54 元勇者の魔王で代表、勇者の力 【修正】
スキル名は【】、使用した能力や魔法は≪≫で記載しております。
22/07/28 全体を若干修正
夢ではなかろうか。
幾度手紙を出そうが音信不通だった、かつての仲間たち。
危急の今、この場に駆け付けてくれるなんて。
急展開に理解が追い付かず、ただ茫然と外壁に背を預け、仲間を見上げる。
「っ!? ちょ、ちょっと! 何、下から覗き込んでるのよ! この変態!!」
「流石に理不尽じゃねぇか? それとも何か? 並んで居て欲しいってか?」
「っ!! 馬っ鹿じゃないの!? アンタ、いつまで此処に居る気? いいから、さっさと降りて戦え!」
「ちょ、おまっ!?」
橙色のクセ毛。
黒ずくめの帽子にローブ。
きつい口調。
理不尽な言動。
間違いなく魔法使いだ。
今まさに、外壁上から落とされようとしている男。
特徴的な、否、鬱陶しい黒髪のアフロ。
その頭部以外を覆う、赤色の鎧。
どこか、揶揄うような口調。
こちらも見間違えようがない。
戦士。
そして──。
「勇者様! 今、癒してさしあげますからね!」
≪聖癒≫
ダークドラゴンから受けた傷が、見る間に癒されていく。
聖の上級魔法。
操り手は、薄い水色の髪を長く伸ばした女性。
白地に金の装飾が施された法衣。
懐かしい、丁寧な口調。
僧侶さんだった。
「オマエ、後で覚えてろよぉ~!!」
魔法使いに足蹴にされた戦士が、外壁上から落ちて来る。
次第に大きくなる声。
咄嗟に身を起こし、横へ移動する。
すぐそばに、両足で見事着地を果たしてみせた。
並び立つと分かる、その長身。
視線を斜め上に向けながら、掛けるべき言葉を探す。
「まぁなんだ、久しぶりだな。随分な面倒事らしいじゃねぇか」
「え、えぇ、久しぶりですね。しかし、どうして此処に?」
「どうしてって、オマエが手紙を寄越したんだろうが。忘れたのか?」
「いえ、手紙のことは勿論覚えてます。でも、返事も無かったですし」
「オレが手紙なんて書くわけねぇだろ。ましてや、男相手になんてよぉ」
「そんな理由……いえ、それで、みんなで来たのですか?」
「そいつに関しちゃ偶然だぜ。遠目にヤバそうだったんで、懐かしがる暇もなく、全力で駆け付けはしたがな」
「ちょっと! いつまで喋ってんのよ! 脳筋なら脳筋らしく、口じゃなく身体を動かしなさいよ!」
頭上から魔法使いの声が降って来る。
確かに、会話は後にするべきだ。
視線を魔物たち、いや、王子へと向ける。
王子はスカルドラゴンの上で、戦慄いていた。
「勇者の仲間!? 何て間の悪い連中なんだ。おい、外壁上を優先して狙え!」
王子の指示を受け、ダークドラゴンの口内に炎が見え始める。
僧侶さんの聖絶は、魔物に対して絶対的な侵入阻害を可能とするが、物理攻撃や魔法を防ぐ効果は無い。
当然、ブレスも素通しだ。
俺が動き出すよりも早く、戦士が駆け出していた。
ダークドラゴンの顎下へと到達すると同時、背負っていた巨大なハンマーを下から振り上げた。
顎が強制的に閉じられ、直後、口内から炎が溢れた。
放つ寸前のブレスが、口内で行き場を失った結果、暴発した。
苛立たし気な王子の声が、更なる指示を告げる。
「総出で掛かれ! 肉片も残さず食らい尽くせ!」
聖絶による光壁の向こう側で動き出す魔物たち。
数百からなる振動が、足裏から伝わって来る。
「つうかよう。あの偉そうなヤツ、どっかで見たか? どうにも野郎の面は覚えが悪いぜ」
「この馬鹿! 金髪なんだから、王族に決まってるでしょ!」
「王子様ですね。一体、どういう状況なんでしょうか」
説明しようとする間際、強烈な危機感が襲った。
眼前からではなく、地中。
「二人共! そこから離れて!」
外壁上の二人へと叫びながら、自分もその場から跳び退く。
戦士はむしろ震源へと向かい、ハンマーを振り下ろした。
ハンマーを弾き、何かが現れる。
光壁の内側、外壁を貫いて、地面から塔が生えてゆく。
見る間に、夜天へと伸び行く塔。
表面の殆どを黒に染め上げ、縦に黄色と赤色の線が入っている。
随分と悪趣味な色合いだ。
『ギィイイイイイィィィーーー!!!』
頭の中に響く怪音。
この声は──ワーム!?
