SS-1 学者の興奮は冷めやらぬ 【修正】
▼10秒で分かる?これまでのあらすじ
王子が全て悪い!
SSとは銘打っていますが、単に主人公以外の後日談です。
多少過去が垣間見えることもあります。
22/07/29 全体を若干修正
夢でも見ているのではないだろうか。
眼前の光景を、現実だとは受け入れ難い。
何故ならば、憧れの人物が勢揃いしているのだから。
勇者様、戦士さん、僧侶さん、魔法使いさんの四名。
魔王討伐を成した、誰もが知る方々だ。
興奮しっぱなしだ。
勇者様のおそばで仕えるのですらも光栄だった。
子供の頃からの憧れの存在。
お伽噺ではなく、現実に存在している。
王族や貴族とは違い、血筋や身分なんかじゃなくて。
成した偉業が有名たらしめている。
お仲間の方々までもが、こうして一堂に会するなんて。
何て、自分は幸せなのだろうか。
今こそが、人生に於ける絶頂期に相違あるまい。
魔物保全機関の二階。
個室二部屋分はあろう執務室。
自分の興奮した様子とは打って変わって、勇者様たちの、というよりも、勇者様の消沈したご様子といったら、見ているコチラまでもが気落ちしてしまう程だ。
予想の埒外の出来事。
王子様による、魔物を伴っての王都への襲撃。
しかも、王子様は魔王へと転職していたと言うではないか。
そう、奇しくも、勇者様と同じように。
勇者様が魔王へ転職していたと聞いた時は驚いた。
それでも、自分にとって、勇者様は勇者様だ。
事実とか理屈とかは、関係ない。
これからも、勇者様とお呼びすることに、些かの戸惑いすら覚えない。
だが、王都の住民たちは違った。
噂は忽ち広がった。
王子様のことも、そして、勇者様のことも、寝耳に水だった。
二人共が、魔王となっていたなんて。
襲撃の日から、既に一週間余りが経過していた。
今なお、王都の住民たちは混乱の渦中にあった。
「ともかく、だ。王子を見つけなけりゃ、話にならねぇだろ」
「いつまた、王都を襲撃してくるとも限りませんしね」
「別に、魔物と一緒にやっつければよくない? あの時だって、倒そうと思えば倒せたでしょ」
「それは──」
テーブルと、北側以外を囲むように設置されたソファー。
戦士さん、僧侶さん、そして、魔法使いさんが、ソファーから勇者様を窺う。
執務机の席に座り、俯いたままの勇者様。
特に反応は見せない。
「魔物を操っているのは、王子様です。王子様さえ倒せれば、魔物全てを討伐する必要はないでしょう」
「でもよ、王子って、オレたちで勝手に倒していいのかよ? 後から処刑とか勘弁だぜ」
「むしろ、王様からのご命令です。捕縛ではなく、討伐をお望みです」
「あらま、そりゃご愁傷様」
「全員で王様と謁見したでしょう? 何故覚えてないのですか」
「なら、姿を確認し次第、やっちゃっていいのよね」
「オマエな。魔王城の時みたく、入る前に全部吹き飛ばせばいい、みたいなノリは止めろ。真に受けたアイツが、マジで吹き飛ばしちまったんだからな」
またしても、一同の視線が勇者様へと向かう。
やはり、動きはない。
「ちょっと! いつまで、そんな辛気臭い顔してるつもりなわけ!? 空気悪くしてるって、自覚ある!?」
「おい、流石に言い過ぎだろ。つうか、オマエが言うな」
「そうですよ、落ち着いてください。勇者様は、此処で保護していた魔物たちを、とても大切になされていたんですよ。お気持ちを察してあげてください」
「たかが魔物でしょ? アンタたちは、区別できるわけ? 次に襲ってきた時、同じ種類の魔物ばっかりだったら? どうするつもりよ?」
「それは──」
「そりゃ、状況によるだろ? 雑魚なら相手するまでもねぇし、邪魔なら動けなくするまでだ」
「討伐はしないってこと? でも、その中に、例の魔物たちが居るって保証は無いわよね?」
「じゃあオマエは、全部倒せば満足か? 気分でもよくなるってのか?」
「アンタねぇ──」
「はいはい、二人共、落ち着いてください。予め襲撃があると分かっているならば、事前に備えておくことは可能です。ワタシたちは、より危険な魔物への対処を担当すればよいでしょう」
「その危険な魔物とやらは、討伐しても問題ないのよね? まさか、それも駄目とか言わないわよね?」
「オレもそいつは聞いておきてぇな。ドラゴン、ジャイアント、ワーム。少なくとも、あの三体はヤバいだろ」
「支配とやらの影響次第でしょう。支配が解けてなお襲ってくるならば……致し方ないかと」
「結局、支配ってのが問題なわけね」
「だな。つまりは、王子の力次第ってことなのかねぇ」
