53 元勇者の魔王で代表、絶望の先 【修正】
スキル名は【】、使用した能力や魔法は≪≫で記載しております。
22/07/27 全体を若干修正
魔物の群れに囲まれながら、今までは無かった姿がある。
セントレア、3体のスライムたち、そして霧状にしか見えないがブギーマンも居るようだ。
「ここで何をしているんですか!? 危険ですから王都内に避難してください!」
答える声は無い。
先程、光体を邪魔したのはセントレアだったのか?
どうにも様子がおかしい。
「無駄ですよ。魔物は全て私の支配下にあるのですから」
「!?」
頭上から聞こえた言葉。
支配された!?
一体、いつの間に!?
王子がこの場に現れてから、一度たりとも姿を消してなどいない。
にも拘わらず、王都内に居たはずの魔物たちを支配した、と?
いつ、どうやって?
頭の中を無数の疑問が占める中、相手は更に告げる。
「この輩を囮に、私を狙っていたのですか。中々に強かですね。いえ、流石は元勇者殿、と褒め称えるべきでしょうかね」
「これだけの魔物、一体、どうやって支配したんですか?」
「はい? 同じ魔王なのですから、貴方にもできるでしょう?」
隙を生み出してくれた武闘家は、スカルドラゴンの前足により地面に押し付けられていた。
状況は悪化している。
話からも分かるとおり、やはり支配を使用しているらしい。
だが、どうにも俺の知る支配とは違う。
俺の場合は、相手に直接触れ、使用する必要がある。
そして、相手は人間でも魔物でも妖精でも、可能だ。
しかし、王子の場合はどうだ?
この場に、他の人間はおろか、ブラックドッグの姿も無い。
つまりは、人間と妖精は支配できてはいない?
俺への対抗措置というなら、人間を盾にするほうが、余程効果的だろう。
そうしてはいない、いや、できないのか?
この能力の差は何だ?
単純にレベル差だというなら、相手がより優れた能力であるはず。
もっと情報を引き出し、能力を明らかにする必要があるか。
「遠隔で、且つ、複数に支配を施せるのですね?」
「さっきから何です? 貴方もそうやって魔物を従えていたのではありませんか」
予想は的中しているらしい。
遠隔で複数に使用可能とは、末恐ろしい力だ。
やはり、俺の支配とは性能が異なる。
が、かつての魔王の能力は、これに酷似している気はする。
遠隔で広範囲への支配により、魔物は狂暴化していたのではなかろうか。
「違います! 俺が望むのは人間と魔物の共生です。一方的な支配を望んだりはしていません」
「正気ですか? 人間より優れた種が魔物です。より優れた種が、他を支配するのは当然の摂理でしょう?」
「アナタは魔物ではなく人間でしょう? 矛盾してませんか?」
「魔物よりも優れた種、それこそが魔王! 支配の力は、その確固たる証ではありませんか!」
さも当然と言わんばかりの王子。
まだ情報が足りない。
突然現れた魔物の群れ。
その理由が不明だ。
「この魔物の群れが、貴方の言う力だと?」
「勿論、そうですとも。これが私の力です。これ程の規模で突然襲撃されれば、誰が相手だろうとも、抗うことなどできようはずもない。現に、貴方がそうではありませんか」
「突然の襲撃……確かに、いきなり現れましたね」
「魔王とは、まったくもって、便利な力を有していますね」
魔王のスキルか魔法による、移動方法があるらしい。
──いや、待てよ。
かつて魔王によって、仲間共々魔界に転移させられた。
あれか!?
転移が可能なのか?
昇級試験のダンジョンに設置されていた転移魔法陣。
中規模以上のダンジョンの最奥に、大抵備わっているもの。
人の手によるものではない。
魔物が創り出した建造物。
魔王の力を模したのか、それとも、魔王自身が創り出したのか。
そう、そうなのか。
魔王を倒して以降、試験で利用したダンジョン以外では、転移魔法陣はおろか、内部の光源も不能となっていたと聞く。
ダンジョンと魔王には、関係があるのは確実そうだ。
ともあれ、転移可能と仮定すると、かなり厄介な相手だ。
最悪、俺自身が何処かに転移させられかねない。
支配に転移、後はアンデッド化の能力か。
行動といい思想といい、王子は危険だ。
何としてでも、ここで止めないと。
視線を王子から、一瞬だけセントレアたちへと逸らす。
支配を受けた魔物。
解除方法は分からない。
元に戻すことができるのか。
可能性としては、かつての魔王と同じく、王子を倒すこと。
できることなら、命を奪うような真似はしたくない。
だが、既に王子は魔物の多くを犠牲としている。
これからもそうするだろう。
天秤は釣り合ってなどいない。
王子一人のためだけに、多くのモノが命を落とすのは不釣り合いだ。
図らずも、魔王が魔王を倒すという構図。
では、俺もいつかは誰かに倒されるのだろうか。
逡巡は一瞬。
覚悟を決めた俺が動くよりも先に、事態は進行した。
≪酸雨≫
夜空の明かりが消える。
王都を覆うように、黒雲が現出していた。
──あれはマズい!
酸の雨。
少し触れるだけなら軽い火傷程度で済むが、もし滝の如く降れば、人間諸共、王都が全て溶けて無くなるかもしれない。
行動が滅茶苦茶だ。
王城を乗っ取るのではなかったのか。
ともかく、防がなければ住民に被害が出る。
≪鏡界≫
光の上級魔法。
範囲を広げるため、追加で魔力を込める。
背後の王都全体を覆う、半球状の鏡面が展開されてゆく。
──ぐぅっ!