改めて、眼前に聳え立った塔を見やる。
これがワームなのか!?
余りの巨大さに唖然としている俺を余所に、再び戦士がハンマーで、塔の如き巨体を横合いから叩きつけた。
頭の中で更に大きな怪音が響く。
やはり、この塔に見えるのがワームらしい。
幅だけでも10メートル以上はあるだろうか。
異形のジャイアントすら丸呑みにできる程の、とんでもない大きさだ。
見たこともない、巨大なワーム種。
「こいつ、デビルワームよ! 通称は、ドラゴンイーター。分厚い皮膚と、強力な酸性の体液があるから、飲み込まれたらお終いよ! 精々気を付けなさい!」
「あ、危ないところでした」
「おいおいおい!? とんでもねぇな!」
警告が間に合ったのか、外壁上の二人がワームの奇襲から逃れていた。
狙ってやったのか、地中から現れることで、地上に展開していた聖絶を破ってしまったようだ。
魔物の群れが、再び外壁へと迫って来る。
「僧侶さん! 魔物たちへ解呪を!」
「──分かりました」
一切の疑問を介さず、承諾してくれる僧侶さん。
懐かしさが込み上げて来る。
王子による支配。
聖魔法であれば、もしかしたら解除できるかもしれない。
数の脅威は、魔法使いが居れば対処可能だろう。
だが、魔物たちは王子に操られているだけだ。
この場には、保護していたスライムたちも居る。
下手に攻撃魔法を使われては、不要な犠牲を生むことになる。
「魔法使いは攻撃ではなく、魔物の行動阻害に努めてください! 極力傷付けないように!」
「アタシに命令しないでくれる!」
「お願いします!」
「……はいはい。分かった、分かったわよ、まったく」
魔法使いに指示を与え、何とか承諾してもらう。
≪束縛≫
速い!
僧侶さんよりも先んじて、魔法使いが詠唱を終える。
すぐさま暴風が魔物たちへと殺到し、動きを封じてみせた。
≪聖浄≫
次いで、僧侶さんの浄化の魔法が発動した。
効果を確かめるべく、魔物たちを見やる。
狂暴化は……解けていない!?
スライムやセントレアを見れば、普段とは異なる形相。
やはり駄目かっ!
支配は浄化できないらしい。
聖魔法でも駄目となると、残る手段は──。
「おい! 要するに、だ。命令してやがる王子らしいのを倒せばいいんだろ?」
かつて、魔王を倒したことで、魔物の狂暴化は解けた。
ならば、魔王と成ったらしい王子を倒すことで、再び魔物たちは支配から脱することも可能なはず。
「……そうですね。それが一番、確実な方法です」
「ならさっさと──」
「──お忘れですか? 今にも潰れそうな人質が居るのですがね」
王子が口を挟んできた。
示す先には、スカルドラゴンの前足に押し潰されている武闘家の姿。
「人質だぁ? ったく、下手うちやがって。んで、どうするよ?」
「──"アレ"を使います。戦士は、隙を見て彼を助け出してください」
「は? まさか、一撃で魔王城を吹き飛ばしたヤツか!?」
「全く同じではありませんがね。要は使い方次第ですよ」
「馬鹿言うな! あの後どうなったと思ってやがる! オマエの負担が──」
「──俺のMPは後僅か。ですが、発動するだけなら事足ります」
「止めろ! 何でオマエばっかが、犠牲にならなきゃいけねぇんだよ! まだ他にも手はあるだろ!?」
「その間に、犠牲が生じる可能性があります。なら、犠牲は一人で十分でしょう」
「相っ変わらずだな! いいから、人の話を聞けっての!」
なおも食って掛かる戦士。
「何でもいいから、さっさとしなさいよ、そこの馬鹿共!」
外壁上からは、魔法使いの叱咤だか罵声だかが飛んで来る。
「茶番は終いにしましょう? さっさと──」
「──黙れ」
王子の言葉を遮る。
決断はした。
ならば、後は実行するだけだ。
≪光体≫
光の超級魔法。
全身が光に覆われ、魔王となったこの身を焼く。
周囲に放たれる膨大な光量。
