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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第一章 王都改革編
55/364

54 元勇者の魔王で代表、勇者の力 【修正】

スキル名は【】、使用した能力や魔法は≪≫で記載しております。


22/07/28 全体を若干修正

 夢ではなかろうか。


 幾度手紙を出そうが音信不通だった、かつての仲間たち。


 危急の今、この場に駆け付けてくれるなんて。


 急展開に理解が追い付かず、ただ茫然と外壁に背を預け、仲間を見上げる。



「っ!? ちょ、ちょっと! 何、下から覗き込んでるのよ! この変態!!」


「流石に理不尽じゃねぇか? それとも何か? 並んで居て欲しいってか?」


「っ!! 馬っ鹿じゃないの!? アンタ、いつまで此処に居る気? いいから、さっさと降りて戦え!」


「ちょ、おまっ!?」



 橙色のクセ毛。


 黒ずくめの帽子にローブ。


 きつい口調。


 理不尽な言動。


 間違いなく魔法使いだ。


 今まさに、外壁上から落とされようとしている男。


 特徴的な、否、鬱陶うっとうしい黒髪のアフロ。


 その頭部以外を覆う、赤色の鎧。


 どこか、揶揄からかうような口調。


 こちらも見間違えようがない。


 戦士。


 そして──。



「勇者様! 今、癒してさしあげますからね!」



聖癒サーナーティオ



 ダークドラゴンから受けた傷が、見る間に癒されていく。


 聖の上級魔法。


 操り手は、薄い水色の髪を長く伸ばした女性。


 白地に金の装飾が施された法衣。


 懐かしい、丁寧な口調。


 僧侶さんだった。



「オマエ、後で覚えてろよぉ~!!」



 魔法使いに足蹴にされた戦士が、外壁上から落ちて来る。


 次第に大きくなる声。


 咄嗟に身を起こし、横へ移動する。


 すぐそばに、両足で見事着地を果たしてみせた。


 並び立つと分かる、その長身。


 視線を斜め上に向けながら、掛けるべき言葉を探す。



「まぁなんだ、久しぶりだな。随分な面倒事らしいじゃねぇか」


「え、えぇ、久しぶりですね。しかし、どうして此処に?」


「どうしてって、オマエが手紙を寄越したんだろうが。忘れたのか?」


「いえ、手紙のことは勿論覚えてます。でも、返事も無かったですし」


「オレが手紙なんて書くわけねぇだろ。ましてや、男相手になんてよぉ」


「そんな理由……いえ、それで、みんなで来たのですか?」


「そいつに関しちゃ偶然だぜ。遠目にヤバそうだったんで、懐かしがる暇もなく、全力で駆け付けはしたがな」


「ちょっと! いつまで喋ってんのよ! 脳筋なら脳筋らしく、口じゃなく身体を動かしなさいよ!」



 頭上から魔法使いの声が降って来る。


 確かに、会話は後にするべきだ。


 視線を魔物たち、いや、王子へと向ける。


 王子はスカルドラゴンの上で、戦慄わなないていた。



「勇者の仲間!? 何て間の悪い連中なんだ。おい、外壁上を優先して狙え!」



 王子の指示を受け、ダークドラゴンの口内に炎が見え始める。


 僧侶さんの聖絶は、魔物に対して絶対的な侵入阻害を可能とするが、物理攻撃や魔法を防ぐ効果は無い。


 当然、ブレスも素通しだ。


 俺が動き出すよりも早く、戦士が駆け出していた。


 ダークドラゴンの顎下へと到達すると同時、背負っていた巨大なハンマーを下から振り上げた。


 顎が強制的に閉じられ、直後、口内から炎が溢れた。


 放つ寸前のブレスが、口内で行き場を失った結果、暴発した。


 苛立たし気な王子の声が、更なる指示を告げる。



「総出で掛かれ! 肉片も残さず食らい尽くせ!」



 聖絶による光壁の向こう側で動き出す魔物たち。


 数百からなる振動が、足裏から伝わって来る。



「つうかよう。あの偉そうなヤツ、どっかで見たか? どうにも野郎の面は覚えが悪いぜ」


「この馬鹿! 金髪なんだから、王族に決まってるでしょ!」


「王子様ですね。一体、どういう状況なんでしょうか」



 説明しようとする間際、強烈な危機感が襲った。


 眼前からではなく、地中。



「二人共! そこから離れて!」



 外壁上の二人へと叫びながら、自分もその場から跳び退く。


 戦士はむしろ震源へと向かい、ハンマーを振り下ろした。


 ハンマーを弾き、何かが現れる。


 光壁の内側、外壁を貫いて、地面から塔が生えてゆく。


 見る間に、夜天へと伸び行く塔。


 表面のほとんどを黒に染め上げ、縦に黄色と赤色の線が入っている。


 随分と悪趣味な色合いだ。



『ギィイイイイイィィィーーー!!!』



 頭の中に響く怪音。


 この声は──ワーム!?


