悩んでいたのか。


 一番見ていたのにはずなのに。


 彼を理解してあげられてなかった。


 そのことが、とても悔しくて悲しかった。






 先日、孤児院に立ち寄った。


 以前、王都の教会に勤めていた頃、親交のあった院長さん。


 驚いたことに、彼が多額の寄付をしたと言うではないか。


 自己犠牲の塊。


 今もなお、変わってはいない。


 危うい。


 天秤の左右には、他人しか、他の生き物しか乗ってはいない。


 彼自身が、いつも考慮されていない。


 院長さんの口から、信じられない言葉を聞いた。


 勇者様が恐ろしい、と。


 魔王へと転職してしまったことを、周知してはいなかったようだ。


 魔王となっていたことを知った王都の住民の多くが、似たような感情を抱いているようだった。


 仲間のワタシたちを見る目にすら、どこか怯えや恐れの色が見える。


 自身の命を削ってまで、皆を守っている彼。


 昔も、今も。


 そして、これから先も。


 勇者から魔王へと転職してもなお、その心根は変わりないように見える。


 彼に対する認識が、随分と歪められてしまっている。


 悲しい。


 心無い言葉。


 いわれの無い中傷。


 彼は皆を守っているのに、誰も彼を守ってはくれない。


 彼だって人間。


 ただの人間なのだ。


 身体も、心も、傷つくのは道理。


 彼は、ここに居るべきではないのかもしれない。






「──ちょっと、話聞いてる?」


「え?」



 横合いから声が掛けられ、ハッと我に返る。


 随分と物思いにふけっていたらしい。


 食堂。


 今は、小休憩中だったか。


 皿に山盛りのお菓子を確保した魔法使いさんが、不機嫌そうに言葉を続ける。



「だから、久々に王都に来てみたけど、随分と雰囲気悪いわよねって話よ」


「え、えぇ、そうですね。でも、仕方がない面もあるでしょう? 王都が襲撃されたばかりなんですし」


「守ったのはアタシたちよ? なのに、感謝の言葉じゃなく陰口を叩くとか、守り損もいいとこだわ」


「皆さん、怖いんですよ」


「何が? アタシたちがってこと?」


「日常が壊れてしまうことが、でしょうか」


「はぁ? 何よそれ? どういう意味よ?」


「王都の人々は、戦いとは無縁、もしくは、縁遠い方々ばかりなのでしょう。平和になったはず、それなのに魔物が大挙して攻めて来た」


「じゃあ、戦えばいいじゃない」


「できないんですよ。そう簡単には」


「簡単ですって? アタシたちは命張ってるのよ? 相変わらず、王都の連中ときたら、惰弱なのばっかりね」


「勇気」


「ん?」


「特別な力ではないのかもしれません」


「何が? 勇気がってこと?」


「はい。誰もが持っている。でも、振るうのは容易くはありませんよね?」


「さぁ? 勇気なんて意識したこともないわよ」


「何かに抗う。何かと対峙する。何かに耐える。いつだって必要になる力です」


「そうかしら? アタシにはサッパリだけど」


「いつだって、ワタシたちの目の前には、背がありましたから」


「せ? 一体、何のことよ?」


「勇者様の背中です」


「アイツの? まさか、アタシたちがアイツに影響を受けてるって話?」


「そのとおりです。やっぱり、思うところはあるんですね」


「違うわよ! 絶対違う! あり得ないから、そんなこと」


「勇気の振るい方を、ワタシたちは彼から学んでいたのです」


「えー、止めてよね、そういうの。また、いつもの、勇者様、が始まったの?」


「手本なしに、勇気は振るえない。見出せない。気が付けない」


「ちょっと、無視!?」


「皆さん、勇者様の背中を見ることができれば、勇者様のことを正しく知れると思うのですけれど」


「あー、はいはい。勇者様談義はもうそれぐらいで勘弁して。もう駄目なんじゃない、アイツ?」


「何度でも立ち上がる。それも勇者様ですから」


「……聞いたワタシが馬鹿だったわ。いえ、今のは撤回するわ。アタシは天才よ」


「でも、今の王都に漂う雰囲気。勇者様には少しこくかもしれません」


「ヘタレなのよ、へ・タ・レ! 何であんな状態になってるわけ? 全っ然、分かんない!」


「連れ去られた魔物たちのことを、大切になさっていたのですよ、きっと」


「魔物を大切にとか正気?」


「魔王によって狂暴化しているだけなのであれば、魔物を敵視する必要はないでしょう?」


「でも、魔王はまた現れたわけじゃない? しかも魔物じゃなく人間の中から。案外、完全には居なくならないのかもよ?」


「……どういう意味でしょう?」


「だって、魔王を倒したら、新しい魔王が誕生したんでしょ? 魔王って存在自体は、消滅させられないんじゃない?」


「それは──」


「アイツで実験でもすれば、魔王の生態について、何か分かるかもね」


「魔法使いさん?」


「ちょ、ちょっと。流石に今のは冗談よ、冗談。そんな怖い顔しないでよ」


「まったく。真面目に考えてください」


「まぁ、もう一体、実験体は居るわけだし。そっちを調べればいいでしょ」


「本当に、アナタが魔王じゃなくて良かったです」


「どういう意味かしら、それ? あんまりじゃない?」



 数年ぶりの再会。


 そうとは感じさせない程の気安さ。


 帰って来た。


 そんな感じがする。


 彼も、同じだろうか。


 彼が再び立ち上がる、その時まで。


 必ず。


 必ずお守りいたします。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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