夜が、偽りの昼へと塗り替えられる。
「この、大馬鹿野郎が!」
戦士の声に耳を貸さず、次の行動に移る。
超級は準備に過ぎない。
超級からしか至れぬ極致へと。
"願わくは──"
祈りの言葉。
"──世界が平和でありますように"
そして、願いの言葉を紡ぐ。
≪神ノ御使イ≫
光の神級魔法。
"第一位階 天使"
全身の光が、限りなく白へと近づく。
最早、周囲は昼ですらない。
ただただ、白い光に包まれる。
姿が変わる。
頭上には光輪を戴き。
背には光翼を生やす。
──熱い、全身が焼けるようだ。
浮遊し、上昇してゆく。
目にすることすら叶わぬ、白い世界。
人も、魔物も。
光から必死に逃れようと、目を覆っている。
≪神威ノ言葉≫
光の神級魔法。
発する言葉が世界の理を創り変える。
"全テノ支配ヲ解ク"
瞬間、世界が変容した。
言葉の届いた全てのモノが、支配から解放される。
──後は、魔物をこの場から退かせるだけで。
"第二位階 大天使"
位階が上昇した。
無理矢理に引き出される力。
「ア"ァア亜アア阿ァァァァァーーー!!!」
喉から迸る絶叫。
耐えきれない。
魔王となったこの身に、神級魔法の行使は埒外の激痛を齎した。
強制的に魔法が解除される。
白光は止み、夜が戻ってくる。
落ち行く身体。
今にも閉じかけている視界の端。
戦士が、武闘家を救出したのを見て取った。
──王子を、逃がすわけには。
手を伸ばす。
だが、距離は離れる一方だ。
「これが勇者の力……、魔王の支配を解除してみせるとは。口惜しいですが、ここは仕切り直しといたしましょう」
王子の心底悔しそうな声。
否、恐怖すら混じっている。
──待て!
声が出ない。
薄れゆく意識。
最後に目にしたのは、魔物たちと共に王子が姿を消す光景だった。
意識が戻る。
この身は地面に横たえられていた。
視界には、こちらを心配そうに見つめる仲間たちの顔。
何も考えられずに、茫然と見つめる。
「気が付かれましたか、勇者様! お加減は如何ですか? お身体に痛い所はありませんか?」
「おいおい、少しは落ち着けって。生きてりゃ何とでもなるっての」
「馬鹿なの? ねぇ、馬鹿なの? "アレ"の後遺症が、どれだけあるかも分からないのよ」
「オレだって必死に止めたっての!」
「現に使っちゃったじゃない! この馬鹿! 役立たず! アホ毛!」
「最後のは違うだろ!?」
「二人共、お静かに」
「「はい、済みません」」
「勇者様? ご気分の程は? 気持ち悪くはないですか?」
「──どうなりましたか?」
「……王子様には逃げられてしまったみたいです。突然、姿を消してしまいました」
「──魔物たちは?」
「共に消えました」
「全部、ですか?」
「はい。何も残ってはおりません」
「そう、ですか」
スライムやセントレア、それにブギーマン。
みんな、転移させられてしまったのか。
王子を倒すのではなく、支配の解除を優先した結果がこれか。
結局、助けられなかった。
アレさえ使えば、何とかできると思っていたのに。
それがこの有様だ。
助けられたのは人間たちだけ。
助けられなかったのは魔物たちだけ。
あぁ、気怠い。
動きたくない。
何も考えたくない。
「どうか、お休みください。後のことはワタシ共にお任せください」
「──済みませんが、お願い、しま、す」
急激に訪れる睡魔に逆らえず、意識を手放そうとする。
──王子。
──もし、もしも、みんなを傷つける様なことがあれば。
──その時は、俺が、この手で。
──必ず。
──。
そこで意識は途絶えた。
【次回予告】
SSとして、別キャラ視点で、その後の話に触れていきます。
また、登場キャラや魔法などを纏めた物も投稿予定です。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