 改めて、眼前にそびえ立った塔を見やる。


 これがワームなのか!?


 余りの巨大さに唖然あぜんとしている俺を余所に、再び戦士がハンマーで、塔の如き巨体を横合いから叩きつけた。


 頭の中で更に大きな怪音が響く。


 やはり、この塔に見えるのがワームらしい。


 幅だけでも10メートル以上はあるだろうか。


 異形のジャイアントすら丸呑みにできる程の、とんでもない大きさだ。


 見たこともない、巨大なワーム種。



「こいつ、デビルワームよ! 通称は、ドラゴンイーター。分厚い皮膚と、強力な酸性の体液があるから、飲み込まれたらお終いよ! 精々気を付けなさい!」


「あ、危ないところでした」


「おいおいおい!? とんでもねぇな!」



 警告が間に合ったのか、外壁上の二人がワームの奇襲から逃れていた。


 狙ってやったのか、地中から現れることで、地上に展開していた聖絶を破ってしまったようだ。


 魔物の群れが、再び外壁へと迫って来る。



「僧侶さん! 魔物たちへ解呪を!」


「──分かりました」



 一切の疑問を介さず、承諾してくれる僧侶さん。


 懐かしさが込み上げて来る。


 王子による支配。


 聖魔法であれば、もしかしたら解除できるかもしれない。


 数の脅威は、魔法使いが居れば対処可能だろう。


 だが、魔物たちは王子に操られているだけだ。


 この場には、保護していたスライムたちも居る。


 下手に攻撃魔法を使われては、不要な犠牲を生むことになる。



「魔法使いは攻撃ではなく、魔物の行動阻害に努めてください! 極力傷付けないように!」


「アタシに命令しないでくれる!」


「お願いします!」


「……はいはい。分かった、分かったわよ、まったく」



 魔法使いに指示を与え、何とか承諾してもらう。



束縛レストリクシオン



 速い!


 僧侶さんよりも先んじて、魔法使いが詠唱を終える。


 すぐさま暴風が魔物たちへと殺到し、動きを封じてみせた。



聖浄ミヌス



 次いで、僧侶さんの浄化の魔法が発動した。


 効果を確かめるべく、魔物たちを見やる。


 狂暴化は……解けていない!?


 スライムやセントレアを見れば、普段とは異なる形相。


 やはり駄目かっ!


 支配は浄化できないらしい。


 聖魔法でも駄目となると、残る手段は──。



「おい! 要するに、だ。命令してやがる王子らしいのを倒せばいいんだろ?」



 かつて、魔王を倒したことで、魔物の狂暴化は解けた。


 ならば、魔王と成ったらしい王子を倒すことで、再び魔物たちは支配から脱することも可能なはず。



「……そうですね。それが一番、確実な方法です」


「ならさっさと──」


「──お忘れですか? 今にも潰れそうな人質が居るのですがね」



 王子が口を挟んできた。


 示す先には、スカルドラゴンの前足に押し潰されている武闘家の姿。



「人質だぁ? ったく、下手うちやがって。んで、どうするよ?」


「──"アレ"を使います。戦士は、隙を見て彼を助け出してください」


「は? まさか、一撃で魔王城を吹き飛ばしたヤツか!?」


「全く同じではありませんがね。要は使い方次第ですよ」


「馬鹿言うな! あの後どうなったと思ってやがる! オマエの負担が──」


「──俺のMPは後僅か。ですが、発動するだけなら事足ります」


「止めろ! 何でオマエばっかが、犠牲にならなきゃいけねぇんだよ! まだ他にも手はあるだろ!?」


「その間に、犠牲が生じる可能性があります。なら、犠牲は一人で十分でしょう」


「相っ変わらずだな! いいから、人の話を聞けっての!」



 なおも食って掛かる戦士。



「何でもいいから、さっさとしなさいよ、そこの馬鹿共!」



 外壁上からは、魔法使いの叱咤しっただか罵声ばせいだかが飛んで来る。



「茶番は終いにしましょう? さっさと──」


「──黙れ」



 王子の言葉を遮る。


 決断はした。


 ならば、後は実行するだけだ。



光体アウゴエイデス



 光の超級魔法。


 全身が光に覆われ、魔王となったこの身を焼く。


 周囲に放たれる膨大な光量。


 夜が、偽りの昼へと塗り替えられる。



「この、大馬鹿野郎が!」



 戦士の声に耳を貸さず、次の行動に移る。


 超級は準備に過ぎない。


 超級からしか至れぬ極致へと。



"願わくは──"