「魔王、ねぇ……何で、魔王が二人も居るのかしら」
「訳が分からねぇよな。でもよ、能力は違ってるとか言ってなかったか?」
「其処の木偶曰く、ね。とは言え、アタシたちも、魔王の能力の全てを把握はしてないし、まだどんな能力を隠し持っているのか、分かったもんじゃないわ」
「魔法使いさん? 勇者様への言葉が過ぎますよ」
「で、でも、さっさと王子を見つけて倒さないとマズくない? 攻めてくるなら、準備が整ったってことでしょうし」
「んなこたぁ、皆、分かってるっての」
「本当に理解できてる? 相手は魔物を操れるのよ? 経験値稼ぎの相手に事欠かない。つまり、好きにレベルを上げれるのよ?」
「……だな。羨ましいとは毛程も思わねぇが、胸糞は頗るわりぃぜ」
「戦士さん? 言葉遣いが汚いですよ」
「お、おぅ、済まねぇ」
「数で押してくるか、それとも、質で押してくるのか。それは分からないけど、時間を与えれば与えるだけ、向こうに有利よ」
「──皆様方、一息入れられては如何でしょうか?」
白熱する議論に、横合いから声が掛かる。
声の主は、執務机の隣で起立する秘書さんだった。
「それもそうね。肝心なのがこんな状態だしね。アタシは賛成」
「そうですね、ワタシも少し疲れましたし」
「じゃあ、休憩すっか」
三人が賛成の声を上げ、その場は一時解散となった。
「食堂に軽食をご用意してあります。よければお召し上がりください」
「え? じゃあ、お菓子とかもある? 甘いヤツ」
「ございますよ」
「やったー! ねぇ、僧侶も一緒に行こ!」
「はいはい、ご一緒しますわ」
「アンタは来なくていいからね? これ、冗談とかじゃないから!」
「分かってるっての。オレは庭にでも出てくるわ」
「ついでに庭掃除でもしてきなさいな。どうせ、体力は有り余ってるんでしょ?」
「うるせぇ! さっさと菓子食いに行ってこい」
「フン、だ。行こ」
「そんなに急がなくても、誰も取ったりしませんよ」
部屋の中の人口が一気に減った。
ボクと秘書さんと、そして勇者様。
後は──。
勇者様の傍ら。
寄り添うようにして伏せている、ブラックドッグだけ。
妖精だったこともあり、王子様の支配の対象外だったようだ。
お蔭で、今もこうして、一緒に居ることができている。
だが、勇者様の御心を安らげる効果は十全とは言い難いようだった。
秘書さんは何も言わない。
ただ、勇者様の横に控えている。
自分も、掛ける言葉が見つからない。
突然の出来事だった。
不気味な音と振動。
次の変化はセントレアだった。
いきなり、脇目もふらず外へと飛び出して行ったのだ。
訳も分からず、外へ出てみたら、庭に残っていたのはブラックドッグだけで。
スライムたちも、一階の部屋に居るはずのブギーマンも居なくなっていた。
そして、空が急に曇ったかと思えば、恐らく魔法障壁が王都を覆い尽くし、降り出した雨を防いでいた。
そこから先はよく分からない。
障壁が消え、雲が晴れ、黒い塔が聳え立ち、世界が白に染まった。
全ては勇者様と、駆け付けたお仲間の方々による戦闘だったというのは、後になって知ったことだ。
結局、ボクは何もお役に立てなかった。
留守を預かっておきながら、魔物たちを守れず仕舞い。
居なくなった魔物たちは、戦闘に特化した種族ではない。
セントレアが唯一、まだ戦えるといった程度か。
先程、魔法使いさんが話していたように、レベル上げの犠牲になっていないとも限らない。
我ながら嫌な想像ではある。
あるが、可能性はある、と思う。
沢山、本を読んだ。
ボクは戦いになんて向いていない。
でも、勇者様のお役に立てればと、勉学に勤しんだ。
その甲斐あって、十代にして王城で学者として勤めることも叶った。
残念ながら、その時には魔王はもう倒されてしまっていたが。
覚えたこと、学んだこと、それはもう沢山ある。
しかし、今、肝心な時に、勇者様のお役に立てていない。
起死回生の一手。
画期的な解決策。
相手の弱点。
居場所の見当。
どれも、できない。
既知では、未知に対応できない。
未知を既知へと変えなければ、どうしようもない。
何もかもが想定外。
王子様が、謀反を起こすだなんて。
今、王都中が嫌な空気に包まれている。
不信感。
王子様に対して。
だけではなく、勇者様に対しても。
ボクにできることは、余りにも少ない。
何があっても、ボクは勇者様を信じる。
数少ない、ボクのできること。
それだけは、遣り遂げてみせる。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




