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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第一章 王都改革編
54/364

53 元勇者の魔王で代表、絶望の先 【修正】

スキル名は【】、使用した能力や魔法は≪≫で記載しております。


22/07/27 全体を若干修正

 魔物の群れに囲まれながら、今までは無かった姿がある。


 セントレア、3体のスライムたち、そして霧状にしか見えないがブギーマンも居るようだ。



「ここで何をしているんですか!? 危険ですから王都内に避難してください!」



 答える声は無い。


 先程、光体を邪魔したのはセントレアだったのか?


 どうにも様子がおかしい。



「無駄ですよ。魔物は全て私の支配下にあるのですから」


「!?」



 頭上から聞こえた言葉。


 支配された!?


 一体、いつの間に!?


 王子がこの場に現れてから、一度たりとも姿を消してなどいない。


 にも拘わらず、王都内に居たはずの魔物たちを支配した、と?


 いつ、どうやって?


 頭の中を無数の疑問が占める中、相手は更に告げる。



「この輩を囮に、私を狙っていたのですか。中々にしたたかですね。いえ、流石は元勇者殿、と褒め称えるべきでしょうかね」


「これだけの魔物、一体、どうやって支配したんですか?」


「はい? 同じ魔王なのですから、貴方にもできるでしょう?」



 隙を生み出してくれた武闘家は、スカルドラゴンの前足により地面に押し付けられていた。


 状況は悪化している。


 話からも分かるとおり、やはり支配を使用しているらしい。


 だが、どうにも俺の知る支配とは違う。


 俺の場合は、相手に直接触れ、使用する必要がある。


 そして、相手は人間でも魔物でも妖精でも、可能だ。


 しかし、王子の場合はどうだ?


 この場に、他の人間はおろか、ブラックドッグの姿も無い。


 つまりは、人間と妖精は支配できてはいない?


 俺への対抗措置というなら、人間を盾にするほうが、余程効果的だろう。


 そうしてはいない、いや、できないのか?


 この能力の差は何だ?


 単純にレベル差だというなら、相手がより優れた能力であるはず。


 もっと情報を引き出し、能力を明らかにする必要があるか。



「遠隔で、且つ、複数に支配をほどこせるのですね?」


「さっきから何です? 貴方もそうやって魔物を従えていたのではありませんか」



 予想は的中しているらしい。


 遠隔で複数に使用可能とは、末恐ろしい力だ。


 やはり、俺の支配とは性能が異なる。


 が、かつての魔王の能力は、これに酷似している気はする。


 遠隔で広範囲への支配により、魔物は狂暴化していたのではなかろうか。



「違います! 俺が望むのは人間と魔物の共生です。一方的な支配を望んだりはしていません」


「正気ですか? 人間より優れた種が魔物です。より優れた種が、他を支配するのは当然の摂理でしょう?」


「アナタは魔物ではなく人間でしょう? 矛盾してませんか?」


「魔物よりも優れた種、それこそが魔王! 支配の力は、その確固たる証ではありませんか!」



 さも当然と言わんばかりの王子。


 まだ情報が足りない。


 突然現れた魔物の群れ。


 その理由が不明だ。



「この魔物の群れが、貴方の言う力だと?」


「勿論、そうですとも。これが私の力です。これ程の規模で突然襲撃されれば、誰が相手だろうとも、抗うことなどできようはずもない。現に、貴方がそうではありませんか」


「突然の襲撃……確かに、いきなり現れましたね」


「魔王とは、まったくもって、便利な力を有していますね」



 魔王のスキルか魔法による、移動方法があるらしい。


 ──いや、待てよ。


 かつて魔王によって、仲間共々魔界に転移させられた。


 あれか!?


 転移が可能なのか?


 昇級試験のダンジョンに設置されていた転移魔法陣。


 中規模以上のダンジョンの最奥に、大抵備わっているもの。


 人の手によるものではない。


 魔物が創り出した建造物。


 魔王の力を模したのか、それとも、魔王自身が創り出したのか。


 そう、そうなのか。


 魔王を倒して以降、試験で利用したダンジョン以外では、転移魔法陣はおろか、内部の光源も不能となっていたと聞く。


 ダンジョンと魔王には、関係があるのは確実そうだ。


 ともあれ、転移可能と仮定すると、かなり厄介な相手だ。


 最悪、俺自身が何処かに転移させられかねない。


 支配に転移、後はアンデッド化の能力か。


 行動といい思想といい、王子は危険だ。


 何としてでも、ここで止めないと。


 視線を王子から、一瞬だけセントレアたちへと逸らす。


 支配を受けた魔物。


 解除方法は分からない。


 元に戻すことができるのか。


 可能性としては、かつての魔王と同じく、王子を倒すこと。


 できることなら、命を奪うような真似はしたくない。


 だが、既に王子は魔物の多くを犠牲としている。


 これからもそうするだろう。


 天秤は釣り合ってなどいない。


 王子一人のためだけに、多くのモノが命を落とすのは不釣り合いだ。


 図らずも、魔王が魔王を倒すという構図。


 では、俺もいつかは誰かに倒されるのだろうか。






 逡巡しゅんじゅんは一瞬。


 覚悟を決めた俺が動くよりも先に、事態は進行した。



酸雨アシッドレイン



 夜空の明かりが消える。


 王都を覆うように、黒雲が現出していた。


 ──あれはマズい!


 酸の雨。


 少し触れるだけなら軽い火傷程度で済むが、もし滝の如く降れば、人間諸共、王都が全て溶けて無くなるかもしれない。


 行動が滅茶苦茶だ。


 王城を乗っ取るのではなかったのか。


 ともかく、防がなければ住民に被害が出る。



鏡界ミラーワールド



 光の上級魔法。


 範囲を広げるため、追加で魔力を込める。


 背後の王都全体を覆う、半球状の鏡面が展開されてゆく。


 ──ぐぅっ!