 祈りの言葉。



"──世界が平和でありますように"



 そして、願いの言葉を紡ぐ。



≪神ノ御使イ≫



 光の神級魔法。



"第一位階 天使"



 全身の光が、限りなく白へと近づく。


 最早、周囲は昼ですらない。


 ただただ、白い光に包まれる。






 姿が変わる。


 頭上には光輪を戴き。


 背には光翼を生やす。


 ──熱い、全身が焼けるようだ。


 浮遊し、上昇してゆく。


 目にすることすら叶わぬ、白い世界。


 人も、魔物も。


 光から必死に逃れようと、目を覆っている。



≪神威ノ言葉≫



 光の神級魔法。


 発する言葉が世界の理を創り変える。



"全テノ支配ヲ解ク"



 瞬間、世界が変容した。


 言葉の届いた全てのモノが、支配から解放される。


 ──後は、魔物をこの場から退かせるだけで。



"第二位階 大天使"



 位階が上昇した。


 無理矢理に引き出される力。



「ア"ァア亜アア阿ァァァァァーーー!!!」



 喉からほとばしる絶叫。


 耐えきれない。


 魔王となったこの身に、神級魔法の行使は埒外の激痛をもたらした。


 強制的に魔法が解除される。


 白光は止み、夜が戻ってくる。


 落ち行く身体。


 今にも閉じかけている視界の端。


 戦士が、武闘家を救出したのを見て取った。


 ──王子を、逃がすわけには。


 手を伸ばす。


 だが、距離は離れる一方だ。



「これが勇者の力……、魔王の支配を解除してみせるとは。口惜しいですが、ここは仕切り直しといたしましょう」



 王子の心底悔しそうな声。


 否、恐怖すら混じっている。


 ──待て!


 声が出ない。


 薄れゆく意識。


 最後に目にしたのは、魔物たちと共に王子が姿を消す光景だった。






 意識が戻る。


 この身は地面に横たえられていた。


 視界には、こちらを心配そうに見つめる仲間たちの顔。


 何も考えられずに、茫然と見つめる。



「気が付かれましたか、勇者様! お加減は如何ですか? お身体に痛い所はありませんか?」


「おいおい、少しは落ち着けって。生きてりゃ何とでもなるっての」


「馬鹿なの? ねぇ、馬鹿なの? "アレ"の後遺症が、どれだけあるかも分からないのよ」


「オレだって必死に止めたっての!」


「現に使っちゃったじゃない! この馬鹿! 役立たず! アホ毛!」


「最後のは違うだろ!?」


「二人共、お静かに」


「「はい、済みません」」


「勇者様? ご気分の程は? 気持ち悪くはないですか?」


「──どうなりましたか?」


「……王子様には逃げられてしまったみたいです。突然、姿を消してしまいました」


「──魔物たちは?」


「共に消えました」


「全部、ですか?」


「はい。何も残ってはおりません」


「そう、ですか」



 スライムやセントレア、それにブギーマン。


 みんな、転移させられてしまったのか。


 王子を倒すのではなく、支配の解除を優先した結果がこれか。


 結局、助けられなかった。


 アレさえ使えば、何とかできると思っていたのに。


 それがこの有様だ。


 助けられたのは人間たちだけ。


 助けられなかったのは魔物たちだけ。


 あぁ、気怠けだるい。


 動きたくない。


 何も考えたくない。



「どうか、お休みください。後のことはワタシ共にお任せください」


「──済みませんが、お願い、しま、す」



 急激に訪れる睡魔に逆らえず、意識を手放そうとする。


 ──王子。


 ──もし、もしも、みんなを傷つける様なことがあれば。


 ──その時は、俺が、この手で。


 ──必ず。


 ──。


 そこで意識は途絶えた。






【次回予告】

SSとして、別キャラ視点で、その後の話に触れていきます。

また、登場キャラや魔法などを纏めた物も投稿予定です。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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