魔力の消費が厳しい。
短時間に魔法を連発し過ぎている。
そろそろ上級魔法は使えなくなりそうだ。
早めの決着が望ましい。
だが、またしても防戦を強いられる。
雨音がし始める。
最初、散発的な雨音だったものが、次第に量を増し、最終的に豪雨となって降り注いで来た。
鏡界は魔法に対して強い耐性を有するが、物理耐性は低い。
打ち付けて来る雨の衝撃に対し、鏡面に魔力を注ぎ続けることで維持する。
「これも防がれましたか。元勇者の魔法も、中々に侮れませんね。しかし、その状態では、自由に動くことは叶わないのではありませんか?」
視界の先、王子が顎を動かした。
何かに指示を与えたような所作。
答えはすぐに姿を現した。
身の丈が10メートル程もある巨躯。
人型のそれは、いつぞやのジャイアント。
コイツも居たのか!?
いやそもそも、以前に王都を襲撃したコイツこそが、王子の先兵だったのか?
──マズい!
直感に従い、地面を強く蹴り、跳び退く。
すぐさま直前まで居た場所を、ジャイアントの足が薙ぎ払う。
──アレを食らうのはマズい!
以前、一撃でHPの三割程を持っていかれた。
しかも今は、背後の王都に鏡界を展開中だ。
叩きつけられれば鏡界が砕けてしまう。
当然、鏡界を攻撃されるのも駄目だ。
魔力を鏡界の維持に消費しながら、魔物の攻撃に対処しなければならない。
さらに事態は悪化する。
周囲に侍っていた魔物たちまでもが、遂に動き出していた。
目標は──王都、その手前にある鏡界か!
数百からなる魔物の群れ。
血の気が引く。
到底、捌ききれない。
脳が焼き切れるような感覚に襲われながらも、新たな魔法を行使する。
≪光牢≫
光の中級魔法。
動き出した魔物の群れに向け、放つ。
──ギィッ!?
二つの魔法の同時使用。
度重なる魔法の使用により、脳へ過負荷が掛かる。
脳が──焼ける──っ!?
ジャイアント共々、魔物の群れは止まっている。
だが、それも長くは持たない。
打開策は。
何かないか。
焼き付く頭では、碌な考えも浮かばない。
武闘家は未だスカルドラゴンの足の下。
彼が王子の魔法を妨害してくれれば、鏡界を解除できる。
負担が激減する。
しかし、そんな奇跡は起こってはくれない。
光牢を発動した分、鏡界が弱まっている。
鏡界に罅が入る。
鏡界に魔力を込めると、光牢が弱まる。
魔物たちが僅かに動き出す。
──マズい、マズい、マズい!
限界は近い。
脳が焼き切れるのが先か。
それとも、魔力切れが先か。
結末は、そのどちらでもなかった。
眼前に姿を現したのは、ダークドラゴン。
魔法で拘束できていない!?
視界から得られる映像が、やけにゆっくりに感じられた。
全体重を乗せた、頭突きが見舞われる。
全身がバラバラになったかと錯覚する程の痛みと衝撃。
一瞬で背後の鏡界へと叩きつけられ、鏡界が破砕した。
酸の雨が王都へと降り注ぐ。
溶ける。
溶けてしまう。
全てが。
守っていたものが。
守ろうとしていたものが。
全て。
眼前からは、光牢が解除され、魔物たちが迫って来ていた。
王都を蹂躙するつもりのようだ。
頭上からは酸の雨。
眼前からは魔物の群れ。
そのどちらも、止められない。
絶望が全身を侵す。
諦観が思考を妨げる。
何故。
何故こんなことに。
変化は突然だった。
空に明かりが戻る。
頭上、雲が跡形も無くなっていた。
酸雨もまた、消え失せていた。
「──何だ!? 何が起こった!?」
遠く、王子の怒声が聞こえる。
「アンタ、何て恰好してるのよ。そんな服装で戦ってたわけ? 馬鹿なの?」
「勇者様、お怪我を! すぐ癒してさしあげますからね!」
「おいおい、歓迎の催しにしちゃあ、随分と物騒なことになってるな」
声は近く、高い場所から降ってきていた。
どれも聞き覚えのある、懐かしい声。
「誰がアンタなんかを歓迎するってのよ。馬鹿なこと言ってないで、魔物をどうにかしなさい、この馬鹿!」
「結局、馬鹿って言ってるじゃねぇかよ。相変わらず、口が悪いな」
≪聖絶≫
俺と魔物との間に、光の壁が現出する。
魔を排する聖なる壁。
「お二人共、お喋りはそれぐらいに! 事情は分かりかねますが、状況は見てのとおりです。ふざけてる場合じゃありません!」
「「は、はい。済みません」」
異口同音に紡がれる謝罪の言葉。
そのどれもが、過去の記憶を刺激して止まない。
「さぁ、勇者様。ワタシたちが来たからには、敵がどれ程強かろうと、どれ程多かろうとも、些かも問題にはなりませんわ」
削れた外壁の上。
魔法使い、僧侶さん、戦士。
かつて、共に旅をした仲間たちの姿があった。
第一章、終盤です。
仲間が駆け着けてくれた下り。
作者は自分で書いているにも拘わらず、思わず感極まって泣いてました。
我ながらチョロい( ;∀;)
ちなみに、酸雨の雨雲を吹き飛ばしたのは、魔法使いの風魔法です。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