 魔力の消費が厳しい。


 短時間に魔法を連発し過ぎている。


 そろそろ上級魔法は使えなくなりそうだ。


 早めの決着が望ましい。


 だが、またしても防戦をいられる。


 雨音がし始める。


 最初、散発的な雨音だったものが、次第に量を増し、最終的に豪雨となって降り注いで来た。


 鏡界は魔法に対して強い耐性を有するが、物理耐性は低い。


 打ち付けて来る雨の衝撃に対し、鏡面に魔力を注ぎ続けることで維持する。



「これも防がれましたか。元勇者の魔法も、中々にあなどれませんね。しかし、その状態では、自由に動くことは叶わないのではありませんか?」



 視界の先、王子が顎を動かした。


 何かに指示を与えたような所作。


 答えはすぐに姿を現した。


 身の丈が10メートル程もある巨躯。


 人型のそれは、いつぞやのジャイアント。


 コイツも居たのか!?


 いやそもそも、以前に王都を襲撃したコイツこそが、王子の先兵だったのか?


 ──マズい!


 直感に従い、地面を強く蹴り、跳び退く。


 すぐさま直前まで居た場所を、ジャイアントの足が薙ぎ払う。


 ──アレを食らうのはマズい!


 以前、一撃でHPの三割程を持っていかれた。


 しかも今は、背後の王都に鏡界を展開中だ。


 叩きつけられれば鏡界が砕けてしまう。


 当然、鏡界を攻撃されるのも駄目だ。


 魔力を鏡界の維持に消費しながら、魔物の攻撃に対処しなければならない。


 さらに事態は悪化する。


 周囲にはべっていた魔物たちまでもが、遂に動き出していた。


 目標は──王都、その手前にある鏡界か!


 数百からなる魔物の群れ。


 血の気が引く。


 到底、さばききれない。


 脳が焼き切れるような感覚に襲われながらも、新たな魔法を行使する。



光牢プリズン



 光の中級魔法。


 動き出した魔物の群れに向け、放つ。


 ──ギィッ!?


 二つの魔法の同時使用。


 度重なる魔法の使用により、脳へ過負荷が掛かる。


 脳が──焼ける──っ!?


 ジャイアント共々、魔物の群れは止まっている。


 だが、それも長くは持たない。


 打開策は。


 何かないか。


 焼き付く頭では、ろくな考えも浮かばない。


 武闘家は未だスカルドラゴンの足の下。


 彼が王子の魔法を妨害してくれれば、鏡界を解除できる。


 負担が激減する。


 しかし、そんな奇跡は起こってはくれない。


 光牢を発動した分、鏡界が弱まっている。


 鏡界にひびが入る。


 鏡界に魔力を込めると、光牢が弱まる。


 魔物たちが僅かに動き出す。


 ──マズい、マズい、マズい!


 限界は近い。


 脳が焼き切れるのが先か。


 それとも、魔力切れが先か。


 結末は、そのどちらでもなかった。






 眼前に姿を現したのは、ダークドラゴン。


 魔法で拘束できていない!?


 視界から得られる映像が、やけにゆっくりに感じられた。


 全体重を乗せた、頭突きが見舞われる。


 全身がバラバラになったかと錯覚する程の痛みと衝撃。


 一瞬で背後の鏡界へと叩きつけられ、鏡界が破砕した。


 酸の雨が王都へと降り注ぐ。


 溶ける。


 溶けてしまう。


 全てが。


 守っていたものが。


 守ろうとしていたものが。


 全て。






 眼前からは、光牢が解除され、魔物たちが迫って来ていた。


 王都を蹂躙するつもりのようだ。


 頭上からは酸の雨。


 眼前からは魔物の群れ。


 そのどちらも、止められない。


 絶望が全身を侵す。


 諦観ていかんが思考を妨げる。


 何故。


 何故こんなことに。






 変化は突然だった。


 空に明かりが戻る。


 頭上、雲が跡形も無くなっていた。


 酸雨もまた、消え失せていた。




「──何だ!? 何が起こった!?」



 遠く、王子の怒声が聞こえる。



「アンタ、何て恰好してるのよ。そんな服装で戦ってたわけ? 馬鹿なの?」


「勇者様、お怪我を! すぐ癒してさしあげますからね!」


「おいおい、歓迎の催しにしちゃあ、随分と物騒なことになってるな」



 声は近く、高い場所から降ってきていた。


 どれも聞き覚えのある、懐かしい声。



「誰がアンタなんかを歓迎するってのよ。馬鹿なこと言ってないで、魔物をどうにかしなさい、この馬鹿!」


「結局、馬鹿って言ってるじゃねぇかよ。相変わらず、口が悪いな」



聖絶スコプルス



 俺と魔物との間に、光の壁が現出する。


 魔を排する聖なる壁。



「お二人共、お喋りはそれぐらいに! 事情は分かりかねますが、状況は見てのとおりです。ふざけてる場合じゃありません!」


「「は、はい。済みません」」



 異口同音に紡がれる謝罪の言葉。


 そのどれもが、過去の記憶を刺激して止まない。



「さぁ、勇者様。ワタシたちが来たからには、敵がどれ程強かろうと、どれ程多かろうとも、些かも問題にはなりませんわ」



 削れた外壁の上。


 魔法使い、僧侶さん、戦士。


 かつて、共に旅をした仲間たちの姿があった。






第一章、終盤です。


仲間が駆け着けてくれた下り。

作者は自分で書いているにも拘わらず、思わず感極まって泣いてました。

我ながらチョロい( ;∀;)


ちなみに、酸雨の雨雲を吹き飛ばしたのは、魔法使いの風魔法です。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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